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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
陸への憧れ、海への想い
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祝われるべき誕生日

 参華が手に持っていたのは、2輪のカサブランカだった。まだ咲き始めたばかりで、雌しべから蜜が垂れそうだった。


「これ、道すがら買ってきたの。良かったら……って」


 参華が玄関先に目を移す。そこには、車のキーや家の鍵の隣に、カサブランカが花瓶に活けられていた。満咲が置いていったカサブランカだった。


「零とナリもカサブランカ買ってるじゃない。被っちゃったわね」


「いや、これは貰ったんだ。正確に言えば、置いていったものを勝手に貰った」


「何その言い方。何かあったの?」


 詩乃の質問に答えるように、ナリは「実は……」と、前の日の夜に起きた出来事を話し始めた。


「幸野満咲っていう元ナリの同級生が、突然現れて突然置いていったー!?」


 詩乃が不可解とでも言いたげに叫んだ。


「そうなんだにゃ。しかも、山風町では大変なことが起きているーとかなんとか……」


「そんな怪しいもの、よく玄関に置けるわね……」


「魔法とかそういうもんはなかったし。置いといても勿体ないからな」


 零のその弁明に呆れながらも、参華は「これも一緒に活けなさいな」と花束を手渡した。受け取った零はするすると紙を剥き、花瓶の近くに置いてあった園芸用ハサミで、茎を切り始めた。


「ねえ、なんでカサブランカ買ってきたんだにゃ?」


「いや……なんか見つけちゃって。最近、カサブランカが例年以上に増えているらしいわよ。1本300円で売り出したところもあるって。多すぎて在庫処分が大変だって、店員さんが言ってたわね」


「300円!?前める達が買い物に行った時より、200円も安くなってんじゃん……百合の女王様、だいぶリーズナブルになったね」


 詩乃が驚きの声を上げた。全員が頷いた。


「ところで、お前ら何しに来たんだ?百合渡しに来た訳じゃねえだろ」


 茎を切り終わり、零が花瓶にカサブランカを足した。ふわっと花の香りが漂った。


「あ、そうそう。参華はそうかもしれないけど、めるは写真渡しに来たんだよねー」


 詩乃がカバンの中をごそごそと漁りだした。その間、玄関の棚では、《異形》で猫の姿に変身したナリが、花の匂いに釣られるように上に飛び乗っていた。


「はいこれ、零とナリが映ってる写真!他にも面白かったのもあるよ」


 詩乃に手渡されたのは、水族館で撮った零とナリのツーショット写真や、車の中で撮った千里の写真、最後にアクアに撮ってもらった集合写真など、のべ6枚の写真だった。フォト用紙に印刷されてまだ時間が経っていないのか、写真の中心がなだらかな山のように盛り上がっていた。

 零と参華が顔を寄せ、それらを眺める。その間ナリは、くんくんとカサブランカの匂いを嗅ぎ、花弁に近づいていった。


「おー、良く撮れてるな」


「でっしょ?やっぱめるは写真撮る才能あるよねー。参華にも今渡しちゃおっか!」


 そう言って詩乃はカバンをまた漁り、参華に写真を渡した。ナリと零のツーショット写真はなかったが、代わりに旅館の前で撮られている亥李と参華のツーショット写真を渡されていた。


「そんなのいつの間に撮ったんだ?」


「旅館出る時。ありがと、詩乃!」


「どーいたしまして〜」


 参華と零が自分達の写真を眺める中、ナリは更に花弁に近付き、雄しべに鼻をくっつけた。ナリの猫の頭がすっかり花弁に埋もれてしまった。詩乃がそれを見て、声にならない笑いをあげていた。


