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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
プロローグ
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妹、襲来

 剣と魔法中心の世界、ソルンボル。3つの国があり、それぞれの国に人々が暮らしていた。


 1つは秩序徹底維持による平和をもたらした、南東のテッポウ共和国。

 1つは反乱軍による奴隷解放デモが盛んな、自由を求める南西の国、イザベラ王国。

 そして、ソルンボルにある国中で最も大きく、大昔に戦争で滅ぼしてしまった他国の廃城跡やダンジョンが多く眠る、北の王国、ブランキャシア。


 全ての国では共通で、5種の種族が同じ場所で暮らしていた。


 1つ、最も多い種族、人間。1ヶ月に1度、小さな運命を変える能力、《運命変転》を使うことが出来る。土と共に発展してきた為、「土の勇者」と呼ばれている。


 2つ、湖や川の近くで生まれ育つ、エルフ。耳が長く、人間よりも身長が高い。水の中でも呼吸を必要とせず、水の中でも魔法を放つことが出来る。「水の勇者」と呼ばれている。


 3つ、火山の村で生活する、ドワーフ。人間よりも身長が低いが、その分皮膚が固く、火の中でも火傷1つ負わない屈強な体を持つ。「火の勇者」と呼ばれている。


 4つ、草原の村で生活する、獣人族。個々に決められた獣の耳と尻尾が生えた人間の状態で生を受けるが、自分の獣の姿と普通の人間の状態に変化する能力、《異形》を使うことが出来る。草原を走ることが多く、「草原の勇者」と呼ばれている。


 5つ、違う種族同士の間に生まれた子供、混血種。産まれてくる確率は低いが、どんな親でも混血種の子は全て同じ体つきをしており、体が青白く、人間ほどの身長で、小さな角が生えている。1日に1回、血を流すことで《鬼神化》が使用でき、《鬼神化》すると角が鋭く大きくなり、身体能力が大きく向上して、想像するだけで魔法を放つ事が出来る。その見た目から他種族から嫌われており、月の夜に変身することが多いため「月の勇者」と呼ばれている。



 ナリやナリの仲間は、そのどれかの種族だった。そして彼らは全員、ブランキャシアの住人だった。

 カサブランカが多く植生することから名付けられた、ブランキャシア。1人の女王と、その女王が住むブランキャシア城やブランキャシア城下町を中心として、逆正三角形を描くように設置された3つの塔により成り立っていた。

 3つの塔には、3人の賢者とその下僕が住むと言われていた。3人の賢者の正体は不明で、ブランキャシア建国記念日である7月9日だけは、3人の賢者が女王に挨拶する為に塔から出てくるとされていた。

 ブランキャシア王国内の東に「愛と勇気の塔」が、南に「夢と希望の塔」が、西に「意思と友情の塔」がそびえ立ち、その中にそれぞれ1人の賢者がおり、その賢者に謁見するためには、それぞれの賢者が用意した試練を突破しなくてはならない。試練に失敗すると、一生下僕としてその塔に閉じ込められる、と言われ、実際に行方不明者は後を絶えなかった。

 だが、素顔を見せない3人の賢者と女王によって、ブランキャシアが成り立っているのは周知の事だった。だからブランキャシアの住人は、女王と3人の賢者を崇めた。


 だが。ナリ達が異世界から追い出されてしまう直前、ブランキャシア王国の女王、アストリアスは行方不明となってしまっていた。


 全てのギルドに、「女王アストリアスを探し出した場合、その者の所属するギルドに10万ゴールドを王国から支給する」という通達が届いていた。ケルベロスアイや精霊人も例に漏れず、女王アストリアスを探す為にダンジョンを攻略していた。

 だが、次のダンジョン「イゲタ洞窟」へ行く準備をしていた最中、現実世界に戻ってきてしまった。ナリも、アッシュも。



 再会の喜びを分かちあったナリと零は、お互いの状況を整理していた。


「……つまり、零も私も、元々こっちの世界で生きてたんだけど、にゃんかの拍子で死んじゃって、違う名前で異世界にやって来て、それで突然、元の世界に帰ってきた、ってこと?」


