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覚え鹿  作者: 輝野 和己
森人編
13/34

対話

 対話の手段としてまず考えたのはジェスチャーである。

 しかし、鹿の体だと表現できる範囲は限られているし、正しく伝わるかも自信がない。

 地球でさえ、国が違えば同じジェスチャーでも違う意味で受け取られると聞いたことがある。

 例えば、日本では首を縦に振れば肯定、横に振れば否定を意味するが、別の国では逆の意味になるのだという。

 そう考えるとジェスチャーのみで交流するのは難しく感じる。


 続いて、地面に足で伝えたい内容を書くということを考える。

 検討するまでもなく、こちらも難しい。文字は伝わらないだろうし、絵を描くにしても、紙にペンで書くような詳細な表現は困難だ。

 それに、再度地球を例に取るが、マルやバツだって、国が違えば意味合いが異なるらしい。

 異文化コミュニケーションですら難しいのに、異世界、異種族間のコミュニケーションは不可能に近いのかもしれない。


「〇×△△×〇△」

 すっかり元気になったのか、男は笑顔で歩み寄ると、俺の腰を撫でてきた。

 なんとなく感謝の気持ちは伝わってくる。好感度は高そうだ。


 とりあえずやってみようと、俺は草の生えていない地面を見つけると、右前足でグリグリと地面を削り始めた。

 まずは四足歩行の動物を描く、そうはいっても絵というのも烏滸がましいレベルだ。丸い頭に長方形の胴体、それに棒のような足が四本付いているのみである。

 

「××〇△×!! 〇×△△!!」

 男は、絵のようなものを描き始めた俺を見てびっくりしたようで、しきりに何かしゃべっている。

 まあ、普通は野生の動物が絵を描くとは思わないだろうからびっくりするのも頷ける。

 俺が逆の立場だったら気味が悪いと感じたかもしれない。チンパンジーぐらい知能が高ければ別だが、鹿が突然絵を描いたら自分の頭がどうにかなってしまったと考えるだろう。


 四足歩行の動物を描き終えると、それを前足でちょんちょんと叩く、それから前足をくいっと曲げて自分のことを指してみる。

 この四足歩行の動物は、俺のことだ……という意味合いなのだが伝わるだろうか?


「〇×△△!!」

 男は何か言っているが、わからない。まあ良い、伝わったと仮定しよう。

 続いて、三角形の屋根の下に四角い壁を描いて家を表現した。

 男の顔をうかがうと、興味深げに絵を見つめている。わかってくれているのかどうか判断できないのがもどかしい。


 最後に、四足歩行の動物から家に向かって矢印を引いた。俺をお前の家に案内しろ……という意味だ。

 さすがに無理があるだろうか? 


 男は真剣な表情で俺が描いた絵を見つめていたが、突然ポンと手を叩くと笑顔になった。

「△〇△×〇×△!」

 そう言うと、先導するかのように歩き始める。

 奇跡的に伝わったのだろうか?

 非常に直感の優れた人物なのかもしれない。

 俺が逡巡していると、男は振り返り、手のひらを上に向け、くいくいっと手招きしてくる。

 

 俺は意を決して男の後を着いていくのだった。

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