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反撃の狼煙

ルンは1200年に歴史を持つ,大国トニ王国の王都であった。

小高い山を飲み込むように築かれたその都市は,山の斜面に沿って立ち並ぶ建物と,それを囲む巨大な三重の城壁によって人類の超大国トニ王国の威厳とその強大な国力を見る者に指示していた。さらに,トニ王国の持つ豊富な財宝や遺跡と書籍のほとんどはこの王都ベルンにあり,その全人類の財産が納められいる目がくらむほどに華麗で壮大な王都中央図書館には人類3000年の歴史があるとすら言われ,その王都中央図書館には世界中から多くの学者が集まり,人類の知の深淵を少しでも覗くためにその人生の大半を費やしていた。この王都図書館は魔法学研究の権威で世界で最も高名な魔法使いヘルメスに最も人類の中で価値があり,一国に値するとすら言わしめられていた,だがそんな中央図書館も今まさに戦禍に巻き込まれんとしていた。


 連邦軍の攻撃は激烈かつ迅速であった。王国軍の文字通り生命線であった東部国境防衛線と,その防衛を担当していた東部方面軍は連邦軍の全戦線での奇襲攻撃を前に碌な抵抗も出来ずに崩壊した。命からがら西へと逃げる王国軍を追うように連邦軍は攻撃を進め,攻撃開始から8時間後には一部の部隊は国境から西へ40㎞の地点まで進出し,この王都ベルンにすらその刃を届かせんとしていた。

そのような状況下で,トニ王国の第一皇女のユリは苛立ちながら大臣と将軍達の議論を聞かされていた。

「東方方面軍はなにをしていた!!なんのための防衛戦だ!なんのための軍隊だ!」

大臣の一人が顔を茹でダコのように真っ赤にしながら叫んでいる,トニ王国財政大臣のベストンである。彼は優秀な経済学者であり,平民の身でありながら国王の肝入りで大臣に起用された男である。

だが,いささかケチすぎる男でもあり毎度のように通年予算案会議では軍の要請する予算に文句をつけ,普段から軍隊をただ飯食らいの役立たずと公言してやまないような男でもあり,軍からの評判は最悪ともいえるような男であった。

「まぁそうかっかなさるなベストン卿,叫んだところで状況は改善せん。まずは状況を正確に把握せねば」

太く落ち着いた声でベストンをなだめる声がする,王都の防衛を担当する中央軍の司令官グロム大将である。

すっかり頭は真っ白に染まり,蓄えた立派な髭も色を失い.まるで大学の学者のような雰囲気を醸し出していたが,かつては連邦や南方での数多の戦場で戦い,無敗の剛将との異名を取ったほどの人物である。その名声と実力は今でも軍に,いや王国に必要とされ市民たちからは“白将”の愛称と共に今年で70を迎える老体でありながらも王国中央軍の指揮官として親しまれていた。

「ありがとうございます,グロム大将。確かにベストン卿のご指摘通り現在わが軍は極めて厳しい状況です。しかし現在我々は王国軍は王都を中心に防衛戦の再構築と戦力の結集を行っており,十二分に戦うことができると考えております」

東方方面軍の参謀の一人が感情を感じさせない淡々とした説明した。

「それで?守り切れるという保証はあるのかね,その十二分に戦うための国境防衛線は一日を待たずに崩壊したではないか」

隠し切れない怒り混じりの声でベストンが問うた。

(いやな男だな,ベストンは)

上座の末席に座りながらユリは独り言ちた,あんなのだから他の大臣や官僚から嫌われるのだ。正論であれば何を言っても良いというわけではない,本来は優秀なはずなのに,なんともったいのない男か。

同じことを考えているのだろうか,グロム大将や他の数人も大臣も苦笑いを顔に浮かべている。

「守り切らねばなりません」

突然,東方方面軍の総司令官代理シュテルンの太い声が響いた,その場の人間の視点が一斉に下座のシュテルンに集まる。

「守り切れるかは分かりませんが,我々にこれ以上の退却はありえません」

再び,はっきりとした大きな声が御前に響く。

「答えになってないではないか!]

