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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
ネバーランドの姫君
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鬼の子、鬼宿し

 ナリはベルの目線がどうして自分に向いているのか、とても気になった。だがそれも聞けずに、ナリは黙ってベルを注視していた。零が「《肉体烈火(マッスルハッスル)》」と唱えるのが聞こえた。


「だぁ……だぁ……自分の血を見たのなんて、何時ぶりだぁ……?こんなにいい勝負したのは初めてかもな……!ぎゃぁっはっはっは!《暗黒の牢獄(カームプレイス)》!」


 ベルが叫んだ。全員が息を飲む。オレンジ色の光がベルを包み込み、彼の息が次第に整っていった。彼は口元の血を拭い、言った。


「大丈夫だぜぇ、ずっと攻撃し続ける為だけの「魔法」だからよぉ……怪我をする時はいっつも我慢する時だけだった。「魔法」は俺が想像つかねぇもんは使えねぇからなぁ……まあ、お前らにとっては好都合だろうがなぁ!?」


 ベルはそう言って、また円状に走り始めた。鎌を振り、鎌鼬をナリ達に放ってくる。


「のわっ!なんかさっきより速くなってねぇか!?」


 亥李がそう言いながら盾で防いだ。盾に防がれた鎌鼬は方向を変え、零がいた方向に向かっていった。


「亥李……反射する方向は考えてから盾を構えたらどうだ!?」


 零が怒りを顕にしながら鎌鼬を避けた。


「悪かったって。俺は昔から盾を使うのが好きなんだよ」


「俺も鬼じゃねえから許すけどさぁ……危ねえんだって」


「へへへ、悪いな。まあ!文句はあいつに言って欲しいんだけどなぁ!?」


 亥李と零が鬼宿しの方を向いた。そして、自分の武器を握り直し、叫んだ。


「《絶対命中(ラッキーヒット)》!」

「《魔力魔撃(エナジー)》!」


 亥李が剣を投げ、零が白いオーラを纏った剣を持って走り出した。ベルが鎌鼬をそちらに向け放った。それをものともせずに、2人の剣はベルの方へ向かっていった。


「鬼じゃねぇ?俺以外の誰も!鬼になったことねぇだろうがよぉ!?《さざれ石(リメンバード)》!」


 ベルが鎌を8回振り、亥李の剣と零に向かって鎌鼬を連続で放った。亥李の剣が鎌鼬の勢いに押され、その場で止まってしまう。亥李はそれを見越したように走り出し、剣を手で握った。零は剣を振って鎌鼬を弾き、ベルに近付いた。


「どりゃぁぁぁぁ!」


 零が剣を上から振り下ろした。ベルが零の剣を鎌で受け止める。零の後ろから、早い足音が聞こえた。


「お前の鎌鼬は確かに強力で……今まで1人だけにしかやられてないってのも、納得するぜ。でも……!さっきと違って、隙だらけだ!」


 零の後ろから亥李の声がした。亥李は盾を構えながら、零の脇から回り込んだ。そして、ベルの脇腹目掛け剣を振った。左手の鎌でそれを止めたが、今にも鎌は折れそうだった。


「《去時痛斬(ファントムペイン)》!」


 亥李が必殺技の名前を叫んだ。そしてそのまま、零の後ろにいる詩乃の方に向かって言った。


「詩乃!魔法を放ってくれ!俺達ごとでいい!」


「おっけー。やれって言われたからやるよ!《深淵灰弾(リグレットブラスト)》!」


 詩乃の杖の先から黒色の光が現れ、それが灰色の弾に変わってベルの方へ飛んでいった。零と亥李がそれを見て横に逸れる。ベルが魔法に気付いた時には、弾は目の前に来ていた。


