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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
ネバーランドの姫君
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自由

「さぁ……いくぜぇ!《さざれ石(リメンバード)》!」


 ベルが叫んだ。3本の鎌が振られ、無数の鎌鼬がナリ達の方へ飛んでくる。途中に赤い鎌鼬も見られた。新たな腕の鎌から飛んできているようだった。

 ナリと詩乃は飛んで避け、零と亥李は自分の武器で防いだ。ナリのスカートがビリッという音と共に裂けてしまったが、ナリは気にしていなかった。


「ねえ!さっきから思ってたんだけどさ!変身する前にやってた、繭みたいなあの「魔法」……あの状態でやったらやばくない!?《岩砕精霊(ストーンブラスト)》!」


 詩乃が魔法を唱えながら叫んだ。岩が砕けてベルの新しい腕に刺さっていった。


「やべえよ、当然!だからそれまでに片を付けるか、あの技を頑張って凌ぐしかない!《絶対命中(ラッキーヒット)》!」


「だにゃ!《朝有紅顔》!」


 亥李とナリが攻撃を仕掛けた。ベルの《旋風の雛鳥(ストップアングリー)》で生み出した鎌鼬が、次々と消されていく。やがて亥李の剣とナリの拳がベルの肌に触れたところで、ベルの3本の腕に払われた。全員が後退し、体制を整えた。


「あー……ちょっとタンマ……流石にめる、ちょっと疲れたー……」


 詩乃が膝に手を当てて息を吸った。詩乃の額には汗が流れていた。詩乃だけではなく、他3人も息が切れていた。遠くにいるベルを見やると、彼もじっとりと汗をかいていた。

 その時だ。ベルの顔が苦しそうに歪んだ。ナリ達が驚いて様子を見ていると、ビリッ、という音が聞こえてきた。ベルの服が裂ける音だった。


「……なぁ……もう、時間切れだって言うのかぁ……?」


 ベルが呟いた。よく見ると、服が裂けた右の肩甲骨の部分が、人間の肌とは思えないほど黒くなっていた。血管が浮き出ており、その色はどんどん広がりを見せていた。彼の新しい腕の色とそっくりだった。


「ベル……?」


 ナリが心配そうに呟くと、彼は首を傾げて言った。苛立っているようだった。


「あぁん……?そんな目で見るんじゃねぇよ。お前にとって俺は敵だろうがよぉ、敵が勝手にやられてく姿見たら、ちゃんと喜べよなぁ?」


「に、にゃ……なんだか苦しそうだな、と思って……」


 ナリが言うと、ベルは失笑した。そして、


「ぎゃぁっはっはっは!苦しそう?苦しそうだとお前は攻撃してこないのかぁ?優しいんだなぁ!そうやって相手のことを思いやってると、すぐに痛い目見るぜぇ!ほら、こんな風によぉ!《旋風の雛鳥(ストップアングリー)》ぃ!」


 と大声を上げて笑った。そのまま普通の腕で8回、新しい腕で4回鎌を振り、合計12本の鎌鼬を空中に重ね合わせた。そして、新しい腕で鎌鼬を発射させた。

 ナリ達は避けようとしなかった。避けれる鎌鼬は飛んで避け、迫ってくる鎌鼬には攻撃して打ち消した。何本か打ち消しきれずに、足や腕に切り傷を付けていった。鎌鼬が止んだところで、ベルが笑った。彼の体は更に黒くなっていた。


「そろそろ終わりにしようじゃねぇか!《痩せ我慢にくたびれ損(アクトマイセルフ)》ッ!!」


 ベルが叫んだ。そして、ベルが踊るように回転し始めた。3本の腕が鎌を振り回し、鎌鼬を作り出していく。1振りで2本の鎌鼬が現れ、白、赤、黒の鎌鼬がベルの周りを包み込んだ。


「来た……!繭みたいな「魔法」!」


 詩乃が呟いた。鎌鼬は先程のようにナリ達に向かって放たれ、壁で反射してベルの方へ帰ってきていた。反射した鎌鼬は、ベルが新たに作り出した鎌鼬によって相殺されていた。ただ、先程よりも量が多いせいで、避けることがかなり困難になっていた。まるで鳥の羽のようだとナリは思いながら、ベルの方へ走って向かった。