声を震わせながら怒りといらだちに満ちたベストンの声が返る。

再びベストンの顔は真っ赤に茹で上がっている。

「今の我々に“絶対”に守り切れるなどと断言する力も資格もありません,ですがやらねばならないのです」

ベストンの剣幕に動じた様子もなくシュテルンが涼しい表情で答えた。

ベストンはまじまじとシュテルンを眺め,何か言いたげに口を開きかけたが,諦めたように小さくため息をつきグロムに向き直った。

「グロム大将はどうお考えですかな」

先ほどまでと打って変わって丁寧な態度で尋ねる。

「中央軍としては王都を囲まれても一か月は戦えると言えましょう。しかし現在構築中の東方防衛戦で守れるのかは私も正直に申し上げてシュテルン殿と同意見ですな」

まるでベストンのいらだちなど全く知らないかのような態度である,ベストンは僅かに顔を曇らせたが静かに礼を言って,それ以上言葉をつむぐことはしなかった。

 戦闘に参加したことも軍事に関して学んだこともないユリでも,この会議の様子から王国が危機的な状況にいることをさすがに気づかざるを得なかった。

(さて父上はどうなさるのかしら)

ユリはちらりと自分の2席隣に座る自身の父であり,トニ王国の王であるトルニ王を一瞥した。

もうすぐ80歳にならんとしているトルニ王は今のところ一言も話さずに,ただじっと座っている。

そのじっと虚空を見つめる父の目から彼の考えを伺い知ることはできない。

隣に目を向けると自身の兄であり,この国の皇太子であるラト王子とヌイ王子もただ不安そうな顔を浮かべて父にならっている。

(なんで三人とも黙っているのかしら,まさか何も考えてないなんてことないわよね)

こんなことを考えながらもユリは,彼の父であるトルニ王にはもう政治や,ましては戦争をするだけの聡明さは残されていないことを改めて突き付けられた。

かつては連邦との関係の安定化や南方の反乱勢力の鎮圧,画期的な経済政策などで連邦始まって以来の英傑ともてはやされていたが,昨年ごろから,日中でもうたた寝をすることの増えだし。最近では政務中やこのような御前会議の場でも寝ていることすらあり,事実上の政務は大臣たち担うようになっている。このような父の状況を知る者は限られており,厳重な箝口令が引かれ多くの国民の知ることではなかったが,それでも確実にトニ王国の力を失わせる要因となっていた。

王は簡単に言ってしまえば,老いたのである身も心も。

さらに言うなればユリの兄であり皇太子である2人も,その能力には乏しかった。ラト王子は,お世辞にも賢いとは言い難く小心者のくせに権力欲だけは旺盛,ヌイ王子は頭の足らない節があり自分から何かを考えることはない。そんな二人は大臣や閣僚たちからも軽んじられ事実上王家の政治への影響力を失わせる事態を招いていた。

父である王と兄である王子たちは,まさしくトニ王国の衰退を象徴するかのような者たちであるのである。

(だから私がここに呼ばれたんですけどね)

ユリは内心でほくそ笑んだ

そう,だから女でありながらユリがこの御前会議の場に呼ばれたのである。

ユリは兄たちとは閣僚連中に言わせれば比較にならないほど聡明であり,最近ではこのような御前会議の場には自然と参加していることが多く,父や大臣たちもそれを暗黙の内に了解していた。

もっともユリの兄であり第一王子のラトは,ユリが自分を差し置いて意見を発したり,大臣たちと意見を交流させることを歓迎しているとは思えないが。

「グロム殿,貴方は先ほど王都は一か月は守れるとおっしゃったがその後はどうなさるのですか?」

ユリはゆっくりと口を開いた,先ほどまで激論を飛ばしていた大臣や将軍たちが一変に静まり,みな一段高いところにおり突如口を開いた王女へと視線を集めた。

グロムが穏やか表情を浮かべながら静かに礼をして答える

「さすがは王女さまであられます。一月戦えるからと言っても打開策が無ければ延命でしかありません。我々に打開するための秘策必要なのです」

「そ,それで打開策はあるのか白将よ」

ラト王子もユリに負けじと口を開く,偉ぶってはいるが声は震え,顔は赤らめていたが妹への対抗心で前に出てきたのであろう。

「よき質問です,ラト王子。幾つかの考えはあります,一つは中央軍で王都を守りながら他の方面軍が敵を撃滅し王都の包囲を解いてくれることを期待する策。もう一つは隣国フランからの増援を借りて包囲をと解いてもらう,もしくは打って出て包囲される前に敵を倒す,このあたりが現実的な選択肢といえると考えます」

