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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
渚のシンデレラ
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過去

 パチパチパチ……そんな音が、静かに辺りに響いていた。

 ナリが嬉しそうに、顔を近付けているのが見えた。だが、零の目には、花火の美しさは映っていなかった。

 ナリに、どうやって話を聞き出すか。彼の頭の中では、その疑問ばかりがぐるぐると回り続けていた。何も言うことが出来なかった。時々、心配そうに「零?」とナリが顔を覗くのを、零は苦笑いして誤魔化していた。

 そして、最後の線香花火に火を灯す時間になった。


(……ナリへの恩返し……その為に、ナリの事情を聞くのが重要で……それを、美波の代わりに俺がやって……なんて聞こうか?お前に恩返しがしたい……いや、少し直接的か……?)


「……い!れーい!」


 ナリの声で、ハッと我に返った。気が付くと、暗闇の中、ナリが零に顔を近付け、ムッとした顔をしていた。


「うおっ!?」


「そ、そんな驚かなくても……ほら、最後の花火だにゃ!なんか考え事してんのかもしんないけど、最後の花火ぐらい楽しもうにゃ!」


 咄嗟に離れた零に、線香花火が渡された。ロウソクの火が揺れた。ナリがその火を線香花火に移していく。零の赤い顔は、ナリには見えなかったようだった。


「きれーだにゃー……」


 火が上に飛び交う中、ナリが静かに呟いた。「ああ」と、静かに答える。


(……いやいや、何やってんだよ俺!いつもちゃんと話せてるだろ!?今いい感じの言い方思いついたじゃねえか!もうこれで最後なんだぞ!?)


 内心、零はひたすらに焦りながら、時を無駄に過ごしていた。

 だが。


「――ッ、ナリ!」


 遂に、覚悟を決めて話しかけた。花火の音は消え、心臓の音だけが聞こえるようだった。


「にゃ?」


「お、お前さ……今回の旅行、楽しかったか?」


 結局チキったな、と零は心の中で思った。


「……うん!楽しかったにゃ!皆で海で遊んだし、水族館にも行ったし!詩乃を助けるのは大変だったけど……すっごく楽しかったにゃ!」


 ナリが満面の笑みを浮かべた。零は一瞬、その笑顔に怯んでしまった。だがそれでも、零は緊張を露わにして続けた。


「あー……じゃあ、昔はどうだったんだ?」


「昔?」


「ほら……山門有の時とか」


 零にそう言われ、ナリは「山門有の時……?」と悩み始めた。


「昔……ほとんど旅行なんて行ったことなかったにゃ」


 そして、ナリはそれだけ呟いた。


「……なんでだったか、聞いてもいいか?」


「……なんでだったか?ええと……それ知ってどうするんだにゃ?」


 内心ギクリとした。だが、零は少し間を置いて、言った。


「……ナリ。お前は、気付いてないかもしんないけど……俺は、お前に随分助けられてるんだ。毒りんご事件の時も、氷結の女王の時も、……だから、俺はお前に恩返しがしたい。お前が苦しんでるなら、力になってやりたい。抱え込んでるもんを、俺も共有したい。駄目か?」


 それは、零自身の本心ではなかった。言い淀んだ部分を誤魔化し、彼は続けた。


「……お前が、旅行前に泣いた時。あれ……結構驚いたんだ。お前が何が辛いのか、何で思い出すのか、俺は知りたい。お前の力になりたい」


 零が真剣な眼差しを向けた。ナリが驚いたように零を見た。


「……零なら……言ってもいいかもにゃ……でも!」


 ナリはそう言って、零の方を向いた。


「その代わり!零も教えてにゃ。私だって、零に何回も助けられてるし……零の力になりたいにゃ!」


 ナリのその言葉は、零にとって意外なものだった。


(……俺の……?)


「じゃ、最初は零からにゃ!零、なんでも言っていいにゃ!」


 ナリが少し嬉しそうに、零の方を向いた。火花が宙に舞った。


「……なんか、上機嫌だな」


「うーん……そうだにゃ、自分の奥の奥まで喋れる相手なんて、今まで居なかったんだにゃ。それかにゃあ?まあ、そもそも自分の死因を喋れるのって、皆くらいしかいないけどにゃ」


 ナリが苦笑いを浮かべた。


(……死因……死因、か……)


 零は、静かに何を言うか考えていた。そして。


「…………俺は……昔、酒に溺れて死んだんだ」


 零は、それだけ呟いた。


「え?さ……酒かにゃ?」


「そう、酒。アルコール。俺は昔、二十歳(はたち)になった時に……酒を飲みまくったんだ」


「にゃあ……すっごい意外。零、酒そんな好きそうなイメージはなかったにゃ。寧ろ嫌いなイメージ。アッシュの時から」


 ナリのその純粋な言葉が、零の胸に刺さった。


「それは……多分、俺が避けてるからだろ。もうあんな風に酒に苛まれたくないから……酒の匂いも嗅がないように、注意してる。でも、どうしようもない時はある。隣で参華が飲み始めたりとかな。そういう時は、逃げて、隠れて……絶対にジョッキには手を伸ばさないようにしてる」


 ナリはその言葉を聞いて、少し考え込んだ。そしてそのまま聞いた。


「ねえ、どのくらい飲んでたの?零って……昔の名前は川峰創か。創は、どのくらい飲めたの?話を聞く限り、酒を飲みまくって死んだ、って感じだけど……そんなに飲んでたのかにゃ?」

 

