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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
山風町の笛吹き
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無知と追求心

 氷結の女王が消えてから、6日が経過した。


「結局、突然の雪を普通に説明することは気象庁には不可能で、超常現象として片付けられた……だってよ」


 ハンドルを握り、ラジオを切った。零は青信号になるのを見ると、静かに発車した。まだ初心者マークのついた、青い車だった。


「あの……氷結の女王の後日談についてはいいんだけどにゃ……」


「ん?ナリ、なんかあったか?」


「にゃんかあるにゃ!にゃんで私、車の中に猫状態でいるんだにゃ!しかもキャリーって!閉じ込めたいのかにゃ!あとおにゃか空いたにゃ!にゃんで朝ごはんもおやつの煮干しも食べちゃダメにゃんだにゃ!」


 助手席に置かれたキャリーの中に、ナリはいた。眉間に皺を寄せ、怒ったように睨みつける。彼女は猫の状態で、キャリーごと飛びそうなほど、体を揺らした。


「そんな暴れんなって。前に言っただろ?8月5日だからって」


「確かにそれは言ってたけどにゃ、それがにゃにかにゃんて聞いてにゃいにゃ!零!いい加減教えるにゃ!」


「お、着いたぞ。最寄りがここって、ちょっと不便なんだよなー……でも、しょうがないか。ナリ、ここ前に行ったことあるから、大丈夫だよな?」


「人のはにゃしを聞けにゃー!!」


 そんなナリの抗議も聞かず、零は駐車場に車を停め、運転席から降りた。そして、助手席の扉を開けると、ナリのキャリーを掴んだ。


「ちょっと重いな……ナリ、次までに痩せてくれ」


「これでも毎日体重計の上に乗ってんだにゃ!で、結局、ここはどこ…………」


 その時だ。ナリの目に、「動物病院」という文字が見えたのは。


「今日から2日間、頑張れよ?」


 零の笑顔が、ナリの目の前に映った。この後の展開に気付いたナリの顔が、どんどん青ざめた。


「いっ……嫌にゃ嫌にゃ嫌にゃ!にゃんで教えてくんにゃかったにゃ!」


「教えたらお前絶対嫌がるだろ。それと、明日の昼に迎えに来るけど、それまで獣人語な」


ふざけんな(にゃにゃにゃんにゃ)(にゃにゃ)ー!!」


 零はそれを聞いて「はいはい」と呟き、動物病院の中に入った。動物病院の中には、大きな黒いドーベルマンや小さな茶色いチワワなど、犬が沢山いた。その中で、受付を済ませた零の膝にキャリーごと載せられ、心臓をバクバクと鼓動させながら青ざめて待つナリは、異様な雰囲気を醸し出していた。


「月島ナリちゃーん、どうぞー」

「はーい」


 看護師に呼ばれ、零がキャリーを持った。キャリーがふらふらと揺れた。


(零め……後で覚えてろよ……だってこれ、どう考えたって……)


 診察台の上に出されたナリは、目の前にいる獣医の言葉で、自分の考えを確信した。


「ナリちゃん、今から眠くなるけど、寝ていいんだよ。その間に、ちょーっとお腹開くけど、痛くないからね」


(避妊手術だこれー!!)


 会計を済ませ、獣医と看護師に「よろしくお願いします」と告げる零の耳に、


ふざけんな(にゃにゃにゃんにゃ)零ー(にゃにゃー)覚えてろよー(にゃにゃにゃにゃー)帰ってきたら(にゃにゃんにゃんにゃ)引っ掻いて(にゃっにゃんにゃ)やるから(にゃにゃにゃにゃ)なー(にゃー)!!」


 というナリの雄叫びが聞こえた。


「ナリちゃん、すごく怒ってますね……」

「大丈夫です、いつもの事なんで。それじゃあ、明日に迎えに来ますから」


 零は笑いをこらえ、動物病院を出ていった。



 しばらく車を走らせ、家に帰ってきた。この前枯れてしまった向日葵は、もう新しい芽を生やしていた。

 その向日葵を、大きな荷物を持つ少年が見ていた。大きなダンボールを持つ少年は、零の車に気付くと、怒ったような顔をして彼を見た。汗だくになっていたのは、千里だった。


「千里?1人でどうしたんだ?」


 窓を開けて聞くと、千里は「暑いから早く車停めて」と言って、玄関の前に移動した。零は驚きながらも駐車し、鍵を取って玄関の前に行った。


「暑い……重い……」


 千里の持つダンボールは、千里の汗で少し湿っていた。


「なんだよそれ。というか、マジで1人でどうしたんだよ?」


「月島零の家に遊びに来たんだよ。そしたら、宅配の人が僕を月島の人だと勘違いして、サインねだるからさ。サインしたんだよ。そしたら、この重いダンボール貰っちゃってさ。ねえ、志学亥李からなんだけど、なにこれ?」


 零は玄関の扉を開け、千里を中に入れた。千里は玄関に荷物を置くと、汗を腕で拭った。ダンボールの伝票には、送り主は志学亥李、届け先は月島零、荷物はパソコンとゲーム、と書かれていた。


