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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
ネバーランドの姫君
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鬼宿しのベル

 これは、ブランキャシアでのこと。


「イサーク大臣からの依頼?」


 ダンバーはギルドの受付嬢に思わず聞き返した。


「はい!皆さん、おめでとうございます!国の大臣から直接依頼が来るのは、皆さんの実力が認められた証拠ですよ!」


 受付嬢はそう笑って、依頼書をダンバーに見せた。


「今回の依頼は、イゲタ洞窟にいる鬼宿しのベルを倒すことです。鬼宿しのベル、ご存知ですか?」


「その人って……国宝に指定されてる精霊の粉を盗んだっていう、あの?」


 ナリが尋ねると、受付嬢は「はい」と神妙な顔つきで答えた。


「精霊の粉は小さな壺に入っていて、それを振りかけた人は空を飛ぶ力を手に入れる、という伝説が残っているのですが……ある日、それを盗まれたんです。その犯人が、鬼宿しのベルです。彼は追っ手を振り撒き、イゲタ洞窟に閉じこもりました。そんな鬼宿しのベルを倒し、精霊の粉を取り戻すというのが、今回の依頼です」


「精霊人が聞いたら喜びそうな話だな……で、なんで俺達に来たんだ?俺達はお宝を手に入れる為にダンジョンに潜ってるけど、そんな討伐なんてほとんどやったことないぞ」


 ダンバーが尋ねると、受付嬢は「それはですね」と前置きして言った。


「ケルベロスアイなら出来るかもしれない……とのことです。実は、普段討伐などをされている手練のチームにも依頼したのですが、鬼宿しのベルに皆倒されちゃいまして。なので、ケルベロスアイさんに回ってきたんです」


「ねえ、鬼宿しのベルって……そんなに強いの?」


 ナリがカウンターに肘をついて尋ねた。受付嬢は頷いた。


「はい、今まで誰にも捕まったことの無い盗賊だとか……噂によると、その2つ名の通り、「鬼」を使って戦うんだそうです。彼が宿している鬼が、なんでも魔法に変えてしまうんだとか。その魔法は呪いに近いらしく、存在しない魔法でも魔法に出来るんだそうです」


