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覚え鹿  作者: 輝野 和己
森人編
19/34

村の図書館

 アレンの狩りに一日中付き合った翌日、俺は早朝から目を覚まし、これからのことを考えた。

 同族を見つけることはできていないが、友好的な仲間を見つけることはできた。

 村の中は比較的安全だし、当初の目標は達成したと考えてよいのではないだろうか。


 今後の目標としては、自身を強化することと、この世界のことを知ることである。

 自身の強化については、アレンの狩りに付き合うことで身に着けた術を使いこなせるように鍛錬すれば良いだろう。

 問題は、この世界の情報を得る手段である。

 言葉が分かれば村人から話を聞けば良いのだが、相手の言葉はわからないし、そもそもこちらは言葉を話すことができない。

 

 何度か人間のように言葉をしゃべれないかと試しても見るが、鳴き声が出るのみである。

 恐らく、鹿の声帯や喉、舌の構造では、言葉をしゃべることはできないのだろう。


 では、この世界の文字を理解するところから始めるのはどうだろうか?

 あのお婆さんが使っていた文字は、知らない文字だったが、本を読むなどして勉強すれば、この世界の文字を使えるようにならないだろうか?

 文字を覚えれば、筆談によるコミュニケーションで、この世界の情報を聞き出すことも可能である。


 この世界に本があるかはわからないが、昨日行った店には、紙とインクがあった。

 紙とインクがあるのなら本も存在する可能性が高い。


 俺はのそのそと起きてきたアレンを家の外に引っ張り出すと、蹄を器用に使って、地面に本の絵を描いた。

 絵を描くのも慣れてきた。今回は開いた本のイメージで絵を描いたのだが、鹿が描いたにしてはかなりうまいと自画自賛した。

 アレンにもすぐ伝わったようで、笑顔になると俺の腰をポンポンと叩いた。


 朝の食事や水浴びなどを終えると、アレンに連れられ、広場の近くにある建物に来た。

 建物の中に入ると、机を囲むように椅子が設置されており、部屋の奥の方には、書庫が立ち並んでいる。

 どうやらこの建物は図書館のようだ。

 椅子には子供が二人とお爺さんが一人座っており、お爺さんが子供たちに何かをしゃべっている。

 勉強でもしているのだろうか?


 アレンが声をかけると、子供たちから元気な返事が返ってくる。

 五歳ぐらいの男の子と女の子で、二人は俺を見ると歓声を上げながら近づいてきて、腰や足を撫でまわす。俺はその勢いに若干怯んだが、されるがままに受け入れた。


 やがて満足したのか、二人は元の席に戻った。

 俺は出鼻を挫かれたが、気を取り直して、書庫に近づいた。

 とはいえ、鹿の体では書庫から本を取り出すことはできない。

 困ったなとアレンを見上げると、気を利かせたのか、書庫から本を一冊取り出して、俺の足元に開いた状態で置いてくれた。

 

 さっそく読んでみるが、さっぱりわからない。文字を勉強しようにも本に書いてある文章から理解するのは困難だと思い知らされた。

 地球で古代語を解読した学者だって、そうとうな苦労をしたのだろうし、いきなり知らない言語の文章を見て理解できるはずがないのだ。

 読み取れる部分はないものかと、蹄でページをめくろうとしたが、本を汚してしまうのも申し訳ない。


 俺はふと思いついて、蹄に風を薄く纏わせ、風の力を使ってページをめくってみた。

 紙を破かないように微弱な力加減が難しかったが、なんとか直接本に触れることなくページをめくることができた。これは、術の鍛錬にも良さそうだ。

 

 そんな感じで、しばらく本を読んで見た。中には挿絵もあったりしたのだが、文字を把握することはできそうにない。

 但し、数字については理解できた。これは、数を線の数で表すというわかりやすいものだったからだ。


 文字を習得することは諦めようと図書館の出口に歩き始めた時、ふと、子供達が見ている本が目に入った。

 その本には、絵がたくさん描かれている。近づいてj確認すると、どうやら図鑑のようなもので、動植物の絵と名称、説明文が書かれているようだった。

 子供達は、この図鑑を見て、動植物の勉強をしているのだろう。

 この本を読めば、動植物の名前を文字で書けるようになれそうだ。


 俺は子供達に混じって文字の勉強を始めるのだった。

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