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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
ネバーランドの姫君
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ネバーランドの姫君

 参華の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。ゆっくりと彼女が膝から崩れ落ちる。亥李が慌てて抱きとめると、参華は安堵のため息を漏らした。


「参華、だいじょ……って、参華!?」

「うおっ!?これ、どうなってるんだ……?」


 ナリと零の声が、亥李がやってきた方から聞こえてきた。立花は呆然として参華と亥李を見つめていた。


「亥李さん……なんでここに……ここは8年前っすよ!?時の回廊にどうして亥李さんが……!」


 立花がそこまで言って、何かに気がついたようにはっと息を吸った。彼女の視界には、遅れてやってきた詩乃と、愛がいた。


「……愛……」


「ごめんね、立花ちゃん。私……もう、誰かを救えなかったって後悔したくないの。立花ちゃんが1番、過去を変えたがってたっていうのも知ってるよ。でも……参華さんを探しているお仲間さんを見たら、放っておけなくて」


 愛が優しく言った。立花が彼女を睨みつける。愛は悲しそうに、彼女を見つめた。

 それを聞きながら、亥李は崩れそうな参華を腕で支え、言った。


「参華、大丈夫か?8年前って……本当に、過去を変えに行ってたのか?」


 亥李の普段より一際優しい声が、耳元で聞こえてきた。参華は嬉しくて涙が出そうなのを、必死に堪えた。


「……大丈夫に、見える?」


「見えねえな。いつもの自信たっぷりなお前からは想像がつかねえほど」


「あはは……そっか。私、そんな風に見られてたんだ……」


「おう。いつも自信たっぷりで正義感に溢れてて、たまに頑固だし酒臭いけど、良い奴だぜ。俺の事助けてくれたのもお前だろ?」


「……助けようとしたら、このザマだけどね」


「何言ってんだ。俺がお前に、どれだけ救われたと思ってる?お前がいなかったら、俺はきっと動物園で寝て過ごすだけの人生になってたぜ。それを、お前が全部引っ張り上げてくれたんだ。俺は、お前に恩返しがしたくて、ここに来た」


「私、救ったなんて……ずっと、私は誰も救えずに……」


「俺は、お前がいなかったら死んだも同然だったんだぞ?お前は少なくとも、俺を救ってくれたよ。ありがとう」


 亥李のその言葉を聞いて、母親のことを思い出した。不意に、堪えていた涙が、ポロポロと零れ落ちた。


「参華?」


「……私は……亥李を、救えていたの……?」


「……おう。さっきからそう言ってるだろ?それで……お前、何が欲しい?」


 亥李が尋ねると、参華が顔を上げた。何を言っているのか信じられない、とでもいう風に。


「俺、お前に恩返しがしたいんだ。サプライズなんかやったことないし、味のない恩返しだけど、俺にはこれしか思い浮かばないから……参華、何が欲しい?帰ったら渡すからさ、俺に集められるものならなんでも言ってくれよ」


「帰ったら渡す」「何が欲しい?」その言葉が、参華の頭の中で響いた気がした。


「友香。何が欲しい?」

「友香。何でも、好きなものを言いなさい」


 優しかった頃の両親の言葉。亥李の顔が、兵二郎に重なった。兵二郎は彼女にとって、父親に違いなかった。

 参華はよりいっそう、涙が溢れてきた。亥李が慌てて参華の背中をさすると、参華は言った。


「亥李、やめてよ……!私ね……私が8年前に生きていたから、お父さんもお母さんも、鍵本さんも立花も不幸になったの。だから、私が今死ねば、皆幸せになるのよ。なるのに……亥李のせいで、ずっと生きたくなっちゃったじゃない!」


 亥李は驚いたように黙って聞いていた。参華は続けた。


「私……生きたい!死ぬのなんて怖いし、今度も転生するのか分からないし……また一緒に酒が飲みたい!まだ死にたくない……!」


 参華が顔をぱっと明るくして、言った。


「亥李!私……お母さんの為に死んできた。立花の為に死のうとした。でも……生まれて初めてよ?初めて、死ぬのが怖いって思ったの。だから……私、私の為に生きていきたい!もう誰かの為に死ぬんじゃなくて、自分の為に死にたい!!」


 参華はそう叫んでから、立花の方を見た。


「……ごめん、立花。さっきまで、皆の為に死のうと思ってたのに……生きたく、なっちゃった」


 参華がそう言って笑うと、立花は拳を震わせ、怒鳴った。


「はあ!?ふざけんじゃねえよ!お前が生きているから私は幸せも何もかも奪われたんだ!お前だけ呑気に幸せに生きやがって……この為だけに生きてきた私はどうなる?お前を殺すことを想像することだけが、私の幸せだったのに!」


 ナリと零、詩乃が参華の方に近付いた。愛は困惑の笑みを浮かべ、立ち尽くしていた。


「あれが、俺が出会った占い師の正体なのか……」


「鍵本立花って言ってたよね、愛。参華とどんな因縁があるのやら」


 亥李と詩乃が呟く中、参華は亥李の手に自分の手を当て、無言で頷いた。亥李が手を離すと、参華は立花の方をまっすぐ向いて、言った。瞼は腫れていたが、もう涙は流れていなかった。


「立花……私、大人になるわ。誰かの為に生きて、真実に振り回されるような人生は……もう、生きたくない。過去は変えない。過去を踏み締めて、私は今を生きる」


 その宣言を聞いて、立花の顔は赤くなっていった。参華の腰にずっと着いていた《魔源収納(マナシェルター)》のストラップが、チャリンと揺れた。


「……許せない。許せないよ。私が今まで、過去を変える為に生きてきて……お前も納得したじゃん。私がお前を殺せば、皆幸せになるって。なのに、なんで急にそんなこと言うの?私の幸せはどうなるの?」