「《肉体烈火(マッスルハッスル)》!《狼牙人手(ウルフバイト)》!」


 ナリが唱えた。拳に狼の牙が現れ、筋肉が肥大化した。そのナリに続いて、零と亥李もベルの方へと向かった。2人は鎌鼬を打ち消しつつ、ナリに追いついた。


「こっちもだ!《肉体烈火(マッスルハッスル)》!」


 零が叫んだ。零が剣を構える。ベルに近付いたところで、詩乃が後ろから唱えた。


「いくよ、エラ……!《深淵灰弾(リグレットブラスト)》!」


 詩乃の杖から黒い光が現れ、それが灰色の弾に変わって、繭に攻撃していった。繭の一部分が崩れたのが見えた。その中のベルは、一心不乱に鎌を振り回していた。

 全員の体が鎌鼬に切り傷を負わされていた。切られた痛みをキシキシと感じた。だがナリは気にせずに、「《朝有紅顔》!」と叫んだ。ナリはまっすぐ、拳を前に突き出した。


「ナリに合わせるぞ、零!《勇者霊魂(エインヘリアル)》!」


「おう!《魔力魔撃(エナジー)》!」


 亥李と零がナリの隣から技を出した。亥李が剣を縦に、零が白いオーラの剣を横に振った。繭の半分が打ち消され、疲れて動けなくなっているベルが筒抜けになった。ベルが、驚いたようにナリ達を見た。ナリの拳がベルの左手の鎌に当たった。鎌は弾かれ、地面に落ちた。


「そのまま行くにゃ!うにゃぁぁぁ!」


 ナリが右足を軸にして1回転し、左足で蹴った。そして、右手、左手と6回殴り、左足で蹴り飛ばした。ベルの鎌が弾き飛ばされ、鎌鼬の繭が解除された。


「これで終わりだにゃ!《有終之美》!」


 ナリが叫んだ。力を溜め、右の拳でベルの顔面を殴る。ベルがまっすぐ飛んでいった。ベルは床に力無く倒れていった。

 全員の呼吸の音が、ナリの耳に入った。



(……た、たお……倒した……?)


 ナリは息を整えつつ、4人でベルに近付いた。すると突然、ベルの体が痙攣し始めた。心臓部が飛び上がる。全員が警戒すると、ベルが唸り声を上げた。


「ベル……!?」


 零が呟いた。ベルの服がブチブチと裂けていった。また戦うのか、と警戒した、その時。


「うっせぇんだよ!!このド畜生が!」


 ベルが天に向かって叫んだ。全員が怯んでベルを見た。ベルは息を荒らげ、その場に倒れて暴れていた。やがて収まると、彼は呟いた。


「あぁ……くそっ!こんなんで……こんなんで終わりなんて……!」


 ナリは驚きながら、彼の体を見た。何故か、先程まであったベルの新しい腕は、もう消えていた。代わりに、ベルの皮膚はもうほとんど黒く染まっていた。


「ベル、大丈夫かにゃ……!?」


 ナリが近付くと、ベルは弱々しい声でナリに言った。


「はっ……こんな時まで俺を心配してくれるのかぁ?勝った時くらい素直に喜びやがれ……主人公」


「……ねえ、さっきから言ってる主人公って……なんのことかにゃ?」


 ベルはそれを聞いて、小さく笑った。そして、言った。


「分からねぇなら気にしなくていいぜぇ……いつか、俺の言ってる意味が分かる時が来るだろうがなぁ。俺はもうすぐ死ぬかもなぁ。さっき、俺の全てを捧げて手に入れた「鬼」の腕を……全部飲み込んじまった。精霊の粉の、何でも飛躍させる力が俺になきゃぁ……出来なかっただろうなぁ」


「飲み込んだって……まさか、こんなに体が黒いのは……」


「へへ……そうだぜぇ。俺を侵食していた「鬼」に、無理矢理全部食わせたんだぁ……腕1本分、自分の中に取り込んでな。お前が消えてしまうだの、それではお前の悲願は達成されないだの、「鬼」に何度も言われたがなぁ……」


「……悲願?」


「あぁ……もう、その悲願も叶わねぇって、よく分かったんだ……リッカと違ってなぁ。俺の願いは、願った時点で叶わなかった」


「その願いって……なんなんだにゃ?」


 ナリが尋ねると、ベルが諦めたように笑った。


「自由だ」


 ナリはその言葉を聞いて、「え……?」と呟いた。ベルがその様子を見て、言った。


「俺は……ずっと自由が欲しかった。でも……その願いは、俺が鬼宿しになってからぁ……いや。鬼宿しの子として生まれてから、叶わないもんになっちまった」


「そ、そんなの……まだ分からないにゃ!……と、思う……にゃ」


 ナリが大声で言った。段々自信なさげに、ベルから目を背けた。ベルは笑った。


「ぎゃぁっはっはっは……優しいお前に、1ついいことを教えてやらぁ……お前は……自由が誰に与えられるのか、知ってるか……?」


「え?」


 ナリのキョトンとした顔に、ベルは話し始めた。


「いいかぁ……自由ってのは、独りの奴に現れるもんじゃねぇ。支配から逃げられた奴に与えられるもんでもねぇ……正義だ。正義を自分の底まで貫いた奴に、自由は与えられるんだ」


「正義を、自分の底まで貫く……?」


「そうだぜぇ。誰だって、大切にしたいもんがある。俺は自由を手に入れたかったし、お前らはサンカを助けに来たんだろぉ?正義ってのぁ、そういう大切なものを大切にしたい、っていう思いを、格好良く言っただけなんだぜぇ。その正義と正義がぶつかると、戦いになる。俺達みたいになぁ」


