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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
ネバーランドの姫君
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継がれる鬼宿し

 参華は手配書で見たその顔が目の前にいることに、驚きを隠せなかった。ブランキャシア王国の国宝を盗んだ鬼宿しのベルの顔を見れるのは、どんなギルドでも一瞬だった。その一瞬のうちに、彼はギルドを倒し続けていた。


「お……お、おに……鬼宿しのベル!?」


 参華がベルを指さした。ベルはその指を観察するように見て、笑った。


「びっくりしたかぁ?驚いちゃったかぁ?だよなぁだよなぁあ、俺がここにいる訳ねえもんなぁ!?ここはお前らにとって現実で!俺にとって異世界だもんなぁ!?」


 ぎゃぁっはっは、とベルは特徴的な笑い声を上げた。


「でもなぁ……ある日突然、俺が住んでたイゲタ洞窟に誰か来たんだよぉ。女だったなぁ?小柄で細身の女だった……俺が「死にたくなきゃ今すぐ帰れよなぁ」って言ったら、奴は笑いやがった……「やれるものならやってみたら?」って。調子乗ってるよなぁ?1人で来やがって舐めプだよなぁ!?」


 彼は参華に同意するように顔を傾げた。参華は困惑しながらその言葉を聞いていた。言葉から来るベルの重圧を、参華は感じていた。


「だからよぉ……俺は「鬼」を使ってそいつに分からせようとしたんだよなぁ?でもよ……そいつが見せた鏡に引き込まれちまってよぉ!気が付いたら鏡の中に閉じ込められちまったんだよなぁ!鏡の中のアリスかってんだよ俺はぁ!」


「違うけどね。同じ学校の高三の先輩からもらったんすよ、この鏡。あなたにあげるって。そしたらベルが入ってたらびっくりしたんすよね。それで、「魔法」の話を聞いて……これだと思ったんすよ。私の悲願を達成する為に……私の生活をひっくり返す為に必要なものだって」


 立花が間に入って説明した。参華は聞いた。


「悲願……?」


「はい。ま、もうそれは達成されちゃって、今は()()悲願があるんすけどね」


「それは後でで良いだろうがよぉ。それこそサンカにとって1番のメインディッシュだろうがよぉ!?」

 

 ベルが怒りを露わにして立花に詰め寄った。立花は呆れたように「ま、そっすね」と言った。


「じゃ、ベル先行っててよ。私と参華さんは後で追いかけるから」


「おうよ、じゃ待ってるぜぇ。命令よろしくなぁ、()宿()()


 ベルは立花にそう言って、頭を下げた。参華は「え?」と思わず呟いてしまった。ベルは笑いながら、顔だけ振り返って言った。


「ぎゃぁっはっはっは!!分かんねえって顔してんなぁ!!リッカもおもしれぇけどお前も負けてねぇくらいおもしれえなぁ!!そうだよ俺はもう鬼宿しじゃない!俺の中にいた「鬼」がやっと精霊の粉で命令聞くようになったってのに、俺が()()()()()()()なんて皮肉だよなぁ!?」


「「鬼」に……なんですって!?」


「そのまんまだよ、「鬼」になったんだ!!元鬼宿しの俺がなぁ!!精霊の粉は空を飛ぶ力があるなんて言われてたらしいが……本当は、あらゆる方面に飛躍させる粉だったんだよなぁ!」


 ベルが自分の体に付着した白い粉を触り、特徴的な笑い方でその粉を落とした。彼は続けた。


「それで、俺の中に最初から眠ってた「鬼」が飛躍して、俺の言うことをやっと聞くようになったのに……今度は俺が封印されて、俺の中の「鬼」はどっか行きやがった!!今は俺が「鬼」様だ!自立出来ねぇ子供みたいにリッカに命令されてばっかでよぉ!皮肉だろぉ!?なあリッカ!鬼宿しのリッカよぉ!!」


 ベルが立花の方を向いた。立花は冷静に「ほらほら、さっさとやるっすよ」と言った。

 

「《意地悪(トリック)》!」


 立花がそう唱えると、ベルは「じゃあなぁ、サンカ!リッカとのお話、精々楽しんどけよなぁ!」と笑い、どこかへ消えてしまった。その場には、彼が落とした白い粉が残されていた。


「立花……今の、本当に……」


 参華が立花に聞いた。立花は頷いた。


「はい。鬼宿しのベル、なんて言われてたらしいっすね。今の私の相棒っす」


「じゃあ、本当に立花が、「鬼」を……」


 立花は腕を伸ばし、坂を上り始めた。参華も慌てて後を追う。近くにある白い光の前から少女が動いたのを、参華は視界の端に捉えていた。


「そっすね。言うことを聞いてくれれば、どんな「魔法」でも叶えてしまう「鬼」……それが、ベルの一族が代々引き継いできた呪いらしいっす。鬼宿しが次の鬼宿しに負けることで、「鬼」に変化するらしいんすけど……今の鬼宿しが本当に私なのか、よく分からないんすよねー。あの先輩な気がするんすけど」


「その先輩って……鏡をくれた先輩?」


「はい。ま、「鬼」に命令できるのは鬼宿しだけらしいっすし、今のまんまでいいんすけどね」


「そ、それはダメでしょ。もし負けてしまったら、あなたは「鬼」になるのよ?」


 参華の言葉に、立花が振り向いた。そして、口だけで笑みを浮かべた。


「あはは、心配してくれるんだ。ありがとうっす。でも、別にいいんすよ。私の悲願を叶えられるなら」


「……ねえ、さっきから言ってるその悲願って、なんなの?今は別の悲願があるって言ってたけど……」


「そっすね。じゃあ、そろそろゴールも見えてきたし、話していきましょっか」


 立花が遠くにある光を指さした。近くの光には、ちょうど一年前の日付が書かれていた。


「さて、それじゃあ……」


 立花が言い始めた、その時。


「あ、あの!」


 近くから声が聞こえた。二人が振り向くと、それは先程動いていた少女の声だった。18歳前後の女の子で、ふわふわの茶髪を携え、風ノ宮高校の制服を着て、胸に手を当てる彼女は、優しそうな印象を参華に与えていた。ナチュラルメイクをしている彼女の目は、少し不安そうだった。


