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ダブり集

梅雨の憂鬱

作者: 神村 律子

 ジトジト降る雨。


 私は雨降りが続くと心配になる。


 家の裏は道路を隔てて切り立った崖。


 10年前に落石があってから、補強工事がなされた。


 一見心配なさそうな強度に見えるが、不安だ。


 何にしてもあと5年は崩れないで欲しい。5年崩れなければもう大丈夫。


 私はこの家を売り、引っ越すつもりだ。だが、まだ資金が足りない。


 もうしばらくはここにいないといけない。



 そんな私の不安を他所に雨が3日も降り続いている。憂鬱になる。


 傘を差して崖の様子を見に行った。コロコロと小さな石の破片が落ちて来る。


 手抜き工事がたくさん発覚している事件を見聞きするたびに、ここもそうではないかと考えてしまう。


 思わず駆け出し、家に戻る。電話に近づき、受話器を手にした。


 しかし戻してしまう。

 

 連絡していいものかと。騒ぎ過ぎだと言われるのがオチか?


 私は2階に上がり、窓から崖を眺めた。滝のような雨がコンクリートに打ちつけている。


 10年保ったのだ。1日2日で崩れたりしないだろう。


 しかし10年間の蓄積があるとも考えられる。


 明日にも崩れるかも知れないのだ。


 そんな妄想を繰り返す日々が続いた。



 何日か経ったある日。


 私が仕事から帰ると、裏の崖が崩れ、私の家が押し潰されているのが見えた。


 私は驚愕した。よりによって何故留守の時に・・・。近所の人は、


「家にいない時で良かったね」


と言ってくれた。私は家が潰れたのはどうでも良かった。その後の事が気になった。


 私は県の土木課の人に謝罪を受け、県営の住宅に無料で入居した。


 職員はしきりに謝罪と言い訳を繰り返していたが、私は疲れたからと言って彼を追い返し、

支給された布団に包まって眠った。


 私はその日から別の不安に悩まされた。崩れた崖。押し潰された家。


 これからどうなってしまうのだろう?



 それから1カ月が過ぎた。


 崖の修復工事が始まった。私はますます不安になっていた。


 何故誰も聞いて来ないのだろう? 誰も気づいていないのだろうか?



 日曜の朝、誰かがドアフォンを押した。私は眠い目を擦りながらドアを開いた。


「警察です。がけ崩れで押し潰された貴方の家の床下から、毛布に包まれた白骨死体が見つかりました。お話をお聞かせ願えませんか?」


 私の引越しは無期延期になった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初はタグの一部に「どういうこと?」と 思いましたが、最後の2段落で 「あ、そういうことなのね。」と思ってしまいました。 うまい作品ですね。
[一言] ラストが意外で、思わず「おおっ」とつぶやいてしまいました。主人公の思考回路と最後の展開で、二重に恐怖を感じました。
[一言] オチがピリッと効いてますね。 これはまさしくホラーです。 もう少し主人公の犯行がわかる描写が伏線として入ってたらよかったような気がしました。 「十年“待った”のだ」ではどうでしょうかね。 読…
2010/11/26 18:28 退会済み
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