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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
小さな少年の武器屋
96/159

サンリフレクト

 次の日。

 朝日がいつも通りに食卓に着くと、制服姿の女の子が食パンにかじりついていた。彼女は朝日を見て固まり、じっと彼を見つめていた。


「夜宵……」


 朝日が声をかけたにも関わらず、夜宵は立ち上がり、何も言わずにダイニングから出ていってしまった。そして玄関に向かい、ただ一言「行ってきます」と冷たく言って家を出ていった。


「おー、行ってらー」


 朝日が振り向くと、隣に眞昼が立っていた。朝日が驚いていると、眞昼は眉をひそめて「座って。邪魔」と呟いた。朝日が自分の椅子に座るや否や、眞昼は椅子に座り、ブラックコーヒーを飲み始めた。


「……夕也は?」


「部屋」


「部屋で何してるの?」


「いつも通り部屋でゲーム」


「夕也……高校生でしょ?学校は?」


「今日も行かないって。暇なら遊んできたら」


 眞昼は淡々と質問に答えていった。そしてコーヒーを飲み終わると、「じゃ、ウチサークルなんで」と立ち上がった。眞昼はコーヒー以外口にしていなかった。


「まっ……待って!」


 テーブルに手をついて立ち上がった。眞昼が、早くして、と目で伝えてくる。


「眞昼……何も食べないの?」


「ダイエット中だし。それにウチ、昔からそんなに食べれないんだって。知ってるっしょ?だから朝日に料理あげてんじゃん。あー、パンなら2枚食べていいから。杏奈(あんな)陽次郎(ようじろう)には内緒ね。じゃ」


 杏奈は母親、陽次郎は父親だ。眞昼は渾名で呼ぶのが嫌いだった。


「待って!」


「待って待ってうるさいー。何?」


 朝日はその鋭い目に怯えながらも、言った。


「あの……武器を、僕と一緒に作らない?」


 眞昼の目が驚きに変わった。朝日は続けた。


「実は、今大切なお客様の武器を作ってて……8人分必要なんだ。2つは細かいところまで思いついたんだけど、他が思いつかなくて……それで、眞昼に他の2つを考えて欲しいんだ。それだけでいいから――」


「行ってきます。それ、パパとママに言わない方がいいよ。これ以上ショックで寝込まれても困る」


 眞昼は朝日の方を振り向きもせずに、家を出ていってしまった。


(……こんな調子で、完成するのか……?今日から光集めが始まるというのに……)


 朝日は不安になりながら、2枚分のパンをトースターに入れた。1枚は食べ、2枚目は昼の分に取っておくことにした。



 昼前になって、参華と美波がやってきた。2人とも何かカバンに荷物を持っていた。


「あの……その荷物は……」


「これ?だって、海に行くんでしょ?せっかく買った水着があるんだし、思い切り遊ぼう!と思って」


「2人で話し合って持ってきたの。今日は平日だし、人は少ないだろうから」


 美波と参華が自分のカバンの中身を見ながら話した。朝日はその様子を見ながら、不安そうに宝石を渡した。美波に渡された方は、美波の宝石より小さかった。


「はい。これが、お2人のピアリデイ・ストーンです」


「わあ、ちっちゃい!可愛い……!」


 美波が自分の宝石を覗き込んだ。ピアリデイ・ストーンは、混沌のような黒が混ざり込んでいた。


「正午になったら、光を集めてください。もし光が集まらなかったら、何か特定の行動をしなければ、集まらないかもしれません」


「特定の行動?」


 参華が聞き返した。朝日は頷いた。


「はい。例えば、今回は海ですので……遠くまで泳ぐとか、ビーチバレーをするとか……光が集まる条件はよく分かっていないのですが、色々行動を起こしてみるといいかもしれません」