「仮にこの王都から打って出て勝ち目はあるのか?」

ラトはあくまでも上の立場として意見したいらしく先ほどよりは落ち着き横柄な態度で言葉を重ねた。

「打って出た時の勝算は7・3といったところでしょう,もちろんこちらが3です」

ラト王子の顔が引きつり,なにか言いたげに口を開いたがそこから言葉が発せられることはなかった。

「私からも一つ申し上げるならばフランから増援が来る可能性は限りなく低いと言えます,今のフランには我々を助けるだけの力はありませんし,この機に及んで我々を命張って助けに来るほど,彼らもお人好しではありません」

外務大臣を務めるドラン卿が横から口を出した。

「そもそもトニ王国とフラン王国は皆さま周知のように決して友好な関係にあるわけではありません。その上で連邦という強大な国家がこの王都を包囲しほぼ追い詰めた状況でフランが自国の出血を容認する道理がありません,トニ王国を救援する可能性は限りなく少ない,ないしは有り得ないと言えます」

「私からも申し上げるのであれば,東方方面軍は戦力的にはまだ残されていますが,現状の通信状況では戦力を集めて有力な作戦を立てることは困難かと思います。」

シュテルンが先ほどと同様に涼しい顔をして言った,南部方面軍や西部方面軍の面々も同意するようにうなづく。

会議室内に重い沈黙が広がった。

「とにかく今は東部方面軍を信じてみましょう」

今までの議論はともかくこの大臣の発言に収束し,議題は次へと移っていった。


長い長い議論がようやく終わり,御前の間から出ようとユリが席を立ったその時,ユリを呼び止める声がした。

「ユリ皇女様」

振り向くと穏やかな微笑みを浮かべたグロムが立っていた。

「グロム大将殿」

先ほどまでの会議の緊張感が少し解けた穏やかな声で返す

「そのような固い呼び方はおやめください,儂と姫の関係ではないですか」

2人の間に先ほどと打って変わった和やかな雰囲気が二人を包む。

「だが意味のもなく爺が私に声をかけることもないでしょう」

緩やかな口調だが,含みのある声であった

「いやいや,私はそんな無粋な男ではありませんよ。」

グロムの言葉は穏やかでありながらも返す言葉からは明らかな含みが籠っていた。

「ですがしばしの間,この老体の散歩にお付き合い頂きたい」

にこやかに手を差し伸べたグロムと,その手を取るユリの目の奥には笑みはなかった。


グロムの背に続いて,ユリは長く薄暗い廊下を歩いていた。

「爺,どこまでいくつもり?」

「王女様,もう少々老体の散歩にお付き合いください」

わずかに在りし日よりも衰えを感じる背中を追いながら,二人黙って歩く時間が続く。

もうずいぶんと歩いたであろうか,先ほどまで居た御前の間からいくつもの階段を下り長い廊下を歩きカビの匂いすらする人気のない薄暗い廊下を歩いている。

二人の足音だけが静かな廊下にこだましている。


「王女様,お付き合い頂きありがとうございます」

グロムは唐突に立ち止まった。

グロムの立ち止まった樫のドアには一見なんの変哲もないように見える。右にも左にも同じドアが続いている。

「このような所になんの用事が?」

ユリのその疑問には答えず,グロムは黙って樫のドアを開け中に入っていき無言で付いてくるように促し,ユリも黙ってその背中に続いた。

部屋の中は薄暗く肌寒い廊下とは全く異なっていた。石を基調に作られた薄暗い廊下とは異なり,室内は大きな暖炉が焚かれ温かく,心地の良い紅茶の香りと天窓からの温かな陽光は不思議な安心感を感じさせた。

