渚の怨霊の謎
全員で号令をかけた後、ナリと零の2人が《肉体烈火》を唱えた。そして、零が剣を握り直し、叫んだ。
「さて……月は出てねえけど、月の力、見せてやるぜ!《鬼神化》ッ!」
彼の体が青白くなり、体は全体的に大きく、額に鋭い角が生えた。
「零!いくにゃ!」
「おう!いくぞ!」
ナリと零が互いに声をかける。そして、2人は足を砂に叩きつけ、詩乃の近くで飛び上がった。
「《有為転変》!」
「《魔力魔撃》!」
ナリは、空中で詩乃のドレスに向かって6回殴りつけ、着地する寸前に右足で蹴った。零は白いオーラを剣に纏わせ、詩乃のドレスを右上から斬った。攻撃を受けた場所の渚の怨霊が、ふわふわと飛んでいった。だが、まだ終わりは程遠かった。
「うーん、まだまだって感じだね……」
陽斗が、砂浜から斧を抜いた。砂がさらさらと落ちていった。
「大丈夫、これから攻撃し続ければいいのよ。でしょ?指揮官亥李」
参華が槍をくるくると回しながら、亥李の方を向いた。亥李も剣を沿わせて、滑りを確かめていた。
「おう!陽斗、参華、一気にいくぞ!」
亥李の号令で、2人が「おう!」と応えた。そして、陽斗と参華は走り、亥李は剣を構えた。
「《槍の風船華》!」
「《紅鏡》!」
「《絶対命中》!」
全員が叫んだ。参華は槍を回し、風の力を使って勢いをつけ、力強く突いた。陽斗は斧を強く握り、高くジャンプした。そして、重力を使って、上から下へ思いきりドレスを斬った。亥李は、盾に剣を沿わせ、飛ばした。朝日に新しく作ってもらった剣だった。その後、盾と剣を繋ぐ鎖を横に引き、ドレスを引き裂いた。
まだドレスは原型を保っていたが、渚の怨霊はかなり飛んでいった。
「うーん……先が遠いね……」
「陽斗、まだ始まったばかりだにゃ。よーし、まだまだいけるにゃ!」
陽斗とナリが、そう話した。その間、飛んでいった渚の怨霊は、詩乃の持つ漆黒の杖に付いた宝石の先に集まっていった。
「……なんか、おかしくねえか?」
零が、その渚の怨霊を指さした。
「確かにそうね。離れたら離れっぱなしじゃないのね……」
参華もその杖を見上げ、そう呟いた。その時。
「《玻璃光線》!」
詩乃が、集まった渚の怨霊の力を束ね、黒色と紫色の混じったレーザーを、ナリ達に放ってきた。全員が飛んで避けたが、魔法は砂を走り、砂を巻き上げた。
「うにゃにゃ!?」
「み、皆怪我してない!?」
美波が慌てたように近付いた。砂はさらさらと砂浜に落ちていった。
「怪我はしてないけど……かなり威力が高そう。いつまで避けられるかも分からないし、時間との勝負になりそうだね。《天災雷撃》!」
千里がそう話しながら、魔法を唱えた。だが、渚の怨霊の1つが颯爽と現れ、雷を吸収した。結局、その1つを消してしまうだけで、千里の魔法は終わってしまった。
「嘘……」
千里が息を飲んだ。それを聞いて亥李が立ち上がった。
「魔法はあんま効かねえみたいだな。千里は魔法以外の攻撃は出来るか?」
千里が首を横に振る。
「なら、千里は魔法を引き続き放ってくれ。ただし魔力を多く消費するものは禁止。全体攻撃出来るやつがいい。で、武器持ってるやつはこのまま攻撃!なるべく連続攻撃出来るやつな!美波は、詩乃の攻撃が来そうになったら回復準備!」
亥李が叫んだ。千里が悔しそうに顔を歪め、杖を握る。それ以外の仲間は、それに応えるように構えた。
「なあ、亥李っていつもあんな感じなのか?」
零がナリに聞いた。ナリは頷いた。
「そうだにゃ。ゲームやってるからだと思うけど……結構頭いいにゃ。特に作戦立てるのが」
零は納得したように、「ふーん」と頷き、詩乃の方を向いた。そして。
「《有象無象》!」
「《魔力魔撃》!」
「《槍の大輪華》!」
「《紅鏡》!」
「《勇者霊魂》!」
全員がそれぞれの技名を叫び、飛び上がった。
ナリは左足でドレスを蹴りあげ、空中で一回転した後、重力をかけ右手で殴り、その後砂場に着地してから、両手で殴りかかった。
零は白いオーラを纏った剣で斬り上げ、そしてドレスの上の方に剣を突き刺し、そのまま垂直に斬り下ろした。
参華はくるくると槍を回してから、少し前に踏み込むと、風を斬り、そのまま槍で薙ぎ払った。
陽斗は斧を握って高く上がり、深くドレスに突き刺すと、そのまま勢いよく斬った。
亥李は詩乃にジャンプして近付くと、両手で思いきり剣を振り下ろし、上から下まで斬った。
全員、ぶにゅ、という音と共に、渚の怨霊が離れていくのを感じた。ドレスが短くなり、詩乃が下に降りてきた。だがそれと同時に、詩乃の杖の先に、離れていった渚の怨霊が集まっているのが見えた。怨霊は1つの束になり、ビーチパラソルがすっぽり入るほどの大きさになった。
「やった!」
5人が喜びの声をあげる中、千里はただ1人「……僕だけ使えないなんて……そんなの認めない!《火球火炎》!」と、必死に魔法を唱えた。
