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覚え鹿  作者: 輝野 和己
序章
3/34

義憤

 下流に向かって川沿いを歩く。

 川の流れは緩やかで、時折、魚の泳ぐ姿が見える。

 川の両サイドはうっそうとした森に囲まれ、代わり映えのしない景色が続いている。


 周囲を警戒しつつ、黙々と足を動かすのだが、火傷の痛みがきつい。

 こんな状況では、医者に診てもらうことなどは不可能だし、自然回復に任せるしかないだろう。

 幸いというか、炎の玉を被弾した直後に川に落ちたので、患部は冷やされている。

 

(感染症にならなければ良いが・・・)

 考え事をしていたため、若干集中力を欠いていた。

 そのため、10メートルほど先の茂みから動物が飛び出してきたのに反応が遅れた。


 それは、灰色の兎のように見えた。大きさは、元居た世界の兎と大差ない。

 しかし、頭から20センチほどの角が生えている点が、ただの兎ではないことを主張している。


 兎の方もこちらに気づいたのか、動くのを止めてじっとこちらを見つめている。

 しばらくお互いに見つめあっていたが、興味を無くしたのか、兎は背を向けてぴょこぴょこと歩み去った。


 どうやらすぐに襲い掛かってくる獰猛な生物だけではないらしい。


 ほっとしたのも束の間、前方から地面を叩きつけるような音がする。

 見れば、先ほどの兎が二足歩行の生物に襲われている。


 その生物は一瞬人間かと思ったものの、すぐに違うことに気づいた。

 なぜなら2メートルほどの巨体に猪のような頭が付いているからだ。


 猪人間は手に持った棍棒を叩きつけて、逃げ回る兎を仕留めようとしている。

 兎は素早い動きで2度、3度と棍棒をかわす。

 

 兎もなかなかやるなと感心して見ていたが、猪人間は、攻撃パターンを変え、叩きつけから薙ぎ払うような攻撃を繰り出した。

 これには兎も避けきれずに、横っ腹に棍棒の一撃を食らう。小さな体は吹っ飛ばされ、力なく地面に蹲ってしまった。


 猪人間は、ゆっくりと兎に近づくと、いたぶるように足でぐりぐりと踏みつけ始めた。


(気に入らないな・・・)

 正直、凶暴なモンスターが生息する環境においては、弱肉強食であり、どちらかに肩入れするつもりはなかった。兎が気を引き付けているうちに隙を見て逃げようとすら考えていた。

 しかし、その弱者をなぶるような行為は、酷く気に障った。


 気づくと口の中にエネルギーを貯めていた。火傷の痛みで集中力を乱されるが気力を絞って狙いを定める。

 相手は2メートルほどの巨体であり、身体に当てても倒せないかもしれない。だとすれば、頭に食らわせるしかない。

 ひときわ口を大きく開けると、敵の後頭部に向けてエネルギー弾を放った。

 口から放たれた火の玉は、過たずに猪人間の後頭部を直撃する。

 着弾と同時に猪人間の頭は炎に包まれる。

 突然の事態にパニックになったのか棍棒を捨てのた打ち回る。

 うまく呼吸ができないのか息苦しそうにうめき声をあげていたが、しばらくするとピクリとも動かなくなった。


 どうやら倒せたようだ。火の玉は、一撃で頭を吹き飛ばすような威力はないが、着弾時に炎が残留してダメージを与えることができるようだ。

 自分が食らった時は、川に落ちたから良かったものの、そうでなかったら今頃命はなかったに違いない。









 





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