表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
山風町の笛吹き
43/159

あやふやな記憶

 山を降り、皆と別れて家に帰った後も、ナリは零に奏太や子供たちのことを問い続けた。だが、彼は何かを知っている素振りを一切見せず、「もう遅いから寝ろよ」と言って部屋に戻って行った。外はもう、薄い紫色の光に包まれ、神々しくも見えた。


(なんで……なんで皆、奏太のこと忘れちゃったの?さっきまであそこに居たじゃん。それに……なんで奏太は消えちゃったの?)


 ナリは眠れるはずもなく、ただベッドの上に転がって、情報を整理するだけだった。


(たぶん、何かが起きたとするなら、あの時聞こえてきた声……その声の主が、何かをしたんだ。今まで聞いたことの無い声だった。優しくて、ふわふわしてて……でも、裏がありそうな、そんな感じの声……あれ?そんな声だったっけ……?)


 だが、ナリがそうやって声を思い出そうとする度に、その記憶が薄れていった。ナリが聞いた声が、彼女の頭の中で、優しくあったり、毒を吐いたり、細々と話したり、大声で話したりと、ころころと姿を変えた。ナリが聞いた声は、もう原型を留めていなかった。


(にゃ、にゃにゃにゃ?どんな声だったかな……そもそも、なんて言ってたっけ……)


 ナリは必死に頭を働かせ、なんと言っていたか思い出そうとした。カーテンの狭間から、濃い青色の光が漏れていた。


(……ああ、そうだ……ごめんなさい、って言ってた。ずっと奏太に謝って……あれ?奏太に謝ってたのかな?)


 光を見るだけで、目が覚めてしまいそうだった。ベッドの上で、手で目を隠し、もう一度、声の主が話していたことを思い出していた。


「あなたは自分を、子供達を、傷つけ過ぎた。だから……あの子が壊してしまう世界を、私は、守りたいの」


 彼女の頭の中で、色々な声が、その言葉を話していった。


(あの子が壊してしまう世界……?なんで、奏太が自分も皆も傷つけ過ぎると、世界を守らなくちゃいけないんだろう。奏太が原因で、子供たちや奏太を、魔法の国をこの世界から消したのなら……声の主は、何者なんだろう?ごめんなさいって……あの子に向けられた言葉なのかな?)


 考える度に、眠気が襲ってくる。ナリは、欠伸をするのは眠気を覚ます為だ、ということを思い出し、口を大きく開けた欠伸を、慌てて噛み殺した。


(うーん……こんなこと、山門有の時は、起きてなかったと思うのに……この世界は、なんで前よりこんなに変わってしまったの?それに、あの子って一体誰……?)


 ナリが頭の中で考えていくうちに、また眠気が襲ってきた。ナリは1つ欠伸を噛み殺し、そのまま目をつぶった。尻尾が邪魔だったので、横向きになった。


(私が猫になった時から、ずっと思ってたけど……今日のことも、なんだか夢みたい……とりあえず、今日は寝よう。こんなに夜更かししたことないや……おやすみ、私)


 ナリはそう心の中で呟いた。次の日、ナリと零は朝10時頃に、眠い目を擦って起きた。ナリは、前の日に考えていた声の主のことを、すっかり忘れていた。



「……あれ、珍しいな」


 次の土曜日。陽斗は誰もいない家で、スマートフォンの着信履歴を見て呟いた。そこには、「相沢詩乃」と書かれていた。留守番電話は入っていなかった。

 陽斗はその着信履歴に、電話をかけた。短いコールのあと、「もっしもーし!」という声が耳元から聞こえた。


「ああ、もしもし。日下部陽斗です。詩乃だよね?」


「そうだよーん!どうしたの?」


「いや、そっちから連絡したんだよ?」


 詩乃はその言葉の後、数秒の沈黙が流れた。


「ああ!忘れてた、それ千里なんだ!今変わるね」


 陽斗がドキドキしながら返答を待っていると、すぐに明るい詩乃の声が聞こえてきた。やっぱり少し詩乃は苦手だな、と、陽斗は心の奥で考えていた。


「千里?なんであいつが、俺に?というか、詩乃の電話で何してるんだ?」


「さあ?めるも知らないよーん。千里はスマホの扱い方下手くそだし、SNS入れらんないし、めるが貸したんだけど……あ、来た。千里!陽斗から電話だよ!」


 詩乃の声が遠くなった。そしてすぐに「もしもし、日下部陽斗?」という、若い声が聞こえてきた。千里だった。


「ああ。どうしたんだ?珍しいな、千里が電話してくるなんて」


「それは……その……し、詩乃。あっち行ってよ」


 千里の恥ずかしそうな声が、電話口から聞こえてきた。少し離れたところにいるのか「はいはい、分かったよ。おばさーん!手伝うこと……」と、詩乃の声が段々遠ざかっていった。


「そ、それで……あのさ、日下部陽斗」


「ああ」


「あの……日下部陽斗は、大人って、なんだと思う?」


 最初、陽斗は千里が何を言っているのか分からなかった。あまりにも唐突で、なんの事情も知らない彼にとって、訳が分からなかった。しばらくして、「あ、あの……」と、消え入りそうな声が、受話器の奥から聞こえてきた。陽斗はやっと、それが千里の年相応の悩みだと気付いて、大いに笑った。


「ちょ、ちょっと!笑わないでよ、日下部陽斗!」


「いや、ごめんごめん。なんでそれを俺に聞こうと思ったの?」


「そ、それは……他の人にも聞いたんだよ。詩乃と、ナリと、月島零と、遠谷参華。でも、あまり参考にならなくて……多分、僕の知り合いの中で1番大人なのは、日下部陽斗だから、聞こうかなと」


