表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
山風町の笛吹き
38/159

兄弟の絆

「Ballet of Ragnarok」を終わらせた頃には、もう日が傾いていた。


「今日の夕飯、何がいい?」


「んー、冷やし中華!」


「冷やし中華か……よし」


 零と、《異形》で人間状態に変身したナリが、エコバッグを持って黄昏時の道を歩いていた。炎天下の道は、日が沈もうとする中でもまだ熱かった。


「そういえば、詩乃から電話、来なかったね」


「確かになー……千里のやつ、大丈夫なんかな……」


 2人がそんな他愛もない話をしていた、その時。

 プルルルル、という無機質な着信音が、零のズボンのポケットから流れでた。

 零が見ると、詩乃からだった。慌てて出ると、詩乃の声が聞こえた。あまり焦っていないようだった。


「もしもし、零?悪いんだけど、今からトビー商店来て。ナリも連れてきて」


 詩乃はそれだけ言って、電話を切った。


「あ、おい!詩乃!」


「詩乃?なんて言ってたの?」


「あー……トビー商店に来いって。今から行けるか?」


「ええと、グローブとブーツが欲しいかなー……」


「分かった。すぐそこだから、俺も定期取りに行く」


 零とナリはすぐに家に帰り、エコバッグを玄関に放り投げた。零は定期券を、ナリはグローブとブーツを手に取って、走って家を出た。零のズボンには、《魔源収納(マナシェルター)》の結晶のストラップが括り付けられていた。



 トビー商店に着いたのは、17時半の頃だった。

 トビー商店のある「鍛冶屋つがね」の2階に行くと、そこには朝日と、参華と亥李がいた。亥李は鎖の取れた剣を朝日に見せていた。揉めているように見えた。


「ほんっともう!ケルベロスアイのダンバーはいっつも鎖を切って!しかも傷だらけだし!特注ってこと分かってます!?」


「いいじゃねえかよ、金はちゃんと払うって!で、いくらぐらいだ?今2000円しか持ってねえけど」


「…………」


 朝日のこめかみが、ピクっと動いた。亥李に対して苛立ちを見せてるようだった。


「なあ、何揉めてんだ?」


 零が話しかけると、朝日はくるっとそちらを向いて、「ああ、また冷やかしですか……さっさと帰ってください」と、疲れたような顔をして、追い払うように手を振った。そして。


「ケルベロスアイのダンバーの持つ剣と盾は特注なんです。この人剣と盾投げますから。毎回どちらかを無くされるので、鎖をつけたんです。ただ、鎖をつけるところなんて作ってませんから、特注なんです」


 朝日はそう面倒そうに教えてくれた。

 

「前に普通の剣とか盾で《絶対命中(ラッキーヒット)》やった時、トビー……朝日に怒られたんだよな。だから特注だぜ。名前はカタストロフィ。で、いくらだ?」


 亥李がドヤ顔で笑った。朝日は少し考えたあと、電卓を取り出して「税込み1650円で」と言った。亥李が「サンキュー!」と笑って2000円を渡すと、朝日は釣り銭を準備し始めた。


