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覚え鹿  作者: 輝野 和己
旅立ち編
30/34

再戦

 森人の村を旅立った俺は、水路を辿って川まで到達した。

 アレンと狩りをする際は、こちらの方には来なかったので、川を見るのは久しぶりだ。


 川沿いを下流に向かって歩く、腹が減ったら近くの木の葉を食べたり、川の水を飲む。

 疲れてきたら腹ばいになり浅い眠りにつく。

 そんな感じで川沿いを進んでいると、突然、川から水の塊が飛んでくる。

 俺は黒いもやを身に纏うことで、着弾した水の塊をうち消した。


 川から見覚えのある生物が飛び出してきて、俺の行く手を阻む。

 ウナギガエルだ。

 以前は逃げ出すしかなかったが、今なら戦える。


 ウナギガエルは、水の術は効かないと思ったのか、帯電させた舌で攻撃してきた。

 だが、舌が黒いもやに触れると、帯電状態が解かれる。

 俺は風を身に纏い、突進すると、だらしなく舌を出したウナギガエルに角を突き出した。


 角はウナギガエルの胸の辺りを貫く、角を引き抜くと鮮血が飛び散る。

 傷はかなり深く、致命傷かと思ったが、ウナギガエルは倒れずに、ぴょんとジャンプして川の中に逃げ出した。

 なんてしぶとい奴だと、水面を警戒して見つめていると、やがて、ウナギガエルの体がぷかぷかと浮かんできた。

 注意深く様子を窺うが、水流に流されていくだけでピクリとも動かない。どうやら死んでいるようだ。


 終わってみればあっけない戦いだった。

 俺がボスゴブリンに苦戦したように、術を多用してくる相手には、黒いもやは相性が良い。

 

 俺は気を取り直して、下流に向けて歩き始めた。

 川沿いに三日歩いた頃、メルロスから教わった通り、もう一つの川と合流した。

 どうやら、今までの川の方が支流だったようで、もう一つの川の方がかなり川幅がある。

 川幅はざっと数百メートルほどだろうか、向こう岸まで泳ぐとしたら大変そうだ。


 俺は合流後の川を左側に見ながら、下流を目指して歩く。

 川の上空には大小様々な鳥が飛んでおり、時折、水面めがけて急降下して魚を捕まえている。

 鳥の中には、俺を襲ってきた白い大きな鳥もいた。倒すことはできるだろうが、わざわざ絡まれる必要もないため、森の木々に体を隠しながら歩くことにした。


 鳥を警戒しながら歩いていると、前方の茂みがガサガサと揺れ、角兎が二匹飛び出してきた。

 俺が助けた個体とは違うようだが、特にこちらに襲い掛かってくることもなく、ぴょんぴょん飛び跳ねながら離れていく。

 危険な獣がたくさんいるのに、良く生き残っているものだと感心する。とはいえ、体も小さくてすばしっこいので、案外、でかい獣からは逃げやすいのかもしれない。それに、あの回復能力があるため、多少の傷を負っても回復できるのがでかい。


 その後も川沿いを歩き続け、合流後の川を二日歩いた。

 昼夜関係なく、多少疲れたら浅い睡眠を取るということを繰り返した。

 以前、深く眠ってしまった反省を活かして、危険を察知したらすぐに起きれるように心がけた。


 旅に出てからこれまでは、特に襲われることもなく平和なものだったが、ついに寝ている間に気配を感じた。

 すぐに起き上がり、周囲を確認すると、ゴブリンが二匹近づいてきた。

 あれだけ殺されたのに、まだ生き残りがいたことに驚いたが、ゴブリンの集落からはだいぶ離れている。別の群れに所属するゴブリンなのかもしれない。


 二匹のゴブリンは両方ともこん棒を持って襲い掛かってくる。相変わらずの狂暴性で、平和的な解決は望みようもない。

 俺は耳を前方に倒して目つぶしの光を放つ。

 ゴブリン達は、目をつぶって滅茶苦茶にこん棒を振り回すので、一度距離を取ってから、炎の玉をゴブリンの顔面に放つ。

 一匹のゴブリンが呻き声を上げて倒れるのを横目に見ながら、もう一匹にも炎の玉を放つ。

 残った一匹も炎を顔に受け、目も見えず、顔を焼かれてパニックになる。

 二匹とも、しばらくじたばたともがいていたが、顔に滞留した炎で呼吸すらできなくなったのか、苦悶の表情を浮かべたまま息絶えた。


 二匹のゴブリンから焼け焦げた嫌な匂いが漂う。

 二匹のゴブリンを倒したが、ゴブリンの集落が近くにあるなら付近にはまだまだゴブリンがいるかもしれない。


 俺は足早にこの場を離れるのだった。

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