「《醜い鶩の子(セイフキーパー)》!」


 ベルが手を前に出し、「魔法」を唱えた。だが、「魔法」はいつまで経っても発動しない。ベルが慌てて手で頭を隠した。弾が当たり、煙が上がった。


「やったか!?」


「わざわざ自分からフラグ作らないでにゃ、亥李!」


 ナリが叫び、ベルの方に向かって走った。そしてそのまま煙の中心に向かって、《肉体烈火(マッスルハッスル)》をかけた拳で殴りかかった。


「《朝有紅顔》!」


 ナリが叫び、拳を前に突き出した。細い腕に当たる感触がした。だが、ベルは飛ばされる訳でもなく、倒れる訳でもなく、その場でびくともしなかった。ナリが驚く間もなく、出した右腕が掴まれた。


「にゃっ……!?」


 ナリが声を上げた。煙が晴れ、中が明らかになる。ベルは頭を怪我しており、血が流れていた。ベルはナリを見て笑うと、左足でナリの脇腹を蹴り、そのまま飛ばした。ナリが壁の方へ飛ばされていった。


「主人公の力がそんなものなのか?」


 ベルがそう笑ったのを、ナリは聞いていた。


(主人公……?)


 ナリは飛ばされながら体制を整えた。腹の痛みを手で抑えた。


「ナリ!」


 零が叫んだ。亥李は呆気にとられ、詩乃は「《回復精霊(フェアリーヒール)》!」と唱え、ナリの方に白い光を飛ばした。

 ナリはその光を受けながら、歪んだ壁を蹴った。壁を蹴り、ベルが最初に座っていた時計を蹴り、ベルの方へ勢い付けて向かっていった。


「《有備無患》!」


 ナリが叫び、ベルに向かって頭突きした。ベルがよろけた。そのまま着地すると、ナリは《肉体烈火(マッスルハッスル)》で力を貯め、右手で殴った。次に《子虚烏有》で1回転し、左足で蹴ると、《有為転変》で6回殴り、左足でまた蹴った。


「これで終わりだにゃ……!《有終之美》!」


 ナリが叫び、また《朝有紅顔》で殴りかかった。拳がベルの顔面に直撃しようとした、その時。


「へぇ……牽制役とか言ってた癖に、何もしねぇと思ったら……ちゃんと役割を果たしてんじゃねぇか……」


 ベルが呟いた。ナリの手がベルの顔に当たる寸前で止まる。見ると、ベルが鎌を手放し、右手でナリの拳を掴んでいた。そして、そのまま後ろを向いた。後ろには、いつの間にか後ろに回り込んだ亥李が、剣を持って空を飛び、狙いを定めて投げようとしていた。


「《必殺(ラッキング)》…………!?」


 そこまで叫んで、亥李はしまった、という顔をした。


「鎖の音でバレバレだぜぇ!?《さざれ石(リメンバード)》、簡易版!」


 ベルが叫び、左手だけで4回鎌を振った。鎌鼬が亥李の方へ飛んでいく。咄嗟のことで、亥李は剣を振れなかった。


「《火球火炎(ファイアボール)》!」

「《深淵灰弾(リグレットブラスト)》!」


 慌てて零と詩乃が魔法を唱えた。火球と灰色の弾が鎌鼬へ向かって飛んでいく。鎌鼬は消えたが、1つだけ消えずに、亥李の腕を掠った。亥李は怪我も気にせずに着地すると、盾を回収して零達の方へ向かった。ナリも、自分の腕を掴むベルの腕に向かって左足で飛び上がって蹴り、ベルが手を離したのを確認してから離れていった。

 ベルはその光景を見て、笑った。まるで自嘲するようだった。彼は少しよろめき、膝をついた。


「ああ……そうか。なんか鈍いと思ったら……お前、疲れてたのかぁ……そうだよなぁ、しばらく何も食べてなかったもんなぁ……最後に食べたのは、俺が牢屋で虐殺しまくった時かぁ?あれからもう1年、そりゃぁ腹減るよなぁ……」


