鎌鼬
ベルはまた鎌を振り回しながら、円を描くように走り始めた。円形の舞台で、彼は笑った。
「ほらほらほらほらぁ!さっさと攻撃しないと死んじまうぜぇ!?お前らの大将がよぉ!《さざれ石》!」
素早く鎌を2回ずつ振り、亥李の方へ鎌鼬が飛んでいくように仕向けていく。亥李はそれを、盾を使って飛び上がり躱した。盾に鎌鼬が当たった。亥李はそのまま剣を握ると、盾の先端を蹴ってベルの方に向けて体重をかけた。
「思い出したんだよ……もう関わりのないことだと思ってた。だけど!お前と立花のお陰で!物理学的にこっちの方が力が増して強いって!気付いたんだよ!ありがとな、教えてくれて!」
亥李が叫んだ。そのまま左腕を伸ばし、親指と人差し指の間を直角にして、狙いを定めた。そのまま、剣をベルに向かって突いた。
「《必殺命中》!」
ベルが鎌でそれを受け止めた。火花が散り、亥李の必死な顔とベルの余裕そうな表情がぶつかり合う。それを見て、ナリが中腰で走って近付いた。
(ベルを攻撃出来るのは、ベルが攻撃を出した直後しかない……亥李がベルを攻撃してる今がチャンスだ!ケルベロスアイ牽制役としての役割を果たすんだ、ナリ……!)
ナリはそう思いながら、ベルの足に向かってスライディングをかけた。
「へぇ?さっきから何にもしねぇと思ってたら!結構周り見てるじゃねぇか!ぎゃぁっはっはっは!」
ベルが笑って鎌を強く振り、亥李を弾き飛ばした。亥李が後ろに飛ばされ、空中で体制をとって着地する。その間に、ベルは跳んでナリを躱し、そのまま着地した。
(やばっ……踏まれる!)
ナリが慌てて横に転がった。間一髪で踏まれなかったが、ベルは踏む気でいたようだった。ベルの笑顔がナリの目に映った。
「どらどらどらどらぁ!次行くぞ次ぃ!《旋風の雛鳥》!」
ナリが慌てて立ち上がった。ベルが鎌を振るのが見えた。また8つの花弁のように鎌鼬を留めると、最後の一撃で一気にそれを8方向へ飛ばした。至近距離にいたナリには、避けられる場所がなかった。縦方向の鎌鼬が、こちらに向かって飛んでくる。
(やばい、避けられないかも……!後ろに逃げる?そうしたら避けられるけど……)
ナリが一瞬後ろを見た。後ろでは零達が鎌鼬を避ける準備をしていた。彼らの息は整っていなかった。
(そろそろ行動しないと、皆が疲れちゃう……!避けながら攻撃出来れば……少しでも、ベルにダメージを与えられたら!)
ナリはそう思いつつ、鎌鼬に向かって走り出した。そしてそのまま、ナリは鎌鼬に向かって側面から右の拳で殴りかかった。
(右手がどうなっても……!詩乃がなんとかしてくれるでしょ!)
他全員が驚いているのも知らずに、ナリは鎌鼬に拳を勢い良く当てた。
鎌鼬は、ナリの拳に当たった瞬間、すぐに消えてしまった。
「……え?」
詩乃が呟いた。ナリはそのことも気にせずに、右足を軸にして半回転し、左足をベルに側面からぶつけた。
「《子虚烏有》!」
ベルがゆっくりと後ろに向かって避けた。左足の先が、ベルの鎌に当たった。鎌は遠くに飛ばされ、円形の舞台を滑り落ちていった。ベルはそれを黙って見ていた。
「ナリ!」
零が叫ぶ。ナリはバク転して後ろに下がり、「大丈夫にゃ」と答えた。
「なんとなーくさ、ベルのあの鎌鼬……突然出てきた鎌から突然放たれたけど、める、法則が分かった気がするんだよね。どう?亥李」
「ああ。さっきも変だなとは思ったんだが……今のを見て、何となく掴んだ気がする……!」
「全くだな。《魔力魔撃》!」
零が叫び、白いオーラを纏った剣を上に掲げた。そのままベルの方に走った。
「お!よーし、めるも頑張っちゃうよー!《岩壊精霊》!」
詩乃が杖を振った。杖の先の宝石が橙色に光り、そこから橙色の光がベルに向かって飛んでいく。光が地面に入ると、鋭い岩が地面から現れ、ベルの前で砕けた。
「……はは。ぎゃぁっはっはっは!!」
ベルが突然笑い出した。全員がベルの方を見た。
「お前らよぉ……たかだか鎌を蹴り落としただけで、俺に勝てるとでも思ったのか?俺がどこから鎌を取り出したのか、お前らは覚えてねぇのかぁ!?」
岩が砕け、零の剣がベルに当たろうとしたかに思えた、その時。
突然、岩が砂のように砕け散った。砂煙が漂う先で、零が冷や汗をかいた。零の剣を受け止めたのは、ベルの両手の鎌だった。
「お前……いつから、その鎌を……!」
零が呟いた。ベルが鎌を振り、零を払った。そのまま、ベルは鎌鼬を放っていった。
「無くされたのなら作ればいい。壊されたのなら直せばいい。あいつらを責めちゃいけねぇんだよ。少しでも歯向かえば、あいつら皆壊れちまうからなぁ」
