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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
渚のシンデレラ
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渚の戦い

 アクアは、詩乃の暴走を止める為に戦うナリ達を見て、呆然としていた。

 彼に注目している人は誰もいなかった。逃げようとしたら逃げることが出来るのは、彼にも分かっていた。だが、アクアはそれをしなかった。出来なかった。

 足が動かなかった。彼の頭の中で、千里の言葉がぐるぐると回っていた。


「仲間を助けるのに、才能は要らない。詩乃が僕達の仲間である限り……僕達は、どんな理由があろうとも、助ける。救う。正す。それが仲間だ」


 彼は、目の前で攻撃を続けるナリ達が、信じられなかった。


(なんで……なんで、他人の為に、命を賭けられるの?)


 自分の行為が「才能が要らない」と分かった上で、他人の為に命を賭ける。彼には、その行為をする理由が分からなかった。


(才能が要らないってことは……誰でも出来る、普通のこと。それを、なんで彼、彼女らは進んでやるんだろう?しかも命を賭けるなんて。無駄な行為だ。それに……もっと言えば、メルは自分の才能のなさに気付いてない上に、自分にはもう必要のないものに甘えるような自己中だ。なんでそんな彼女の為に、命を……)


 アクアは、そこまで考えて、やっと気付いた。


(……仲間だから……仲間だから、命を賭けられる、っていうのか……?)


 アクアは、自分の考えが信じられなかった。だが、そうとしか考えられなかった。


(大切な仲間だから……ただ、それだけの理由で、彼らは戦えるのか……?)


 目の前には、ナリ達が飛び上がって攻撃し、千里が《天災雷撃(カラミティサンダー)》を渚の怨霊の塊に放つ光景が浮かんでいた。その顔は希望に包まれていた。


(……僕は……何も間違ってないはずだ……才能のない者は切り捨てられるべきで……必要のないものに甘えてはいけなくて……才能のある者だけがそれを極めて良くて……メルは、その全てに当てはまらなくて……僕は……)


 彼は、自分がコスプレを始めた理由を、思い出していた。そして。


(僕は……僕は……僕、は……)


 自分が始めた理由を思い出す度に、自分が小さくて憐れな奴にしか見えなくなってしまった。


(僕は……不器用な自分を変えたくて……コスプレを始めて……衣装作るのも上手くなって……それで、なんで僕は、まだコスプレをしているんだ?なんで僕は……自分が非難したことを、自分で咎めないんだ?)


 彼は、砂浜に落ちた跡を見て、自分が涙を流していることに、ようやく気付いた。


(彼らは命を賭けて、メルを助けようとしてる……なのに、僕はまだ、才能や必要性についてずっと考えていて……自分を棚に上げた……才能に拘って、自分の才能の無さに気が付かなくて……メルを殺した。メルを殺しかけた)


 歯を食いしばった。涙がポトポトと砂浜に落ちていった。


(仲間を助けるのに才能は要らない……か)


 手を強く握り、俯いた。彼は、目の前で戦うナリ達が、眩しくて見れなかった。太陽がナリ達の後ろにいるのもあるのかもしれない。


「僕は……今までの2回の人生、何をしてきたんだろう……僕の人生、2回も無駄にしてしまった」


 彼は、小さく、そう呟いた。諦めたように、乾いた笑みを零していた。



「《天災雷撃(カラミティサンダー)》!」


 千里の魔法を唱える声が、砂浜に響いた。杖から放たれる雷は、渚の怨霊の塊目掛けて飛んでいく。渚の怨霊の塊は、段々小さくなっていった。ピーチパラソルの傘ぐらいの大きさになり、詩乃の杖の先に浮かんでいた。それを、ナリ達は息を切らして見つめていた。


「はあ……はあ……ま、まだ……?」


 千里が膝に手をついた。隣から「《魔力回復(トランスヒール)》」という、力のない声が聞こえてきた。美波が、千里に魔力を与え、砂浜に座り込んだ。全身から汗が吹き出ていた。誰も咎める者はいなかった。

