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第4話 真夜中の考え事

クフリートはろうそくを消すと、ベッドに眠りについた。

ーー今日は、本当に色々あったな……。

何せ、白狐は楽しそうに部屋中を走り回るのを止めるのに必死だったのだ。

モンスターってみんなこうなのか? と他のモンスターを調べてみたが、大人しかったり、そもそも動かないモンスターもいるらしい。白狐はこんこ様ではないのでモンスター図鑑に乗っていなかった。

……が、念の為、特に理由はないがこんこ様について調べてみた。

ーー幼少期のこんこ様はとっても元気ね……。白狐と似ているな。

けど、白狐はこんこ様ではないのだ。

もしもこんこ様なら、クフリートの目の前にいるわけがない、絶対に。

クフリートは毛布を頭まで被ると、目を閉じた。

ーー温かくないな。寒くもないけど。

人の手に触れても、皆が寒いと感じていても、ご飯を食べても、クフリートは何も感じない。

幼少期こそ焦っていたものだが、今となっては慣れたものである。

ーー白狐に触れたらどうなるのかな。

クフリートは、部屋のどこかにいる白狐を探しつつ、疑問に思った。

見たところいかにも冷たそうだが、もしかしたら体温のおかげでとても温かいのかもしれない。

ーーまぁ、どうでもいいけど。

クフリートは身体を横に向かせて、眠りにつこうとした。

「こん」

「…………」

「こん、こん」

「なんだよ」

けれど、白狐の鳴き声のせいで寝付くことすら出来ない。

布団の奥からもそもそという音が聞こえ、クフリートは少し驚いた。

「もしかして、そこにいるの?」

「こん」

白狐は小声で頷いた。

能天気そうに見える白狐も、今は静かにするべき時間だと分かっているようだ。

「白狐は寒くないでしょ。こんな温かい所にいたら汗かいちゃうよ」

まぁ、僕はかかないけどね、と心の中で口にする。

しかし、白狐はクフリートの声に構わず、布団の奥でいい場所を探している。

「ねぇ、僕の話を聞いてよ」

「こんこん〜」

白狐はいい場所を探せたのか、動くのをやめてピタッと止まった。

「そんなところでいいの? 床の方が広いのに」

「こん!」

どうやら白狐は狭い所が好みらしい。

「まぁ、気持ちは分からなくはないけど……」

クフリートは広いところだと、変にソワソワして落ち着かない。

逆に狭い空間だと、不思議と癒されるのだ。

ーーまぁ単に僕が広いところに慣れていないだけなのかもしれないけど。

クフリートは基本的に自室に篭もりっきりなので、外や広い家に行ったりしない。

病院には行かず、不定期に家に来る治癒術師がいるため、わざわざ雪山を降りていく必要もないのだ。

「白狐は病に倒れたりしないでよ」

「こん?」

「君が倒れたら家族が心配するんだ。僕は君がどうなろうと別にいいんだけど」

「……こん?」

相槌は打ってくれるが、やっぱり人間の言葉を全て理解するのは難しいようだ。

いっそのこと白狐の真似をして、こんこん鳴いてやろうか……。

「……って、僕は何を考えているんだ……」

クフリートは頬をペシペシ叩いた。

きっと、今日は疲れたのだろう。だから、白狐のことを沢山考えてしまうのだ。そうに違いない。

ーー白狐とは仲良くならない。白狐とはただの同居人、じゃなくて同居モンスター……。

だからと言って無視するわけにもいかないし……。

ーー僕は、白狐に興味があるのかな……。

今日一日、白狐を追いかけてばかりだったが、クフリートはどこか楽しさを感じていた。

これをなんと言えば良いのだろう。毎日絵本を読んできたというのに、実際に起こると上手く言えないものである。

ーーあぁ、もうなんでもいいや。あくまで同居人ならぬ同居モンスター。話しかけてきたら適当に相槌を打てばいいんだ。

こんこ様だろうが白狐だろうが、はたまたま見た目が恐ろしいモンスターだろうが、とりあえず相槌くらい打てば喜んでくれるだろう。

クフリートは同世代で仲良くしていた人はいない。せいぜい、兄であるリューノモくらいである。

外に出ないクフリートを、果たして村人はどれだけ認知しているのだろうか……。

ーー絶対に仲良くなんてしない……。

だって、仲良しになるには白狐のことを理解しなければならない。

言葉すら通じ会えないというのに、どうやって仲良くなればいいのだろう。

ーーでも、初めてモンスターと接するんだから、少しくらい知っておいた方がいいかな。

クフリートは、家族以外と、色々な話をしたい。

