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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
渚のシンデレラ
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旅行へ

 これは、ブランキャシアでのこと。


「ここは、賢者の塔……?」


 クリスは、森の中にそびえ立つ塔を見上げ、そう呟いた。

「クーリエの迷い森」で精霊の足跡を見つけた精霊人は、その足跡を辿るため、その森にもう一度足を踏み入れた。そして、その奥地に踏み入れた精霊人が周りを見回すと、そこは、愛と勇気の塔の目の前だった。


「ねえ、ここってそんなに愛と勇気の塔に近かったかしら?メル」


「近いは近いんだけど……まさか、クーリエの迷い森が愛と勇気の塔に繋がってたなんて、ビックリだね。愛と勇気の塔……ちょっと、怖いよね」


「下僕が1番多いんだろ?愛と勇気の試練の挑戦者が後を絶えない、だったか?」


「そうよ。ねえ、帰らない?愛と勇気の塔なんて近付いても良いことないし……下僕と勘違いされたら困るじゃない?」


 アッシュとクリスが次々と話し始めた。だが、メルヴィナは帰ろうとする3人の首を掴み「帰らないでよ!」と頬を膨らませた。


「せっかくここまで来たんだから、もう少し様子見てこ?ほら、もしかしたら、精霊のことが何か分かるかもしれないし?」


「はあ!?メルヴィナお前、愛と勇気の塔に近付くって、恋人亡くしたか、よっぽどの馬鹿しかいないぞ!?」


「そうだけどさ、気にならない?クーリエの迷い森が、わざわざ愛と勇気の塔に近い理由。それに、愛と勇気の塔なんて、他の塔に比べてラッキーじゃない?」


「ラッキー?何が?」


 アルケミスが聞くと、メルヴィナは声を絞って言った。


「知らないの?愛と勇気の塔だけは人類でも簡単に中に入ることが出来るけど……意志と友情の塔は門が開かないし、夢と希望の塔は試練を絶対に攻略出来ない、って言われてるんだって。誰も分からないんだよ、入り方。だから、ちょっとラッキーじゃん?ほら、皆隠れて様子を……」


 メルヴィナが木の影に隠れて様子を見始めた。他の3人もメルヴィナに倣って木の影に隠れる。その時。


「……なんか、声が聞こえない?女の悲鳴のような……」


 アルケミスが不意にそう言った。アッシュが耳を澄ませる。


「……こんなことも出来ないの!?もう!今回ばかりは急いでるんだから!あたしの為に、早く馬になって頂戴!」


 少しして、大きな怒声が塔の上から聞こえてきた。そして、パリィン、という音と共に、窓を割って勢いよく黒馬が出てきた。その背には、黒いフードを被った者が、鬼の形相で手綱を握っていた。4人は、この騎乗者を知っていた。


「ら、ラブ=ブレイヴ様!?」


 4人の声が、森の中に響いた。精霊人は思わず、身を乗り出した。

 ラブ=ブレイヴは、ちらりと精霊人を一瞥した。だが、4人には目もくれず、森の中に前足から着地させると、一目散に城の方へ向かっていった。それも、とてつもないスピードだった。

 本来、森を抜けないとブランキャシア城まで行けないはずなのだが、なぜかラブ=ブレイヴは森を突っ切り、城まで駆けていった。まるで、木がラブ=ブレイヴに道を譲ったようだった。


「まずい……まさか、こんなことになるなんて……!」


 ラブ=ブレイヴが、そう口走ったのを、アッシュは聞き逃さなかった。


「ラブ=ブレイヴ様が建国記念日でも無いのに塔を出てくるなんて、よっぽどのことがあったんだわ……3人とも!あの方を追いかけましょう!」


 クリスの号令と共に、全員は駆け出した。


 そして。丁度時を同じくして、女王アストリアスが失踪したと、国民に知れ渡った。



 8月20日。

 亥李はベッドから落ちて目覚めた。朝の8時、頭からずり落ちてしまった彼は、ひりひりと痛む頭を抑え、ベッドから足を下ろした。


「……っつー……」


 ピィピィと、鳥のさえずりがカーテン越しに聞こえた。こんなに気持ちのいい朝は、亥李にとっては久しぶりだった。


「……ぬあ……朝飯……」


 親が起きているだろうか、と耳を澄ませた。物音はあまり聞こえなかった。


「チッ……あー……カップ麺でいいか……」


 亥李がころりと転がり、膝をついて立ち上がった。亥李の部屋は薄暗く、カップ麺のゴミと脱ぎ捨ての服が散らかり、埃が舞う、一般的に言うと汚い部屋だった。だが、彼の所有するパソコンとキーボード、そして録画機器の周りだけは綺麗にされており、床が見えていた。


(……こんな朝早く起きたの、何年ぶりだ……?)


