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覚え鹿  作者: 輝野 和己
旅立ち編
32/34

忍び寄るもの

 その存在に気づけたのは運が良かった。

 かすかに木の枝が揺れるのを目の端に捉えたのだ。


(何だ?)

 一瞬、近くの木の枝が風もなく揺れた気がしたのだ。

 だが、枝には生物の姿は見えない。

 気のせいかと思った次の瞬間、枝が揺れた。

 俺は異常を感じて、とっさに木から離れるが、何かが俺の近くを通り過ぎるのを感じた。

 通り過ぎる瞬間、頬を薄く斬られる。


 間違いなく何かから攻撃を受けているのだが、姿が見えない。

 相手は透明になる能力でも持っているのだろうか?

 俺はここで戦うのはまずいと思い、風を纏ってスピードを上げ、川の方に向かった。


 川に辿り着くと、水の中に飛び込む。

 相手が追ってくるなら水しぶきで居場所がわかると考えたのだ。


 だが慎重な相手のようで、川の中に入ってこない。

 俺は顔だけ水の上に出して、森の方を窺う。

 そして、「ピィィィ!」と鳴いた。

 相手に動きはない。俺がしばらく鳴き続けると、透明化を解除したのか、川の近くに黒い猫のような生物が現れた。

 手には鋭い爪がある。先ほどは、あの爪で頬を斬られたのだろう。


 魅了がかかっているのか俺が近寄っても攻撃してこない。

 今のうちにこちらか攻撃しようとすると、魔の悪いことに、森の奥から一匹のゴブリンが飛び出してきた。


 黒い猫はゴブリンを脅威と感じたのか自身を透明化する。

 そして、何を思ったのか俺の体に触れてきた。

 何をするのだろうと疑問に思ったが、猫が触れた部分から俺の体が透明になっていった。

 驚くべきことに、他者を透明化することもできるようだ。

 親が子供を守るときなどに使う能力なのかもしれない。

 

 これはラッキーだった。この透明化の術を習得できたからだ。

 透明化した黒猫は、ゴブリンと戦い始める。

 そろそろ魅了も解けるだろう。漁夫の利で、二匹が戦ってる隙をついて攻撃することも考えたが、今のうちにこの場を離れることにした。


 先に攻撃されたとはいえ、結果的に透明化の術を得られたので、あえて黒猫を殺す気にはなれなかったのだ。

 とはいえ、透明化する生物もいると知れて勉強になった。今後は、音や匂いに注意を払って行動しなくてはならない。


 風を纏って川沿いの道を駆け抜ける。そもそも鹿自体が動物の中でもかなり足が速く、その上で風の術でスピードアップしている。追いつけるものはそうはいないだろう。


 走り続けて息切れしたので、走るのを止めて歩き始める。

 もう十分距離は離した。あの黒猫が追いつくのは難しいだろう。

 

 一応、頬の傷を回復の術で治した。放っておいても大丈夫そうだったが念のためだ。

 川で水を飲んでから、川の先の方を見ると上空に鳥人間達の姿が見えたので、透明化の術を使ってみた。

 そのまま歩き続けるが、鳥人間達のすぐ下を通り抜けても気づかれなかった。


 鳥や人間は視覚に頼ることが多いので、透明化の術は有効そうだ。

 対して、犬系の動物は、匂いや音に敏感なので見破られるかもしれない。


 俺は良い術を習得できたことを喜ぶのだった。

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