「ああ、そうなるな。俺は元々川峰創(かわみねはじめ)って名前の大学生だったんだが……まあ、色々あって死んじまって、アッシュになって、突然月島零になったんだ」


「うーん……零や私以外にも、こんにゃ現象……まあ仮に「往復異世界転生」と呼ぶとして、それが起きているかもしれにゃいにゃ。にゃんとかして、その被害者たちと連絡が取れたらいいんだけど……」


「連絡……んー、思いつかないな。あんまり大々的にやると、その、往復異世界転生をしていない人から変な宗教だと思われちまうかもしれない。なんかいい方法ねえかな……」


 零がそう呟いた、その時。

 ピンポーン、とチャイムの音が鳴った。零が椅子から立ち上がり、インターホンを見る。


「兄貴?入るよ?」


 その声を聞いて、慌てて零がナリの方に向かった。


「零、今の誰にゃ?」


「悪いな、月島零の妹だ。一応名前は分かる。月島凛(つきしまりん)だ。山風町の学校の高校生だったかな。とりあえず俺迎えてくるから、お前は絶対喋んなよ!凛は普通の人だから獣人語喋れ!俺は分かるけど凛は分かんねえから!いいな!?」


 零はそれだけ言うと、玄関の方に小走りで向かっていった。ナリの方はというと、机の上から降り、月島凛、という名前をどこかで聞いたことがあると、その場で考え込んでいた。


「兄貴、お母さんからきんぴら。あとたまには家に帰って来いって。つーかさ、いくら実家(うち)から叔父さん家(ここ)まで1時間かかるからって、わざわざこっちに住まなくたっていいんじゃんか。確かに兄貴の大学、うちから2時間かかるけど」


「良いじゃねーかよ、どうせ頼み込めばタダなんだし。凛、お茶でも飲むか?」


「お構いなく。まじでお母さん呆れてっから。叔父さんと叔母さんに謝ってお金払ってんのお母さんだよ?申し訳ないとか思わない訳?」


「……思ってるよ」


 零は顔をしかめて答えた。凛がため息をつく。


「……あいっかわらず、昔から兄貴は自由だよね。色んな人に迷惑かけて。ホントこっちからしたらはた迷惑だよ。たまにはこっちのこと、考えて」


「はいはい……凛、説教しに来たんなら帰ってくれ。こっちも忙しいんだ」


「言われなくても帰るよ。風ノ宮高校から歩いて15分だからって、お母さんも私におつかい頼むのやめてくんないかな……」


 凛が荷物を取り、帰ろうとする。その足に、ナリは擦り寄った。

 彼女は思い出したのだ。月島凛は、山門有の同級生。オカルト研究部に所属する、暗い感じの女の子だった。兄の前だとこんな風になるのか、とナリは考えていた。


「なっ……!」


 零が面を食らったような顔をした。


「ん?何この猫。叔父さん達が飼ってんの?」


 凛が不慣れな様子で手を近づける。引っ掻かれると考えたのか、手を近付けたり離したりと、恐る恐る撫でようとしていたが、ナリにとってはそれは遊んでいるように見えた。ナリが楽しそうにその手にじゃれる。


「わっ!ちょっと、やめてってば」


 凛が思いきって手を近づけ、頭を撫でた。ナリが喜んで凛の体に触れた。


「ん、なんだ、すっごい可愛いじゃん。で?兄貴、この子どしたの?」


「あー……野生の猫拾ったんだ、多分。ナリって名前の、メスなんだけど。3歳くらい」


「ナリ?変な名前。でも可愛いじゃん、この子。ナーリにゃーん……よしよし」


 凛がもう一度ナリを撫でた。


「凛、お前って猫好きだったのか?」


「お父さんが猫アレルギーだから飼えないだけ。なんでわかんないのさ。可愛いねナリにゃん、お前はどこから来たのかね〜。ほんとに野生の子?」


「いや、それがわかんなくて……親を探したいんだけど」


 凛はそれを聞いて、何か気づいたように、零のスマホを指さした。


「それで聞きゃいいじゃん。なんのためにSNSしてんのさ。兄貴、公開アカでしょ」


 零とナリがそれを聞いて、あ、と同時に思った。


「……凛、お前天才か」


 零が左足を立てて座り、急いでスマホを取り出した。青い鳥のマークのアプリを開き、自分のアカウントを調べる。ナリもその画面を見るため、零の右足にべったり触れた。それが面白かったのか、凛が少し笑った。だが、零が凛の方を向いたからか、すぐにその笑みを隠した。