ベルが先程よりも強く腕を振った。全員が冷静にそれを回避しつつ、ベルを注視していた。
「でもこれで、やっと自由になれる。そうだろ?だって俺は、もう何も我慢しなくても良いんだからなぁ!《自由なき殺害》ぉ!」
ベルが叫んだ。ベルの手元の鎌がきらりと光った。
「「鬼」ってのは便利でなぁ……武器を出せと命令したら武器を出してくれる。武器から鎌鼬が出せるようにしろと命令したら、鎌鼬がバンバン飛んでいくんだぜぇ……お前も鬼宿しになるか?俺は「鬼」なんて二度と御免だけどなぁ」
「なっ……なる訳ないにゃ!」
ナリが答えると、ベルは静かに笑った。
「なんねぇのかぁ?つまんねぇ奴だなぁ……そんなに「鬼」が嫌いか?それとも、鬼宿しが「鬼」になるのを分かってて言ってんのかぁ?」
ベルは自分の手元にある鎌を見て、続けた。
「鬼宿しはなぁ……お勤め果たした鬼宿しが、次の鬼宿しが5歳になった時から、自分の運命を託すんだぁ……鬼宿しにとって、大人は5歳からだとよ。ハッ!笑えるよなぁ!前鬼宿しに何にも教えられないまま、鬼宿しになるんだからなぁ!純新無垢な5歳児の人生が!「鬼」のせいでぶち壊しよ!」
ベルが、鎌同士で撫でるように擦り付け合い、音を鳴らした。火花が散った。
「俺だってそうだったぜぇ?最初は可愛い5歳の男の子だったんだ……ある日突然、親も何もかも消えてたけどなぁ!鬼宿しには兄弟が生まれづらい!残された親が食い殺されるからなぁ!」
その言葉を聞いて「食いころ……!?」と詩乃が呟いた。ベルはそれに構わず続けた。
「だから俺は俺の血が大嫌いだったぁ……でも!これで「鬼」ともおさらば出来ると考えりゃぁ!存外好きかもしれねぇぜぇ!?《痩せ我慢にくたびれ損》!」
ベルがそう叫び、鎌を所構わず振り回した。鎌が1回振られる度に、白い鎌鼬と赤い鎌鼬が、少し角度を変えて飛び出してきた。その鎌は壁に向かって行き、歪んだ壁に当たると反射して、ナリ達の方へ、そして中心にいるベルの方へ向かっていった。
ベルは特徴的な笑い声を上げながら、鎌を振り続けた。ベルが出している2種類の鎌鼬は、反射してベルの方に帰ってくる1種類の鎌鼬を押しのけ、また反射して……というのを繰り返していた。
ナリ達はそれを、前と後ろとに気を付けながら避けていた。亥李は前の鎌鼬を盾で防ぎ、後ろから来る鎌鼬をジャンプして避けていた。ナリ達から見て、鎌鼬に囲まれたベルの姿はまるで繭であり、避け続ける時間は永遠に感じられた。
「やばいっ……て!《深淵灰弾》!」
詩乃が叫びながら、灰色の弾を杖から出した。それはまっすぐベルの方へ飛んで行き、鎌鼬と相殺した。相殺された場所から、少しだけ繭の中の様子が確認出来た。ベルは踊り狂うように鎌を振り回していた。
「やっぱり……あの鎌鼬、簡単に相殺出来るにゃ。亥李の《絶対命中》が相殺された時からそんな気はしてたけど……にゃ!」
ナリが避けながら叫んだ。
「ああ!これを使えば、なんとか隙が作れるかもしれねえな!」
「隙作るったって、まだそれだけだろ?そんな情報だけじゃ、まだ何も……っと!」
零が聞くと、亥李は笑った。
「いいや?隙を作るのに十分な弱点だ。そう思わないか?ナリ」
「にゃあ!さっきまで本当に勝ち目ないかもって思ってたけど……案外いけるかもにゃ!」
ナリがそう言いながら、赤い鎌鼬を避けた。
「じゃあ教えて欲しいんだけど!この状況をどう打開するのさっ!」
詩乃が叫んだ。亥李が笑って「お前ならなんとか出来るだろ?詩乃」と言った。
「なんて人任せ……!《地震精霊》!」
詩乃が叫びながら杖を振った。杖の先から橙色の光が現れ、繭のいる床に向かっていく。その光が地面の中に入ると、地面がグラグラと揺れだした。地面が揺れる度に、繭が崩れていった。その中心にいるベルは、息を切らして立っていた。鎌は振っていなかった。
鎌鼬が全て飛んで行き、ベルの方に反射して帰ってきた。ベルが鎌を1振りすると、鎌鼬はベルに当たる直前で消えてしまった。
「だぁ……だぁ……《暗黒の牢獄》!」
ベルがまた回復しようとした、その時。
「《魔力魔撃》!」
「《有為転変》!」
零が白いオーラを纏った剣を、ナリが《肉体烈火》で筋肉を肥大化させた拳を、ベルに向かって飛んで当てた。ベルの左頬が殴られ、ベルの右腕に打撲の跡が現れた。口から血が出てきた。
「チッ…………やるじゃぁねぇか」
ベルが血を右の手の甲で拭った。ベルはまっすぐ、ナリを睨みつけていた。
亥李の新しい技《必殺命中》のルビは、ダブルミーニングになっています。
次回は3月7日です。