「ふーん……なるほどね。分かったわ。それじゃあ行きましょ!美波」


「うん!終わったら来るからね、朝日くん!」


 2人は手を振って、店から出ていった。朝日は静かに「行ってらっしゃい」と呟いた。



 11時頃になって、2人はようやく町外の海に辿り着いた。人はそれほど多くはなかったが、海で泳いでいる人も沢山いた。多くがサーファーだった。


「それじゃあ、準備しましょうか」


 参華の声掛けに、美波が「おー!」と返事する。2人は更衣室で水着に着替え、浜辺に乗り出した。


「日焼け止め、ちゃんと塗った?」


「当たり前でしょう?バイト先でいじられたくないもの」


 準備運動してから、2人は海の中に入った。少し気温が低くなったからか、海は少し冷たかった。


「冷たっ!あっ、でもすぐに暖かくなった……」


「体が慣れたんでしょう。さて、それじゃあ正午まで待ちましょうか」


 2人は静かに海でぷかぷかと浮かんでいた。沈黙が流れる。しばらくして、美波が突然笑い出した。


「ちょっと、急に笑ってどうしたのよ?」


「あっはははは!いや、ごめんね参華ちゃん。すっごい気まずい」


「それはー……確かにそうだけど……」


「ねえ、何かして待ってようよ。そのくらい大丈夫だよ。まだ時間はあるんだし」


 美波が浜辺にある時計を見て笑った。参華はそれを聞いて考え込んだ。


「確かにね……このままじゃ退屈でたまらない。うーん……」


「あ、じゃあ予め、朝日くんの言ってた「特定の行動」について考えてみるのは?」


「特定の行動について考える?」


 美波は参華の言葉を聞いて、身振り手振りを混じえながら説明し始めた。


「うん!朝日くんが言ってたでしょ?遠くまで泳ぐとか、ビーチバレーをするとか……2人じゃビーチバレーは難しいかもしれないけど、そういうの、試してみない?」


「なるほど……楽しそうね。そうしましょ!それじゃあ、早速試してみるけど……遠くまで泳ぐ、っていうのなら出来るかしら?」


「そうだね!それじゃあ、少し遠くまで泳いでみよう!」


 そうして2人は、しばらく遠くまで泳ぐことにした。参華は自前の運動神経で、浜辺の端まで泳ぎきった。ブイが見えたところで、参華は顔を上げた。


「ここまで来れば、遠くまで来たことになるでしょ……ね?美波」


 美波の方に振り向いた。だが、そこに美波はいなかった。


「…………美波?」


 美波だけではない。周りにいたサーファー達もいなかった。参華は1人、遠くまで泳いでしまったようだ。遠くで小さな波が来るのが見えた。


(まずい……私しかいないの?いつの間にか遠くまで来ちゃった?これじゃあ光を集めるどころじゃないわ……!)


 参華はそう思いつつ、岸の方へ向かっていった。岸は思いのほか近く、すぐに辿り着いた。


「美波ー!美波ー!どこにいるのー!?」


 浜辺で叫んだが、返事はない。先程までいたサーファーも、そして監視員なども居なくなっていた。


「おかしい……何かが絶対おかしいわ……!」


 参華はそう思いつつ、何かあった時の為に、と持ち歩いていた《魔源収納(マナシェルター)》の結晶から武器を取り出した。ぶんぶんという槍を回す音が、緊張をほぐしてくれた。


(これは誰かの策略?それとも偶然的な現象?朝日はこのことを知っているのかしら……)


 参華はそう考えながら、ハッと思い出した。


捕魂産吹(コレクターズ)》……術者に指定されたものを集め、それを魔法に変換して保存するという、僕の師匠が生み出した魔法です。教えてもらったことが無かったので見様見真似でやってみましたが……」