「……凛」


「はあ」


「お前やっぱり天才だな」


「はあ……」


 冷たい態度をとっている。ナリにとってはそれを見るのが面白かった。そんな凛の方を見ているナリは、零から「ナリ」と囁くような声で呼ばれた。


「ナリ、今から動画撮って投稿するから獣人語で求人しろ」


「はあ!?にゃんて言えばいいんだにゃ。というか求人て」

 

「さっきお前が言ってただろ、往復異世界転生の他の被害者を探すんだ!獣人語なら俺みたいに博識なソルンボル出身者ならわかる。そしたら何かわかるかもしれない。名乗ってDMに誘導しろよ、いいな!?」


 2人がこそこそと話しているのを、凛は訝しげに見つめた。


「ねえ、何話してんの?ナリにゃんに向かって。猫だよ?気持ち悪」


「え?あー……ナリに一応確認してたんだよ。今から動画撮って投稿するから。玄関で撮るか」


「ふーん。じゃあ見よっかな」


「お、おう……」


 零がカメラを構える。ナリとピントが合った。


(はあ……まじか。でもこれはチャンスかも。何を話せば……ちょっと恥ずかしいんだけどなあ……)


 ナリの大きな耳に、録画開始の音が聞こえた。


はじめまして!(にゃ〜にゃにゃ〜)ケルベロスアイのナリ(にゃにゃにゃにゃ〜)だにゃ。今はこうして(にゃにゃ。にゃにゃー)現実世界にいるんだ(にゃにゃんにゃんにゃ)けどにゃ?(にゃにゃにゃ?)私の(にゃにゃにゃにゃ)ことを(にゃにゃにゃ)知ってる(にゃっにゃん)人が(にゃにゃにゃ)いたら、こい(にゃにゃ、にゃにゃ)つのDM(にゃにゃにゃーにゃん)に連絡(にゃにゃんにゃにゃ)するにゃ〜(にゃにゃにゃ〜)


 ナリがそう言い終わったのを聞いて、零が録画を停止する。


「ナリにゃん結構饒舌……変わった猫だね。今のそこそこ長いからカットしなよ」


「いや、そのまんま投稿する」


 零がその動画を添付し、「猫拾ったwwwなんか訴えられたわwww内容分かる人募集www #拡散希望」と内容を書いて投稿した。


「まあ、それで見つかるといいんじゃない?じゃ、私もう帰るから」


「ああ、駅まで送るよ。こっからお前んとこの学校の最寄り行っても遠いだろ」


 零が立ち上がる。それを凛が目で制し、


「うっさい、ほっとけ馬鹿兄貴」


 と言って、逃げるように出ていってしまった。


「……零のSNS上の友達、どんにゃ人がいんのかにゃ。ていうか、にゃんだにゃあの喋り方。うざい」


「ああ、そうかよ、元々月島零がそういう投稿してたんだ……たしか、昔の俺と同じ大学……川鞍(かわくら)大学の生徒だったかな。月島零は大学2年生だから、まずそこら辺に伝わるはずだ」


「いいね」がぼちぼち投稿に付いていく中、1人、ダイレクトメッセージを送ってきた者がいた。


「も、もうDM来たぞ……ナリ」


「ご……ごくり……」


 2人で緊張しながらその宛名を確かめる。


「うええ!?確かこいつ、学生でノート作って企業立ち上げたとかいう奴じゃん!なんでこんな奴が俺のDMに……!?」


 そのアカウントの名前は、「Haruto Kusakabe」と書いてあった。そのアカウントからのDMを2人で見る。


 すると。


「あの、なんと言えばいいか…動画を見ました。

 あの猫の言っていることがわかる人が隣にいます。その子に俺とその人と2人で会いたいです。

 とりあえず、あの猫にケルベロスアイのブレインだと伝えてください。図々しくて申し訳ないんですけど…」


 と書いてあった。ナリが言葉を失う。彼女の目には涙が溜まっていた。


(ぶ……ぶ……ブレイン……!)


 その涙を見て、零もつられてしまいそうだった。

ブランキャシアやソルンボル、その他の異世界での地名は、百合の名前からとっています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 設定が盛り込んであってワクワクしますが、設定がどうストーリーに絡んでくるのか更に楽しみです。
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