「はあ……とりあえず、カタストロフィをください。2日で仕上げますから」


「お?やったぜ。2週間後までかからなければ、大丈夫だ!問題ない!」


「はあ、そうですか」


「いや朝日、そこは「神は言っ」……」


 亥李がニヤニヤと笑いながら何かを言いかけた、その時。


「どもー。冷たいお茶持ってきましたー」


 という、ナリや零が聞いたことのない声が聞こえた。1階から、だらけた格好をした少女が、冷たいお茶の入った3つのコップをトレイの上に乗せ、持ってきていた。


「ありゃ、またお客さん増えたのか。さーせん、今から取ってきますわ。とりあえずこれ重いから、ここ置いときますね」


 彼女はトレイをカウンターに置き、お茶を乱雑に置いた。そして、トレイを持って下に行こうとした。


「いや……眞昼(まひる)、何してんの。上がって来ないでって言ったよね?」


 朝日が呼び止めると、彼女は無気力そうに答えた。


「だってー、母さんにお茶持ってけって言われたしー。このクソ暑い中来てくれたお客さんにはお茶出すくらいとーぜんでしょーがー」


「だったら言ってよ、来なくていいから」


「あー、そんなこと言うんだー。せっかく可愛い妹がお兄ちゃんのお仕事減らしたのにー」


「言われたらやるから。母さんにも言っといてよ」


 2人が話している中、ナリは会話に割り込んで、朝日に聞いた。


「あの……その子、朝日の妹さんなの?」


 それを聞いた彼女は左手でピースサインを作り、言った。


「あ、どもー。朝日がお世話になってます。朝日の妹の1人、津金澤眞昼でーす。今川鞍大学で建築の2年やってまーす。よろしくおなしゃーす」


感情の起伏もなく、「ぴすぴす」とピースサインを動かした。


「建築の2年?へえ、俺と同い年か!俺は経済なんだけど……月島零だ。よろしく」


「ふーん、よろしゃーす」


 眞昼は、特に気に留める様子もなく、「じゃ、また来ますんでー」と言って、下に降りて行った。


「なんか、不思議な雰囲気の妹さんねえ……ていうか、妹の1人って言ってたけど、何人兄弟なの?」


 参華が聞くと、朝日は面倒そうに答えた。


「4人兄弟です」


 それを聞いたナリは、「お、多いね」と答えた。朝日は「こんなことお客さんに言いたくないんですがね」と呟いてから、教えてくれた。


「さっきのが長女の眞昼。その下に次男の夕也(ゆうや)、その一歳下に次女の夜宵(やよい)がいます。僕を含めて4人兄弟です」


「いいじゃんか、兄弟いっぱいいてさ!俺なんか一回もいたことなくてよー」


「ケルベロスアイのダンバー、兄弟なんていてもいいことなんてありませんよ。うるさいし邪魔だし」


 亥李と朝日が話をしていると、また眞昼が上がってきた。手には、2つのお茶が入ったコップを置いたトレイを持っていた。彼女には階下で朝日の声が聞こえていたらしく、「朝日、デリカシー考えてー。せっかくお茶持ってきたのにさ」と、不満げに言った。


「ああ、これはどうも。終わったら早く帰って」


「知ーらなーいぞー。可愛い妹が謀反を起こして「つがね」を焼いても知らないぞー?」


「起こさないでしょ、眞昼なら。「つがね」はじいさんの遺産なんだから」


「ま、それもそうだけどー」


 眞昼がコップをカウンターに置いた。


「ねえ、眞昼さん。眞昼さんは朝日の仕事手伝わないの?」


 トレイをわきに抱えたところで、ナリが聞いた。


「手伝わないっすよー。そもそも何してんのかさっぱりだしー。朝日が変になる前はウチが「つがね」継ぐ予定だったからできなくはないけどー、大学忙しいしー」


「継ぐんだったら大学行かなくてもいいんじゃねえの?」


 亥李が聞いたが、眞昼が苛立ったような顔をした。


「いや……恥ずいじゃないっすか。同窓会で「「親の手伝いしてる」って言うよりも「大学行ってる」って言った方がふつーだし。そもそも「つがね」継ぐために大学辞めた方がおかしいって。それまで継ぐ気なかったのにさ、「じじいの遺産なんてどうでもいい」とか言って」


 眞昼は口を尖らせ、愚痴をこぼした。


「誰のこと言ってんの」


「さーねー。それじゃ、ごゆっくり」


 眞昼がそう言って過ぎ去ろうとした、その時。


「ハロー朝日!めるだよーん!ナリと零と参華いるー?」


 という、聞き覚えのある声が聞こえた。見ると、階段の下から詩乃が駆け上がってきていた。驚いている眞昼をよそに、「なーんだ、いるじゃん!」と、カウンターの上にあるお茶を1つ勝手に取った。


