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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
ネバーランドの姫君
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幸せの在処

 蔦を弾き飛ばしていた参華は、いち早くその異変に気付いた。急に蔦が枯れ落ちたのだ。それだけではない。彼女が立っている会議室の机も、急に消えてしまった。


(これは……まさか……)


 参華はそう考えながら、立花と距離を取った。立花はその光景を見て、泣き顔になって呟いた。


「あぁ……あぁ、嘘でしょ……ベル、まさか……」


「……ベルがどうしたの?」


 参華が聞くと、立花は参華の方を向いて答えた。ナイフを落としてしまった彼女は、時の回廊へと戻っていく空間を、悲しげに見ていた。


「……ベルが……負けるなんて……!」


「ベ……ベルが負けた!?」


「ベルが……!?」


 参華は聞き返した。愛も声を失っていた。今まで誰も勝てなかったベルが負けるだなんて、簡単には信じられなかった。そして、それを成し遂げられるのは、この空間で彼女の仲間しか思い浮かばなかった。


(やった……状況が動いた!ベルの力が無くなってしまえば、本格的に立花は私に勝てないはず……!あとは、なんとか降参してもらうようにすれば……!)


 参華はそう思いつつ、槍をくるくると手で回した。自然と頬が上がった。

 立花は時の回廊の中で、天井を見上げていた。流した涙を隠すように。


「……嘘でしょ……絶対負けないって、言ってたじゃんか……今まで()()()にしか負けたことがないって……なんで、こんなことになったの?私はこれからベルの力無しで、どうやって……」


 立花が呟いた、その時。


「参華!大丈夫か!?」


 亥李の声がして、参華は振り向いた。亥李達が武器を構えた状態で、こちらに走ってきていた。全員腕や足に切り傷があり、止血はしている状態だったが、傷跡が残っていた。詩乃が酷く疲れた顔をしていた。


「私は大丈夫……皆こそ大丈夫?」


「はぁ……皆を回復しようとしてたら突然転移させられるし、もうまじで乙ぽよーって感じ……ナリー、しばらく下ろさなくていいからー……」


 詩乃はナリに背負われ、ぐったりしていた。周りをふわふわとエラが飛んでいた。


 “人間の体って、意外にとても脆いんだね。大丈夫?”


「あー、大丈夫だから心配しないで……」


「詩乃、誰と喋ってんだにゃ……?」


 ナリが不安そうに背中を見た。詩乃が「エラ」と答える。参華はその様子を見て、聞いた。


「やっぱり、ベルが負けたのは……」


「ん?おう!ベルには勝ったぜ!結構大変だったけどな!」


 亥李がブイサインを見せた。そして、立花の方を向いた。立花は落としたナイフを手に取り、参華達を睨みつけていた。


「で、あとは立花だけか?」


 立花は黙っていた。亥李は剣を握り、「いつでもいけるぜ」と言った。だがそれを、参華が制した。


「亥李……決着は、私につけさせて」


「参華、お前……」


「大丈夫。もう、負けないから」


 そして参華は槍をくるくる回し、立花の目をまっすぐ見つめ、言った。


「立花。終わりにしましょう」


「……はっ、そうやってカッコつけてさ……今までのことを全て忘れられるとでも思ってるの?過去を踏み締めて今を生きる、だっけ……大人って、本当に大嫌い」


 立花は言葉を吐き捨てた。そのまま彼女は、ナイフを構え叫んだ。


「ベルの力なんて無くても、私は勝てる!死ね!遠谷参華!」


 立花が「うおおおおおお!」と叫びながら向かってくる。今度は蔓も気迫もない。ただ必死になって、彼女は向かって来た。

 参華は槍を振り回し、向かってくるナイフを下から柄で受け止めた。ギギギ、という音の後、参華はナイフを上に弾き飛ばした。反動で数歩下がった立花の手からナイフが離れた。その瞬間に、参華は槍を前へ突き出した。立花の喉元に、槍の先端が当たりそうだった。


「なっ……!」


「動かない方がいいわよ。もし前に首を動かしたら、その時点で立花は死んでしまう」


 立花から冷や汗が流れた。立花は腹を立てたようで、叫んだ。


「……ねえ、これはどういうこと?ここまでしておいて、まだお前は私に手加減してくるの?ベルが負けていよいよ後がなくなった私が可哀想になったの?そんな同情いらない!殺すならさっさと殺してよ!」


 立花が首を前に動かそうとした。参華は鋭い目付きで槍を少し引っ込めた。


「……本っ当にムカつく。私が転生してないからってさ、本気で殺しに来ないなんて」


「違う……違うわよ」


 参華が苦しげに呟いた。参華は言った。


「違う?さっきそう言ってたじゃん。結局は犯罪歴増やしたくないだけのただの臆病者なだけでしょ?」


「違う!」


 参華が怒鳴った。立花は黙って、彼女の次の言葉を待っていた。


「確かに、私は……人殺しが悪いって知ってるし、だからこそ臆病になってるんだろうけど……もっと、別の理由があるの。私は……」


 一瞬俯いていた参華が、顔を上げた。そして言った。


「終わりにしたかったの。安城と鍵本の間で起こる、こんな醜い戦いを」


 立花は驚いた表情で参華を見つめた。参華は続けた。


「元はと言えば、お父さんが血を重視したことがいけなかったの。そのせいで、俊一さんと立花のお母さんが死んでしまった……そうでしょ?でも、だからって……血で血を洗うような真似しなくていいでしょ?ねえ、そう思わない?」


