表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第7話 ちょっぴり遊んで

『……びょうきがなんだ。ぼくは、そとにでたいんだ。そとにでて、ゆめを……ゆめを、かなえるんだ!』


『みんなさむいさむいって……。なにもかんじないからだでよかった……』


『…………っ! どうしてうごかないんだよ! うごいてよ! うごけ!』


『……あぁ、やっぱり、ゆめはかなえられないんだ。だったら、このままくちてもいいかな……』


『こん? ……こんこん! こんこん!』


『きみは……だ、れ……』


はっと目を見開くと、そこにはいつもと変わらない天井があった。

いつも通り窓の外を見ると、予想通り吹雪で何も見えなかった。

ーーまた、変な夢見たな……。

けれど、その夢は、本当に夢だったのだろうか。

遠い昔に、そんなことがあったようななかったような……。

クフリートはベッドから起き上がると、いつも通り絵本を持ってこようとし……。

「……って、うわ!?」

床には何故かリューノモとクラル、そしてナナがすぴーすぴーと寝息を立てていた。

一瞬死んでいるんじゃないか、と思ったため、クフリートは安心したようにため息を吐いた。

ーーなんで皆してうつ伏せなんだよ……。

外で流行っていたりするのだろうか? ぜひ今度聞きたいものである。

ーーどうしてここにいるんだろ……。とにかく、起こそう。

クフリートはゆっくり床に立つと、そーっとそーっと歩こうとし……。

「うわっ!?」

そのまますてんと転んでしまった。

いつもなら、なんてことなしに歩けるのだが、今日は不思議と足に力が入らない。

昨日はちゃんと食べたし、いつも通り起きた。運動ができない点を除けば、規則正しい生活リズムのはずなのだが……。

「あ、起きたんですね」

「ナナ、どういうことなのか説明し……!」

クフリートは不機嫌そうに寝起きのナナを見つめて……直後凍りついたかのように固まった。

「ナナ……その顔、似合ってないよ」

「し、失礼ですね! 私はこういう顔なんですよ!」

「ほんとにそれ言ってる?」

クフリートの様子にナナは不思議に思いつつも、何故かしゃがみ歩きでカバンを持ってくると、中から手鏡を取り出した。

「…………なんです、これ」

「多分白狐……じゃない、こんこ様の仕業でしょ」

ナナの顔には粉雪が付着しており酷い有様だった。傍から見ればそもそも人間なのかも怪しい所である。

「こん!」

噂をすれば何とやら、こんこ様がベッドの下から歩いてきた。

こんこ様はナナを見ると、楽しそうにくるんと一回転する。

「あなたは私に恨みでもあるんですか……?」

「ここーん」

「違うと思う。そもそもそこ、少し前にこんこ様が粉雪でゆきだるまを作ったところだから、たぶんそれじゃない?」

「あぁ、なるほど……ん?」

ナナは粉雪を払ってから、クフリートの顔に迫る。

「クフリート」

「なんだよ」

「い、いえ、やっぱりなんでもありません」

そう言って、ナナはにやにやと頬を緩ませた。

ーーなんだよもう。……でも、ナナには感謝してるよ。

『とても浪漫があると思いませんか?』

そう言われて、クフリートは嬉しかったのだ。

妄想は妄想で、夢は夢。言い伝えは噂話のようなもので、現実にはない。

でも、それはもしかしたら違うのかもしれない。

人生のどこかで現実になるかもしれない。

夢見ることで、叶うのかもしれない。

……それはとても浪漫があるのではないだろうか?