「この魔法は、先程も言った通り師匠に教えて貰ったことがないので、失敗するかもしれません」

「綺麗な光っていうのも重要なんですよ。ムードというか……他もそんな感じで決めてます。この石、どうも人の感情によってまた色合いが変わるようなので」


 どれも前の日に朝日が言っていたことだった。参華はなんとなく流していたが、もしかしてとても重要なことだったのでは、と今になって思い始めた。


(人の感情で色合いが変わる……朝日はこの宝石の詳細を知らない。そもそも朝日……トビーが魔法を使うところなんて見たことないわ。もしかして……魔法自体初めて使ったんじゃないの?そしてもしそれが真実なら……魔法は使えば使うほど精度が上がる。精度のない魔法は……)


 参華は顔を上げた。美波達がどこにいるのかは分からなかったが、自分が今普通ではない場所にいることは分かった。


(朝日……あんた光じゃなくて、誰の感情を集めたの?)


 参華はそう思いながら、槍を《魔源収納(マナシェルター)》にしまった。そして自分のピアリデイ・ストーンを見つめた。少しだけ光が集まっていた。緑色と青色だった。


「ね……お姉さんは人生楽しいっすか?」


 ふと、後ろから聞いたことのある声がして、振り返った。全身が影になっているその人物は、参華を見ることも無く続けた。


「ウチはそんな人生楽しくないかな……楽しさがよく分かんない。食べるのも、寝るのも、サークル行くのも、じいちゃんのつがねを継ぐのも、楽しみを見い出せなくなっちゃった」


「もしかして……眞昼さん?」


 参華が尋ねると、その影は「そうすよ」と言った。


「ただただ日々を過ごしてくだけ。お姉さんはどうっすか?お姉さんは毎日楽しい?」


「……そうね……前とはほとんど真逆の人生で、楽しい、かな」


 本当に眞昼なのか分からないなら言っても大丈夫だろうと、参華は考えながら言った。影は「そっか」と呟いた。


「いいなー、それ。ウチも変わってみたかった」


「変われないの?」


「変われないよ。ウチはこういうキャラだって、皆思ってる。薄っぺらくて軽い女だって。だからそうとしか生きられないんすよ。今までずっとそうだったし。第一家族がいる。兄弟の中で一番しっかりしてるウチが、何とかしなきゃいけないんです。今はウチの問題どころじゃない」


「一番しっかりしてる?そうなのね、てっきり朝日が一番しっかりしてるかと……」


「今はね。でも変わる前は家の事なんもしない駄目な兄貴だった。今なら分かるけど……多分、諦めたんだと思うんす。夕也は引きこもってるし、夜宵はウチら兄弟とほとんど話さない。2人の声もあまり聞いたことない。だから……ウチが頑張ってつがねを継いで、じいちゃんの思いを無駄にしないようにしないと……死んだじいちゃんが可哀想だ」


「おじいさんのこと、好きなのね」


「好きだけど、そこまで好きじゃないっす。でも、好きにならないと……」


 そこまで聞いて、参華は影の肩を叩いた。肩が震えているのが分かった。


「眞昼さん。眞昼さんは、ずっと頑張ってるわ。朝日も、弟さんも、妹さんも、皆頼れなくて……1人で頑張ってたんでしょう?おじいさんのことも、好きだって思わないとやっていけなくて……そういうキャラだものね。ずっと、頑張ってきたのね」


「……違う……ウチはそんな頑張り屋なキャラじゃ……」


「ねえ。今の朝日は頼れる存在なの?さっき、今はしっかりしてるって言ってたじゃない」


 参華はそう言いながら、もしかしたら立花もこんなことを思ったことがあるかもしれないと考えていた。


「今は……頼れる」


「なら、頼ってもいいと思う。大丈夫、朝日の性格は私が保証するから。今の朝日は、他人から見ても良い奴よ」


 肩がよりいっそう震えた。泣いているようだった。


「……頼ってもいいのかな……そういうキャラじゃないのに……」


「いいのよ。まず、何をして欲しいの?」


 参華が聞くと、影は周りを見回し、言った。


「……海に行きたい。昔、皆でここの海に行って……楽しかったんだ。ただ、来るだけでいいから……あの頃に戻りたい。あの頃ならわたしでも楽しかったのに。お願い、朝日……」