 亥李がそんなことを考えつつ、近くにあるダンボールから、カップ麺を取った。半分開き、熱湯を電気ポットで沸かし始める。


(すげえねみい……なんで昨日の夜早く寝なかったんかな……あー……深夜……そういや、あの現象が……)


 ぼーっとする頭を抑えながら、亥李は深夜2時のことについて考えていた。


「えー、そろそろ深夜2時か。まあ、まだまだ狩るぜ!俺は深夜が本番だからな!で、今回のボス、巨大蛇バジリスクは魔法タンクが光るボスだから、野良で潜る場合は、味方にちゃんと魔法タンクがいるかどうか確認して、アタッカーか魔法タンクか選ぼうな!」


「Ballet of Ragnarok」を配信していた亥李は、巨大蛇バジリスクという巨大な蛇のボスキャラクターを倒す為、魔法タンクの銃を選択していた。


「よし!それじゃあ……」


 亥李が楽しそうな声を出し、巨大蛇バジリスクに挑もうとした、その時。

 突如として視界が真っ暗になった。コントローラーを握っていた手の意識が離れていく。


(……この時間に、この現象か……他の奴は起きてねえだろうし……まずい……!)


 自分の頭が床に落ちる感覚がした。そしてそのまま、意識を手放した。

 そして気が付くと、深夜の4時になっていた。配信自体は終わっていたが、彼はまだ「Ballet of Ragnarok」をプレイしていた。初心者用の「キープ草原」にたまに出没しつつ、レベル上げをしていた。コントローラーをしっかり握っており、頭も床から離れていた。


「……っ!」


 自分の意識が戻った感覚がした。亥李は一度プレイを止め、近くにあったコーラを飲み干した。ぷは、という息が漏れた。


「あー……配信終わってて……今、4時だから……2時間経ってるのか。やっぱ5日に1回なんだな……俺が知らない所まで進んでる。巨バジは3体討伐か……」


 彼はぶつぶつと独り言を呟き、セーブボタンを押した。


「これ、参華達に話しても分かんねえだろうなあ……明日……じゃない、今日、旅行だしな……早めに寝るか」


 パソコンを閉じ、コントローラーやキーボードをそのままにして、ベッドに入り込んだ。ゆっくりと目を閉じ、旅行のことを考えていた。


(明日は旅行……参華には一応何をするかは話してあるけど、ちゃんと出来るかどうか……とりあえず、明日の朝に荷物突っ込もう……)


 そうして、彼は朝8時頃に目覚めたのだった。


「あー……そうだ、荷物突っ込まねえと……」


 電気ポットを取り、カップ麺に熱湯を注ぎ込んだ。3分間待つ間にキャリーケースを開き、服を乱雑に突っ込んだ。そのまま下着を漁っていると、亥李のスマートフォンのバイブレーションが鳴り響いた。さんか、と表示されていた。


「あー……もしもし?」


「もしもし、じゃないわよ!今どこ!?」


「え、あ、家……」


「家!?あんた集合何時だと思ってんの!?」


「あー……9時?」


「9時は空港に着く時間よ!早く来なさい!」


 参華の怒号で、亥李はやっと気付いた。時間を間違え、寝坊したことに。


「や……やべえ!でも、朝飯食べてねえんだよ……」


「そんなの飛行機の中で食べなさい!早く来て!皆いるから!」


 亥李は慌てて立ち上がった。スマートフォンを床の上に起き、キャリーケースを無理矢理閉めた。そして立ち上がり、近くにあった着替えを取り、着替えた。近くにあった彼の剣が収納された《魔源収納(マナシェルター)》の結晶をカバンのストラップにつけ、そのままキャリーケースを持ち上げ、廊下に出た。