クフリートは耳まで赤くして、目をそらした。

「……ありがとう、ナナ」

「えっと……あぁ、昨日のことですか。いいですよ。私が言いたかっただけですから」

「それでも、だよ。……こっちは照れくさい……じゃない、わざわざ言うのだって面倒くさいんだ。受け取ってよ」

ナナは「分かってますよー」と言いながら、クフリートの頭を撫でた。

「あ、そうそう。クフリート、体調はどうですか?」

「どうって……足の力が入らないくらいだけど」

「なるほど……未だに悪いですか」

「え?」

クフリートはきょとんと首を傾げた。

「自覚がないのも無理はありませんね。熱を出したんですから」

「熱……」

以前、リューノモから聞いたことがある。熱を出すと、身体の力が抜けたり、頭が痛くなったりすると。

後者はさておき、前者に関してはクフリートには分からないため、自覚しようがない。

「あなたの熱が冷めるまで、しばらくお邪魔させていただきます」

「いいけど、姉貴面したらお兄ちゃんが許さないからな?」

「お兄ちゃん、いつの間に……」

リューノモは粉雪を付けた顔のまま起き上がると、ドヤ顔で言った。

「クフクフが照れてる辺りから。あぁ〜可愛かっ……」

「い、いいから、お兄ちゃんはその顔何とかして!」

「その顔……お兄ちゃんの顔、そんなに酷いのか?」

ガーンという効果音が聞こえてくるが、クフリートはさっきの件もあってか恥ずかしそうに深く頷いた。

「俺の……顔は……ぐはっ」

リューノモはショックで気絶してしまった。

ナナは呆れ顔で、粉雪を指につける。

「クフリートはいつまで経っても口下手ですね」

「こんこん!」

「え?」


クフリートはナナの指示でベッドに寝ると、白い息を吐いた。

「私が見ていますから、安静にしていてくださいね」

「……お兄ちゃんは?」

「お母さんに引きずられて出ていきました。お母さん曰く強制的にお手伝いさせるそうです」

「…………」

……血も涙もないお母さんである。

まぁ、リューノモをあの状態にさせたのも、紛れもなくクフリートのせいなのだが。

「……皆ここにいたのって、僕が熱を出したから?」

「えぇ。こんこ様が呼んできてくれました」

「こ、こんこ様が!?」

クフリートは、ナナの魔法の杖の先を器用に座ると、「こんこん!」と喉を鳴らした。

「こんこ様をそんなふうに使うのは……」

「つい昨日までこんこ様のことを白狐と言っていたのは誰でしたっけ?」

「うぐっ……」

ぐうの音も出ないとはまさにこの事なのかもしれない。

「まぁ、それは良いとして。今から、こんこ様と遊んでみてはどうですか?」

「……安静にしてろって言ったのはナナでしょ」

クフリートの言い分に、ナナは首を振った。

「私は身体を動かせ、とは言っていません。お喋りをして下さい」

「それこそ難しいでしょ」

ーー何考えてるのか分かんないのに、どうやって仲良くするんだよ。

仲良くなりたいのは否定しないが、通じ合いもしないモンスターの心を理解することは非常に難しい。

「いざとなれば、粉雪を貸してもらえばいいですよ。それくらいなら身体に負担はないでしょう?」

「そうかもしれないけど……」

「それに、吹雪が終われば……」

「……?」

ナナは何か言いかけてから、ぽんと手を打った。

こんこ様はぴょーんと魔法の杖から飛ぶと、ベッドに着地した。

……それが、お喋りの始まりとでも言うかのように。

こんこ様は「こんこん!」と鳴きながら、空中に粉雪で何かを書いた。

「それって……文字?」

「こん!」

ーーたぶん旧こんこ文字だ。

旧こんこ文字は、数百年前まで使っていたとされる、こんこの国の文字だ。

その文字は、元はこんこ様が使っており、ある人間に伝えたとされる。

以降、時代に合わせて少しずつ変えていき、今とは若干異なる文字なのだが……。

残念なことに、クフリートは読むことはできなかった。昔の小説を読んでいたらと少しだけ後悔する。

「ごめん、僕、文字読めなくて……」

「こん……」

「だから、えっと……こんこ様が良かったら、粉雪で遊ぼうよ」

「こん……こん!」

こんこ様は嬉しそうに笑うと、早速粉雪で何かを作り始める。

今更だが、粉雪が空中に浮かせたり、生み出せるこんこ様は芸達者なのかもしれない。

ーー正直まだ半信半疑だけど……仲良くなってもいいよね。

いくら目の前にこんこ様がいると頭では理解していても、どうも疑ってしまう。

まぁ、こんこ様は絶対にいない! おとぎ話だ! と豪語していたのだから、無理もないのだが。

ふと、クフリートが天井を見ると、そこには粉雪で作られたドラゴンのモンスターが描かれている。

本物のドラゴンと比べるといささか迫力はないが、クフリートの胸が高鳴るのは変わりなかった。

「僕も作らないと……」

などと考えていたところで、ナナの割と大きな独り言が耳に入った。

「……大丈夫でしょうか」

ーー何の話を……。

「こんこ様は吹雪が終わる前までには住処に必ず帰らないといけないですし……そろそろなのかもしれませんねぇ」

ーーえ?

読んでくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