ユリが室内に入ると

既に部屋の中にいた人たち一斉に頭を下げた,見ると東部方面軍のシュテルンを中心に軍部の人間や,ベストンなどの何人かの大臣や高級官僚,それにトニ王国魔法参謀のマクレラインの姿もあった。

「遠路はるばるありがとうございます王女様」

シュテルンが会議の時とは打って変わった柔らかな物腰でユリを労う

「この部屋は一体...?」

ユリはふと疑問を口にしていた。何度もユリは御前の間から階段を降り,この王城の下の階層へと下っていっており,限りなく地下ともいえるこの部屋に天窓設置できるわけがないはずである,しかし今いるこの部屋には大きな天窓があり心地よい日の光が差し込んでいる。

「この部屋はマジックルームというものです,特定のドアから許された者だけが入ることのできる部屋なのです。素敵でしょ」

ふくよかな女性がにこやかに答え,傍らのシュテルンに自分が天窓のデザインにどれだけ苦労したかを語りだした。一見,市場で世間話をすることが生きがいであるかのような女性であるが,その見た目とは裏腹に実質的にトニ王国の魔法界の頂点を務める魔法参謀であった。

「マクレライン様,お時間がありませんので。始めさせてください」

やんわりとグロムが制した。彼女はおもちゃを取り上げられた子供のような顔を浮かべながら話を終え,それを合図とするように室内の人間がグロムを向き直った。

「本日はユリ王女様にも話を聞いていただくが,よいかな」

グロムが確認をとり,人々が軽くうなづいた。

「ユリ様,先ほどの会議の場では言えぬことがありましたゆえに,ここに来ていただきました」

集まっていた面々からはいつのまにか穏やかな雰囲気は消え,なんとも形容し難い雰囲気となっていた。

その雰囲気だけで,ここに集めれたのがただの懇親会でも世間話をするためでもないことをユリに悟らせた。

「爺や,先に聞きたい,ここに集まっている皆さんはどのような??」

「姫様,その話はまた後程お話いたしましょう。今はただ王の信頼のおける人間が集まっているとだけ申し上げておきます」

「そうか‥」

グロムの先のほどまでの穏やかな表情とは打って変わった真剣な鋭い雰囲気を前にさしものユリも引き下がらず得なかった。

「先ほどの会議ではっきりいたしましたな」

ベストンが口火を開いた

「えぇ懸念は恐らく事実ですね」

マクレラインがゆっくりと言葉をつなぐ。

「ま,待って頂戴,なんの話をしているの?懸念って?」

ユリがさすがに慌てて口を挟んだ,落ち着きのあることで定評のあるユリ王女といえども予想だにしていなかった話の流れの理解に苦しんだ。

「ユリ王女様,先にはっきりと申し上げます。我々は全力で戦いますが残念ながらこの戦争は恐らくトニ王国は連邦に負けます。王国内の多くの者がそのことに気づいている上でどう負けるのか,負けた上でどう振舞うのかを考えておるのです」

グロムの口から平然と飛び出した言葉はユリをさらに驚愕させた,先ほどまでの会議では勝つための会議であり,いかにして勝つかをみな真剣に議論していたはずだ。

ところが実際には勝つことは諦め,負けを前提として考えているというグロムの言葉に,先ほどまでとのギャップを感じざるを得ない。

「そ,それはどうゆうことか説明して頂けないでしょうか」

ユリは声を失いそうになりながら,できる限り平静を装いながら疑問を返した。

「我々はこの戦争の始まる前からこのように集まって様々なことを調べ行動をおこしてきました」

マクレラインがグロムに変わって答えた。

「我々は御父上であるトルニ王がまだ聡明な頃に王国内外に関する情報を集め,王国に仇なすものを探し出し,排除することを命じられて集められ,活動してきました。」

「そして,そのメンバーが増え活動範囲が増えたことで我々は明確に名を冠することとなりました」

「我々はロンレンヌ騎士団と王に名づけられました」

「ロンレンヌ騎士団..?聞いた事もないが,どういうことだ?」

「限られたものしか知りません,重ねて申し上げますが我々は魔物を含めた全ての脅威からトニ王国と王を守るために設立された秘密機関ですので」

マクレラインのふくよかな顔にふざけた様子もなく,他の人間も至って真剣なまなざしである。

ユリを騙しているわけでも,からかっているわけでもないのであろう。

「色々と聞きたいことはあるが,今はその話をする余裕はないのであろう。話を続けてくれ」

このような都市伝説のようなことをすんなりと受け入れることは出来なかったが,父の命でグロムらが作ったという点のみで自然と信頼し不思議な事にある程度受け入れることができたのであった。

