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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
渚のシンデレラ
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夜夜中メル

「カメラがすり替わったぁ!?」


 参華の声が部屋に木霊した。隣の部屋に聞こえていないかと、美波が心配そうにそわそわし始める。詩乃は静かに、「うん……」と頷いた。


「ど、どうしよう、参華ぁ……警察とかに届けた方がいいよね?というか、めるのカメラも今行方不明なんだよね……ど、どうしよ……!」


 詩乃が慌てながらスマートフォンを確認する中、ナリは詩乃の手に持つカメラを眺め、感嘆したように呟いた。


「うーん……すこい似てるよね、これ。詩乃のカメラと」


「え?た、確かにそうかも……外見だけ見ても、めるのカメラだって分かんなかったし……違うところは、ここにマーズレッドとジュピターイエローのシールが貼ってあるところと、微妙に位置関係が違うのと、あと……電源ボタンの場所が違うところ、かな」


「それ以外は同じなの?このジュピターイエロー、随分人気なのね……私、知らなかったけど」


 参華が顎に手を付き呟いた。だが、詩乃が参華の方をくるりと向いた。


「ううん、違うよ……ジュピターイエローはそんなに人気じゃない。めるが昔、小学生くらいの時に放送してた番組だし、今知ってるのはちょうど大学生くらいの年代で、ずっと好きだった人なんて限られてるし……それに、当時ヴィーナスピンクの方が人気だったし……めるがSNSで繋がってる人くらいしか、ここまで好きな人はいないと思……あっ!」


 そこまで言って、彼女は気付いた。警察に届けるよりも、遥かに簡単に探し出す方法を。


「ど、どうしたの?詩乃ちゃん」


「美波!参華!ナリ!思いついた!思いついたよ!めるのカメラ取り戻す方法!SNSで発信すればいいんだ!」


 詩乃はやっと落ち着きを取り戻し、鼻から息を吹きつつ叫んだ。3人は詩乃に押されながら、彼女の作戦を聞いた。


「それは確かにいいかもしれないけど……個人情報、バレちゃわない?今ここにいるって……」


「めるは有名人だからいーの!大丈夫、美波達にはメーワクかけないから!」


 心配する美波を他所に、詩乃は素早くスマートフォンを取り出し、誰よりも早いタッピングで、文字を打った。そして、スマートフォンのカメラで、ジュピターイエローのシールのついたカメラを写真に収めた。


「というかさ、スマホにカメラあるんだし、そっちで撮ればよかったんじゃないの?今までの写真」


 ナリがスマートフォンを指さした。詩乃はスマートフォンから一切目を離さず、タイピングを行いながら話した。


「このスマホ、あんま画質良くないんだよねー。コスプレ写真を発信する時以外は、基本デジカメしか勝たん。こっちの……じゃなくて、めるのカメラの方が画質いいしー、フインキあるしー。よし!おっけー!」


「投稿」のボタンを押し、自分の書き込みをネットの世界に発信した。


「【拡散希望】

 めるのカメラ、他の人とカメラすり替わっちゃった!

 あのカメラには大切な思い出が詰まってるの。お願い!このカメラに心当たりがある人は、めると会って欲しいな!めるは明日、O県の海で、あなたを待ってます。

 でも…めるが目的ですり替えたなら、許さないぞ〜!

 #拡散希望 #めるのカメラ返して〜 #イエローのカメラ #レッドもいるよん」


 夜夜中メル、というフォロワー1万人越えのコスプレイヤーの名前で呟かれたその情報は、瞬く間に拡散されていった。中には、「はい!僕のカメラです!メルちゃんと話したくてやりました!w」「メルちゃんのカメラ触れるそいつ許さん」というコメントが集まっていた。


「……あんたのSNS、キモイのばっかしかいないの?」


 参華が画面を見て、呆れたように聞いた。


「違うもーん。一部の人がこうなだけで、めるの界隈は普通なのだ。レイヤーとして、めるを好きでいてくれる人がいることは、とっても嬉しいんだ。めるのもう1つの顔、みたいな感じだからね!」


「詩乃ちゃん、すごいフォロワーの数だね。そのアカウントの名前って……」


 美波が詩乃のスマートフォンの画面を覗いた。


「ん?夜夜中メル?ああ、昔のアカウント使ってるんだよ。IDとパスワード分かれば使えるしー。死んだとかSNSで言えないからね。使い回しだよん」


 そう言って彼女は、持ってきた温泉バッグの中にスマートフォンを入れた。他には下着やブラシ、化粧落としや洗顔など、沢山の物で溢れていた。美容に関するものが多かった。

 

「このまましばらく置いとけば、なんとかなるでしょ。じゃあ行こう!温泉温泉〜」


 詩乃が浴衣とタオルを取り、スリッパに足を入れた。ナリ達も慌てて取り、鍵を手に取る。鍵をかけ、楽しそうにエレベーターホールに向かう詩乃は、いつもの元気さを取り戻したようだった。ナリ達はそれを見て、安心して温泉に向かった。