 影が参華を抱きしめた。そのまま、影は吸収されるように消えていった。



「――んかちゃん!参華ちゃん!」


 参華が目を開けると、そこは浜辺だった。遠くから手を振ってやって来る美波が見えた。


「美波……?」


「よかったー、急に居なくなっちゃったから……探したんだ」


 息を切らして美波が近寄ってくる。息を整えるのを待ってから、参華は聞いた。


「急に居なくなった?」


「うん。参華ちゃんだけじゃなくて、サーファーの人も突然居なくなっちゃって……」


 美波の話を聞きながら、参華は自分が持っていたピアリデイ・ストーンが光り輝くのに気付いた。取り出すと、ピアリデイ・ストーンは緑と青の光を取り込んでいた。


「あれ?いつの間に……あっ!もう12時過ぎてる!」


 美波が浜辺にある時計を指さした。現在時刻は12時15分だった。美波のピアリデイ・ストーンを確認すると、それも同じように光り輝いていた。ビー玉のような色合いで、太陽の光を反射していた。


「あれ?私のももう集めきってる……参華ちゃん、何かした?私、眞昼ちゃんって子に会ったんだけど、突然消えちゃって……」


 参華は眞昼がいた所をじっと見つめていた。そして、くるっと振り向き、更衣室の方へ歩き始めた。


「――って、参華ちゃん?」


「光が集まったんなら大丈夫でしょう。帰りましょ」

 

「あっ、ちょっと参華ちゃん!待ってってばー!」


 美波が参華を追いかける。参華はフッと笑って、浜辺を去った。


(美波には言わなかったのね……私だけに打ち明けてくれた。眞昼とは会ったことがあるからかしら。意外と繊細ね)


 参華は腕を伸ばし、更衣室へ向かっていった。



 帰った参華と美波がピアリデイ・ストーンを渡すと、朝日は「お疲れ様でした」と声をかけた。


「ねえ……朝日。あんた、光じゃなくて何を集めたの?」


 参華が聞くと、隣で「どういうこと?」と美波が尋ねた。朝日は驚いた顔で聞いた。


「え?なんの事です?」


「知らないならいいわ。あと、眞昼さんの話、ちゃんと聞いてあげなさいよ。困ってない顔して、とても困ってるから」


「いや……なんで眞昼の話が出てくるんですか?」


「会ったのよ。浜辺で」


「ええ!?参華ちゃんも!?」と美波が声を上げた。


「それと、眞昼さんと一緒に海に行った方がいいと思うわよ。それじゃ」


「あっ、待ってよ参華ちゃん!」


 参華と美波はそれだけ言って店から出ていった。


(……何だったんだ……眞昼?)


 朝日は疑問に思いつつ、1階の店の方に行った。丁度眞昼が帰ってきたようで、「ただいまー」という声が聞こえた。


「あ……眞昼。おかえり」


「ただいま朝日。ちょっと取りに来るものがあってさー」


 朝日は軽くその話をする眞昼をじっと見つめていた。その目に気付いた眞昼が「何?」と尋ねる。朝日は先程参華に言われたことを思い出しながら、聞いた。


「眞昼……朝聞いたこと、考えてくれた?」


「え?いや……必要だったの?」


 相手にしようとしない眞昼に対して、朝日は決意したように拳を握りしめた。そして、言った。


「眞昼。海……行きたいなら言ってよ。言わないと分からないでしょ」


「え?」


 眞昼が聞き返した。本当に困惑しているようだった。


「なんで、知って……」


「いや、今のお客さんからそう聞いて……」


 眞昼はぷいと顔を背けた。朝日が声をかけようとすると、眞昼が静かに呟いた。


「………海行くなら、考えるよ、武器。新しい武器でしょ?」


 朝日はその言葉を聞いて、静かに笑った。

少し遅れてごめんなさい。

次回は4月4日です。

おまけ→https://ncode.syosetu.com/n1889ha/10/

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