「ナリ、お前も見ろよ。すげえ良く映って――」


 零と参華が、ナリの方を見る。ナリは花に埋もれたまま、固まって動かなかった。


「……っはっは!もう無理、超おもしろ……ふふ!」


 腹を抱えて詩乃が笑い声を上げた。参華も、「ナリってば超可愛いじゃない!」と言いながら、指をさして笑っていた。

 零は一瞬、何が起きているのか分からなかった。だが、ナリが不服そうに足を動かし、静かにバックしていったのを見て、零も笑いが止まらなかった。


「おまっ……お前……何してんだよ、ちょっと目を離した隙に……」


「……いや、カサブランカのはにゃの匂いを嗅ごうとしただけにゃんだけど……花粉鼻に付くし、にゃんか凄く笑われるし……むぅ」


 棚から降り、《異形》で獣人族状態になったナリが頬を膨らませ、納得いかないという表情を見せた。まだ3人の笑いは止まらなかった。

 しばらくして落ち着いてきた頃、参華が「私の話するわね」と、咳払いを挟んでから言った。


「あのね。カサブランカ渡しに来たんじゃなくて、1つ相談しに来たのよ」


「相談?なんのだよ」


「実はね……亥李、誕生日だったのよ。昨日」


 それを聞き、「ええ!?」と3人の声が重なった。


「な、なんでめる達に教えてくんなかったの!?そんな大事なこと……」


「なんか……教えたくない理由でもあったんじゃない?誕生日が嫌いとか、それどころじゃなかったとか……」


「つーか、なんでお前は知ってんだよ」


「チェックインの時、あいつ免許証見せてたの。それを盗み見てね」


「免許証なんて持ってたんだにゃ、亥李」


「そうね。志学亥李は……今の亥李になる前は、真面目な会社員だったらしいから」


 参華が、もったいないとでもいう風に話した。そして、零の方を向いて言った。


「それでね。亥李にそれ言ったんだけど……「誰にも言うな」って言われちゃって。でも、誕生日を1人寂しく、誰にも祝われずに終わるなんて悲しいじゃない?」


 参華のその言葉に、詩乃が「確かにね」と頷いた。だがナリと零は、あやふやにしか同意出来なかった。


「だから……誕生日会!開きたいのよ。どう?」


 それを聞いた全員の顔が明るくなった。


「お、いいなそれ!」


「親睦目的の旅行で祝えないって、ちょっと勿体ないもんねー!いいじゃん!」


「誕生日会かあ……すっごいいいと思うにゃ!」


 全員の顔を見て、参華が「よし」と頷いた。


「よし!なら決まりね。やるのは今週の日曜日かな、と思ってるの。それまでなら時間あるし、プレゼントや料理を用意出来ると思って」


「確かにね。プレゼントは任せて!める、人の誕プレ考えるの結構得意だよ〜?」


「お!いいわね。頼むわよ」


「なら、私はお料理やろうかにゃ。前お料理部って部活に入ってたし、ケーキとか結構得意にゃ!」


「ナリならそう言うと思ったわ。頼むわよ!」


 参華にそう言われ、詩乃とナリはお互いに見合ってから「うん!」と頷いた。ニヤニヤとした顔を見せ合っていた。


「なら、俺はどうすりゃいいんだ?」


 零が自分を指さして聞いた。その途端、参華がぐいと顔を寄せた。驚いて零が後ろに引いた。


「いいこと聞くわね。そう、零はあることをして欲しいのよ。誕生日会の準備の話になるけど」


「誕生日会の準備?なんだよそれ」


「あのね……会場提供して欲しいのよ!」


 零は最近、何を言っているのか理解出来なかった。そして、しばらくしてから「はあ?」と聞き返した。


「お願い!私の家超絶狭いし、お母さんがいる手前亥李の家でやる訳にもいかないし、他の皆の家でも以下同文だし……こんなでかい家に零とナリしか住んでないって凄く便利なのよ!お願い!お願いします!」


 頭を下げ、手の平を合わせて頭の上で合掌する参華を見て、断る訳にもいかなかった。


「……まあ、いいけどよ」


 参華の顔がパッと輝いた。「ありがとう零!」と嬉しそうにガッツポーズをする参華を、零は微笑ましく見つめていた。だが、すぐに顔を普段のように戻し、聞いた。


「でもよ、亥李自身はなんて言ってんだ?本人がいない誕生日会なんてやる意味ねーだろ」


「偉人とかなら意味あるけど、亥李じゃあね。なら、今から聞きに行きましょうか!あいつなら直接聞きに行った方が確実だし。どう?」


「いいねーそれ。めるも亥李に会いに行きたかったんだ。さんせーさんせー!」


 詩乃と参華に釣られ、ナリと零も亥李の家に向かうことにした。《異形》で人間の姿になり、ナリ達は亥李の家に向かった。



 亥李の家は零の家から近く、静かな住宅街の中にあった。2階立ての昔ながらの家で、門には「志学」と表札が掛かっていた。


「ここなの?亥李の家って……」


「そうよ。さて、チャイムはー、と……」


 参華がそう言いつつ、チャイムを押した。


「いつもご両親は働いていて居なくてね。だいたい亥李が出てくれるのよ。いつも遅いけど」


 参華はそう説明しつつ、亥李からの返事を待った。だが、チャイムのスピーカーから聞こえてきたのは、亥李の声ではなかった。


「はい」


 それは、女性の声だった。声からして30から40代だろうか。

 参華は驚きながらも、それを必死に隠しつつ聞いた。


「え、遠谷参華と申します……亥李さん、いらっしゃいますか?」


 その質問には、相手はなにも答えなかった。参華は、自分の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じていた。静かに、ゆっくりとチャイムから離れる。詩乃が心配そうに「亥李いた?」と聞いた。


「……分からない。今、初めて……亥李のお母さんが出てきた」


 参華の表情は、とても緊張しているように見えた。全員が息を呑んだ、その時。


「参華さん……ですか?」


 消え入るようなか細い声が、扉の方から聞こえてきた。そこには、扉を半分開け、警戒するように4人を見つめる、1人の女性の姿があった。

改稿の進捗ですか?まだです。

次回は12月17日です。

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