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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
渚のシンデレラ
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一本木の丘

 車を走らせ、20分が経過した。車は都会を離れ、ポツポツとアコウの木が生えている道路に出た。車の外はとても暑かったが、中は冷房が効いていて、とても涼しかった。ただ、《異形》で獣人状態になったナリだけは、毛が辺りに舞って暑そうだった。


「ナリちゃん、大丈夫?」


 美波が声をかける。


「毛が抜ける季節なんだにゃ。大丈夫にゃ」


「あーあ、これレンタルしてるから、後でナリの辺り掃除しないと……」


 参華が悲しそうに、後部座席の方を見た。


「なあ、次どこ行くんだ?」


 零が声をかける。車の中では、美波と詩乃が持ってきたスナック菓子を回し、全員で食べていた。陽斗は、赤信号の合間に食べ、青信号になって運転を再開する、といった風にしていた。ただ一人、亥李だけは、いびきをかいて寝てしまっていた。


「次はね、パンフレットにも載っ」


 参華が後ろを振り向いた状態のまま話しかけた。だが。


「ぐがー……」


 亥李のいびきが割り込み、話すのを途中で止めてしまった。それでもめげずに、彼女は話をしようとした。


「……載ってた、一本木のお」


「ぐがー……」


「丘に!行こうとおも」


「ぐがー……はーぁっくしょい!」


 亥李がくしゃみをした。隣にいた詩乃が、「うわあああっ!亥李!汚ったないじゃん!」と、小さな車内で叫ぶ。亥李の前にいた零も、「おま、ま、まじかよ!」と、後ろを向いて小さく叫んだ。


「……誰か亥李起こして」


 それを見ていた参華は、わなわなと震え、いつもよりも低い声で呟いた。呆れているようだった。


「分かったよ。《異形》」


 千里がそう唱え、茶色のミニチュアダックスフンドの姿に変身した。シートベルトを抜け、詩乃の足の上に乗り、低い声で吠えた。


「おわっ!い、犬!?一体どこに……」


 千里の鳴き声で、亥李が目覚めた。慌てたように辺りを見回す。詩乃の太ももの上に四肢を乗せ、睨みつけるその姿を見て、亥李はそれが千里だと分からなかった。


「……なんで犬がいるんだ?」


「僕のことが分からないって、それはない()()。千里だ()()。で、遠谷()()()()、次の目的地って()()()()わん……」


 千里が喋る度、他全員が笑いを堪えていた。千里が不快そうに「……なにしてんだわん」と聞いた。そして、ついにナリが爆笑し始めた。


「にゃっははははは!もう無理!限界だにゃ!」


 それにつられ、他のメンバーも笑い始めた。千里だけは、不愉快そうに周りを見回していた。


「ナリちゃんは最初から猫だったから、違和感なかったけど……千里くん、インパクトすごいね……でもすっごい可愛い!」


 美波が腹を抱えて笑った。


「確かにね。千里、自分でなんて言ったか気付いてる?すごい面白かったよ。見たかったなあ……」


 それにつられ、陽斗も笑いながら運転していた。


「え?僕は普通に言ったわんけど……わん?」


「そうだよ千里!わんって!わんって!」


 詩乃が仰け反って笑っている。千里は太ももが揺れて、落ちそうになった。しょうがなく、元の席に戻った。


「私のこと、さっきなんて言った?すわんか?」


「……遠谷参華(すわんか)わん」


 それを聞いた参華と零が、千里を指さし大笑いした。


「もしかして、ナリが「な」のこと「にゃ」って言うみたいに、「さん」のこと「すわん」って言ってんのか?ははは!やっぱおもしれー!獣人族!」


「わんっ……も、戻るわん」


「あー!待って待って!写真撮るからー!」


 詩乃が慌てて写真を撮った。だが焦って撮ったからか、少しぶれてしまった。撮り直そうとした時、もう既に千里は人間状態に戻ってしまっていた。


「面白かったのにゃー。わんわん言ってて」


「うるさい猫。はあ……もう二度と《異形》しない。で、結局、遠谷参華、僕達はどこにいくの?」


 千里は頬を膨らませ、参華を睨みつけていた。笑われたのが気に食わないのだろう。ただ一人、美波は「すっごい可愛かったのになあ……」と呟いていた。


「分かった分かった、そんな怒んないの。次に行くのは、一本木の丘。少し離れたところにあるんだけど、小高い丘の上に一本だけ、ガジュマルが生えているの。ガジュマルが街を見下ろしているから、街が栄えている……とかなんとか」


「パンフレットで見たやつだね。そろそろじゃないかな」


 陽斗がハンドルを切りながら話した。辺りにはもう木はなく、草原だけが広がっていた。


「わあ!ねえ、窓開けていいかにゃ?」


 ナリが運転席に尋ねた。「どうぞ」という笑い声とともに、ドライバーの許可が降りた。

 ナリが窓を開ける。零の車で慣れていたナリは、すんなりと窓を開けることが出来た。

 窓から、すうっと、涼しい風が吹き込んだ。亥李も窓を開け、風の通り道を作る。車内全体に、緑の匂いが漂った。

 ナリが窓から顔を出した。シートベルトを一時的に取り、体を乗り出す。ナリの耳がぴこぴこと揺れ、髪の毛が美波の方に風で煽られた。

 ナリが周りを見回すと、後ろに1台の黒い車が走っていた。ナリは慌てて顔を引っ込めた。


「あぶな……後ろに車がいたにゃ。人間にならないと……」


「いいんじゃなーい?多分、ナリのこと見ても1人なら幻覚だと思うでしょ」


 参華にそう言われ、ナリは遠慮せずに顔を出した。車はナリを気にすることも無い様子で、走り続けていた。

 そして、ナリは前方右側に、小高い丘があるのを見つけた。そこに、まるで街を見守るかのように、一本のガジュマルが、根を張っていた。とても大きく、そして孤独な存在だった。


