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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
プロローグ
3/159

邂逅

 最初、人間の言葉を彼女から聞いた時、零はそれが信じられなかった。

 しばらくして、実感と共に衝撃が体中を走った。


(……え?嘘だろ?猫が今……喋った?今どきの野生の猫って喋んのか?いやそんなことないだろ……じゃあやっぱり誰かの飼い猫か?でもだからってこんな流暢に喋んねえだろうし……こいつは一体……)


 未だ目の前の猫は、自分の顔の白と黒の比率も知らないまま、顔面蒼白で零を見つめている。

 衝撃で言葉を失ってしまっていたが、とりあえず零はこの沈黙を打破する為に、彼女に聞いた。


「……水ー……でも、飲むか……?」


 数秒の沈黙の後、ナリは何度も頷いた。

 ナリの為に皿に水を入れ、自分はコーヒーを入れて、ダイニングテーブルの上に座った。零は驚きすぎてコーヒーも手につかなかったが、ナリは逆に水をこれでもかというほど飲んだ。


「……あの……俺の、聞き間違いだったら悪いんだけどさ……お前、喋れるのか?ええと、ニャリ?だったか?」


「……にゃ」


 ナリはしらを切るつもりだ。やはり気になってしまった零は、台所から煮干しを取り出すと、ダイニングテーブルの上に置いた。ナリの目には、それがご馳走のように見えた。


「にゃーん!にゃにゃ、煮干しがこんにゃに美味しそうに見えたのは初めてにゃ!いっただっき……」


 両前足で掴み、1匹の煮干しを食べようとするナリ。零は確信した。ナリが、しまった、というような顔をする。


「……あの、ニャリさん、真実を教えてください。なんであなたは、喋れるんですかね」


 呆れたように溜息をつき、聞いた。ナリは少し悲しそうに、言った。


「……まず、私はニャリではにゃいにゃ。その、今の私じゃ「にゃ」が「にゃ」ににゃるから……「にゃにぬねの」のにゃが、ニャリのにゃにゃ」


「あー、つまりお前は、ニャリじゃなくて、ナリ、なのか?やっぱり、飼い猫なんだな。前の飼い主は?」


「飼い主はいにゃいにゃ。私は…………その…………」


「その?」


「にゃ……も、元々人間だったのにゃ。だから、喋れるのにゃ」


 零は驚いた。人間が猫になるだなんて、聞いたことが無い。

 ふと見ると、ナリは零の顔から目を逸らし、気まずそうにしていた。あまり話したくないことだったのだろう。

 零が言葉を失っていると、ナリはそのまま、ゆっくりと話し出した。


「あのー……嘘ついてるとか、思わにゃいで欲しいんだけど……私は元々、人間だったのにゃ。そして、あの、1度、死んでしまったんだにゃ。崖から落ちちゃって、ね。

 で、そのー……私は、ソルンボルっていう世界に行っちゃって……まあ、にゃんだろ、異世界転生?したんだにゃ。ブランキャシアって国で冒険者ににゃって。それにゃりに楽しかったにゃ」


 零の心臓が、ドクンと大きく鼓動した。そのような履歴は、彼にも、記憶がある。


「それで、ある日気付いたら、こっちの世界で猫ににゃって……って、零?どうしたのかにゃ?」


「……お前……ソルンボルで名乗ってた名前って……一体……」


 零には、ソルンボルの知り合い中で、たった1人、ナリという名前の冒険者がいたことを思い出していた。そしてそれが、猫のナリが冒険者だった時の名前ではないか、という疑念が、彼の中に生まれていた。


「……にゃ?そんにゃん聞いてどうするんだにゃ?ニャリ……あー……今の私のにゃ前とおにゃじだにゃ」


 不意に、零から涙が溢れ出た。それは、彼の前の大切なライバルの名前で、彼が初めて見つけた、自分と同じ状態の人間だった。今は猫だが。


「にゃ……にゃにゃ!?ちょ、零、大丈夫かにゃ!?わ、私、にゃにか言っちゃダメにゃことでも……!?」


「違う……そんなんじゃない……!ナリ……俺のことがわかるか?月島零の……()()()()名前……!」


「……その前……って、まさか……零も、ソルンボルから……!」


「ああ……俺は……ギルド「精霊人」の混血種……魔法剣士の……アッシュだ……!」



 ケルベロスアイには、よくダンジョンの中で出会ったチームがあった。

  名前は、「精霊人(せいれいじん)」。ケルベロスアイと同じ、4人のチームだった。

  リーダーであり人間の槍戦士、クリス。人間の精霊使い、メルヴィナ。珍しい魔術師である犬の獣人族、アルケミス。人間とエルフの混血種であり魔法剣士のアッシュ。

  この4人は、精霊の謎を探し求める為、ダンジョンの中を冒険し、役に立つ宝を探し求めていた。度々ケルベロスアイと出会い、そしてお互いに宝を狙う為、ケルベロスアイと精霊人はライバルだった。

  この中でも、ナリはアッシュと仲が良かった。正確には、ナリとアッシュの負けず嫌いな性格や、牽制役という役割が被っているせいで、ダンジョンで出会い、休憩がてら情報共有などで話している時、大概ナリ達は戦いを挑み、五分五分の勝負を繰り広げていた。