「ごめん、立花……私は、皆の幸せを、叶えられないの。私は私の幸せしか叶えられない」


「ふざけないでよ……過去は変えない?そんなのお前が決めることじゃないよ……真実に振り回される人生は嫌だ?真実に振り回され始めたのはついさっきじゃん……今までずっとそれに振り回された私はどうなるの?過去を変えたかった私はどうなるの?お前が奪った私の幸せは?全部全部カタをつけてから居なくなってよ……まだ、大人になれない私の為にさぁ!」


「……ごめんね」


 参華が静かに言うと、立花は参華を凄むように睨みつけた。


「本当に……本当に許さない。お前のことは大嫌いだ。私の幸せを、最後まで奪いやがって。過去を踏み締められない人だっているんだ。それなのに、1人で大人ぶりやがって……!」


 立花が静かに怒りの言葉を呟いた。そして安城家の庭の方に向かって「ベル!!」と怒鳴った。


「おうおうおう、やっぱり過去は変えられなかったかぁ?悲願達成ならず。おめでとうだぜぇ、リッカ!」


 その姿を、亥李とナリは見たことがあった。昔見た手配書に描かれていた顔とそっくりだった。


「お……鬼宿しのベル!?」


 2人の声が重なる。零と詩乃も名前は知っていたようで、


「え?こいつが、あの鬼宿しのベル!?」


「うっそ、なんでこんなところに……!?」


 と各々呟いていた。ベルはその呟きを聞きながら、また特徴的な笑い声を上げた。


「俺がここに居るのが不思議でたまんねえかぁ?そうだよなぁそうだよなぁ、お前らにとって俺は異世界のもんだもんなぁ!分かるぜぇ俺は。俺だって気が付いたらここにいたからなぁ!自分で自分の存在が分かんねぇよ俺はよぉ!」


「ベル!うるさいから黙ってて!」


 立花が怒鳴りつけた。ベルはまた笑った。


「呼びつけておいてその言い方はねぇだろリッカ!悲願達成出来なくてお怒りってかぁ?」


「見たら分かるでしょ!?ベル、私に協力して。命令だから。早く!」


「その前に、お前俺に言うことあんだろぉ?俺はお前の悲願達成に協力した。ま、ちと邪魔が入ったが……まだお前の絶好のチャンスであることには変わりないぜぇ!さっさと契約通り俺を自由にしろよなぁ!」


 それを聞いて、「契約……?」とナリが呟いた。愛が近付いて「あのね、立花ちゃんとベルは……」とナリ達に説明し始める中、立花は言った。


「……分かった。約束は守るから、私に最後に協力して!」


 立花が手を伸ばした。その手には手鏡が握られていた。その手鏡を見て、亥李はぞっとした。


「《永遠の島(ネバーランド)》!」


 立花が唱えると、手鏡から光が溢れ出した。その光が、ベルと手鏡の中を繋ぐ線を描き出す。それが、バチン、という音を立てて、切れた。


「よっっっっっっしゃあ!!これで!!これで俺は自由だぁ!!」


 ベルがガッツポーズをして叫んだ。そして、言った。


「リッカァ!俺をやっと自由にしてくれた礼に、いいもんやるよ!《おとぎばなし(スモールワールド)》ォ!」


 ベルの手の先から光が出現した。その光が拡大し、全員の視界を奪っていった。



 気が付くと、ナリは先程通ってきた時の回廊にいた。ナリの他に、零、詩乃、亥李がそこにいた。


「あれ……参華と愛は!?それに、ここは……」


 ナリが周りを見回した。その疑問に答えるように、ベルの笑い声が聞こえてきた。


「ぎゃぁっはっはっは!残念だったなぁ!憩いのお友達が居なくてよぉ!」


 ベルが、逆回転する時計の上に座って笑っていた。


「お前……参華達をどこにやったんだ!」


 零が《魔源収納(マナシェルター)》の結晶から剣を取り出し、ベルに向けた。


「どこにやったぁ?お前達が出ていったのにまだ気付かねえのかぁ?あぁん!?」


「気付いてはいるけど、参華達がどこかに行ったのは別問題じゃん!どこに行ったのさ!」


 詩乃はそう言いつつ、《魔源収納(マナシェルター)》の結晶から杖を取りだし、「エラ!」と叫んだ。杖の先にある橙色の宝石から闇の精霊エラが飛び出し、詩乃の白い杖の周りを回転して、黒色の線を入れていった。


「簡単だぜぇ、あの時間軸から皆追い出してやったんだぁ。感謝して欲しいくらいだぜぇ?あの時間で死んだら、お前ら8年前に皆死ぬからなぁ!」


 またベルが笑いだした。そして言った。


「さぁどうするよ王子様。俺は元主の為に戦うぜぇ?なんてったってそういう契約だからなぁ!愛しのサンカを助けたいなら、俺を倒してから行けってもんだ!まあ俺を倒せたのは、2つもある世界でたった1人だけどなぁ!!」


 ベルが笑って、亥李を見た。亥李とナリも武器を取り出し、構える。


(倒せるのか……?俺達で……今まで1人しか倒してないってのは恐らく本当だ。いや、でも……倒さなきゃいけねえ。俺は、参華とまた酒を飲むんだ!死亡フラグにはしねえ!待ってろ、参華!)


 亥李はそう心の中で誓いながら、盾と剣を構えた。

次回は2月21日です。

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