 それを聞いて、陽斗はまた笑った。千里がそう思っていると知って、嬉しさで笑ってしまったのだ。だが、それを千里は馬鹿にしたと取ったらしく「教えてくれないなら、電話切るけど」と、不貞腐れた声が聞こえてきた。


「ああ、いや、そうじゃないんだ。嬉しかったんだよ、そう言ってもらえて。千里、褒めるの上手いな」


「そ……そんなこと……」


 千里の、褒められ慣れてない態度がバレバレな声が聞こえてきた。陽斗は、こいつ案外可愛いな、と思いつつ、聞いた。


「はは、それで……大人ってなにか、だっけ?他の人はなんて言ったんだ?」


「ええと……詩乃は、安全安心を進む人で、猫は、成人を迎えた人。月島零は、弱音を吐かない人。遠谷参華は、どんなに辛い人生だったとしても前を向く人。そう言ってた」


 それを聞いて陽斗は、あいつららしいな、と思った。そして。


「なるほどね……そうだな、俺は……参華と少し被るけど、子供の時に馬鹿やって、青春して、思い出作って……それで、その思い出を抱いて、前に突き進む人。かな」


 と、話した。


「思い出作って、思い出を抱いて、前に進む人……か」


「ああ。どうだろう、千里の望む答えは手に入ったかな?」


「……その理論でいくと……僕は、大人なのかな」


「いや、違うと思うよ。だってまだ、お前全然思い出作ってないだろ?そういう面じゃ、俺達もそうだな。この体になってまだ1ヶ月……全然思い出作ってないから、子供だな。はは」


 千里が、言葉を失った。陽斗が何事かと思い、「お、おい、どした?」と声をかける。


「……皆、子供か……そっか……我儘ばっかで、うるさい奴ら……」


 すぐに、千里の嬉しそうな、泣きそうな声が、受話器の奥から聞こえてきた。陽斗も少し嬉しくて、小さく笑ってしまった。


「……ぐすっ……ああ、それで……詩乃から、連絡で……明日、土屋美波が、中ヶ丘のショッピングモールで……」


 千里は、陽斗に詩乃から言われたことを伝えた。


「なるほど……零も考えたものだね。俺も行くって言っておいてよ。楽しみだね」


 陽斗は、次の日のことを想像して、笑った。それは、とても楽しそうな一日になりそうだった。



 次の日の真昼。


「にゃんにゃにゃーん、にゃんにゃんにゃーん」


 光り輝く太陽の元、人間状態のナリは鼻歌を歌いながら、向日葵にホースの水をかけていた。水は、ほとんど向日葵の花弁にかかっていたが、ナリはそれで満足していた。


「おーい、ナリー。向日葵に水やってくれるのはいいけど……って、お前、花びらにしかかかってねえじゃねえか。土にかけろよ」


「ええー!?いいじゃんか別に!土にかけても花びらにかけても変わんないって!」


「変わるわ!ったく、貸せっての!」


 零がナリからホースを奪い取り、ため息をつきながら向日葵に水をかけた。水をかけるのに慣れた様子だった。ナリは、頬を膨らませて零を見ていた。

 水をかけ終わった零は、ホースの水を止めるよう指示した。ナリは不貞腐れながら、蛇口を閉めた。


「ほら、こうやるんだよ。こうすりゃ、土に水がかかって、向日葵が育つんだ。生物でやらなかったか?」


「うう……やったかも……」


「っと、あぶね、忘れるところだった。お前、中ヶ丘のショッピングモール、知ってるだろ?そこに行って欲しいんだ、美波が待ってる」


「え?美波?なんで?」


 ナリの黒いワンピースが、太陽の光を吸収してピカピカと光っていた。その長袖のワンピースは、蒸して暑そうだった。零は、じっとりと汗をかいているナリが、気の毒に見えた。


「……今まで悪かったな」


「え?な、なにが?」


 ナリが心配そうに顔を覗かせた。


「中ヶ丘ショッピングモールで、美波達が待ってる。これを持って、行ってこい。旅行で必要なものを買ってきな」


 零が渡したのは、零の財布だった。黒に赤い線の入った、ビニール素材の彼の財布には、3万円が入っていた。


「こ、これ……」


「……おばさんに電話して、貸してもらった。「若いっていいわね。絶対返しなさいよ」って言われたよ。俺もやっぱ……バイトかな……」


 零が頭をかいた。ナリは、驚きのあまり財布を見つめることしか出来なかった。


「…………!」


「な、ナリ?要らねえんなら、返してくれても……」


 零が慌てて聞いた。だが。


「零!」


「お、おう」


 ナリは、目を輝かせて零を見た。そして。


「ありがとう……美波達がいるの?すっごい嬉しい!零!本当にありがとう!」


 と、にっこりと笑った。その顔を、零は直視出来なかった。


「いっ……行けよ、早く。俺は必要なもん揃ってるから、お前だけで行ってこい」


 零は顔を赤らめ、向日葵の方を向いてしまった。ナリは不思議そうに零の顔を覗き、「ん?どうしたの?」と聞いた。


「な、なんでもねえよ!早く行け!」


「ふーん。じゃあ、行ってくるね!本当にありがとう!」

 

 ナリは零に手を振って、財布を持って出かけていった。その場に置いていかれた零は、ホースを片付けつつ、


「……っ、猫は猫らしくツンデレしてろよ……犬みたいだよ、お前……」


 と、小さく呟いた。彼の顔は、真っ赤になっていた。

お久しぶりです。

最近サブタイトルの法則を変えようかなと思っていますが、どう思いますか?変えるとしたら工事しないと。

ところでパラリンピック凄いですね。リレー楽しみです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