「それって……つまり、自分のイメージだけで魔法に出来るってことですか?」


 フィーネが尋ねた。受付嬢は「はい、フィーネさん」と答えた。

 ダンバーはブレインと顔を見合わせ、しばらく考え込んでいた。そして、ダンバーが意を決して、声を潜めて聞いた。


「ところで……報酬はいかほどで?」


「はい!前金で2万ゴールド、成功報酬は1億ゴールドと言われています!」


 受付嬢が笑顔で答えた。ブレインから「1億……!?」という声が聞こえた。


「それ、マジか!?」


「はい、マジです!元々鬼宿しのベルがそのくらいの懸賞金なんです。国宝を盗んだ大悪党、ということで。それで、どうですか?受けてみませんか?」


 受付嬢が楽しそうに聞いた。ダンバーがブレインの方を伺うように見ると、「ダンバー、受けよう」と即答された。


「ブレインくん、きっぱりと言ったね……結構大変そうだよ?この依頼」


「フィーネ、武器を揃えるのも防具を手に入れるのも先立つものは金だよ。前金2万ゴールドも普通の依頼じゃ出てこない値だ。ダンバー、受けよう」


「いやいや、お前難易度考えて言ってんのか?んー……」


 ダンバーが腕を組んで悩んだ、その時。

 突然外が騒がしくなった。野次馬が集まっているのが、冒険者ギルドの扉越しに伝わった。


「ん?なんだろ……なんかあったのかな?」


「ナリちゃん、ダンバーくん、ブレインくん、行ってみようよ」


 フィーネに言われ、全員が外に出た。野次馬が、冒険者ギルドの先にあるメインストリートの先を見つめていた。

 ナリ達がそこを見ると、黒馬にまたがり風のように駆ける黒のローブの姿が、橋の先に向かって走っていた。その馬の鼻は、ブランキャシア城に向かっていた。

 その姿を、ナリ達ブランキャシア人は全員知っていた。


「ラブ=ブレイヴ様!?」


 ケルベロスアイの全員の声が合わさった。ラブ=ブレイヴはその声も気にせず、全速力で城へ向かっていた。


「ラブ=ブレイヴ様がどうして城に!?」

「まだ建国記念日ではないのに……!?」


 人々がざわつく中、誰かが街の入口の方を指さした。全員が息を飲んだ。

 そこには、灰色の馬にまたがったホープ=ドリーム、白馬にまたがったウィル=フレンドシップの両名が、馬を走らせて来ていた。


「ホープ=ドリーム様も、ウィル=フレンドシップ様も、なんでこんな、なんでもない日に……!?」


 ダンバーが呟いた。その場にいた全員が同じ思いで、3賢者を見つめていた。

 そして、3賢者が城に入って、しばらくした後。

 誰が言ったのか、メインストリートにブランキャシア城下町にいる人々全員が集まるよう、と伝言が伝わり、向かいだした。ケルベロスアイもメインストリートに向かう。精霊人やトビーも、別の場所で見かけた。

 その後、メインストリートの先にある城のバルコニーに、イサーク大臣が現れた。その声は酷く脅え、拡声器越しにもその泣きそうな声が伝わってきた。

 彼は静かに、拡声器に向けて話し始めた。


「国民の、皆さん……並びに、諸外国の皆さんに、お伝えします……女王、アストリアス陛下が……失踪、致しました……」


 しばしの沈黙。誰も、その状況が理解出来なかった。

 そして、すぐに群衆は混乱と困惑を極めた。


「アストリアス陛下が失踪!?」

「そういえば、太陽神ティラーの教会にお忍びで通ってたとか……」

「ブランキャシア王は始祖神ライアンを信仰するのが決まりでは無いのか!?」

「太陽神の教会が失踪を招いているの!?」


 人々の推測が、ナリ達にも聞こえてきた。ナリがフィーネを見る。フィーネは苦い顔をして「知らない」と言った。


「町中のどこにも居ないと、先程3賢者から申し伝えがありました……これより、女王アストリアスを探し出した者に、1兆ゴールドを贈与致します……」


 そのイサーク大臣の言葉が、更に混乱を招いていた。


「……お前ら。冒険者ギルドに戻るぞ」


 ダンバーがブレインの肩を叩いた。3人が振り返り、ダンバーを見た。


「戻るって……状況分かって言ってるの?」


「分かってるって、ブレイン。あの依頼を受けに行くぞ。鬼宿しのベルを倒すついでに、女王様を探すんだ。もしかしたら、そこに女王様がいるかもしれねえからな。なんでも魔法に変えてしまう鬼宿しのアジトに」


 人々の動乱を避け、ダンバーは冒険者ギルドへ帰っていった。ナリ達も困惑の表情を浮かべながら、冒険者ギルドへ向かっていった。



 亥李は起き上がり、もたれかかって寝ている千里をベッドに寝かせた。千里は疲れきった様子で、ぐっすりと眠っていた。

 ダイニングに向かうと、千里と参華以外の全員が、ダイニングで座っていた。誰も話すことなく、深刻な表情をしていた。物音に気付いたナリが顔を上げる。全員が、驚きの表情で亥李を見た。


