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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
山風町の笛吹き
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いつか誰かが

「月島零、これ、どうやってバックすればいいの?」

「ああ、あいてむ?月島零、これ、どれを使えば……あ、なんか早くなった……って、そっちじゃない。そっちは奈落の底で……」

「月島零、この12位って、全体の何位くらい……え、最下位?それはなにかの間違いだよ。この僕が最下位な訳……」


 千里とゲームをしている間、千里の反応は面白かったが、零は次第に飽きてきてしまった。


(こいつ……手加減しても最下位なんだけど、一体どうなってんだ……)


 7戦したところで、千里はようやく、機体が落ちないようなコントロールが出来るようになった。だが、それはアクセルボタンをあまり押さない状態でのことであり、相変わらず最下位だった。


「……月島零、このゲーム……」


「……ん?そろそろ飽きたか?」


 零は、ここまで負け続ければさすがにやめるだろう、と思っていた。だが。


「いいや?むしろとても楽しいね。僕がどんどん成長していく様を感じられるんだ。ほら、もう1戦するよ」


 と、けろりとした顔で言われてしまった。零は目頭を押さえつつ、


「あー……ちょっと休憩させてくれ……もう2時間やってんだぞ?目が悪くなるから、お前も休憩しろよ」


 と、コントローラーをソファに置いた。千里もそれにならって、コントローラーを置いた。


「なんで、本は2時間3時間と読むことが出来るのに、ゲームはダメなのさ」


 千里が零にそう尋ねつつ、テーブルに近づき、麦茶を飲んだ。


「ずっと電子ばっか見てると、目が悪くなるんだ。なんで知らねえんだよ?」


 零がそう聞くと、千里は黙り込んだ。


「あ、おい、千里……?」

「月島零」


 冷たい声で、なおかつフルネームで呼ばれると、非常に緊張するものだ。零は驚きつつ、顔を強ばらせて千里を見た。


「僕は、何も知らない。何も知らないんだ。天才であるけれど、無知でもある。だから、こうやって知っていくしかないんだよ。君達と話をして、ね。特に、僕はおそらく、常識的なものが抜けている。電子系は本当に苦手で……本で得られる常識はあるんだけど」


 千里は、少し困ったように零を見た。


「常識、なあ……確かに、千里が常識人だと思ったことは無いな」


「それは認める。昔の僕の周りには、同世代の人間がほとんど居なかったんだ。いるにはいるけど、皆、外のことを知らなくて」


「外のこと?お前学校は?」


「いかなかったよ、普通のは。僕は病院にいたんだ。言わなかった?」


 病院にいた、という言葉を聞いて、零は呆然とした。それを気にせず、千里は続けた。


「ああ、普通はどうやって死んだか言わないのか……悪いね、月島零。まあ、この超常現象の連続の中で、普通がなにかもわからないけど。で、ところで、月島零。超常現象で思い出したけど、この前の雪の正体について、君は何か知っている?」


 零は呆気に取られていたが、ようやく我に返った。

 そして、零は千里に大雑把に説明した。千里はそれを聞いて黙り込み、しばらくしてから、うんうんと頷いた。


「……なるほどね。そのせいで、雪が降っていたのか。氷結の女王の心情を考えれば、当然とも言えるかもね」


 千里はそうやって、1人で納得していた。


「当然?何がだ?」


「分からないの?彼女の境遇を考えれば、そう考えるのはかなり自然だと思うけど。今……いや、僕達がブランキャシアにいた頃、女王アストリアスがブランキャシアを支配していた。アストリアス様はかなり長い間女王の座についていたらしいけど、当然、その前にも王がいる。それが、先代の王、バレアデス様だよ」


「バレアデス……ああ、氷結の女王が言ってた気がするな。今度こそ負けないって……」


「それはそうだろうね。バレアデス様は、ブランキャシアの領土を広めた、僕達から言えば革命家、支配された側から言えば侵略者だったんだ。昔は小さな国が多く存在していたらしいけど、アストリアス様が就任する前にはもう、ソルンボルには3つの国しか存在しなかった。それが、テッポウ共和国、イザベラ王国、ブランキャシア王国の3つ」


「へー……」


「その、バレアデスに侵略された国の1つが、氷結の女王が作り上げた王国、スノーアイス王国だった。氷結の女王は氷結の魔女と呼ばれる種族でね、寒いところでしか生きられないから、雪山の上に国を作りあげたんだ」


「……氷結の魔女?」


 零が聞き返すと、千里は驚いたように零を見た。


「嘘でしょ……氷結の魔女のこと、知らないの……?」


「いや……知らねえって。本なんて真面目に読んだことないし」


 それを聞いた千里が、呆れたようにため息をついた。


「まじか……ああ、ええと、氷結の魔女は、日本人の感覚でいうなら雪女に近いよ。水・氷属性の魔法は魔力無しで使えるっていう種族スキルがあって、氷結の魔女から生まれるけど、生まれたあとは、どうやって育つのか不明。1人で生きてるとか、雪女と雪男に育てられたとか、そういう噂はあるけどね。