「ぷはー!上手い!って、ん?その子誰?」


 眞昼を見て言うと、眞昼は「ども、朝日の妹の眞昼っす」と軽く挨拶した。


「お茶また持ってくるから、朝日」


「まっひー!それは要らないよー、なんてったってめる達もう出ていくから!」


 その言葉に、朝日はピクっと反応した。「まっひー……?」と眞昼が詩乃に衝撃を受けている中、亥李は詩乃に、「どっか行くのか?」と聞いた。


「そうだよー?ほら、最近起きてる、理不尽な目にあった子……例えば、病気になったとか、虐待を受けたとか……そういう子が、誘拐されるとかいう事件。それを解決しにさ」


 詩乃のその言葉を聞いて、「……虐待……」と呟いた。その言葉は、亥李には聞こえなかった。そして、朝日はゆっくりと立ち上がり、呟いた。


「その事件を解決する。それは結構なことです。僕だって応援しますよ。武器を治しに来た。それも結構なことです。一生懸命やりましょう。でも…………」


 朝日の手はわなわなと震えていた。


「でも?」


 零が聞くと、朝日は目を見開いた。


トビー商店(ここ)で待ち合わせする必要ないでしょうが!冷やかしなら出ていってください!眞昼、そこの4人を連れ出して!ケルッ……あなたはまだ残ってください!」


 と、亥李を指さし、声を張り上げた。朝日の怒りを軽く受け流し、眞昼は亥李以外を連れ出した。


「申し訳ないっすわ、朝日は冷やかし嫌いみたいで……また来てくださいっす」


 眞昼は「鍛冶屋つがね」の外で、ナリ達に言った。


「うん!また来るよ、まっひー!今度はちゃんとまっひーと話するから!じゃあね!あと、めるは相沢詩乃だよ!よろしく!」


「ま、まっひーって……よ、よろしゃーす……」


 眞昼とそんな話をして、4人は別れた。そして。


「千里のことだよね?案の定、って感じ?」


 人の少なくなってきた夕暮れの道で、参華が聞いた。詩乃は先程とは打って変わって真剣な顔をして、3人に告げた。


「そうだよ。だから呼び出した。居なくなったって電話来たから、間違いないよ。稲子谷奏太に誘拐された」


 全員が息を呑んだ。詩乃は続けた。


「ナリと零、参華に連絡したのは、この事件のことを知っていて、巻き込めるのが皆しかいなかったから。千里は多分興味津々で着いていったと思うから、める達がしなきゃいけないのは、千里を連れ戻すことだよ」


「千里を連れ戻すって言ったって、どうするんだ?願いを叶える夢の国……だっけ。そこ、簡単に行けるのか?」


 零が聞くと、詩乃は「分かんない」と言って首を振った。


「なら、稲子谷奏太を探し出して後を追うか、問い詰めるかすればいいんじゃないの?」


「そう。でも、あいつがどこにいるかなんて分からないしさ。千里が誘拐されたのは夜だから、夜になったら連れていくんだろうけど」


 詩乃が困ったように肩を竦めた。


(は、初めて見た……精霊人が本気で悩んでるの……ノリと勢いで決めてたケルベロスアイとは大違いだなあ……)


 ナリはその光景を見て、そう考えていた。


「あ、亥李置いてきたけど、良かったのかな」


 そして、ナリは思い出したように呟いた。


「大丈夫よ。どうせあいつは「朝日のとこ行ったら疲れたわー。休憩させて?」って言うから」


「さすが参華、亥李のこと分かってるね」


「まあね」


 参華が笑った。


「とりあえず、俺の家で作戦立てようぜ。まだ買い物してねえけど」


 と、零が提案した。全員が頷いた。


「いいんじゃない?何食べる予定だったの?ナリ」


「冷やし中華だよ!せっかくだから4人作ればいいんじゃないかな?」


「そうだね!腹が減っては戦は出来ぬ、とか言うからね。めるも賛成!」


 こうして4人は、日が沈み始めた道を歩いていった。



 そして、その日の真夜中。


「……おや?」


 誰もいない、零の家の近くを通っていた男の前に、白黒の猫が現れた。その黒猫は、尻尾や手の先、腹が白くなっていた。腹には縫い目が残っていた。

 その猫は「《異形》」と唱え、獣人族の状態になった。尻尾をゆらゆらと揺らすその目は、怪しむように睨みつけていた。ナリだった。


「また会ったね。ええと、名前は……」


「ナリにゃ」


「そうか、ナリちゃんか。君は獣人族なんだね。驚いたよ。それで?君はどうして、こんな真夜中に出歩いてるのかな?親御さんが心配するよ」


「……願いが叶う夢の国とやらに、連れていって欲しいんだけどにゃ」


 ナリがそう言うと、男は面を食らったような顔をした。そして、腹を抱えて笑った。


「ははは、君が?これは意外だな、君は千里くんよりお姉さんじゃなかったのかい?」


「千里よりは歳上だけど、関係ないと思うにゃ。誰だって、願いの1つや2つ、叶えて欲しいものだにゃ。誘拐されるって分かってても」


 ナリの言葉に、男はまだ笑い続けた。電灯が男の顔を照らした。奏太だった。


「君は、勇気があるね。大人が羨ましがるさ」


 彼は、そう言って笑った。

クライミングかっこよかったですね。オリンピックの中でも、「お互いに高め合う」っていう競技は珍しいと思います。

次回は8月9日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