「私達、みたいに……」


「あぁ。よく、正義が勝つとか、勝った奴が正義とか言われるがぁ……どっちも正義なんだから、当然だよなぁ?誰だって自分が正しいって、信じたいだろぉ?だから、皆願ってる。自分の正義が正しいことを証明する、正義の味方が現れることをなぁ。でもよぉ……もし、その正義の味方が現れなかったら……いや、違ぇな。その正義の味方が自分だったら、お前はどうする?」


 ベルの言葉を、ナリは最初理解出来なかった。


「正義の味方が、自分……?どういうことかにゃ?」


「そのまんまだぜぇ。自分しか頼るもんがいねぇんだ。誰も自分の正義が正しいって証明してくんねぇんだよ。周りの奴も、誰も……頼れるもんは自分だけ。その時、お前はどうするんだぁ?」


「なあ、さっきから何話してんだ?」


 零が後ろから声をかけてきた。ナリが「あ、零――」と後ろを向くと、ベルがナリの腕を掴んだ。


「そっち向くんじゃねぇよ。あいつらに言ってねぇ。お前に言ってんだ、主人公。お前だけだからなぁ」


 ベルの弱々しい手と、真剣な目付き。ナリは驚いて、ベルの方を見た。ベルは続けた。


「で……お前は自分しか頼れなかった時、どうするんだぁ?自分の正義を貫くのかぁ?それとも、周りの正義に合わせるのかぁ?」


「……分かんないにゃ……その時に、なってみないと……」


 ベルはそれを聞いて、また笑った。


「ぎゃぁっはっはっは……そうかよ……まぁ、お前がどうするのか、俺には想像することしか出来ねぇしなぁ……地獄の底から見ていてやるよ。この世界に地獄があるならなぁ……!」


 ベルはそう言って、ナリの手を離した。ナリが「え?ねえ、ベル……?」と言うと、ベルは言った。


「ほら……行けよ。優しいお前には難しいかもなぁ……精々、自分の正義を貫きやがれ。《翅翼を満たせ(ビーリバティ)》」


 ベルが静かに唱えた。その瞬間、ナリ達は《刹那疾走(テレポート)》のように、煙を残してどこかに消えてしまった。



 ベルは床に転がりながら、最後のナリの顔を思い出していた。

 戸惑っているような、不安そうな、そんな顔だった。


「へへ……楽しみだぜぇ、主人公……」


 自分がもうほとんど「鬼」に侵食されているのは、知っていた。自分がいずれ、死ぬことも。


「だぁ……これで、終わりかよ……」


 その時だ。周りの雰囲気が華やかに、そして清らかになった気がしたのは。誰が来たのかは、すぐに分かった。


「……驚きました」


 優しく凛とした声が、頭の先から聞こえてきた。


「驚いたぁ?冗談言うんじゃねぇよ。お前には、驚きなんて大それた感情分かんねぇだろぉ?」


 その声の主は何も言わなかった。そして抑揚もなく言った。


「よくご存知ですね。はい。私はそのような感情は持ち合わせておりません」


「そうかよ。で?俺を消しに来たのかぁ?」


「悲しいですか?」


「いいや?俺はもう死ぬんだ。死ぬのが5分早まるぐらい気にゃしねぇ」


「そうですか。それでは1つ、確認したいことがあります。これを聞くようにと、意志が決定されましたので」


 その声の主は、まるで機械のように聞いた。


「あなたはいつから、この世界の真実に気付いていましたか?」


 ベルはそれを聞いて、静かに答えた。


「……この世界に来た時……見ている世界が歪んだ気がした。リッカを見てると普通なのに、時の回廊に来たガキやさっきの猫娘やらを見てると、特になぁ……焦点は合うのによ。あいつらや俺が、たまに何重にも見えちまう。だから聞いたんだ。主人公って。そしたら、反応する奴がバラバラだった……猫娘、大剣の男、剣投げる奴、精霊使い……それで気付いたぜぇ」


「そうですか」


「気付いた時は本当に最悪な気分だった……ただでさえ鬼宿しのせいで自由が奪われてんのによ」


 ベルは声の主に向かって手を伸ばした。彼の目からは、涙が溢れていた。


「俺は、絶対に主人公になれないんだ。俺は絶対に自由になれない。俺は生まれた時から、自分の人生の主人公になれないと決まっていたんだ。そうだろ?」


 声の主は機械的に、そして優しく言った。


「あなたは、自由ですよ。今、この世界の誰よりも」


 それを聞いて、ベルは目を閉じ、笑った。


「くたばりやがれ、糞野郎」

Stop angry→Forgive (許せ)

Remembered→Memory (記憶)

Calm/Place→Peace in mind (心の拠り所)

Things/Hurt→Weapons (武器)

Safe keeper→Protecter (守る人)

Act my self→behavior (ふるまい)

Be liberty→Be freedom (自由)


次回は3月18日です。

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