魔法はドレスの一端に向かい、渚の怨霊に命中した。それは渚の怨霊の1つを完全に消した。その場に、煙が残った。
「くそ……これでも駄目か!」
千里が呟いた。
(……もしかして、千里の魔法……)
だが、ナリはその光景を見て、少し考えていた。そして、自分の考えが正しいのか、他の誰かが言わないか、それを確認する為に、様子を見ていた。
その時。
「《瑠璃光線》!」
詩乃の杖から、また魔法が放たれた。遠くにいた千里と美波以外の5人は今度も避けようと、ジャンプして離れた。だが。
「に……2本!?」
レーザーは2本に増え、1本は先程までナリ達がいた場所を、もう1本は避けた先のナリ達を狙って放ってきた。ナリ、参華はとっさに避け、他3人は自分の武器で自身を庇った。だが、全員、どこかしら傷を受けてしまった。砂煙が、その場に舞った。
「皆に、太陽の輝きがあらんことを……!《青光回復》!」
すぐに美波が回復魔法を唱えた。青色の光が、ナリ達を包み込む。すぐに傷は癒えた。その光景を、千里はただ、悔しそうに見つめていた。
「なあ!さっきより明らかに強くなってるよな?」
零が大声を上げて亥李に聞いた。亥李は頷いた。
「ああ、明らかに強くなってる。多分、まだ俺達が知らない、あいつの隠された秘密があるんだろうな……そこが、攻略に重要なポイントだ。誰か、これまでの戦いで、不思議に思ったことはあるか!?」
それを聞いて、千里が意気揚々として言った。
「詩乃の杖の先で集まってる渚の怨霊……あれが集まる度、魔法の力が増しているんだと思う」
そして、千里が自分の杖で指し示した。全員がそれを見つめる。千里はそのまま続けた。
「詩乃はそもそも精霊使いだ。あれも精霊のようなものだと考えると、納得がいく。精霊使いは、精霊魔法を使う時、精霊の力が強く、カラー精霊である程、魔法の威力が強くなる……みたいなことを聞いたことがある。だから、渚の怨霊が集まれば集まる程……」
「……詩乃の魔法の威力が強くなる、ってことだね。実際、レーザーは2本に増えた訳だし」
陽斗が言った。彼の額に、冷や汗が見えた。
「じゃあ、つまり……私達が詩乃のドレスを攻撃する度に、渚の怨霊が離れて、それで上の方に集まって……魔法の威力がどんどん強くなる、ってこと!?」
参華が衝撃を隠せない様子で、千里に聞いた。
「うん。もっと言えば、やがては詩乃のドレスに戻る可能性もある。なんで離れたらすぐに戻る、ってことをしないのか分からないけど、可能性としては捨てきれない。だから、詩乃を助ける為には……渚の怨霊そのものを、消さなきゃいけない」
全員、その言葉を聞いて、苦戦を強いられる予感がして、ならなかった。だが、ただ1人。
(……消さなきゃ……いけない……)
ナリは、千里が言った言葉を、頭の中で反芻していた。そして、意を決したように、仲間に向かって言った。
「あ……あのにゃ!」
全員の目が、ナリの方に集まる。ナリは息を飲んでから、続けた。
「……あの渚の怨霊の塊を、少しでも小さくすればいいんだにゃ?」
「おう、そうだぜ。ナリ、なんかいい方法あるのか?」
「……亥李、千里の魔法で……あの渚の怨霊、消せるかもしれないにゃ」
ナリのその言葉に、全員が驚愕の声を上げた。
「ナリ、それ本当か!?」
亥李がナリを問い詰める。ナリはその嬉しそうな目を見て、
「わ、分かんないけどにゃ!さっき魔法撃ってた時、そんな気がして……!」
と、慌てて弁明した。
亥李はその言葉を聞き、千里に「千里!魔法撃ってくれ!なんでもいい!」と叫んだ。千里は嬉しそうな顔を隠しつつ、
「《天災雷撃》!」
と唱え、杖を振った。千里の杖の先から放たれた雷が、細く鋭く稲妻を走らせ、渚の怨霊の塊へ向かっていった。そして、塊に命中し、じゅわ、という音と共に、煙が上がった。ほんの少し、塊が小さくなった気がした。
「……なんか、少し小さくなってねえか?」
零が手で太陽の光を手で遮りながら、呟いた。亥李と千里もそれを確認し、嬉しそうに笑みを零した。
「よし、作戦変更だ!ナリ、零、参華、陽斗は引き続きドレスを攻撃!千里、お前は《魔力拡大》で魔法を当てられる数を増やして、魔法をどんどん放ってくれ!美波!お前は千里のカバーと、詩乃からの魔法が来た時の回復準備を頼む!千里の魔力切れが来そうだったら、《魔力回復》で回復してやれ!疲れたら休んでいいからな!」
亥李がテキパキと指示を飛ばし、仲間達は「おう!」と応えた。そして、全員武器を構え、ナリ、零、陽斗、参華、亥李は詩乃のドレスの裾の元へ走り、美波と千里は自分の武器を詩乃の方へ向けた。その顔は、希望に包まれていた。
その場に立ち尽くしていたアクアは、呆然として、彼女達を見つめていた。
参華のスキルを少し変更しました。
次回は11月5日です。