「食べる?牢屋?何のことだ?」


 零が聞いた。だがベルは、そのことに答えずにふらふらと立ち上がり、続けた。内なる自分に話しかけているように。


「腹が減った時に動くと、そりゃあ疲れるよなぁ……分かるぜぇ、俺もよくやったよ……腹が減った時に限って、あいつら、俺のこと寄ってたかって殴りに来るからなぁ……反撃したら皆死んじまうから、何も出来なかったなぁ……あぁ、懐かしいなぁ……」


「ベル……?」


 ナリが不安になって聞いた。ベルはナリの方を見て、ニコッと笑った。そして言った。


「他人を殺しちゃいけねぇ。その倫理観が俺にあったことは本当に驚きだよなぁ……誰かを殺すのは、本当に辛いことで……誰もいないことは、本当に寂しいことだったからなぁ……親父も、そう思うだろ?だから、俺に「鬼」を使うなって、ずっと教えてくれたんだろぉ?自分が「鬼」になったのを、後悔してたんだろぉ?」


「ベル……何を言ってるんだにゃ……?」


「でも後悔だけじゃ何も出来ない。俺達は鬼宿しの血筋だからなぁ……運命ってなぁ残酷だ。そう思わねぇか?主人公さんよ」


 ベルは、ナリ達の方をぼんやりと見つめた。流れる血を手で抑え、笑った。


「……ねえ、さっきから主人公主人公って……何の話をしてるんだにゃ?」


「分からねぇなら別にいいぜぇ。運命に呪われた奴はこの場に居ねぇみたいだしなぁ……なあ、親父……俺もお前も母親も、皆運命に呪われてたなぁ……親父もきっと、俺みたいにずっと我慢させてたんだろぉ?お腹空いたよなぁ……ごめんなぁ、我慢させてよぉ……」


「……親父って、まさか……」


 亥李が呟いた。ベルは静かに「ぎゃぁっはっはっは」と笑った。


「なあ……くれてやるよ。俺の体。鬼宿しはあくまで肉の器、親父はそう言ったよなぁ?だったら……不味いかもしんねぇけどよ。久々の御飯、ありったけ食っちまいな」


 ベルがそう呟いた、次の瞬間。ベルの心臓から黒い物質が現れた。滑らかな液体のようなそれは、ベルの体に向かってぶつかり、体を包み込んだ。ベルの体から血が溢れた。小さな悲鳴と刺すような音がナリの耳に聞こえた。

 しばらくして、黒いそれがベルの体の中に染み込んでいった。ベルの血は止まり、肌が見えてくる。だがそれは、前までのベルの姿ではなかった。その場にいた全員が息を飲んだ。

 ベルの左腕は普通だった。右腕も、先にかけて赤と黒の液体にコーティングされている他は普通だった。だが、右肩から新たに右腕が生えているのは、異質だった。

 爪は鋭く、人間の腕よりも太く大きなそれは、赤い血管の浮く赤黒い腕だった。服は裂け、ベルはその新たな腕を自由自在に動かしていた。


「《自由なき殺害(シングスハート)》」


 ベルが静かに呟いた。ベルの声が二重になって聞こえてきた。新たな腕に、鋭い鎌が握られた。その鎌も腕のような赤黒い液体が滴っていた。よく見ると他の鎌も同じだった。


「ああ……優しいなぁ、お前……お前のこと、初めて見直したよ。俺の意識を残してくれるなんてさ……今まで俺を支配するとき、俺から全部奪ってたのに……」


 ベルは優しくそう言って、ナリ達の方をまたぼんやりと見つめた。そして笑った。


「来いよ、主人公。時間制限付きの第2形態って奴だ。存分に楽しみやがれ、糞野郎」


 ベルはそう言って、3本の鎌をナリ達に見せた。

アクション書くのが苦手なので、弱点をさらけ出すキャラしか書けません。やってることはゼルダです。

次回は3月11日です。

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