 けれど、氷結の女王は自分で、1人で育ったと語っているらしい。そして、雪を降らせて、その地域の人を……まあ、洗脳して、王国を作りあげた。そして、近くのブランキャシアに手を出して、バレアデスと戦争を繰り広げた。で、敗北して、封印されたんだ。スノーアイス王国の入口付近にある、コオニユ洞窟にね」


「へー……だから、コオニユ洞窟ってめちゃくちゃ寒いのか……」


「そう。氷結の女王は、ずっと仲間が欲しかった。そう、考古学者は考えていたらしいよ。で、その氷結の女王が現代に転移したんだ、夏を冬に変化させて人々を集めたのは、当然とも言えるかもね」


「ふーん……」


 零は、氷結の女王が言っていた最後の言葉を思い出した。ようやく理解したように、零は尋ねた。


「なあ、氷結の女王は、冬になったら戻ってくると思うか?」


 千里はそれを聞いて、じっと零を見つめた。その目はくりくりとしていて、純粋な(まなこ)だった。零はたじろいだ。

 そして、千里はその目を零から離し、彼に向かって言った。


「さあ?来るんじゃないの?僕達が知ることじゃないよ。氷結の女王が住んでいた地域は、常に冬だったからね」


 千里は、少し笑っていた。


「なるほどなー……ありがとな、千里。お陰で色んなことが知れたよ」


 零はそう言って、軽く体を伸ばした。千里はソファに座り、コントローラーを握った。


「こんなので満足されても困るけどね。僕はまだまだ全然知らない。さっきも言ったけど、特に常識がね。何もかも知りたいのに、僕は常に知らないことばかりだ。そこが楽しい、とも言えるけどね」


 千里はそう言って、コントローラーの電源を入れ直した。そして、


「……やっぱり、訪ねるしかないのかな」


 と、小さく呟いた。その声は、零にも聞こえていた。


「ん?なんか言ったか?」


 零も同じようにコントローラーに電源を入れ直した。零の言葉の後、少しの間を開けて、千里は取り繕うように言った。


「……いや、なにも。というか、月島零、早くキャラ選択してよ。今度こそ1位になってみせる」


「いや、1位は厳しいんじゃ」


「なに?夢を持つことはいいことでしょ?」


 千里は拗ねたように零を見た。そして、今か今かとテレビ画面に夢中に見始めた。


(さっきの千里……なんだったんだ?まあいいか……)


 零はそんな風に思いつつ、キャラクターとコースを選択した。

 結局、零が1位、千里が10位となった。千里の腕前は上達しており、アクセルを多少踏みながらコースを走ることが出来ていた。それでも、コインやアイテム、スタートダッシュの使い方が分かっておらず、それのせいで他のカートよりも遅れてしまっていた。だが。


「12位……いや!11位になった!」

「追い越せる追い越せる……よし!10位!」


 そう叫びながら楽しむ千里を見ていると、零はなんだかほっこりとしてしまった。

 そして。時刻は17時となり、近くの小学校のチャイムの音が聞こえ始めた頃。


「月島零!もう1戦!もう1戦したら8位になれるはずだ!」


「ダメだ。俺そろそろ買い物行かないと今日食うものがないんだよ。お前が手伝ってくれるなら別だけど」


「それは嫌だ」


「そういうと思ったよ。ほら、今日はおしまいだから、早く帰れ」


「しょうがない……夏休みは長いから、遊べる時に遊びに来るとするよ。明日は宿題するから来ないけど」


「おう、次はナリがいる時に来てくれ。今日は疲れたな……」


 そんな会話をしながら、零と千里は玄関に向かった。零はスマートフォンと鍵を持っていた。千里を送るつもりのようだった。


「そういえば、志学亥李が旅行の計画しているらしいけど、何かあの人話したりしてる?SNSで」


 靴を履きながら、千里が話しかけた。


「いや……そろそろ来ると思うけどな、あの引きこもりだからな……」


「全くだね」


 玄関を出て、鍵をかけた。向日葵の咲く地面は湿っており、向日葵は西に向かう太陽の方を向いていた。

 2人で道路を歩いていると、日傘を差した女性や、走り回る子供、仕事帰りのサラリーマンとすれ違った。いつもの、山風町の光景だった。


 だが。


 そのいつもの光景は、突然変化した。零の耳元でプツリと音がなり、目を開いているにも関わらず、世界が真っ暗になった。


 そして、しばらく経つと、零の視界に色がついた。だが、零は道の上に倒れてしまったようで、視界の大半をアスファルトが占めていた。

 道路の奥で、自分を見る複数の目が見えた。そのうちの1人が近付いてきて、「大丈夫ですか?」と尋ねた。若いOLの様だった。

 零は起き上がり、周りを確認した。千里も倒れていたようで、頭を押さえて起き上がった。日が沈みかけており、辺りは夕闇に染まっていた。OLが近付いてくるのと同時に、野次馬は去っていった。


「あの……今、何時ですか……?」


 零が聞くと、OLは腕時計を見て、「7時9分です」と教えてくれた。


「7時って……2時間も倒れてたってこと!?」


 千里が驚いたように彼女を見つめた。だが、彼女は不思議そうに零と千里を見て、


「え?さっき急に倒れましたよ。2時間もいたのは気のせいじゃないですか?」


 と、話した。零と千里は、驚いて声も出なかった。

前回は休んでごめんなさい。

次回は7月9日です。

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