(私は私が思っているよりも父のことをどうやら信頼しているらしいな)

先ほどまで,老いぼれとすら思い,実の父として信頼することも,これからもう頼ることもないであろうと思った父への思いが,こうも簡単に変化させられるとはユリには自分事ながら驚きを隠すことは出来なかった。

「ご理解とご協力ありがとうございます」

マクレラインが静かに頭を下げる。

「こっちの調べでは,外務大臣のドラン殿と他の大臣の数人,それに西部方面軍の参謀らに西側領主の多くがフランと通じていると考えられます。おそらくだがヌイ殿もドランと行動を共にすることになってるんじゃないか?」

何の前触れもなくぶっきらぼうにシュテルンが割って話し出した

(ドランがフランと通じている??どうゆうことだ...?それに兄上まで?)

その疑問を口に出さんとしたとき,シュテルンの鋭い目がこちらを捉えた。まるで何も言うなと訴えかけるような目はのどまで出かかっていたユリの言葉をぐっと腹の底に押し返した。

「フラン王国は密約にでも基づいてわが国の保護のために兵を出してくれるのでしょうかな」

だれかがおどけて言い,乾いた笑いが部屋に響いた。

「そんなありがたい話ならいいんですけどね,一体なにを企んでいるのやら」

「具体的に何を企んでいるのかはっきりとは分かりません,ですがドラン外務大臣や一部の閣僚たちがフラン王国と通じている可能性が極めて高いというのは事実です」

静かにシュテルンがユリに向き直り,

「現時点で,具体的なことは分からないのです」

ただ静かにこれだけを言った

「申し訳ございません姫様,我々も全力は尽くしているのですが..」

グロムもユリにわびた。彼の言葉は自分たちの無力を騎士団の人間に痛感させるには充分であった。室内に悲痛な沈黙が重くのしかかっていた。

「ところでお取込み中のところ申し訳ないが,お客様がおいでなさったようですよ」

マクレラインの声が部屋に響いた。



「連邦軍の飛行部隊を確認!正確な数は不明!」

中央軍指揮所に,伝令兵が報告する。

「各地を襲ったワイバーンと同じかと思うか?」

指揮所に詰めていた士官の一人が問う

「その可能性は極めて高いのではないでしょうか」

「ワイバーンが来るものとして準備をしろ,全部隊を集めろ。それから聖騎士団にも要請しておくんだ」

その将官の声に弾かれたように兵士たちが駆け出していく。

「聖騎士団にも声をかけるのですか??」

慌ただしく動き回る兵士たちを見守りながら士官の一人が問いた。

「いたしかたない,これで王を殺されでもすれば軍の大事になっちまう」

本来は聖騎士団はあくまでも教会と聖典の教えの守護者であり。故にトニ王国においては政治に対して彼らを中心とした教会勢力をとにかく関わらせないことが不文律となっており,戦争などにおいても協力を王国側から要請することは極めてまれであった。

だが,王国の未曾有の危機を前に政局を鑑みる余裕はもはや王国側になかったのである。

聖騎士団の存在が吉と出るか凶と出るかは誰にも分からなかった。


トニ王国の王都ベルンを囲む巨大な城壁はただの城壁ではなかった。城壁の中には,多くの階層があり幾万もの兵士が城壁の上から中から王国と王に牙を向ける者に容赦ない鉄槌を加えることができた。

さらに各所には多くの火点が備えられ,1000年王国の誇りだる王都の威容をまじまじと牙を向ける者に見せつけることとなった。

そんな城壁の上に多くの兵士が緊張と恐怖のまなざしで東の空を見つめている。東の空の視界のぎりぎりに巨大な蝙蝠のような生き物がうごめきあいながら舞っている。王国の東部の都市を攻撃し炎の海に変えた東からの災厄はついに王都にまでたどりついたのである。