 詩乃のドレスは、もうかなり小さくなっていた。裾は詩乃の足程まで短くなり、全体的にドレスが縮んでいた。詩乃は、下の方に浮かんでいた。


「だあ……だあ……も、もうだいぶ削ったと思うんだが……」


「さ、さっきから全然攻撃してこないから……かなりいい感じだと思うんだけどね……」


 亥李と参華が、自分の武器を支えにして立ち上がった。2人の顔には、汗が流れていた。


「美波……大丈夫?」


 陽斗がチラリと美波の方を見る。美波は頷いたが、とても安心出来なかった。美波は息を切らし、立ち上がることも出来ていなかった。


「魔力イコール体力とは、よく出来たシステムだな……亥李!美波があの状態じゃ、魔法を打てる回数は限られてくるぞ!ふう……どうすんだ!?」


 零が剣を砂浜に突き刺し、膝を折って言った。零自身も《魔力魔撃(エナジー)》や《火球火炎(ファイアボール)》を使用した結果、かなり体力を消耗していた。


「…………」


「おい!亥李!聞いてんのか!?」


「…………千里は、あと何回くらい魔法が撃てるか?」


 亥李が、静かに聞いた。千里は少し息を整え、言った。


「2回……いや、3回」


「……零は」


「俺は……4回……それと、《魔力魔撃(エナジー)》があと2、3回……だな」


「《魔力魔撃(エナジー)》を使わないことは出来るか?」


「出来るとは思うが……あまり威力は乗らない。多分ナリの拳1発より低い。元々《魔力魔撃(エナジー)》前提で立ち回り決めてあるから、あまり単体では上手くなくて……」


「分かった。参華。ナリ。あの塊まで、攻撃は届くか?」


 亥李が参華と、膝をついて詩乃を見つめるナリに尋ねた。参華は答えた。


「……届く。岩を使えば。でも……私の攻撃で消せるのかしら」


「それは、やってみないと分からねえだろ。ナリは?」


「……無理にゃ。あんな高いの届かないにゃ」


 亥李は、陽斗の方を見た。陽斗が横に首を振る。「流石に無理だよ」という意志が、亥李には見えた。


「……つまり……あと、あの塊に攻撃出来るのは、千里の3回と、零の4回、そして参華の攻撃。参華は、体力的にあとどのぐらい攻撃出来るんだ?」


「……2回、かしら。かなり高いから、すぐばてるかも……」


「なら、あの塊に攻撃出来るのは、あと9回以下。それで、詩乃を倒せるかどうかは分からねえけど……やってみるしかない。皆、それでいいか?」


 亥李の言葉に、全員がゆっくりと頷いた。亥李は気合いを入れる為に、自分の頬を手で叩いた。


「よし!千里と零は魔法で塊に攻撃!参華は槍で塊に攻撃!俺も《絶対命中(ラッキーヒット)》で届くか試してみるから、3人は頑張ってくれ!それで、ナリ、陽斗はドレスに攻撃!美波は体力を回復しててくれ!皆、疲れてると思うが頑張ってくれ!あともう少しだ!」


 ナリ達の、「おう」という、先程よりも力のない返事が帰ってきた。亥李は不安に思いつつも、自分の剣を盾の上に這わせた。


「《絶対命中(ラッキーヒット)》ォ!」


 必死に声を出し、疲れているのを紛らわせるようにして、剣を投げた。鎖が足りず、剣は渚の怨霊の塊には届かずに落ちていってしまったが、それを皮切りに全員が立ち上がり、構えた。ナリと陽斗は詩乃のドレスの元に向かい、千里は魔法を唱え始めた。零は魔法を心の中で暗唱し、参華は岩場に向かってジャンプした。


「《天災雷撃(カラミティサンダー)》!」


 千里がそう唱える。千里の杖の先から、雷が放たれた。それと同時に、零が突き出した右手の先から、小さな火球が飛んでいった。それらは真っ直ぐ、渚の怨霊の塊へ向かっていった。

 そして、槍をぐっと握り、近くの岩場を飛び上がっていく参華は、1番高い場所まで来ると、両足で思いきり踏み切った。それでも渚の怨霊の塊へは届かなかったが、参華はくるくると槍を回転させ、


「《槍の昇り藤(ルピナス咲き)》!」


 と叫びつつ、槍の端を持って、勢いよく投げた。風と共に突き出された槍は、風の渦を作りながらすぐ近くの渚の怨霊の塊に突き刺さった。参華はすぐさまそれを回収し、砂浜に着地した。裸足の足が、じんじんと傷んだ。


「いったた……」


「大丈夫?参華」


 陽斗が声をかける。参華は「大丈夫よ、自分の心配したら?」と、はきはきとした声で笑った。痩せ我慢だと、少し遠くにいた亥李にはすぐに分かった。


「そうだね……ナリ!行ける?」


「すう……はあ……うん!大丈夫にゃ!」


 深呼吸をしたナリが、陽斗を見つめる。2人は頷いて、詩乃のドレスに向かっていった。


「《紅鏡》!」

「《有象無象》!」


 陽斗がジャンプして、上から下に斬り下ろした。その隣で、ナリがジャンプしてから左足で蹴り、1回転しながら拳で3回殴りつけた。

 ドレスは、かなり短くなっていった。詩乃のドレスが蠢き、先程よりも短いドレスを作り上げる。そして、渚の怨霊の塊は、かなり小さくなっていた。ビーチボールの大きさぐらいだった。


「ねえ……これ、かなりいけるんじゃない?」


「ああ……あともう少しの辛抱だ!頑張れよ皆!」


 参華と亥李が全員を励ました、その時。


「《瑠璃光線(リユニオンレイ)》!」


 詩乃の口から、その魔法が唱えられた。黒と紫のレーザーが1本、詩乃の杖から放たれる。近くにいたナリと陽斗を狙っていた。陽斗は後ろに飛んで避けたが、ナリは走って、レーザーを振り切ろうとしていた。だが。


