冬の終わり
氷結の女王の動きが止まった。不審に思いつつナリが見つめる中、零は陽斗の斧に向かって《氷風白煙》を、ナリの拳と亥李の盾に向かって《火球火炎》を放った。
亥李は、盾と3メートルほどの鎖で繋がれた剣を引きずって回収した。カラカラカラ、という音とともに、剣を近くに引き寄せる。氷結の女王が陽斗の方へ動いたせいか、もしくは転生して初めて投げたせいか、《絶対命中》は氷結の女王に当たらなかった。
(チッ……当たらねえか。やっぱダンバーの体じゃねえからかな……1番得意だったのに。やっぱ引きこもりの体ってつれーわ……)
亥李がそうぼやく中、ナリは自分の拳を足にぶつけた。それにより、零から貰った炎が足にも移った。それを見ていた亥李は、真似をするように剣と盾をぶつけ、炎を移した。
零は手をつき、疲れたように顔を歪ませた。それを待ったかのように、美波が《魔力回復》を唱えた。零の体力は回復したが、美波は疲れ果てたように、その場に座り込んだ。
「美波、大丈夫?」
「うん、大丈夫……」
陽斗は美波と言葉を交わしつつ、前へと出た。そして、睨みつけている氷結の女王を見つめた。
「……なぜじゃ……なぜこうなるのじゃ……」
ふらふらと揺れる彼女の視界には、ナリ達の中心にある太陽があった。それのせいか、彼女が生み出した雲は少し晴れているように思えた。
「また……負ける?また妾は負けるのか?太陽神の信仰者に?これではバレアデスに負けた時と何も変わらぬ……100年間、妾は何をしておったのじゃ?封印をされるだけされて、いざ自由となったらまた負けて……妾は、一体何を……」
嘆きながらも彼女は、「《氷風白煙》」と唱え、剣を作りあげた。3本目となる剣は前のものよりも太く、鋭いものだった。
その剣の先から先まで、慈しみ深く見つめた。その目には薄ら涙が溜まっていた。だがそれを拭い、何かを決めたように、目を閉じた。そして、目を見開き、ナリ達を睨みつけた。
「……いや……いや!妾は負けたりなどせぬわ!バレアデスの時は負けてしまったが!今度こそ負けたりなどせぬ!今度こそ妾は願いを叶えるのじゃ!」
涙声で叫んだ。そして1呼吸おいてから
「ああああああああああああ!!」
と、剣を陽斗に向けた。その剣から、青く強い光が3つ現れた。1つは《氷風白煙》となり、あとの2つは《寂雪悲雨》の雲となった。《寂雪悲雨》のうちの1つは氷結の女王のドレスを再構築し、他はナリ達の方へ素早く向かった。そして、全ての魔法が発動し、ナリ達に攻撃を始めた。
どちらの魔法も今までよりも強かった。雪と吹雪のせいで、ナリ達は近くにいる仲間を見ることも出来ず、鋭い痛みを受けた。
「くっ!み、皆……無事か……?」
1番前にいる陽斗が、斧を床の雪に突き立て、その影に隠れた。吹雪と雪は、永遠かと感じられるほど続いた。
「はあ!?詠唱なしで魔法放てるとか聞いてねーよ!」
亥李が腹を立てつつ大声で叫んだ。陽斗はそれを聞いて、大丈夫そうだな、と、呆れたような、安心するような思いでいた。
「くっ!うう……」
美波が左腕で顔を隠しつつ呟いた。陽斗がそれに気付くと、斧を吹雪に向けたまま、雪をかき分け、美波の前に行くように移動した。美波が異変に気付いて前を見ると、陽斗が身を呈して守ってくれていた。少し笑っていたが、足が吹雪と雪にさらされ、辛そうだった。
「陽斗くん!」
「大丈夫……それより美波!とりあえずこの雪を、何とかしないと……!」
美波はそれを聞いて、少し心配そうに「さっきので大丈夫かな……」と呟いた。そして。
「《太陽召喚》!」
と、拳の大きさほどの太陽を召喚した。だがそれも雪に埋もれてしまった。その太陽の大きさでは熱が足りない。
「もう一度……《太陽召喚》!」
もう一度、同じ大きさのものを召喚した。太陽同士が近づくと、片方が吸収され、その分大きさが増した。太陽の周りにある雪が溶け、吹雪が太陽に近づかなくなった。
「はあ、はあ……もう一度!《太陽召喚》!」
さらにもう一度。小さかったはずの太陽はもう、体を縮める美波と同じ大きさになってしまった。
そしてそれが、美波の魔力切れと、氷結の女王の魔法を弱めるきっかけとなった。
「はあ……はあ……はあ……」
美波は過呼吸を起こしたように、その場で力なく俯いた。陽斗が心配そうに美波に近付いた。