「り、立花ちゃん。話しかけて大丈夫だった?」


「ん?あ、愛。全然大丈夫だよ」


「愛?」


 参華が尋ねると、愛と呼ばれた少女は参華の方を向き、優しい笑顔で答えた。


「あ、お話の途中でごめんなさい!私、福島愛と申します。風ノ宮高校の三年生で……」


「愛、昔の話して大丈夫だよ。この人は」


 立花が言うと、愛は「そう?なら……」と、改めて自己紹介し始めた。


「えっと、ソルンボルにいた時の名前はプライヤ。人間の、太陽神ティラーの神官でした」


 愛はそう言って「あなたのお名前は?」と笑った。



 一方その頃。

 凛が帰ってから少しして、亥李が零の家にやってきた。

 亥李は中に入れてもらい、冷たい麦茶を飲んだ。暑さで喉が渇いていた。


「かーっ!いやー、こんなクソ暑い中コンクリの上をスーツで歩ける奴らって、どんな体力してんだろうな。得体が知れねえ」


「亥李……もう夏も終わりだにゃ……」


 ナリが呆れたように小分けのクッキーを出した。亥李は「サンキュ!」と言って、ビニールを開け始めた。


「で?お前がうちに来るなんて珍しいな。どうしたんだ?」


 零が聞くと、亥李は「それはな……」と、説明をし始めた。参華の家に行っても参華が見つからなかったこと、参華が2日間帰っていないこと、新聞の切り抜きを見付けたこと、そして黒いローブの占い師との取引……参華の家で見つけた集合写真が、零の家で堂々と飾られていたのを、視界の片隅に留めながら、彼は説明していった。

 零とナリは、それをじっと聞いていた。全て聞き終わった後、零が真剣な様子で言った。


「確かに……それは怪しいな。亥李の言う通り、もしかしたらその黒いローブに紹介されたってのが、参華なのかもしれない」


「そうだにゃ。参華……2日帰ってきてないのは怖いにゃ。参華って、家族と一緒に住んでるのかにゃ?」


「いや、近くにも住んでないって聞いたぞ」


「そっか……じゃあ、私達が探さないと、参華見つからないかもにゃ」


 ナリが言った。零が頷き、「他の奴らにも言ったのか?」と聞いた。亥李は首を横に振った。


「なら、さっさと聞いとこうぜ。えっと、俺達のグループは……」


 零はそう言いながら、零達の所属するトークグループに「参華が2日間帰ってきてないらしい。黒のローブの占い師が参考人らしいから、情報求む」とメッセージを送信した。すぐに既読が1つ付いた。


「亥李、今見たか?」


「いや、見てねえけど」


「じゃあ、他の奴が……」


 零がそう言った、その時。突然零のスマートフォンが飛ぶように鳴った。詩乃からの電話だった。零が取ると「もしもし!?零!?」と慌てたような声が聞こえた。電話口が、騒がしい人の声や車の通る音、パトカーのサイレンを拾っていた。


「もしもし、詩乃?どうしたんだ?」


「ちょっとこっち来てよ!今すぐ!」


「いや、こっちって……どこだよそれ」


「零んちから一番近い駅の交差点!早く!急いで!あ、あとナリも一緒に来て!」


「今亥李がうちに来てるけど」


「じゃ亥李も来て!皆、武器持ってきてよ!」


 詩乃のその剣幕に、全員が驚いて顔を合わせた。詩乃はそれだけ言って「じゃあね!」と電話を切ってしまった。


「零、今のって……」


「わかんねえけど……結構大事みたいだ。行ってみよう」


 零が立ち上がった。ナリと亥李も頷き、外に出た。全員、《魔源収納《マナシェルター》》のストラップをポケットに入れていた。



 愛に自己紹介をしたあと、立花と愛は世間話をし始めた。参華はその光景を、静かに見つめていた。


(愛……前の名前はプライヤって言ってたわね。うーん、私は太陽神ティラーの教会なんてあまり行ったことないし、今度美波に聞いてみようかしら……)


 参華がそう思っていると、愛は「それで、立花ちゃん……」と、話を切り出した。


「一つお願いしたいことがあって……一瞬でいいから、外に出させてほしいの」


「外に?あんな時間に囲まれた生活に、なんで戻りたいのさ。そもそも愛がここに来たいって言ったんだし」


「そうなんだけど……私が過去を変えてしまうことで、どれだけの運命が変わってしまうのかを考えると……」


「そんなん気にしなくていいじゃん。で?なんで戻りたいの?」


「その……一人だけ、どうしても会いたい人がいるの。私が死ぬ前に会った、大切な人で……その人も転生してきてるのは知ってるんだけど、具体的にどこにいるのかは分からないの。なんとなく、転生したあと誰になったかは分かるんだけど……その人と会えなくて」


「ふーん……それって()()()?」


 立花が尋ねると、愛が恥ずかしそうにもじもじして答えた。そして。


「うん。あの……娘に、会いに行ってもいい?」


 愛が、立花と参華の顔を窺うように尋ねた。

今回の話をもってメインキャラクターが全員登場したことを報告します。

次回は1月31日です。

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