「ふわー……極楽極楽ぅ……」


 露天風呂に肩まで浸かりつつ、参華が言った。詩乃と美波も隣にいたが、ナリだけはまだ露天風呂に入らずに、足先をちょんちょんと、お湯の中に入れていた。


「なーりー、早く入りなさいよー。寒いでしょ?」


 参華が顔をナリの方に向け、大声を上げた。ナリは体を縮め、彼女の体にぷつぷつと鳥肌の出来た腕を、ゆっくりと撫でた。


「う、うーん……そうなんだけどさ、猫になってから、水が苦手で……いっつも、零にすっごい怒られて風呂行くんだけど、シャワーだけで済ませちゃうし……」


 と、呟いた。水面に映る彼女の顔は、憂鬱そうだった。


「猫だからね……でも、そんなナリちゃんも可愛い!一緒に入ろー!」


 美波が露天風呂から出て、ナリの肩に腕を回した。そして、強引に露天風呂に引き込んだ。


「えっ、ちょっ、み、美波ーっ!」


 転ばないよう気を付けつつ、引き寄せられるまま温泉の中に入った。温泉の中は熱く、白く濁った温泉だった。近くに立てられた看板には、この温泉の効能について書いてあった。肩こりや腰痛に効くようだった。


「……案外いける、かも」


 ナリが肩まで浸かり、呟いた。彼女の鳥肌の腕は、ゆっくりと普通の肌に戻っていった。


「いやー、温泉ってやっぱサイコー!参華が亥李と手配したんでしょ?いい旅館じゃん!海も近いしさ!」


 詩乃が軽く伸びをした。夜が更け、月がナリ達を照らしていた。


「私が予約とったわけじゃないけどね。これで日本酒の入ったトックリでも温泉に浮いてたらサイコーだったんだどなー……」


「参華ちゃん……後で付き合うから、絶対に温泉の中で飲まないでよ……ないけどさ……」


「そう?じゃあ後で売店行きましょ。特産のビールがあるはずだからね!楽しみだなー!」


 参華の声が、女子の温泉に響いた。



 そんな参華の声を聞きつつ、男子は露天風呂で、はしゃぐことも無く湯に浸かっていた。


「あーあ……」


 零は月を見上げ、そう呟いた。


「元気なさそうだね、零。どうしたの?」


 隣にいた陽斗が、零の方を見る。湯気のせいか、汗びっしょりだった。


「どうしたも何も……亥李は疲れたから早く飯食って寝るとか何とか言って、さっさと風呂出るし……千里はのぼせたとか言って風呂出るし……あいつらには風呂を楽しむ大和魂がねえのかぁ?」


「とても彼ららしいけどね」


「俺らは女子みてえに、風呂で楽しそうにはなれねえな……」


 それを聞いて、陽斗は笑った。


「楽しそうだよね。まあ、俺らは俺らで楽しもうよ。風呂の後の牛乳とかどう?さっき脱衣所で見つけたよ」


「お、いいな。じゃ行こうぜ」


 そう話して、2人は立ち上がった。風呂の水面が、ゆらゆらと波が出来ていた。



 そして、夜6時頃。


「やっぱ風呂の後の牛乳ってサイコーだよなー!」


「これから夕飯だよね?楽しみー!」


 青と白の縦縞の浴衣を着て、男子と女子は脱衣所に出た。最初に出てきた零とナリが、顔を見合わせる。お互いに、お互いの浴衣姿を見ていたようだった。


「ナリちゃん、どうしたの?そこに突っ立って……」


「零、早く帰って、夕飯を食べに行こうか」


 ナリの後ろから美波の声が、零の後ろから陽斗の声が聞こえた。


「零、似合ってるね。お風呂入った姿は何回か見たことあるけど、浴衣は初めて。かっこいいよ!じゃあね!」


 そんな中、ナリがただ一言そう言って、手を振った。そして、そのまま陽斗にも手を振り、女子達で売店に向かっていった。零の生乾きの髪から滴る水が肩に当たった。零は初めて、自分が固まっていたのに気付いた。


「今の、ナリだよね?零、俺より高いんだから、立ち止まってないで屈むとかしてよ」


 陽斗が不服そうに零を見つめる。


「…………」


「……零?」


 しかし、零は陽斗の声に反応せず、黙ってエレベーターホールに向かってしまった。陽斗が不思議そうに後を着いていった。


(……風呂上がりのあいつは家で何回も見たんだ……何回も見たから、慣れたはずなんだ……でも、なんで俺、こんなに恥ずかしくなってんだ……?俺は何を意識して、こんなことになってんだ……?なんで、あいつにかっこいいって言われただけで、こんな嬉しいんだ……?)


 零は心の中で、ブツブツと呟いた。それは、陽斗には気付かれないようだった。


「なにイラついてるの?帰ったらテレビでも見ようよ」


 陽斗が必死になだめた。だが、零はそれを全く聞いていなかった。


(俺……この旅行で、何変になってんだ……?)


 零の顔は、うっすら赤く染まっていた。

温泉行きたいです。

次回は10月1日です。台風が接近する地域の方はお気を付けて。

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