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覚え鹿  作者: 輝野 和己
序章
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炎の玉

 ジクジクとした痛みとひんやりとした感触に意識が戻る。

 はっとして状況を確認すると、川の中州のような場所に半身を打ち上げられていた。

 どうやら敵の攻撃を受けて倒れた際に川に落ち、そのまま流されてしまったらしい。

 

 左の脇腹が痛む。ジクジクと痛むそこはひどい火傷になっている。

 痛みに耐えながら四つの脚で立ち上がって、辺りを見渡す。

 不幸中の幸いというべきか、かなりの距離を流されたようで、あの恐ろしい犬型の獣は見当たらない。


 とはいえ、じっとしているのも危険である。先ほどの獣が追ってきているかも知れないし、別の敵対的な生物に遭遇する可能性もある。

 どうにか安全な場所まで逃げなければならない。


(安全な場所だって?)

 四方を木に囲まれた森の中で安全な場所などあるのだろうか、なにせこちらはか弱い草食動物である。普通の肉食動物でさえ危険だというのに、この世界の獣は口から火の玉を飛ばしてくるような無茶苦茶なやつらなのだ。


 川の水面に映る鹿の身体を眺めてしばし思案する。

 こちらの攻撃手段としては、頭に生えた角ぐらいだろう。

 一応、人間だった時の性別を引き継いでいるのか、それともたまたまか、今の鹿の身体は雄のようで、頭には立派な角が生えている。


 試しに顔を下に向け、進行方向に角を向けて突き出してみる。

 なるほど、威嚇としては効果がありそうだ。小型の獣ならびっくりして逃げだしてくれそうである。

 しかし、熊のような大型の獣や炎を飛ばしてくるようなバケモノには、あまりにも心もとない。


 あの恐ろしい炎の玉を思い出した際に、ふと、自分の中に不思議な感覚があるのに気づいた。

 不思議な感覚…それは、自分もそれができるような感覚だ。

 

 まさかと思いつつ、感覚に身を任せると、口の中にエネルギーが集束するのを感じる。

 口を大きく開けると、すごい勢いで炎の玉が放出された。

 炎の玉は、中州に一本だけ生えていた大木に着弾すると、着弾付近を黒く焦がした。


 しばらく放心状態で焼け焦げた大木を見つめた。

 なぜこのようなことができるようになったのか、いつからこのようなことができるようになったのか、わからなかった。


(まあ、これで戦う手段が手に入ったな)

 逃げるしかない状況と比べれば、生き延びる可能性はぐっと上がった。

 極限状態から多少落ちつけたことにより、喉の渇きと空腹を感じる。

 しばらくの間、川の水を飲んだり、近くの草をむしゃむしゃ食べたりして過ごす。


 天気は快晴で、雲一つない空が広がる。

 この世界にも太陽があるのだなぁと頭上を見上げると、大きな鳥が飛んでいるのに気づく。


 白い大きな鳥だ。雲の下を飛んでいる時は、かなり視認しづらい。

 翼を広げて悠々と大空を飛んでいるのを眺めていると、徐々にこちらに近づいて来た。


 人間だったときの感覚から、のんきにしていたが、鳥がすごいスピードで滑空し始めると、ようやく危険を察知した。

 白い鳥は、自分を獲物としているようだ。

 鳥とはいえ、嘴や爪は脅威だし、捕まえられて上空から落とされたりしたら致命傷だ。


 逃げようかと考えたが、一瞬でその選択肢を消した。

 今は中州にいるため、四方を川に囲まれている。泳いで渡っていたら、掴まれてしまうだろう。

 それに角の生えた獣に襲われた時と違って、今は対抗手段があるのだ。

 

 先ほど試し打ちした時と同様に、口の中にエネルギーを集束させる。

 おあつらえ向きに、相手はこちら目がけて一直線に滑空している。


 白い鳥が10メートルほどに近づいた際、狙い定めてエネルギーを放出する。

 口から出たエネルギーは、すぐに炎の玉となり、頭上に飛んでいく。


 一瞬のうちに、両者は衝突し、直撃を食らった白い鳥は、力なく地面に墜落した。


 墜落した白い鳥に近づくと、既に息絶えた様子でピクリともしない。

 空を飛んでいた時は、正確な大きさはわからなかったが、近くで見ると本当に大きい。

 翼を広げれば3メートル以上ありそうだ。


 一難去ったかと、ほっとしていると急激に疲れを感じる。

 もしかすると、炎の玉は無尽蔵に撃てるものではなくて、かなりの体力を消耗するものなのかも知れない。

 だとすると、このまま中州に留まるのは危険だ。

 この場所は、隠れる場所も無く、逃げるのも困難だからだ。


(とりあえず下流に向かうか・・・)

 上流は、角の生えた獣がいる。

 今なら対抗手段があるが、有効打となるかは未知数だし、あえて危険に飛び込む必要はないだろう。

 俺はそう考え、川に沿って、下流に向かうことにしたのだった。













 

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