 その日も、ケルベロスアイと精霊人はダンジョンの中で出会い、情報交換と休憩をしていた。


「それでな?ブランキャシアの東の果てに、ダンジョンの「ヤマナ廃城跡」は、ケルベロスアイが行く前にダンジョン制覇の情報が届いたんだ。だから宝ももうないと思う」


「精霊の発見情報は?何か聞いた?」


「「ヤマナ廃城跡」では聞いたことないな。でもその隣の「ササハリ鉱山」の奥地で、精霊をちらほら見かけるとか、そういう噂は聞いたことがある。「ササハリ鉱山」はまだ奥地まで行けた人がいないから、もしかしたら精霊の巣に繋がってるのかもな」


「精霊の巣、ねえ……そこに絶滅しかけた精霊たちの楽園、精霊の巣があるのかしらね。ねえちょっと、メルー?」


 ケルベロスアイのリーダー、ダンバーと、精霊人のリーダー、クリスは、ダンジョンのことについて、椅子に腰かけて話していた。

 メルと呼ばれたメルヴィナが、精霊の巣について話しに加わる。それ以外の5人は、ナリとアッシュが戦い、それを他3人が観戦していた。


「はあ……はあ……アッシュ!今のはだいぶ効いたけど……!そっちもギリギリでしょ!?」


「ハッ!全然ギリギリじゃ……はあ……はあ……」


「やっぱりそうじゃん!はあ……も、もう1回……!いくよ!《狼牙人手(ウルフバイト)》!」


「……はあ……おう!望むところだ!《肉体烈火(マッスルハッスル)》、《魔力魔撃(エナジー)》!」


 ナリが拳に鋭い牙を生やし、アッシュが肉体を増強させ雷をまとった剣を構える。ナリの拳と、アッシュの剣がぶつかり、火花と激しい金属音が鳴り響いた。


「頑張れー!終わったら回復してあげるからね。ふふふ、ナリちゃんとアッシュくん、今回はどっちが勝つかな?どう思う?ブレインくん、アルケミスくん?」


 とフィーネが微笑みながら聞き、


「どう、だろう……前回はアッシュが勝ったけど……その前はナリだったし……アルケミスは?」


「アッシュは《魔力魔撃(エナジー)》と《肉体烈火(マッスルハッスル)》での一撃がとても強いが、魔力を使ってしまうためにそう何回も打てるわけじゃない。

 ナリは拳の一撃はそう強い訳じゃないが、《狼牙人手(ウルフバイト)》でのダメージ強化、そして手数がある。

 軍配がどちらに上がるかは確定的ではないね。まあ僕は、同じギルドのアッシュに賭けるけど」


 とブレインとアルケミスが話し合っていた。


「賭けるの?んー、そうだなあ……可愛いからナリちゃんに回復酒1杯!」


「回復酒って……ブランキャシア城下町の酒場で飲めるとかいう、最大まで回復する酒だよね……僕全然飲めないんだけど……」


「まあまあ、いいじゃないか。俺は……んー……決めらんない!引き分けに賭ける!」


「引き分け?そんなことある?」


 フィーネが笑いながらアッシュとナリを見つめる。


「うおおおおおおおおお!!」


 アッシュとナリが同時に攻撃する。ナリが、アッシュの肩、腹、膝に6発叩き込み、アッシュがナリの腹に《魔力魔撃(エナジー)》で切りつける。そして一瞬の刹那、2人は満足したように倒れた。


「ちょっと、大丈夫!?《魔力拡大》!我が神よ、2人に加護を!《緑光回復(グリーンヒール)》!」


 フィーネがロザリオを手首に巻き、2人を回復させる。ナリとアッシュが起きると、2人は同時に「今回は引き分けだな」と笑った。


「よし、今回は俺の勝ち!フィーネ、回復酒1杯ね」


「うそー、アルケミスくんに飲ませようと思ったのに……しょうがない、奢るかあ……」


「僕に対して酷くない?僕飲めないって言ったじゃん」


 ブレイン、フィーネ、アルケミスが話している中、話し終わったクリス、ダンバー、メルヴィナがやってきた。


「あれ、今回は引き分け?なーんだ、めるも賭けに参加しようと思ったのに。しょうがないなぁ。アルケミスぅ!酒場付き合ってよぉ!」


「ええー……クリス、ダンバー、2人が代わりに行ってよ。僕本当に飲めないんだって」


「いいじゃないか、たまには付き合ってやれよ!いっつもぶーぶー文句言ってんの、聞いてんの俺らだぜ?なあ、クリス!」


「ええ、本当に。酔っ払ったメルを介抱するの面倒なんだから、たまにはやってよね、アルケミス」


「ええー……」


 その会話を聞いて、倒れたまま、ナリとアッシュは笑った。アルケミスの面倒くさそうにしている声と、メルヴィナの頼み込む声が、2人の耳に聞こえた。



 そのアッシュが、ナリの目の前にいる。月島零という、新たな名前で。


「……アッシュ……?」


「そうだ……アッシュだ。久しぶり……だな……」


 ナリの目が潤っていく。ナリの黒い毛が濡れていった。


「うそ……私以外にも、こっちに来てた人がいたんだにゃ……」


「ああ……会えて、会えて凄く嬉しい……俺だけだと思ってた……世界で俺だけが、ソルンボルから、こっちに来たんだって……!」


 零がナリを撫でる。ナリは嬉しくて、喉を鳴らした。

異世界転生タグをつけていいのかとても心配です。

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