「あのレーザー……ナリを執拗に狙ってる……!」


 千里が呟いた。レーザーはナリを追いかけ続けた。ナリが驚きながら、詩乃の周りをぐるぐると回る。


「なっ……ナリ!《火球火炎(ファイアボール)》!」


 零が慌てて、口で魔法を唱えた。それはまっすぐ、渚の怨霊の塊へと飛んでいった。魔法が命中し、零の存在に気付いた詩乃が、そちらへ杖を向けた。


「《深淵灰弾(リグレットブラスト)》!」


 灰色の弾が、零の方へ飛んでいく。体力を消耗し、零はとっさに動けなかった。もうダメかと、目をつぶった、その時。


「《水晶堅盾(クリスタルシールド)》!」


 千里の声が、後ろから聞こえた。零が目を開けると、そこには八面体の水晶と、それを媒介に展開されるひし形の薄黄色の障壁があった。零は、それを何回か見たことがあった。


「せ、千里!」


「……残念ながら……僕は、もう無理かもしれないけど……零が倒れるより、僕が力尽きた方が、勝率が上がる!僕達は、絶対に詩乃に勝たなきゃいけないんだ!絶対に、詩乃を取り戻さなきゃいけないんだ!!」


 千里が叫んだ。千里が仲間の為に叫ぶのを、零は初めて見た。やがて攻撃が止むと、とうとう八面体は消えてしまった。障壁が、パラパラと崩れていく。同時に、千里もその場に倒れてしまった。


「千里!!」


 全員の声が1つに合わさった。アクアも涙を流しながら、千里を見つめる。美波が慌てて「千里くん!」と駆け寄った。気を失っているだけだったが、その原因は、全員にとって明確だった。魔力切れだ。


「千里……千里の思い、しかと受け取ったにゃ!」


 ナリがそう叫びながら、詩乃の後ろから飛び上がり、岩場、杖の持ち手の下を使ってジャンプすると、《肉体烈火(マッスルハッスル)》を唱えながら、叫んだ。


「《朝有紅顔》!いい加減目を覚ましてにゃ!詩乃!」


 詩乃の後ろから、力を込め、右手で詩乃本人に向かって殴った。ぷにゅ、と渚の怨霊が離れていくのと同時に、体重を前にかける。詩乃の水着に、ナリの拳が触れた。

 

「詩乃!」


「やめて……近付かないで!」


 詩乃が杖を後ろに向かって振るった。空中では避けられず、ナリは杖の攻撃を喰らってしまった。後ろに飛ばされるナリが見たのは、海。


「やばっ……海かにゃ!?」


 ナリが突き飛ばされたのは、海だった。ナリの耳に、「ナリ!」という零の叫び声が聞こえた。美波が、千里からナリへ杖を向ける方向を変えた。


「皆!心配しなくて大丈夫にゃ!」


 だが、ナリはそれを見て、ニヤリと笑って叫んだ。全員の動きが止まる。


(装備が不十分で……足場が不安定で……敵の攻撃を受けた時……!普段あまり使わないけど、今なら丁度いいのがあるじゃん!千里のカッコイイ言葉……無駄にはしない!)

 

 ナリはそう考えつつ、海の中の少し深い部分で、無理矢理足をついた。そして、攻撃を受けた勢いを殺すように両足に力を入れ、海の上に向かって飛んだ。向かったのは、詩乃のドレスの真下。そこでまたジャンプし、今度は岩場に向かった。そこでまたジャンプし、詩乃のドレスに、勢いよく向かった。


「いくにゃ!《有七種技(ナリセブン)》が6つ目、《有備無患(ゆうびむかん)》!」


 ナリが叫んだ。そして、ナリは詩乃のドレスの中心に向かって、思いきり頭突きした。詩乃のドレスに、塩水がかかる。ナリの耳元に、詩乃の小さな悲鳴が聞こえた。ナリが着地すると、陽斗と亥李の懐かしむ声と、参華の感嘆の声、そして零と美波のため息が聞こえてきた。ナリは、少し恥ずかしそうに笑った。


「やめて……やめてやめてやめて!」


 詩乃から声が聞こえてきた。全員が見上げると、詩乃は杖を握り、ドレスを掴んで、歯を食いしばった。詩乃から、ガラスの靴が脱げていった。ドレスはさらに短くなり、遂に普通の人間が着るようなサイズになっていた。だが、渚の怨霊の塊は、ナリの攻撃を受け、少し大きくなっていた。


「あたしは……あたしは、もう誰にも殺されたくないの!!」


 詩乃が叫んだ。そして。


「《精霊回復(フェアリーヒール)》!」


 詩乃が叫ぶように唱えた。全員、最初は誰もがその意味を理解していなかった。そして、すぐにその顔が青ざめていった。全員、その魔法がどれだけ簡単で、どれだけ恐ろしいかを、理解してしまった。

 詩乃の杖の宝石から放たれる紫色の光が、渚の怨霊の塊を包み込んだ。そして、渚の怨霊の塊が散らばり、詩乃のドレスへと戻っていった。渚の怨霊の塊は、遂に無くなった。

 その代わりに、詩乃のドレスが巨大化し、ドレスの丈が長くなっていた。今まで積み上げてきた攻撃が、全て無駄になった瞬間だった。

次回は11月8日です。

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