「わああ……!美波!あれがそうかな?一本木の丘!」


「そうじゃないかな?ね、参華ちゃん!」


 ナリと美波が、興奮した状態で参華を見る。


「ええ、そうよ!あれが一本木の丘!他の木は伐採されてしまったんだけど、あの木だけは、地域の人の強い願望で伐採されなかったんだって。だいぶ高齢なのよ。ずっと街を守り続けて来たのね……陽斗、窓開けて!」


「はいはい」


 運転席の窓を開けると、参華が身を乗り出した。一本木の丘を目に焼き付けようと、必死に顔を窓に近づける。陽斗は顔を赤くして、「ちょ、参華……!」と呟いた。陽斗の顔の近くで丘を見る参華には、聞こえなかったようだった。


「来てよかったにゃ……すっごい空気が澄んでて、気持ちいいにゃ!」


 ナリが気持ちよさそうに軽く伸びをした。隣で、美波がナリの様子を見ようとして、美波が並んで顔を乗り出した。その光景や、参華、急接近されて恥ずかしがる陽斗、窓に手を付き、無言で目を輝かせる千里、眠そうな顔をしながら、「良かった良かった」と頷く亥李を、詩乃がカメラに収めた。


(……こんなに楽しいなら……連れてきて正解だった、よな。あいつがあんなに楽しそうなのは、初めてだ)


 零はそんな風景を見て、静かに考えていた。



 その後、丘をぐるりと一周して、街に帰った。レンタカーを返し、旅館にたどり着いた頃、もうチェックインの時間になっていた。

 参華が手続きを行い、預けていた荷物を取り、鍵を渡される。旅館は和洋折衷といった旅館で、エントランスにシャンデリアがあるにも関わらず、部屋は和室になっていた。

 部屋は2つ用意されていた。それぞれ、212号室と、213号室となっていた。


「212号室が女子で、213号室が男子ね。でしょ?亥李」


 参華がそう言いつつ、鍵を亥李に渡した。亥李は「おう」と頷き、


「じゃ、大浴場行くタイミングはそれぞれの部屋でご自由に、ってことで。じゃあな!行くぞお前ら!」


 と、参華達に手を振った。そして、213号室の扉に鍵を差し、男子達で入っていった。


「じゃあ、中に入りましょうか!」


 参華の合図で、中に入った。八畳の部屋に大きな机と大きなテレビ、トイレと風呂、洗面台が付いており、ベランダも設置されていた。木製で出来たベランダには、ゆったりと腰かけられる椅子が2つ、テーブルが1つ置いてあり、そこから、夕日が沈む海を見ることが出来た。

 ベランダに設置されていた敷居は外されていて、212号室と213号室で、自由に移動が可能となっていた。


「わあ!すごい!」


 《異形》で人間状態になっていたナリが、声を上げた。


「でしょ?亥李が決めてきたんだけど、いいセンスしてるわよね。少し準備したら、お風呂行きましょ。露天風呂もあったはずだし。お風呂に日本酒の一つや二つ浮かんでても良かったのにねえ……」


「参華はそればっかだよねー。あ、める、テレビの向かい側!」


 詩乃が自分の黄色いキャリーケースを、テレビの向かい側に置いた。他の3人も、4隅に荷物を置いた。そして、自分のスリッパを確認したり、浴衣を手に取ったりしていた。美波が熱い緑茶を入れ、茶菓子を全員で食べた。


「お、この羊羹いけるー。緑茶とか久しぶりに飲んだけど、美波、入れるの上手いね」


「パックだから簡単だよ。詩乃ちゃんもやってみたらどうかな?」


「遠慮しとくー。で、風呂行く?」


「そうね、そろそろ行きましょうか!」


 参華がそう言って立ち上がった。だが。


「あー、待って、今日撮ったの確認してから……」


 詩乃が座り込み、カメラを取り出して確認し始めた。仕方ない、という風に、他3人も座る。


「ああーっ!!」


 突如、詩乃から声が上がった。何事かと3人が詩乃を見た。


「や……や……やばいかも……!」


「どうしたの?詩乃」


 ナリが首を傾げ、聞いた。


「これ、なんかおかしいなと思ったの。でもめるのと変わらないかなって思っちゃった。なんで()()()気付かなかったのかなあ!?」


 詩乃は泣きそうな顔をして、自暴自棄気味に叫んだ。


「落ち着きなさいよ。何があったの?」


 参華が尋ねる。詩乃が参華を見た。


「どうしよう、参華……める、他の人のカメラで写真撮ってた……カメラ、すり替わっちゃった……!」


 そして、詩乃は涙目で言った。

一本木の丘は、北海道の美瑛にある木をモデルにしています。今シリーズ唯一の北海道要素です。多分哲学の木ですが、ケンとメリーの木かもしれない。どちらにせよ、澄んだ丘の上に一人そびえ立っていて、とても気持ちいいのと、綺麗だったのを覚えています。

次回は9月27日です。

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