「亥李、その格好……」


「えっと……心配かけたな。それで、今……どういう状況なんだ?」


 亥李が話すと、全員が胸を撫で下ろしたように息をついた。困惑している亥李に、零が言った。


「お前の誕生日会で、ケーキのロウソクに火をつけた時……亥李、お前泣き出したんだ。覚えてるか?」


 亥李は恥ずかしがりながらも「ああ」と答えた。


「その時、参華が「亥李をこんなことにした犯人を探してくる」って言って、出ていっちまったんだ」


「参華が……出ていった?」


「ああ。気にしないでいいからって言われたんだけど、だからって皆帰れるような状況じゃなかった。お前がますます虎っぽくなってくしな」


「だから、零と私で相談して、皆泊まっていきなよ、って話したんだにゃ。それで、千里と亥李を寝させて、皆ここで眠れずにいたんだにゃ」


「ああ、そうなのか……零、ありがとう」


「どういたしまして」


 零が立ち上がり、「麦茶でも飲むか?」と聞いた。亥李は頷き、陽斗に勧められた席に座った。零はキッチンに立ち、麦茶をコッブに注ぎ始めた。


「千里は疲れてるみたいで、早く寝させてくれって言ってたよ。《刹那疾走(テレポート)》って人数が増えれば増えるほど疲れるらしいんだよね」


 詩乃はそう説明してから、「で、亥李。なんで耳も尻尾も記憶も全部元通りになってるの?」と聞いた。「よく分からないんだよ」と、亥李が答えた。


「もしかしたら、本当に参華が犯人を見つけたのかもね。それで、なにかしたのかも」


「とりあえず、参華ちゃんは明日探そうよ。亥李くんも疲れてるだろうし……皆、今日は寝ない?1番不安だった亥李くんも、元通りになったしさ」


「じゃさー、めるが先風呂入るよー。はー、なんか今日すっごい疲れた……」


 詩乃がそう言って立ち上がった。亥李はふと、玄関の扉が開いたような気がして、振り向いた。だが、それは気のせいだった。


「どうしたの?亥李」


「いや……参華が、帰ってきたような気がして」


「参華?いや……帰ってきてないみたいだね。亥李、今日は疲れてるんだし、早いところ休んで、明日探そう。明日でも遅くないよ、きっと」


 陽斗に言われ、亥李は「ああ」と立ち上がった。


(俺をこんなことにした犯人……今ならちゃんと思い出せる。あの黒いローブの占い師だ……あいつを、探す……?)


 亥李はそこで、占い師が言った言葉を思い出した。


「代わりに、死んでも後悔してないような奴を、紹介してくれればいいっすから」


 その言葉が、亥李の胸に深く突き刺さった気がした。


(俺は紹介なんかしてない……でも、もしそれが、無意識にさせられるものだとしたら……?)


 亥李は自責のと疑惑の念に駆られながら、玄関の扉を見ていた。



 一方その頃。


「よし。参華さん、それじゃあ行きましょうか。実験する場所は決まってるんすよ」


 彼女は笑って、歩道橋を歩き出した。参華は彼女の後を、ある程度の距離を保って着いていった。


「ところで……なんの実験をするの?」


「え?」


「実験内容を知るのは、被験者の権利だと思わない?」


 参華がそう言うと、「確かにっすね」と彼女は呟き、説明し始めた。


「簡単っす。私の唱える「魔法」が成功するのか、確かめるんすよ。「魔法」は本当に使えるのか……そして、ちゃんと現実に作用してるのか。それを確認するんすよ」


「「魔法」?確認する必要なんて……」


「あるんすよ。参華さん達が使ってるような魔法じゃないから、試しながらやるしかない。大丈夫、参華さんにはむしろありがたいかもしれない「魔法」っすから」


 参華はその話を聞いて、顔を上げた。


「ありがたい「魔法」……?あ、ええと……」


「立花。鍵本立花(かぎもとりっか)っす。15歳、風ノ宮高校1年生っすよ」


「高校1年生なの?」


 参華はその鍵本という苗字を、どこかで聞いたことがある気がした。だが、それがなにか思い出せなかった。


「そうっすよ。そして、そのありがたい「魔法」は、その私の経歴でさえも、変えてしまう代物っす」


 立花は参華の方を見て、ニッコリと笑った。


「参華さん。過去(とき)を飛びましょう」

新章「ネバーランドの姫君」はピーターパンをモデルにしています。

次回は1月21日です。

おまけ→

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