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覚え鹿  作者: 輝野 和己
森人編
14/34

小鬼

 森で出会った男に連れられて歩く。

 進む方向は川の下流方向のようで、木々の合間から時折川が見え隠れする。

 

 そういえばだいぶ喉が渇いた。

 俺は前を歩く男の服を噛んで歩みを止める。

 男が不思議そうな顔で振り返るので、俺は「こっちだ」と誘導するように川の方向に歩く。

 男はこちらの意図が分かったのか付いてきてくれる。

 絵を使って対話した際も思ったが、この男は、感覚的にこちらの意図を把握する能力に優れているようで、言葉でやり取りできない状況としては大変ありがたい。


 男が付いてくるのを確認すると、木に体を隠しつつ、顔だけ出して川を見る。

 見たところあのウナギガエルはいないようだが、川の中に潜っている可能性がある。

 俺はいつでも逃げられるように警戒しつつも川に近づいた。


 襲ってくる気配はない。川岸から水中を窺うが小さな魚が泳いでいるぐらいで平和なものである。

 俺が水面に口を付けて水を飲み始めると、いつの間にか隣に来ていた男が手ですくって水を飲んでいた。


 水を飲んで元気を取り戻すと、すぐに川を離れる。

 森の中も危険だが、今のところの一番の強敵は、あのウナギガエルである。

 今なら二対一で戦えるが、同行者の戦力が未知数だ。

 先を歩く男を見ると、一応、背中に弓を背負っているが矢筒は空である。

 負傷した際の戦闘で使い切ったのだろうか?

 矢のない状態では戦力として期待できない。

 対抗手段を手に入れるまでは、できるだけ戦闘を回避するべきだ。


 森の中に入ると、再び男が先導するように歩き始める。

 この男の住処は、森の外なのだろうか? もしくは、森の中を切り開いたような村があるのだろうか?

 いずれにせよ、この世界の人間がどういう暮らしをしているのか楽しみである。


 ふと、前方からの気配を察知する。耳をすませると、複数の足音がする。

 俺は口で男の服を引っ張って、近くの茂みに誘導する。

 男はされるがままに茂みまで歩いてくれたが、不思議そうな顔で俺を見る。

 だが、男も近づいてくる気配を感じたのか、はっとして身をかがめた。


 近づいてくる足音は徐々に鮮明になり、やがて木々の合間から二体の人型の生物が姿をあらわした。

 身長は一メートル五十センチぐらいで、緑色の肌をしている。狂暴な顔つきをしており、日本の昔話に出てくる鬼のような見た目をしている。


(鬼というには背が低いか……小鬼というところか?)

 俺は茂みに身を伏せながら様子をうかがう。

 見た目で判断するのは良くないかもしれないが、友達になるのは難しそうだ。

 一緒に身を潜める男の反応を見ると、緊張した様子で相手を観察している。

 どうやら仲間というわけではないようだ。


 小鬼達は、一匹は石の斧、もう一匹は石の槍を持っている。防具というレベルのものは身に着けておらず。上半身は裸で、下半身に腰蓑のようなものを付けているのみである。

 あまり文化レベルは高くなさそうだ。


 こちらに気づくことなく通り過ぎてくれないかと期待したが、二匹の小鬼達は俺たちが隠れている茂みの近くで立ち止まると、武器を掲げて雄たけびを上げる。


 完全にばれているようで、小鬼達は、こちらに突撃してくる。

 俺は茂みから飛び出すと、振り下ろされた斧をかわしつつ、耳を前方に向けて目つぶしの光を放った。

 二匹の小鬼は呻き声を上げて目をつぶる。

 すかさずウナギガエルから覚えた帯電の術を身にまとって二匹の小鬼に触れると、全身を痙攣させたように震わせて倒れた。

 

 あっけない幕切れである。目つぶしが効いたのがでかかった。ウナギガエルのように効き目がなかったら苦戦していたかもしれない。


「〇△〇×〇〇△」

 男が茂みから姿を出して、地面に落ちた石槍を拾う。

 それから、躊躇いも見せずに、倒れた小鬼達の心臓付近に突き刺していく。

 確かに、一時的に気絶しているだけかもしれないので、止めを刺した方が安全だ。


 石槍を刺すと、小鬼達は一瞬、目を開けて苦悶の表情を見せたが、すぐに息絶えたのか、ピクリとも動かなくなった。


「〇×〇〇△〇△×△」

 後始末が終わると、男はほっとした顔をして、俺の腰を撫でた。

 良くやったと褒めているのかもしれない。

 とりあえず一難去ったというところだろうか?


 俺は、早く安全な場所にたどり着きたいものだとため息をついた。

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