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覚え鹿  作者: 輝野 和己
戦争編
27/34

死闘

 村人達は、ボスゴブリン達の迫力にたじろいでいる。

 アレンから事前に話は聞いていただろうが、実際に実物を目の当たりにすると、二メートルを超える体の大きさもあって、恐怖を感じてしまったのだろう。


 ボスゴブリンとゴブリンジェネラルは、身長は同じぐらいだが、筋肉質なボスゴブリンに対して、ゴブリンジェネラルは、樽のような体型をしており、体の面積でいえばボスゴブリンより大きいくらいだ。


 ただ、ボスゴブリンは、存在の密度というか、放つ雰囲気からしてゴブリンジェネラルとは格が違うのがわかる。


 ボスゴブリンは、俺を敵と見定めたのか、こちらに近づいてくる。

 サリオンとギルは、ボスゴブリンに近づこうとしたが、ゴブリンジェネラルに行く手を遮られる。

 斧を持ったゴブリンジェネラルがサリオン、槍を持った方がギルと対峙すると、戦闘が始まる。

 サリオンは何とか相手の攻撃をさばいているが、ギルの方は押し込まれている。


 俺はボスゴブリンの相手をする必要があるため、助ける余力はない。

 だが、ギルの劣勢を見て取ったのか、見張り台からヒューが矢を放って、ゴブリンジェネラルの動きを牽制する。


 あちらは任せるしかない。

 ボスゴブリンを見ると、右手に金属製の剣を持っている。自分達で製造したのか、森人達から奪ったのかわからないが、こん棒よりも危険なのは確かだろう。


 乱戦から離れ、一対一の状況になってしまったが、味方を気にすることなく術を使うことができるのはありがたい。

 俺は挨拶代わりに炎の玉を放つ。

 しかし、ボスゴブリンが雄たけびを上げると、奴の全身が黒いもやのようなものに包まれ、着弾したはずの炎の玉をうち消した。


 これならどうだと、今度は水の塊を飛ばしてみるが、またしても黒いもやに打ち消された。

 どうやら黒いもやは、術をうち消す効果があるらしい。

 俺にとっては相性最悪の相手だ。


 最後の頼みと、俺は耳を前方に倒して目つぶしの光を放つ。

 だが、ボスゴブリンを覆う黒いもやが原因か目つぶし自体が効かないのか、眩しそうな気配もなく、眼光鋭くこちらを睨みつけているだけだ。


 ボスゴブリンは俺のことを馬鹿にしたようにニヤリと笑うと、右手で剣を振り上げ駆け寄ってくる。

 大柄な体に似合わずすさまじい速度だ。俺は、風を全身に纏うとことで、相手が振り下ろした剣をかわす。

 ボスゴブリンは振り下ろした剣を横に薙ぎ払って追撃してくる。俺は横にステップしてかわそうとしたが、右前足を斬り裂かれた。

 足をやられたのはまずい。奴は剣を中段に構えると余裕の表情で近づいてくる。


 その時、ボスゴブリンに向かって矢が飛んできた。矢は黒いもやでは弾けないのか、ボスゴブリンは剣で矢を叩き落とした。

 この隙にボスゴブリンから離れて回復の術を使う。

 いつの間にか、俺の隣にアレンが来て、ボスゴブリンに向けて弓を構えている。

 先程の矢はアレンが撃ったものだろう。


 村人達の状況を確認すると、サリオンとゴブリンジェネラルは互角の勝負をしており、ギルとヒューはゴブリンジェネラルをうまくいなしているが倒すのは難しそうだ。

 他の村人はゴブリン達に善戦しているが、何しろ数が多く、こちらを助ける余裕はなさそうだ。


 戦力は拮抗しており、俺とアレンがボスゴブリンを倒せるかどうかが重要な状況になってきた。

 俺は風を纏うと、ボスゴブリンに近寄って、奴の攻撃を誘発する。

 ボスゴブリンが俺を攻撃しようとしたところに、アレンから矢が飛んでくる。

 奴は俺に意識を向けていたはずだが、恐るべき反射神経で剣を横なぎに切り払い矢を落とす。

 だが、その一瞬の隙をついて、俺は角を奴の脇腹に突き刺した。


 ボスゴブリンは一瞬顔を歪めると、すぐに後方に飛びのいた。

 傷を負わせたかと期待したが、奴の脇腹から血は出ていない。

 どうやら分厚い筋肉に阻まれて、角が刺さらなかったようだ。


 今度はこちらの番だとでもいうのか、ボスゴブリンが近づいてくる。

 しかも、俺ではなくアレンに斬りかかってきた。

 俺はアレンをかばうように立ちはだかると、風の術を前方に飛ばして行く手を阻む。


 風の術は黒いもやに打ち消されたが、気を引くことはできたようで、奴は俺の方に斬りかかってきた。

 振り下ろされた剣をかわしたが、ボスゴブリンは左手で俺の角を掴んで逃げれないようにし、再度右手で剣を振りかぶって俺の胴体を斬り裂いた。


 鮮血が辺りに飛び散る。アレンが何か叫ぶ声がする。

 すぐに激しい痛みに襲われ、地面に倒れた。


 斬り裂かれた箇所からは止めどなく血が流れる。

 痛みか出血のためか、目が霞む。

 ここで死んでしまっては、戦局はゴブリン側に傾き、森人達は殺されてしまう。

 そう思い気力を振り絞るのだが、体はピクリとも動かない。

 回復の術をかけようとするも、痛みの為か集中できなかった。


 霞む目に、ボスゴブリンがアレンを突き飛ばすのが見えた。

 地面に落ちた弓を剣で叩き壊し、倒れたアレンを足で踏みつけている。

 いつぞやの猪人間と角兎のように、すぐに殺さず嬲っているのだろう。


(気に入らないな……)

 猪人間の時と違い、俺は死にかけの状態である。

 だが、激しい怒りを力に変えて、起き上がった。


 ボスゴブリンがこちらを向き、にやりと笑って近づいてきた。

 俺は体を帯電させて待ち構える。

 だが、奴の左手が俺の角を掴むと、帯電状態がうち消された。


 まさに絶対絶命かと思った瞬間、俺の脳裏に例の感覚が突き抜けた。

 俺は朦朧とする意識の中で、初めて使うその術に集中する。

 

 すると、俺の全身から黒いもやが噴き出す。そのもやはボスゴブリンの黒いもやと衝突し、お互いをうち消しあった。

 ボスゴブリンにとっては、初めての感覚なのか驚愕に目を見開いている。

 対して、一矢報いることだけを考えていた俺は、その隙を見逃さす、すかさず電流を奴の体に流し込んだ。

 ボスゴブリンはぶるぶるっと体を震わせると、驚愕した表情のまま前のめりに倒れこんだ。


 ドスンとボスゴブリンの巨体が倒れる音がすると、ゴブリン達は恐慌状態に陥り、逃げ出し始める。

 村人達は逃げ惑うゴブリン達を追撃し始めた。

 どうやら戦いの勝敗は決したようだ。


 俺は途切れそうになる意識を何とかつなぎ、回復の術で傷を治した。だが、血を流しすぎたのか、力なくその場に横たわると意識を手放した。

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