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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
陸への憧れ、海への想い
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カサブランカの少女

「なっ……なんだあいつ!?」


 やっとのことで声を出せた零は、目の前にある花束を拾い上げた。ふわっといい匂いが漂った。白い花弁と茶色の長い雄しべ、細長い雌しべを供えたそのカサブランカは、魔法も何もない、普通の美しい花だった。


「なあナリ……今の奴って……」


 未だ固まっているナリの方を振り向いた。ナリはしばらくしてからはっと我に返り、静かに呟いた。


「……幸野満咲(こうのみさき)。私や凛ちゃんの風ノ宮の同級生で、私が死んだ時……つまり去年は、私や凛ちゃんも含めて皆同じクラスだったにゃ。そんな彼女が、なんで……」


「……なんで突然現れたか、だな。あいつが使ったのは、明らかに魔法だった。多分《刹那疾走(テレポート)》の亜種とかだろ。それに……」


「……私の正体について、知ってたにゃ。山門有だって」


 2人が顔を見合わせる。風で花束と髪が揺れた。少し涼しくなってきた風は、まだ夏の暑さを感じさせた。


「それに、こんな花束残していって、しかも「大変なことが起きている」って……いかにも、って感じで怪しすぎるよな」


「そうだにゃ。でも、今満咲がどこにいるのか、なんで私達のこと知ってるのか、全然分からないしにゃ……とりあえず、山風町になにか起きてないか、調べるのがいいかもにゃ。明日にでも」


「ああ、そうだな。今日はもう寝よう……」


 零が大きく口を開け、欠伸をした。鍵を開け、数日ぶりの家に入る。中は薄暗かった。

 そのまま零に「おやすみにゃ」と言い残して、ナリは自分の部屋に入り、荷物を床に放り投げた。そのまま洗面所で手を洗い、すぐに着替えてベッドに入った。


(満咲……なんで、満咲が……?)


 ナリは、疲れているにも関わらず、眠れなかった。瞳を閉じた彼女の瞼に、満咲との思い出が浮かんでいた。



「ねえ、有!」


 丁度一年前の7月、山門有がまだ16歳だった時のこと。期末試験も終わり、旅行の計画について話す者や、プールに遊びに行く誘いをする者がいる中、有は教室で一人、数学の問題集を解いていた。

 そんな中、唯一彼女に話しかけたのが、幸野満咲だった。満咲は他に2人の取り巻きを連れていた。本来紺のブレザーにはネクタイかリボンを付けなければならないのだが、彼女はそれを外し、代わりに赤い百合のペンダントを襟から下げていた。普段あまり制服を着崩さず、白黒の猫のピンをネクタイピン代わりにしたり、ミニスカートにしているだけだったりした有は、満咲に話しかけられるだけで怯えていた。


「こ……幸野さん」


「前にも言ったけど、満咲、それでいいからね?」


「え、えっと……満咲、どうしたの?なにかあった?」


 満咲が長い髪を左手で払った。ツヤツヤの髪からは、花の匂いがした。


「いいえ?ただ、試験も終わったばかりなのに勉強なんて偉いわね、と思って。それで話しかけちゃダメだった?」


「う、ううん、そんなことないけど……あの……宿題、早く終わらせたいなって」


 有が机の上に広げられていた問題集とノートに触れた。それはこの日配られた、夏休みの宿題だった。


「それはすごいわね。何か予定でもあるの?海外旅行とか?」


「ううん、そんなんじゃないよ……どこにも行かないんだ」


「あらそうなの?なら塾とか?私達、そろそろ受験だものね」


 満咲の後ろから、「満咲には家庭教師がいるからいいよね」「専属とか羨ましいわぁ」という取り巻きの声が聞こえてきた。満咲は満足そうな笑みを浮かべ、有の答えを待った。有は少し恥ずかしそうに身をよじり、言った。


「じゅ、塾でもないよ。ずっと家の手伝いしなきゃいけなくて」


「あら、そうだったの?おうちは何をしていらして?」


「……お父さんもお母さんも、夏休みは皆忙しいから……家事、しなきゃいけなくて」


 半分嘘で、半分本当だった。

 満咲はそれで納得したのか、「ふうん」と相槌を打った。そして、有に顔を近付け、言った。


「ねえ、有。私ね、あなたと仲良くなりたいの。あなたと私、ちょっと距離があると思わない?」


「え?うん、ま、まあ……確かに?」


「だからさっきの質問をしたんだけど……やっぱり面白いわね、あなた。ねえ、もっと色々あなたのことを知りたいの。いい?」


「満咲が私のこと知ったって、なんも面白くないと思うんだけど……」


「そんなことないわ。あなた、私や他の人にはない発想ばっかりで、次に何をするのか分からないんだもの。それにせっかくクラスメイトになれたんだもの、同級生とは仲良くしたいと思わない?」