その一連の流れを見ていた亥李の後ろに、足を引きずるナリと、剣で自分を隠しつつも手と足に氷がついた零が現れた。盾の中に隠れた二人の手足は、凍傷を引き起こしていた。
「おいおい、大丈夫か?二人とも!」
「ふー……全然にゃ!零は?」
「まだな……だが、さすがに疲れてきた……」
よく聞くと、零の息が荒いように感じた。亥李は出来上がった太陽、美波、陽斗、零、ナリ、魔法を放ち続ける氷結の女王の順番に見た。そして、何かを決意したように、零を見た。
「零!俺に《氷風白煙》を打ってくれ!それで、陽斗に《火球火炎》な!」
「はあ!?俺そろそろ魔力切れ起こしそうなんだけど!」
「これで終わらせるから働け!陽斗!今の聞いてたか?」
「聞いてた。で、どうするんだい、リーダー?」
「俺が《絶対命中》で注意を引く!それで、陽斗、零、ナリに攻撃してもらうんだが……どうすっかな。そっから思いつかねえ。こんな怪我してたら、高くて届かねえし」
亥李が、天井近くに浮かびながら魔法を放つ氷結の女王を見上げた。彼女は奥で隠れている恵麻と星也の方にも魔法を飛ばしていた。恵麻は怯える星也を抱きかかえながら、美波を見つめていた。
その時。ナリは、氷結の女王の高さについて気付いていたことを思い出した。
「そうだ……亥李、高さが低くなればいいのかにゃ?」
「おう。そしたら、俺達も攻撃が通るからな」
「それなら……あのドレス。炎で攻撃すると溶けて、そしたら氷結の女王が下に降りてきてたにゃ」
それを聞いた亥李は、「それだあ!」と叫んだ。そして、零にアイコンタクトをとった。
零はため息をつき、心の中で《氷風白煙》と《火球火炎》と唱えた。亥李の剣に氷の属性が追加されると、亥李は覚悟を決めたように、床に置いた盾の上に剣を乗せ、息を吸った。
(大丈夫だぜ、俺。ゲームなら俺はいつも神エイムじゃんか。たとえ雪のせいでほっとんど姿が見えなくても……そこだっ!)
亥李が狙いを定め、盾に沿って剣を走らせ、飛ばした。
「《絶対命中》ォ!」
その叫びと共に、剣はまっすぐ氷結の女王の方へと向かった。
そして、数秒後。
固唾を呑んで見守るナリ達に、氷結の女王の「邪魔をするな!」という声と、氷結の女王がはねのけたのであろう、亥李の剣がたたきつけられる音が聞こえた。
それを聞き、亥李はニヤリと笑って、美波の前へと移動した。陽斗と零、ナリが構える。零は疲れ切ったようだったが、力を振りしぼり、立ち上がった。
そして。氷結の女王が鬼の形相で亥李に近付いた。手には剣が握られ、それを振り下ろすような格好で、急速に向かってきた。氷結の女王の通り道に降り注いでいた雪は晴れ、吹雪も局地的に止んだ。
「今だ!」
亥李が叫ぶ。零が心の中で《肉体烈火》を唱え、筋肉を躍動させると、「《魔力魔撃=炎》ォ!」と叫びながら、凍傷を起こした足でなんとか飛び上がり、ドレスを切った。《寂雪悲雨》で構築された部分の半分が溶けた。零は着地すると、その場に伏せた。疲れて動けないようにも見えた。
零が伏せたのと同時に、陽斗は斧を振り上げると、「うおおおお!《日天》!」と叫び、斧を思いきり振り下ろした。ドレスに見事命中し、遂に、レースとなっていたドレスの部分が完全に溶け、最初の青白いドレスだけとなった。氷結の女王が、ナリがジャンプしなくとも届く位置に来た。
「はあ……いっけえ!ナリちゃん!」
美波が叫んだ。ナリは「《肉体烈火》」と唱えると、氷結の女王に一気に近付き、
「これで……終わりだにゃあああ!《朝有紅顔》!」
と大声で叫びつつ、力を溜めた。氷結の女王がナリに気付き、剣を構える。だが、ナリはそれすら見越していた。
ナリは右の拳を氷結の女王の剣に向けた。そして、剣の下に拳を通し、そのまま左足を軸に1回転して、剣に右足の蹴りを入れた。剣にはヒビが入り、遂に真っ二つに折れた。
「なっ…………!」
氷結の女王が狼狽える。それを、ナリは見逃さなかった。
「《子虚烏有》!そして……今度こそ、終わりだにゃ!《朝有紅顔》ッ!!」
ナリが右足を後ろに下げ、そのまま氷結の女王に向かって激突するかと思うような速さで近付き、力を存分に溜めた右の拳で、氷結の女王のみぞおちを殴り、そして飛ばした。
雪が、止んだ。
次回は6月25日です。