「……生ゴミだけは片付けとくか」


 自分の部屋を見て、亥李は溜息をついた。そして、カップ麺のゴミと空のペットボトルを手に取って、1階に降りた。階下は誰もいなかった。


「……まあ、引きこもってる子供のことなんて、どうでもいいよな。親ってやつは」


 亥李はそう呟き、キッチンにあるゴミ箱の中に突っ込んだ。そして、そのまま玄関に出て、扉に手をかけた。


「亥ちゃん……?」


 背中にかけられた声を、亥李は久しぶりに聞いた。振り向くと、それは亥李の母親だった。彼が転生してから、母親を見るのは2回目だった。


「…………!」


 亥李は、驚きのあまり声が出なかった。母親は、亥李の頭から足までじろじろと見て「どこ……いくの……?」と、恐る恐る聞いた。


「……旅行」


「旅行?どこに?誰と?」


「…………海。ネトゲ仲間と」


 亥李は、母親に仲間のことを説明するのが面倒になって、嘘をついた。


(嘘ついてまで親とコミュニケーション取るとか……俺、本当に成長してねえな……)


 亥李が顔をしかめた。母親と目を合わせることが出来なかった。だが。


「良かった……やっと、外に出てくれたのね……」


 母親は、目から涙を流していた。亥李はあまりの衝撃に、思わず母親の目を見た。母親は続けた。


「たまに、参華ちゃんって女の子がうちに来るのは知ってたの。でも……あの子のお陰で、こうして、旅行にも行くようになって……ここ最近、突然引きこもるようになって、どうしたのかな、って思ってたけど……本当に、嬉しい……!」


 母親が、嬉しそうに笑った。亥李は、また目を伏せた。


(……母親泣かすなんて、なんて情けない……前の志学亥李は普通の奴だったんだろうな……こんな親だったら、俺はきっと……)


 亥李はそう考えつつ、キャリーケースを握り直した。


「……お土産、買ってくるから。行ってきます」


 亥李は、そう呟いて、扉を開けた。


「……行ってらっしゃい!気を付けてね!」


 母親は、手を振って彼を見送った。



 そして。


「主催者が遅刻するという、前代未聞の始まりだったけど……無事、搭乗出来るわね!」


 荷物を預け終わった参華が、チケットを全員に手渡した。


「ねえ、亥李何してんの?」


 椅子の上で腕を組んで寝ている亥李を指さし、人間状態のナリが聞いた。この前買った新しい服を着ていた。


「夜中までゲームしてたんだって。馬鹿よね」


「参華ちゃん、そんなこと言わなくても……それで、これ誰がどの席なの?」


「いいこと聞いてくれたわね、美波!」


 参華が仁王立ちし、チケットを見せびらかした。彼女は続けた。


「3、3、2で別れてるんだけど……全部ランダム!どの席に座るかは飛行機の中でのお楽しみ!」


 参華が楽しそうに笑った。そして、ナリ達が乗る予定の飛行機に搭乗する時間になった。アナウンスが聞こえ、他の客が移動し始めた。


「よし!じゃあ乗るわよ!誰か亥李起こして!」


「分かった。亥李、起きなよ」


 陽斗に起こされ、亥李がふらふらと立ち上がった。


「あー……ねみー……」


「昨日早くに寝なかったのが悪いのよ。ほら、行くわよ!」


 そうして全員が、飛行機に乗ることになった。


「俺の隣は……千里と参華か、よろしく!なんか荷物上げるか?」


「ないわ。窓際は千里に譲ってあげるわよ!」


「別にいらない」


 そう返されて不貞腐れる参華を見て、楽しそうに笑う零の声。


「亥李、ほら、早く座りなよ。奥なんだから」


「ふわぁ……悪い陽斗、スープ来たら起こしてくれ……」


 溜息をつき、「はいはい」と苦笑いした陽斗の声。


「すっごい楽しみだよねー!美波!」


「うん!ナリちゃんは、どう?」


 席に付いていたパンフレットを見て、期待を膨らませる美波と詩乃の声。


 そして、


「うわあああああ……!」


 窓際で、離陸する瞬間を楽しみにするナリの声。


 その思いを、飛行機は空に飛ばしていった。

おまけ→https://ncode.syosetu.com/n1889ha/3/

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