Ballet of Ragnarok
次の日。
うだるような暑さの中、ナリは午前10時頃に起きた。自分用の猫の柄の茶碗にご飯を盛り、インスタントのお茶漬けの素をご飯にかけた。ナリの好きな干したしらすと鰹節を載せた状態のご飯に、お湯を注いだ。
「お前、ほんと好きだよな……それ」
自分の部屋から出てきた零が、呆れたようにそう言った。そしてそのまま、ソファの上に座って、テレビをつけた。
「今日の最高気温は32度。熱中症に十分お気をつけください」
そう言う気象予報士の声が聞こえた。
「いいじゃんかにゃー、これうまいし。今日零はなんか用事あるのかにゃ?」
「いや、ねえよ」
「にゃ、じゃあ今日もゆっくり出来るにゃんね」
「ああ。大学2年って忙しいはずなんだけどな……」
零と他愛もない会話をしつつ、ナリの猫柄の箸を並べた。そして、冷蔵庫の中の冷えた麦茶をコップに注ぎ、「いただきますにゃ」と手を揃えて、お茶漬けを食べ始めた。
「大根おろし、いらねーのか?」
「あ!忘れてたにゃ……」
「にゃにゃん」と鼻歌を歌いながら、冷蔵庫に向かった。そして、大根おろしとポン酢を取り出すと、お茶漬けの上に垂らした。
「それ……毎回聞くけど、美味いのか?」
「美味いにゃー!暖かいご飯と、冷たい大根おろしがマッチしてて美味しいんだにゃ!それと、大根おろしとポン酢が、しらすとも合ってて……!」
「はいはい。あ、そうだ。ナリ」
零がテレビを消し、ナリの方に近付いた。そして。
「お前さ、水着、やっぱ欲しいか?」
零はそう、何も気にしていないかのように聞いてきた。
(あー……やっぱ気にしてたかな……)
ナリはそう思いつつ、食事をやめ、「気にしなくていいにゃ」と真っ直ぐ零を見た。それを聞いた零は少し悩んだように頭を掻いてから「今週の日曜、暇だよな?」と聞いた。
「え?そりゃ暇だけど……何すんだにゃ?」
「それは当日のお楽しみ。楽しみにしとけよ?」
零はそう笑って、自室に戻っていった。「スマホ取ってくるわー」と呟いて、扉を閉じた。
「……零っていっつも教えてくんないよにゃ……」
ぶつぶつと不平不満を零しながら、ナリはソファに座り、ゲーム機を起動した。「Ballet of Ragnarok」のカセットをゲーム機に差したところで、零が帰ってきた。
「お?「Ballet of Ragnarok」だっけ?」
「そうにゃ!今日はやろうと思ってたんだにゃー、バレラグ!」
「バレラグって略すんだな……んで、お前のID覚えてんのか?」
「覚えてる訳ないにゃ!操作も覚えてないし、最初からやるにゃ」
「そんなことでいばるなよ」
零もソファに座った。テレビに「Ballet of Ragnarok」というタイトル画面が映し出された。丸ボタンを押して、「ニューゲーム」ボタンを押した。
「なあ、これどういうストーリーなんだ?俺全然知らねえんだけど」
「見てればわかるにゃ」
2人の短い会話の最中、テレビ画面には、緑豊かな大地や飛び交う小鳥達、美しく咲き誇る色とりどりの花が映し出されていた。
『世界はまだ、美しかった。誰もが平和を愛し、誰もが幸せに暮らしていた。』
と、茶色のフィルターのかかった画面に、ナレーションと文字が映し出された。画面は変わり、のどかな村の風景が次々と映し出された。
『人間、エルフ、ドワーフ、獣人族、機械族……神に愛された種族達が、それぞれの村で暮らしていた。彼らは幸せだった。』
ナレーションがそう言った。「混血種はないんだな……」という、零の悲しそうな独り言を無視し、ナリは画面を見つめた。
『けれどその幸せは、長く続かなかった。』
黒い画面の上に、ナレーションの文字が映し出された。
『死神の手先である魔物達が、一斉に村を侵攻した。神は、祝福をもたらした人類を、助けることが出来なかった。』
村に火が放たれ、魔物達が人類に襲いかかる場面が映し出された。逃げ惑う人類が森に集まっていき、カメラが引いていく。森にも火の手が上がった。人類が、わらわらと集まり、森の奥にそびえ立つ塔を目指していく場面が映し出された。
『生き残りは、何が起きたかも分からぬまま、塔を目指した。神の降り立つと言われた塔は、魔物達からの災害を逃れる唯一の場所だった。』
そのナレーションの後、塔の頂上にカメラが移動し、
『その災害を、人々はラグナロクと呼んだ。塔に住み始めた人類は、種族の垣根を越え、ラグナロクを終わらせる為の兵士を、集め始めた。』
というナレーションが流れた。兵士長と思われる人物が、カメラの中心に現れた。無機質な感じのする塔の頂上で、兵士長は言った。
『お前が新しい兵士か。神がなぜお前を選んだのか全く検討がつかないが……とりあえず、自己紹介してくれ』
ここでようやく、カーソルと5つの種族の男女の画像、そして「新兵の種族は?」というメッセージが映し出された。
「ここから操作出来るにゃ」
「ふーん……何族にするんだ?」
零が尋ねると、「獣人族にしようかにゃー……」と呟いて、カーソルが獣人族の方に動いた。
「これ、種族ごとになんか違いあんのか?」
「いや、見た目の違い以外なんも無いはずにゃ」
「なら、獣人族でいいんじゃねえの?」
零のアドバイスを聞いて、ナリは獣人族を選んだ。次に性別を選ぶ画面が表示された。
「女にするにゃ」
「即決だな……」
「自分の性別の方がやりやすいに決まってるにゃ!」
「それ、一部に喧嘩売ってるぞ」