「ゲーム?一体なんだそりゃ……」


「開けるのは待ってよ。僕暑い中ずっと外にいたんだよ?冷たいもの飲ませて」


 千里のその言葉に、「はいはい」と呆れながら答えた。リビングに移動し、冷蔵庫に冷やしてある麦茶をコップに入れて、差し出した。そして、千里がそれを飲んでいる間、零はダンボールを開いた。

 中には、古いパソコンと、「Ballet of Ragnarok」と書かれたパッケージのゲーム、そして有名な会社の最新のレースゲームがあった。その中に、手紙が埋もれるようにして入っていた。それを千里が近くで見つつ、零が読んだ。


「零へ

 これを、ナリに渡して欲しい。前に言っていた、ナリが昔やっていたというゲームだ。それと、普通にパーティーゲーム。

 零もやってくれていいんだぜ?感想プリーズ。

 亥李より」


 そんな内容だった。


「……感想プリーズって……まあ、ナリに渡しとくけども……」


 零が呆れながら手紙を見返した。


「今日猫いないの?月島零と一緒にいるんだと思ってたけど」


「今日は、避妊手術なんだ。だから明日まで帰ってこないな。お前こそ、詩乃は一緒じゃないのか?」


 詩乃、という言葉を聞いて、千里は「ああ、」と呟いた。


「詩乃はいないよ。そもそも、彼女とはただの従姉だからね。そんなに会う仲じゃない」


「いや、お前……昔、いっつも誰かと一緒にいただろ。だって……」


 零はそう言った。そして、自身がアッシュであったことを思い出していた。



「アッシュ。頼みがあるんだけど」


 アルケミスは、精霊人に用意された宿の中で、アッシュに話しかけた。少し恥ずかしそうに、こめかみをかいている。


「ん?なんだ?」


「悪いんだけど……僕と一緒に、図書館に行ってくれないかな?この地域の図書館は、来るの初めてで……」


 それを聞いて、アッシュは驚きすぎて言葉を失った。そして、やっと思いで声を発した。


「アルケミス……お前、ガキみたいなこと言ってないで、自分で行ってこいよ……」


 それを聞いて、アルケミスは少し悩んでから、「あ、」と呟いた。


「ごめん。昔、誰かと一緒に居ないと怒られる場所にいたんだ。そのノリで話しかけてしまった。悪いね」


「ああ、いや、俺こそ悪かったな……」


 アッシュは、アルケミスが存外怒っていないことに、少し驚いていた。落ち着きを取り戻し、アッシュは聞いた。


「んで?なんで俺と図書館に行くんだ?メルヴィナは?お前いっつもあいつと一緒に行ってただろ、そういうとこ。それと、誰かと一緒に居ないと怒られる場所って?」


「質問が多いよ、アッシュ。昔の話は別にいいでしょ。メルヴィナは誘ったんだけど、クリスと一緒に買い物に行くからと断られた。だからアッシュと行くのさ。図書館は知識の宝庫だからね」


「ほーん……まあいいけどよ。俺でいいのか?俺、あんまり本とか詳しくねえけど……」


 それを聞いて、アルケミスは面を食らったような顔をした。そして、手で口元を隠して、笑った。


「僕が君を名指しした、それで回答は十分だろう?本のことなんて知らなくていい。メルヴィナだって、僕と図書館に行く時、精霊の本しか読まないけど、それでいいんだ。僕は、あらゆるものの情報を知りたい。メルヴィナの読む本も、アッシュが読む本も、クリスが読む本も、皆読みたいんだ。アッシュ。君は僕に、どんな本を教えてくれるの?」


 アッシュはそれを聞いて、安心したような、困ったような笑い方をした。



「……ほら、俺と一緒に図書館に行った時とか……」


 それを聞いて、千里は少し首を傾げてから、「ああ、あの時か」と呟いた。


「昔のことは引っ張りださなくていいよ。僕達が経験したのは、この前の雪のような超常現象だ。前例なんてない。だから、僕達が見るべきなのは、未来のことだ。で、だからこそ聞くけど、これ、なんていうキャラ?まり……まり?って、キャラ?あ、あと……この、かーと……って何?」


 千里が椅子から降りて、ダンボールの中のパーティーゲームを取り出した。知らない人はいないとされているゲームで、ゲーム会社の顔と呼ばれるキャラを駆使し、レースをするというものだった。

 それを、頭の上に疑問符を浮かべるように見つめる千里に、零は絶句した。


「お前……それ、超有名なキャラだぞ……赤い帽子に……」


「知らないものは知らないから。で?これ、どうやって遊ぶの?ゲームって遊ぶものだよね?」


 なんとかパッケージを開けた千里が、中に入っているカセットを側面から見始めた。それを見て、零は呆れたようにため息をついた。

新章「山風町の笛吹き」開幕です。

勉強がやばいので、金曜日はおやすみします。

次回は7月5日です。

番外編→https://ncode.syosetu.com/n1889ha/2/

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