表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覚え鹿  作者: 輝野 和己
序章
10/34

感謝

 なんとか撃退することができたと胸をなでおろす。

 すると、ちょうど耳でか犬達がこちらの川岸まで泳ぎ切るところだった。

 俺が歩み寄ると、警戒するようにグルルと唸る。

 とはいえ、川を泳いだ後で体力が限界なのか、逃げ出す余力はないようだ。


 俺は傷だらけの彼らに近づくと、角を光らせて回復の技を使ってあげる。

 角を押し当てた耳でか犬の体が光に包まれ、徐々に傷が治っていく。

 自分達を助けてくれているとわかったのか耳でか犬達はおとなしくなった。


 ある程度傷が治ったところで、もう一匹にも同様に角を当てる。

 角を当てた瞬間、一瞬びくっと怯えるように身を震わせたが、すぐに受け入れてじっとしてくれた。

 

 二匹の治療が終わると、どっと疲れが押し寄せてくる。

 この術は便利だが、体力の消耗が激しいのが難点だ。

 この点は、慣れの問題もあるかもしれない。現に、炎の玉については、最初に使った時に比べると体力の消耗が減ったように感じる。

 今後は、新しい術の習得だけではなく、習得済みの術を使いこなせるようになることも重要だろう。


 二匹の耳でか犬は、すっかり回復したようで、うれしそうに尻尾を振ってこちらを見ている。

 どうやら仲良くなれたらしい。

 犬は雑食で肉も食べると記憶している。

 助けたは良いが襲い掛かってくるという展開にならなくて良かった。


 何かを思いついたのか、耳でか犬の一匹が川べりから離れ、森の中に走り出した。

 ある程度走った後に、ワンワンと吠える。

 ついて来て欲しいのだろうか?

 俺ともう一匹は、先行する耳でか犬の後を追って森に入る。

 

 五分ほど森の中を進むと、先行する耳でか犬が立ち止まる。

 目的地に着いたのか、うれしそうに尻尾を振っている。

 彼らの住処にでも案内されるのかと思ったが違うようだ。

 辺りは、草木が生い茂るのみで、これといった特徴は見受けられない。


 すると、ワンワンと鳴き、その場の土を前足で掘り始めた。

 もう一匹も意図に気づいたのか、協力するように土を掘り始める。

 どうやらハート形の葉っぱから伸びているツタを辿って土を掘っているようだ。

 しばらくすると、土の中から白い茎のようなものが見えてくる。

 茎にしては太いそれは、どうやら山芋のようだ。


 耳でか犬は、掘り出された山芋を口にくわえて歩み寄ると、俺の目の前でポトリと落とした。

 助けてくれたお礼のつもりのようだ。

 せっかくなので食べてみると、なかなか悪くない味だ。

 正直言って、寝起きで食べた木の葉の方がうまかったが、こういうのは気持ちの問題である。

 耳でか犬達が見守る中で山芋をすべて食べきった。


 それを見て、満足したのか、耳でか犬達はワンと一声別れの挨拶をして森の奥に去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