 有から顔を離すと、今度は小さな声で本について話していた同級生2人に、顔を向けた。ポニーテールの髪とボブの髪がぴくりと揺れた。


「ねえ凛、愛。あなたたちも混ざらない?今まで謎だった有の秘密を明らかにするんだけど」


 1つの机で向かい合ってのんびり話していた彼女達が、驚いた顔で満咲と有の顔を見比べた。そして仕方ないという風に、立ち上がって有の机の方に向かった。

 ポニーテールの少女は、零の妹、月島凛だった。凛はあまり発言せず、クラスでは目立たないようにしていた。その彼女が高校二年生になって仲良くなったのが、福島愛(ふくしまあい)だった。愛はのんびりとした性格で、有とは気が合った。塾に通っていると言っていた彼女は、有より頭は良くなかった。


「それじゃあ、皆揃ったことだし、一つ聞かせて。同じクラスになってからずっと気になっていたんだけど……なんで有って名前なの?ナリって、すごく珍しい読みじゃない?」


 満咲が有の方を向いて聞いた。全員が有の方を見た。


「えっと、それは……」


「それは?」


「その……お父さんが、「才能に溢れたすごい子にれる」って付けたらしいよ」


 有がそう言うと、満咲は「へえ……」と呟いた。他の4人も感心したように声を上げた。


「いい名前ー!」

「才能に溢れたすごい子って、有ちゃんピッタリじゃーん!」


 取り巻き2人の声に、有は少し照れていた。それを隠そうと、有は自分を囲っている人達に顔を向けた。


「皆は……なんでその名前になったの?」


 有の質問に、全員が静まる。誰から言うか、様子を見ているようだった。そして、その空気を壊すように、凛が言った。


「私は……凛としている子になって欲しいって、お母さんが」


 それを皮切りに、取り巻き達も自分の名前の由来を話し始めた。その後、愛の番になった。


「あの……私は、皆に愛される、愛溢れる人になって欲しいって……は、恥ずかしいんだけどさ……!」


 顔を真っ赤にして、愛が話した。それを見た満咲が気さくに笑った。その表情は、有にとって意外だった。


「いい名前じゃない。皆、親からの願いが込められてるのね」


「えっと……満咲は?満咲は、なんで「満ちる」に「咲く」なの?」


 満咲は少し黙って、なんと言えばいいか悩んでいる様子でいた。クラスの中でも、ハキハキと話し、よく発言や質問をして目立つ彼女が、そうやって静かに考え事をするのは、とても珍しかった。そう、有は思った。


「私は……ずっと咲いていて欲しいから、だそうよ」


「ずっと咲いていて欲しい……?」


「そう、咲き満ちる。常に開花していて欲しい。そういう願いだって、お父さんに言われたの」


 そう言う満咲は、少し恥ずかしそうだった。今まで遠い存在だと思っていた彼女が、近付いた気がした。



 満咲とはそれから、修学旅行で同じ班になったり、勉強を教え合ったりと、仲良くなっていった。だが、その仲は、3ヶ月で終わってしまった。


(あの時から、満咲と凛、愛と私は、仲良くなっていったんだ。取り巻き2人は……名前覚えてないけど、6人で仲良くしてた。でも……)


 ナリはベッドの中で、薄い布団にくるまった。


(こんな夜中に、しかも1人で……どうしたんだろう?本当に、あれは満咲だったのかな……)


 ナリはそうやって考えていたが、なぜ突然来たのか、なぜ魔法を使えるのか、疲れた頭では何も思いつかなかった。ナリは次第に眠りについた。



 朝を迎えても、満咲の言う「大変なこと」は分からなかった。


「え?山風町で最近起きた大変なこと?それオカルトチックでいいの?……あっそ。じゃあ、大変なことでも無いかもしれないけど……なんか、幸運な人が増えたらしいよ。事故をギリギリのところで回避したり、結婚詐欺師に気付けたり……え?そんなんじゃない?じゃあ分かんない。つーかそんくらい自分で調べろ。じゃ、私受験生なんで」


 凛に電話で聞いても、ピンとくるものは何も無かった。


「結局、何だったんだろうな……」


「さあにゃ……案外、大したこと無かったりして」


 零と獣人族状態のナリが、ソファにもたれかかって項垂れた。ネットや新聞でも探してみたが、「大変なこと」は見つからなかった。


「あとは、あいつらに聞くしか……」


「あいつら?皆のことかにゃ?でも、一緒に旅行してたし、分からないと思うにゃ」


「そうだよなー……まあ、新聞とかネットでも分かんなかったし、あんま気にしなくてもいいのかもな」


「んじゃ、私キッチンの要らないもの捨ててるにゃ!」


「お、頼むぜ」


 ナリが立ち上がり、キッチンの棚を開けた、その時。ピンポーン、という音が、リビングに響いた。


「はーい……あ、いらっしゃい!」


「ん?誰だ?」


「噂をすれば……って奴にゃ!」


 ナリが楽しそうに玄関に向かった。零も立ち上がり、玄関に向かう。


「やっほー!詩乃ちゃんが直々に、届け物に来たよーん!」


「丁度詩乃と一緒になったの。ちょっと相談があって」


 そこには、少し日焼けした肌の参華と詩乃が、笑顔で玄関に立っていた。参華の手には、カサブランカの花束が握られていた。

これを書いていて、番外編で書いた誕生日を元にすると時空が歪むということが分かりましたが、とりあえず何も考えずに進めます。

次回は12月13日です。

おまけ→https://ncode.syosetu.com/n1889ha/4/

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