 零は黙り込んだ。ナリが慌てて「ご、ごめんにゃ!聞くって言っておいて質問しちゃって……!」と宥める。だが零は「いいよ」と笑った。


「俺は、結構酒に弱いんだよ。参華より少し弱いくらいだな。だから、ジョッキ1杯で酔っ払っちまう。でも、死ぬ直前くらいは2杯くらい飲んでたな」


「ええ!?だ、大丈夫かにゃ……!?」


「ぜんっぜん。だから今、俺は月島零になったんだよ」


 零は笑って、まだ火の玉が落ちそうな花火を、そのままバケツの中に投げ入れた。ナリはそれを、黙って見ていた。ナリの花火から、静かに火の玉が落ちていった。



(……次は、私か)


 ナリは火の玉が落ちていった花火を、じっと見つめていた。零が静かにこちらを向く。話し出すのを待っているかのようだった。


「…………私は……」


 そこまで言って、言い留まる。その先何を言えばいいのか、ナリは考えていた。零はじっと、その先を待っていた。


(……零は、なんでこんなに私のことを知りたがるんだろ。私のことを知って、一体何をするのかな……恩返し?うーん……零に恩を売った記憶が無い……でも)


 そんなことを考えつつ、彼女は俯いていた。そして、決心したように、言った。


「…………私は、今から大体1年くらい前……高校2年生の秋に、崖から転落したんだにゃ」


「……ああ」


 零が反応してくれたことが、彼女にとってはとても嬉しい事だった。


(でも……零なら、話していいかもしれない。零が話してくれて、ちょっと嬉しかったってのもあるけど……今は、凄く話したい。零が、私の事を知りたいって言ったのが……凄く、嬉しい)


 ナリはそう考えながら、話し始めた。風が、2人の間を通り過ぎていった。


「それは……山の中で自転車使ったから、滑って落ちちゃったんだけどにゃ」


「自転車って……危ねぇな。何してたんだよ」


「……お母さんと、飼ってた猫に会いたくて」


 零は黙ってしまった。それを気にせず、ナリは続けた。


「お母さん……小さい頃に死んじゃったんだにゃ。交通事故で、車道に飛び出して……突然出たもんだから、トラックの運転手さんが止まれなかったんだにゃ」


「……なんで、突然車道に出たんだよ」


「確か……飼ってた外猫が、飛び出しちゃって……かにゃ」


 ナリはそう苦笑いして、昔のことを話し始めた。



「有ちゃん!ノエちゃんのご飯、あげてちょうだい!」


「はーい!ノエルー!」


 笑顔で台所に立つ母。小さい頃、有はその姿をよく見かけていた。よく笑う人だった。彼女が笑うだけで、家はパッと明るくなった。普段あまり笑わない父も、彼女が笑うだけで、優しく笑みを浮かべた。

 父は、あまり笑わない人だった。そんな無表情で堅い父のことを、有はあまり好きではなかった。だが、その仏頂面は彼の照れ隠しだと、有は死んでから気付いた。

 そんな父も、母と会話すると、笑みが零れた。


「ねえねえ!お母さんってさ、なんでお父さんのこと好きなの?」


 一度、有は母が生きていた時に聞いたことがあった。母は嬉しそうに笑って、言った。


「有ちゃん。お父さんってね、いつもぶーってしてるけど……本当は、すっごく優しいのよ?」


 その顔は、恋する乙女のようで、有はとても不思議がっていた。だが、今ならその言葉が、よくわかる気がした。



「……そんな2人が、私が産まれる前に飼ってたのが……ノエルだったんだにゃ」


 ナリは昔を思い出しながら、そう話した。


「ノエル?」


「白黒の日本猫にゃ。んー……だいたい、私みたいな感じかにゃ。12月24日生まれだったから、ノエル」


「和猫なのに洋風な名前だな……」


 ナリはそれを聞いて、「にゃはは」と笑った。


「ノエルはいたずらっ子で……甘えん坊な子だった。私より年上だったから、お姉ちゃんみたいな感じだったにゃ」

 

「……でも、その猫が……」


「…………にゃ。私が、3歳くらいの頃……ノエルが、突然車道に飛び出して……それを追いかけて、お母さんも車道に出ちゃったんだにゃ。そこにたまたま、トラックが迫ってきて……2人とも、助からなかったにゃ」


 零は黙っていた。「そんな深刻そうな顔しないでにゃ」と笑うナリは、零の目に儚く見えた。


「それ以来、旅行には行ってないんだにゃ。お父さんは私のこと、17になるまでずっと育ててくれたけど……それでも生活はきつくて。だから、あんまり贅沢出来なかったんだにゃ」


 ナリが苦笑いを浮かべた。零はその顔を、悲しそうに見ていた。


「……ナリ」


「にゃ?」


 零がナリの方をまっすぐ向いた。雲が晴れ、月明かりがナリ達を照らしていた。


「……教えてくれて、本当にありがとう。俺達、なんでこっちに戻ってきたかわかんねえけど……お前の辛いも、寂しいも、共有して……お前に、沢山贅沢させてやる。恩返ししてやる」


 その思いが本心かどうか、ナリには分からなかった。


「私も。零に沢山、恩返ししたいにゃあ。きっと、何か出来るにゃ。こんな私達でも」


 ただ、そう笑って、星空を見上げた。雲は晴れ、満天の星が2人を照らしていた。お互い、自分の底まで言わなかったのを、ナリは感じていた。

最後の零のセリフが気に入らないので改稿すると思います。

金曜日は忙しいのでお休みします。

次回は11月29日です。


追記

11月29日に投稿出来なくなったのでお休みします。

次回は12月3日です。

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