反撃、転生者
氷結の女王は、陽斗の斧の攻撃を受けて、にやりと笑った。彼女にとって、氷属性の攻撃というのは、もはや挑発に近かった。
「まずは……《寂雪悲雨》じゃ!」
氷結の女王は、自身のドレスに向け魔法を放った。剣先から放たれる白い光は、彼女のドレスを何回も周り、やがて彼女の頭の上に光が向かうと、オーロラのベールで包み込むように、光から雪が降ってきた。雪が彼女の青白いドレスに付着すると、触れた部分が白いレースとなって、氷結の女王のドレスを更に大きく、長く、そして神秘的に作り上げた。
そしてついに、雪が止んだ頃、氷結の女王のドレスは、ナリ達の中で1番身長の高い零よりも大きくなっていた。そのドレスを立たせるように飛び上がる氷結の女王は、跳ばないと届かない高さに浮かび上がってしまった。
「もういいよな?《魔力魔撃=炎》!」
零が剣を両手で握った。剣の柄から炎が走るように現れ、剣を包み込んだ。そして、それを零は高く掲げ、跳び上がって、氷結の女王に向け思いきり振った。だが、零の足に付いた氷が、彼のジャンプ力を損なわせた。
「……っ、ああ、くそ!空振った!」
氷結の女王の胸元を切ろうとしたのだが、あともう少しのところで届かず、空を切った。そのまま着地した零は、結局、着地した時に端を少し切ったくらいで終わってしまった。零は低く後ろに跳んで、ナリ達のいる場所へたどり着いた。
「美波!何とかできねえのか?この氷!」
零が彼の左足に付いた氷を見ながら、美波に聞いた。美波は少し不安そうに、「《特殊回復》!」と唱えた。美波のロザリオから白い光が溢れ出し、ナリ達に付着した氷の周りに集まった。だがそれだけで、特に何も起こらなかった。
「だめか!?」
「ごめん、零くん……とりあえず、《軽減防御》!」
美波がそう唱えた。また白い光が彼女のロザリオから溢れ出たが、今度はそれが円を描くように移動し、ナリ達を囲んだ。そして、オーロラを作るように下に降りていった。
「これで、とりあえずダメージは少なくなったけど……ちょっと、氷については考えさせて……」
「お主ら!作戦を考えるのも良いが、戦場で考えるのは良くないな!」
氷結の女王の声と共に、彼女がナリの元へと近付き、彼女の剣で薙ぎ払った。
ナリはそれをジャンプして避けつつ、「零、陽斗、亥李!美波が考えている間、戦うにゃ!とりあえず……有七種技が2つ目!《有為転変》!」声をかけて、地面を蹴った。
そして、氷結の女王に近づき、ドレスに向かって6回殴り、左足でドレスを蹴った。炎をまとう拳と足で中々のダメージを与えることが出来ると考えていたナリだったが、布に当たっただけで、手応えは感じなかった。しかし。
「……あれ?」
ナリは、心なしかドレスが短くなっているような気がした。
「おや。ドレスに潜り込まれたら適わんな」
氷結の女王は、ドレスが短くなった分地面に近付いた。そして、雪の結晶を散らしながらゆっくりと空中を浮遊し、陽斗に向かって剣を振った。陽斗がそれを待ち構えていたように、斧で受け止めた。
「そこだにゃ!《有七種技》が3つ目!《朝有紅顔》!」
ナリが一気に氷結の女王に近づいた。斧と剣を交えて睨み合う2人は、ナリに一切気が付かなかった。亥李、零も同時に動いた。そして、《肉体烈火》を唱えると、ナリは力を貯め、思いきり氷結の女王の剣の側面から右の拳を放った。
その拳は氷結の女王の剣に当たり、少しヒビが入った。それを見た亥李がニヤリと笑った。
「お、いい感じだな!せーのっ……!《勇者霊魂》!」
亥李はそう言って、炎をまとった細身の剣で、氷結の女王の剣を叩くように切った。そして、遂に氷結の女王の剣は、真っ二つに割れてしまった。
「……っ!」
苦い顔をして、氷結の女王が離れた。それを見ていた零が、
「どりゃああ!《魔力魔撃=炎》!」
と、炎に包まれた剣を構えた。そして、体を軸にして横回転しながら氷結の女王に近付くと、氷結の女王の上を取り、剣を振り下ろした。
「ちっ……近付くな!《氷風白煙》!」
氷結の女王が手から青白い光を放った。だがそれは遅く、零の剣が氷結の女王の下腹部を切った。
切り口から、雪の結晶がチラチラと落ちた。それは、《寂雪悲雨》の雪と合わせて、中ヶ丘流通は銀景色に包まれていた。
氷結の女王はその傷を見て、静かに笑った。
「ふふふ……妾が負けておる?いいや、そんなこと有り得ぬわ。妾が負けたのはバレアデスの時だけじゃ。昔も、そしてこれからも。妾は決して、負けたりなどせぬわ!」
氷結の女王が低い声で笑った。そして、傷口を気にしないように前を向き、「《氷風白煙》じゃ!」と叫んだ。彼女の手から青白い光が3つ現れ、それらが螺旋状に回転して、剣を作りあげた。
「剣がないからなんじゃ?妾は作り出すことが出来る!さあ、かかってこい!返り討ちにしてくれるわ!」