女を選ぶと、次に見た目を決める画面が出てきた。骨格、頭、目、髪、耳、鼻、口など、その項目は多岐にわたった。その中には「種族」という項目があり、そこで尻尾や耳、髭などが調整出来るようになっていた。
「これ、全部微調整出来んのか?」
「そうだにゃ!ケルベロスアイのナリっぽくするにゃ〜」
1時間かけ、ナリはようやくキャラクターを完成させた。装備は初期装備の「新兵の服」を着ているので変えることは出来なかったが、それ以外はかなりケルベロスアイのナリに近い姿をしていた。違うところは、黒い髪に白い髪の束が混ざっており、尻尾も白い部分がかなり多いところだった。
「出来たにゃー!」
「なんか……微妙にお前っぽくなくね?白いところとか」
「いいじゃんかにゃたまには違っても!」
「決定」という場所にカーソルを動かした。そして、最後に「新兵の名前は?」というメッセージと共に、五十音のひらがなが表示された。
「ナリ、か?」
「いや、でも前にその名前使っちゃったしにゃー……他の人と被らないようにしてくださいって、書いてあるし」
ナリの言葉を聞いて、零は画面の隅にある、「他の兵士と被らない名前にすること」という文字を見つけた。
「じゃあひらがなとか」
「なんかそれはにゃー……」
「じゃあアルファベットか?」
「うーん……」
「なり」や「Nari」と打ち込んだが、すぐに消した。そして、5分ほど悩んだところで、「ナリユウ」とつけた。
「よし!これなら被らないにゃ!あ、でも……」
ナリがすぐに「ナウリュ」とつけ直した。「よし!」とガッツポーズをとり、決定ボタンにカーソルを移動させた。
「なんでナウリュなんだ?」
「有の文字は有って普通読むにゃん?だから」
「割とテキトーだな……」
「テキトーでいいの!」
それでキャラクターの制作が終わり、次にチュートリアルに移った。銃を使って、発砲、魔弾装填、回避などの操作を確認した。
そしてそれが終わり、兵士長から「訓練が終了した者への義務」として、8種類の弾丸が用意されていた。ナリは1番左端にあった、「アタッカー」の弾を選んだ。
「これ、職業選択とかねえの?」
「ないにゃ。でも、銃ごとに出来ることが限られてるにゃ。今私が持ってるのはアタッカーで、例えば……」
ナリは最初のバトルフィールドである「キープ草原」に出てきた。敵も弱いものしかおらず、初心者が戯れていた。その中で、ナリはあるキャラクターを発見した。
「あのキャラは、ヒーラーの弾っぽいにゃ。アリス……可愛い名前にゃんね」
アリスを一瞥し、ナウリュは経験値稼ぎの作業をし始めた。たまにストーリーを閲覧し、経験値を稼ぎつつ、周りのプレイヤーの様子を見ていた。そして。
「…………」
「どうしたよ、そんな驚いた顔して雑魚狩りして。そろそろ大丈夫だろ、次のエリア行けよ」
「いや……さっきのアリス、近付いてきてるにゃ……?」
「え?」
実際、アリスはナウリュに近付いてきていた。よく見ると、アリスは序盤に手に入らない装備を着ており、その姿は異質だった。
「な、なんでこんなところ来てんだかにゃ?ここ通らなくても高レベルエリア行けるのに……というか、やっぱ私に近付いてきてないかにゃ?」
「PKされんじゃねえの?」
「ぴー……けー……?」
「プレイヤーキル、まあプレイヤーがプレイヤーを殺すことだな」
「や、やばやばにゃあ!ど、どうすれば……!」
ナウリュが慌てながら弾を装填していると、ついにアリスは、ナウリュと話すことが出来るほど近付いていた。アリスは可愛らしい機械族の女の子で、長い金髪に赤いリボン、そして大きな鎧を身にまとっていた。
「さすがに勝てないにゃー!ヒーラーだとしてもー!」
「終わったな……」
2人が諦めていた、その時。
アリスは、フレンド申請をしてきた。
「……え?」
2人の声が重なる。アリスの手が、ナウリュに差し出された。アリスはレベル180の、この世界で言うなら凄腕のプレイヤーだった。「配信してます!」というショートメッセージが、キャラクターの横に表示されていた。
「え、ええと……とりあえず、フレンド申請受け取ろうかにゃ?」
「まあ……心強いし、いいんじゃね?アリスって名前の配信者か、調べてみるか……」
零がスマートフォンの画面に夢中になる中、ナリは「フレンドになる」というボタンにカーソルを合わせた。丸ボタンを押すと、アリスは「ありがとう!」というメッセージを送り、サムズアップポーズを取った。ナリも慌てて、アリスと同じことをした。
「んー……バレラグ生声配信で使われてる名前っぽいか?でも多すぎて分かんねえな……寅垣内涼、三國葛葉、あきひとgames……とりあえず、今どこも配信してねえな」
零がスマートフォンを見ながら呟いた。
「なら大丈夫かにゃ?とりあえず、ストーリーするって言わなきゃにゃ……」
ナリは「ストーリー進めるので失礼します」とメッセージを送った。だがアリスは「お手伝いするよ!」とナウリュの後を離れなかった。
その日、ナリは零と買い物に行くまで、「Ballet of Ragnarok」を進めた。アリスのサポートのお陰で、レベルは30になり、操作も上達していった。
ナリは零に言われるまで、夢中になって遊んだ。やめる時、アリスは「また遊ぼうね」と手を振ってくれた。
しらすのお茶漬けは書いていて非常に食べたくなりました。
Vtuberは見たことないので、名前はかなり適当です。
次回は8月6日です。




