夜間の監視
ゴブリンの襲撃があった後、俺は回復の術を使って、背中の傷を癒すと、アレンの家に帰って眠りについた。術を使って体力を消耗したからだ。
夕方ぐらいになって目を覚ます。だいぶ体力は回復したが、腹が空いていた。
近くの木の葉を食べて腹を満たし、散歩がてら村の広場の方に歩く。
広場では、いつもより多くの村人がおり、何やら物々しい雰囲気である。
広場の中央付近では、村の長老であるメルロスと警備隊長のサリオンが中心となって、何やら話し合いが行われている。
辺りは暗くなってきた。見張り当番を交代したのか、アレンが広場にやってきた。
アレンは俺に気づいて近寄ると、軽く腰を撫でる。それから、サリオン達に近づくと話し合いに参加した。
今日の状況や今後の防衛について、話し合っているのだろう。
ゴブリン達は、今日の襲撃で多数の死者を出した。それに懲りて、この村を襲うのを諦めてくれれば良いのだが……。
門での防衛戦のことを思い出す。あの時、ゴブリン達は、味方に当たるのも構わず矢を撃ってきた。そのことを考えると、味方に死者が出たからといって、簡単に諦めてくれるとは思えなかった。
そう考えると、この村で防衛するのではなく、先にゴブリンの住処を攻めた方が良いのではないかと思えてくる。
確かに攻めるより防衛する側の方が戦いやすいが、この村には城塞都市のような堅牢な防衛設備があるわけではない。
いつ来るともわからない襲撃に備えるのは大変だし、村に侵入を許せば戦う力のない子供達にも被害が出かねない。
話し合いが終わると、アレンと家に帰る。
アレンは疲れていたのかすぐに横になって眠ってしまった
ゴブリンは夜行性だろうか?
もしそうなら、夜の時間帯の方が危険かもしれない。
俺なら夜でも視界を確保できるが、森人達は夜になると松明で視界を確保しているぐらいなので、あまり夜目はきかないのだろう。
俺はアレンの家を出て、村の西側、門の方に向かった。
門では篝火が焚かれ、武装した村人が見張り台から村の外を監視している。
ふと気になって門を見ると、昼の襲撃で壊された閂は、既に修理されていた。
村人達は緊張した顔をしていたが、俺の姿を見るとほっとしたらしく笑顔になった。
門の防衛戦で活躍したので、頼りになると思われているのかもしれない。
俺は、篝火の近くで地面に座り、もぐもぐと反芻しながら休憩する。
しばらくすると、門の近くの建物からサリオンが出てきた。
昼からずっと起きているのだろうか?
サリオンは、座っている俺に近づくと、背中を軽く撫でた。
昼間に傷を負ったのを気にかけてくれたのかもしれない。
サリオンは、見張り台にいる村人と二言三言会話をする。
異常がないか確認しているのだろう。
今のところ、俺の耳や鼻にもゴブリンの気配は確認できていない。
北の見張り台の方から松明の光が近づいてきた。
巡回している村人のようだ。
無表情な長身の男で、どこかで見た顔だと思ったらギルだった。
夜間の巡回に駆り出されたようだ。
ギルとサリオンは篝火の前で軽く会話をする。
会話が終わると、ギルは、俺の腰を軽く撫でてから、南の見張り台の方へ歩いていった。
どうやら、各見張り台を巡回しながら状況をサリオンに報告しているらしい。
状況確認が終わったのか、サリオンは再び門の近くの建物に入っていった。
俺も建物に入る。
サリオンは床にござを敷いて、横になっていた。仮眠を取るようだ。
さすがに一日中起きていたら、寝不足で、いざという時に力を発揮できないだろう。
休むことも重要である。今日、襲撃が来るとは限らず、今後も警戒は必要なのだ。
ここなら門に襲撃があってもすぐに駆け付けることができる。
そう思い、俺もその場で横になると、浅い眠りにつくことにした。
結局のところ、この夜、襲撃は無かったのだった。