「……私の幸せは、どうなるのさ。私の、父さんと母さんと一緒に暮らす幸せは」


「立花は今、おじいちゃんおばあちゃんに育てられてるんでしょ?おじいちゃんとおばあちゃんに謝っても謝りきれないことを何度もしたって、言ってたじゃない。なら、今度こそ3人で幸せに暮らすことは、出来ないの?代替出来ないのも分かってる。でも……きっと、幸せになれるんじゃないの?おじいちゃんとおばあちゃんは、優しいんでしょ?」


「……そんなんで代わりになれる私の幸せは、何だったの?今まで8年間、ずっとここに向かって突き進んできた私は……なんの為に生きてきたの?」


「……幸せになりたかった。そして、全ての元凶に復讐がしたかった。そうなんでしょ?」


 立花は黙り込んだ。参華は優しく言った。


「立花……いい加減、過去に囚われるのはやめましょう。辛くて、悲しくて……後悔と恨みしかないだけよ。私はそれを、転生して知った。お母さんを救えなかった後悔も、なんで死ななきゃいけないのかっていうやるせなさも、他にも沢山あったけど……皆と出会って、前向きに生きてこれた。真実を知りたい気持ちもあったわ。でも、知ったからといって、何か行動を起こすつもりはなかった。

 立花。まだ15歳よ。これから何十年も生きられる。何度だってやり直せるわ。だから……」


 参華は立花の目をまっすぐ見て、言った。


「立花。降参してちょうだい。どちらかが死んで終わる戦いなんて、私達で終わりにした方がいいわ、そんなもの。私は立花を殺したくないし、私だってまだまだ生きていたい。過去は変えられると言っていたけど……過去は変えられないわ。ううん……今を大切にして欲しいから、過去は変えないで欲しい。だから……降参して」


 立花はそれを聞いて俯いた。そして言った。


「……私のこれまでの15年間を、全部無駄にしろって言いたいの?」


「違うわよ。無駄になんかならない。大切なのは、これからどうするか、よ」


「じゃあ、私の幸せは?お前だけが幸せになる世界なんて、そんなの……」


「これから見つければいいじゃない。まだまだ楽しいことがいっぱいあるわ。時間はたっぷりあるんだから」


「時間はたっぷりある?私はその時間を、どうやって過ごしていけばいいの?今までずっと真実を探る為に動いてたから、それ以外の過ごし方なんて知らないよ……」


「それは……友達と過ごしたり、おじいちゃんおばあちゃんと過ごしたり……他にも沢山あるわ。きっとすぐに分かる」


「私はそうやって生きていって……何の為に死ねばいいの?お前を殺せなかったら、私は死ぬべきだと思ってたのに……」


 段々立花の声が涙声になっていった。時々彼女の声が裏返る。涙がぽたぽたと落ちていくのが見えた。


「……それは……正直、分かっている人の方が少ないと思うわ。私だって、3度目の人生をどうやって過ごせばいいのか、よく分かってないし……でも、人生はそんなものだと思うの」


「人生は、そんなもの……」


「そうよ。死ぬ理由を見つける為に生きるなんて、いい人生だと思う」


 参華がそう言って、槍を引っ込めた。立花はその場で座り込んだ。そのまま、彼女は大の字になって倒れた。参華は槍を《魔源収納(マナシェルター)》の中にしまうと、立花に近付いて膝を立てた。


「……今頃になって手が震えてる。怖かったんだ、私」


「立花……」


 立花は「あーあ」と自暴自棄気味に呟いた。そして言った。


「最悪……今までの人生の間違いを、世界で一番嫌いな奴に教えられるなんて。悪いことだってことは分かってた。でも、ベルや父さん達の思いを背負って――」


 立花がそう言った、その時。

 キーン、と空気が張り詰めたような気がした。参華が驚いて周りを見回したが、特に変化は見られなかった。だが参華は、何かしらの違和感を感じていた。


「立花?」


 途中で言葉をつぐんだ立花に声をかけた。立花が言った。


「――皆の思いを背負ってたのに……ヒーローになれるって、信じてたのに……」


 立花が涙を流し、手の甲で拭った。参華は何となくその違和感が気になったが、今の立花に聞くのは場違いな気がした。


「ああ、本当に最悪……()()()との約束も、果たせなかった……あともう少しだったのに……」


「約束?」


 参華が尋ねた。仲間達も立花に近付く。立花はその中から誰かを探すように見て、言った。涙を流していた。


「ごめんなさい、幸野先輩……魔法の力を私にくれたのに、勝てなかったっす。私、先輩が探してた人、もう分かったのに……分かっただけで、何も出来なかった……!」


 その言葉を聞いて、ナリと零が反応した。ナリが近付き、聞いた。


「あの、立花……幸野先輩って……」


「幸野先輩は幸野満咲先輩っす……なんでそんなこと聞くんすか?」


 立花が泣いて呟いた。


「幸野満咲!?」


 ナリと零の言葉が重なった。

次回は3月21日です。

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