「なぁワイバーンはあの見た目のくせして賢いらしいぞ,今まで攻撃を受けた都市では軍事施設と重要な施設しか狙わなかったらしい」

城壁上の兵士の一人が傍らの兵士にささやいた

「それなら,俺たちは最優先で狙われるな」

ささやかれた髭面の兵士がさもあらんかのように答え,話しかけた若い兵士は沈黙した。

「敵!動き出しました!」

警戒兵の一人が叫び,一斉に兵士たちが動き出し城壁は急速に忙しなくなる。

城壁の各所に設置された砲台や銃座が上を向けられて,王国軍の魔法兵も次々と要所に展開していく。

そんな慌ただしい城壁など全く意にも介さず,攻撃の意図などなくただ遊覧飛行でもしに来たかのように連邦のワイバーン部隊は悠々と舞い降りてくる。

はるか頂上から迫りくるワイバーンのその姿のこの世のものとは思えられないほどの禍々しい姿と,それの発する奇声は鍛え上げられた兵士たちにすら恐怖を与えた。

「ひるむな!充分に引き付けて撃てよ!」

城壁上の士官が兵士たちを鼓舞する,兵士たちの顔が引きつり緊張感が一気に城壁を包む。

接近するワイバーンたちの姿形を肉眼でもはっきりと捉えられる距離に入った刹那,次々と砲声が城壁上を包み城壁上の各所に設置された砲が次々と撃ちこみを開始した。黒々とした砲弾が宙を咲きながらワイバーンに向けて殺到する。だがそのよけるなど不可能で思われるような砲弾がワイバーンに当たることも掠ることもなく,ただ城外に広がる田んぼで水しぶきを上げただけであった。

さらに接近したワイバーンに向けて城壁上の各所の回転式機銃が次々と射撃を開始する。数人の兵士たちが何本かの銃身を束ねた大型の銃のハンドルを回し,次々と銃弾を空に向かって送り込みだした。何本もの銃弾の線が空に向かってのび,ワイバーンの群れに向かって殺到する。何匹かのワイバーンが何発もの銃弾を一瞬のうちに受けてフラフラと落下を始め,城壁上で見守っていた兵士たちが歓声を上げた。だが大多数のワイバーンは攻撃などないかのように接近してくる。

さらに接近するワイバーンが兵士たちと目が合うほどの距離に迫り,兵士たちがなけなしの銃を構え,ワイバーンたちは今まさに火を吹かんとしたその時,突如としてけたたましい爆音と閃光が王都の空に満ち満ちた。先ほどまでワイバーンが飛び回っていた空にカラフルだが禍々しい煙と独特な閃光が立ち込める。王国魔法部隊の攻撃である。

王国魔法兵には幾つかの種類があった,一つは一般的部隊にも配備され主に火球ファイヤーボール電撃サンダーなど低位魔法を使う一般兵で攻撃以外にも回復や偵察などで多岐にわたって活躍するが,上位の魔法を使えるわけではない一般魔法兵士たちである。一方で今王都防衛の任についているのは,マジエリテと呼ばれる軍の中で魔法部隊として独立し高位で極めて協力な攻撃魔法を使う事のできる精鋭魔法兵である。彼らの多くは代々王国に魔法によって王に仕える護家の出であるなど,その忠誠と威力は王国内でも群を抜いて強力な兵士たちである。

そんな魔法兵たちが一斉に撃ちこんだ高位攻撃魔法は瞬く間にしてワイバーンたちの群れを包み込み.戦場と化していた王都の空にしばし奇妙な沈黙で覆われた。爆炎に覆われた空から20体ほどのワイバーンが力なく地に向かって落ち,多くのワイバーンがフラフラと隊列から離脱し,先ほどまでの悠然とした姿はもはやなく,余裕を失ったように散り散りになっていく。そんなワイバーン達を城壁の上で見守っていた兵士たちの爆発したような大歓声が響き,王都の空に残る攻撃の残煙は王国軍の反撃の狼煙として王国の兵士たちに大きな希望を与えたのであった。


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