それこそモンスターとだって触れ合ってみたい。

クフリートは妄想を、夢を、言い伝えを信じない。それは、今も尚変わらない。

こんこ様はこの世にいないし、病も絶対に治らない。そう、信じて疑わない。

ーーでも、少しくらい、知るのもいいかもね……。

そう考えていた途端、何故だか急に眠くなってきた。

「こーふ……」

今のは白狐のあくびだろうか? 少し変だが、可愛いなぁ……と思ってしまうクフリートである。

「……って……何が……むにゃ……かわい、い、だ……」

やがて、クフリートの意識はゆっくりと途絶え、まどろみの中に沈んでいった。


翌朝、目が覚めたクフリートは、大きなあくびをこぼして、早速窓の外を見た。

昨日と変わらず今日も吹雪。

こう、毎日続くと飽き飽きするものである。

クフリートは枕のシーツをぽむぽむと子気味よく叩いて、目をこすった。

すると、枕には何やら見慣れない、小さな白い物体があった。

「なに、これ?」

ぼやける目を何度も擦ると、そこにはふさふさの白い毛並みをしたモンスターがいて……。

「し、白狐!? って、うわ!」

クフリートは驚きのあまりベッドから落ちる。

「いてて……」

痛む頭を抑えながら、改めて枕を見る。

ーーや、やっぱり白狐だ。……でも、なんでこんな所に?

昨夜を振り返ると、確かに白狐は布団の奥にいた。

だというのに、今朝になれば枕で寝ているのである。寝相が悪いなんてもんじゃない。

ーーいや、本当に寝相が悪いのか……?

幼少期、クフリートのベッドに強引に入ってきて、顔を蹴ってきたリューノモを思い出す。

ーーというか、寝相以外に他に思いつかない……。

寝起きだからなのか、クフリートの頭はあまり冴えない。

いつもよりよく眠れたはずなのに、今日はどうにも眠たくて仕方がないのだ。

「おーい、クフクフ! こんころり〜」

「あ、寝相が悪いお兄ちゃん。こんころり〜」

「一言余計だっつーの!」

噂をすればなんとやら、リューノモはクフリートの部屋に入ってくると、白狐をニマニマ見た。

「おう、クフクフ、昨日はあんなに白狐と離れてたのに、もうこんなに近いのかよ。カップルもびっくりだぞ」

「違う。白狐が知らないうちに枕にいたんだよ……」

言いかけ、クフリートはリューノモを睨む。

「もしかして、お兄ちゃんがやったの?」

「弟の睡眠を邪魔するほど、俺は酷いお兄ちゃんじゃないぞ」

リューノモは何故かドヤ顔でそう言った。

「じゃあどうして……」

あるモンスターは瞬間移動が出来ると聞く。白狐もその類なのだろうか。

「いや、そりゃあ、あれしかないないだろ」

「あれって?」

リューノモはおいおいマジかよ……と頭を抱えてから、クフリートにビシッと指を差した。

「クフクフと一緒に寝たい。それ以外に何があるんだ?」

「……え?」

クフリートはぽかんと口を開けながら、左右に首を動かす。

「僕?」

「そう、クフリート、お前だ」

「えぇっ!?」

クフリートはガニ股で後ろに下がって壁に当たる。

「いや、なんでそんなに驚くんだよ……」

「だって、僕、白狐を助けたり笑わせたりしてないよ?」

むしろ白狐が助けてくれたり、笑わせてくれたりしたのだが……。

「ーー要するにですね、気に入られたということですよ」

「「え?」」

突如として、クフリートでもリューノモでもない、女性の声が聞こえ、思わず声を揃えてしまう。

クフリートとリューノモが固まっていると、部屋の中央に竜巻が発生した。

それは自然に出来たというより、人の手によって作られたと言った方が正しいだろう。

その竜巻に気づいた白狐は、床に氷を張って、華麗に着地。微動だにしていない。

「おっと、この魔道具はもう少し広いところで使用するものでしたか。失礼しました」

それが言い終わると同時に、竜巻は消えて、魔法使いの帽子を着けた小柄な女性が現れる。

「あなたは……」

「クフリートさん、リューノモさん、一ヵ月ぶりですね。スカビオサ」

クフリートとリューノモはこてんと首を傾げた。

女性は怪訝そうに眉をひそめたが、気づいたのかポンと手を打った。

「あぁ、この国の挨拶は違いましたね。それでは改めて……」

女性は魔法使いの帽子を胸に抱いて、長細い魔法の杖を、床に置いた。

「こんころり、クフリートさん、リューノモさん。治癒術師のナナです。様子を見に来ました」

ナナは柔らかく微笑んで、短い赤髪を撫でつけたのだった。

読んでくださりありがとうございます!

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