氷結の女王は、楽しそうに、そして必死そうに笑った。
「《寂雪悲雨》!威力を増せ!空気を凍らせろ!世界を銀に染め上げろ!!」
彼女は剣を天井の雲に向け、叫びながら白い光を放った。雲から降り落ちる雪はさらに勢いを増し、床には膝丈ほどの雪が積もっていた。
そして、彼女はそのまま、ナリ達に向け《氷風白煙》を放った。ナリ達は雪に足を取られ、また吹雪のせいで唱える声が聞こえなかった。そして、遂に避けることが出来ずに、ナリと美波は《氷風白煙》をもろに食らってしまった。零や亥李、陽斗はなんとか自分の剣や盾、斧で防いだが、それでも頭や足に直撃したのは変わらなかった。
氷結の女王は、それを見て満足したかのようににやりと笑った。彼女は、降り注ぐ雪に剣を当てた。剣は雪を飲み込むように取り込んだ。《寂雪悲雨》の力を吸収し、氷の欠片と雪の結晶をまとって、剣は氷結の女王の手に馴染んだ。
そして吹雪が止んだ頃、全員の体はボロボロになっていた。
「……これで、全快だと思う……!《青光回復》!」
美波が息絶え絶えに唱えた。美波のロザリオから、今度は青い光が5つ現れた。そして、それはナリ、零、陽斗、亥李、そして美波自身を包み込み、傷を癒した。それは、美波がよく使っていた《緑光回復》よりも強いものだった。だが、それをもってしても、所々に付着した氷が消えることは無かった。
「それと、これ!太陽神ティラーよ、私に力を……!《太陽召喚》!」
美波がロザリオを構え、そう唱えた。すると、ロザリオから赤ともオレンジともとれるような色の光が現れ、それが次第に肥大していった。やがてその光が拳ほどの大きさになった。くるくると反時計回りに回転し続けるその光は、球体の大きさになり、その内側から照らす光は、非常に暖かかった。まるで太陽だった。
その光は、美波のロザリオの動きに合わせて移動した。ロザリオを右に動かせば光も右に、左に動かせば光も左に動いた。そして、美波が光をナリ達の近くに誘導すると、雪はじんわりと溶け、ナリ達に付着した氷はゆっくりと溶けていった。
「お、サンキュー!これで動きやすくなった!」
零が足と頭に付いた氷水を見て言った。美波も安心したように頷き、零に向かって《魔力回復》と唱えた。零の体力が元に戻る反面、美波の体力は少なくなっていった。
「……また、太陽神ティラーの神官か……」
氷結の女王が、悔しそうにそう呟いた。
それを見ていたナリは、もしかしたら、と思いつつ、「《異形》」と小さく呟いた。彼女の体全体を黒と白の毛が包み込んだ。そして、静かに、そして大胆に氷結の女王に近付いた。足音1つせず、また白い風景のせいで誰も存在に気付けなかった。
氷結の女王の前まで来ると、《寂雪悲雨》の範囲から外れることがわかった。なので、白の世界の中で「《異形》」を唱え、獣人族状態になりながら、一気に氷結の女王に近付いた。
「なっ!?獣人族の娘、一体何時からそこにおったのじゃ!?」
氷結の女王が驚く隙もなく、彼女は間合いを詰め、左足を軸にして、炎をまとってはいない右手で殴りかかろうとした。
慌てて氷結の女王が剣を構えた。それで受け止め、カウンターで《氷風白煙》を近距離で与えようとしたようで、剣の先には青白い光が集結していた。
だが。
「どりゃあ!にゃ!」
それは、ナリに当たることは無かった。ナリは左足を軸にして、ぐるりと半回転した。右手を左足の方へ向け、火炎に包まれた右足の外側の側面を、思いきり氷結の女王のドレスにぶつけた。氷結の女王は驚いて、魔法を中断してしまった。
「なっ……!フェイントじゃと!?」
「そうにゃ!有七種技が4つ目!《子虚烏有《しきょうゆう》》にゃ!」
ナリがニヤリと笑った。そして、狼狽える氷結の女王のドレスからレースがひらひらと解け、それにつれてドレスの膨らみや長さがどんどん元に戻ってゆき、氷結の女王が下に降りてくるのを見て、ナリは確信した。
「亥李!零!今にゃ!」
「言われなくてもやってやるぜ!《絶対命中》!」
そう言って左目でウィンクすると、亥李が剣を氷結の女王に向けて投げた。陽斗はそれを見てため息をついた。
「零、俺に《氷風白煙》をくれ。氷結の女王、俺に攻撃してきな」
彼は左手で持った斧を氷結の女王に向け、右手で挑発した。実に楽しそうだった。氷結の女王が腹を立てながら陽斗に近付く。そして、その瞬間を零は待っていた。
「《魔力魔撃=炎》!」
零が勢いよく飛び上がった。そして、ぐるりと縦に回転し、遂に2つ目の傷をつけることに成功した。2つ目の傷は、ドレスの上から見ても分かるほど、氷の欠片と雪の結晶が落ちてきていた。呆然として氷結の女王が傷跡を触る。手に氷の欠片と雪の結晶が付いた。氷結の女王は悲しそうにそれを見つめ、砕いた。
そして、ナリ達を一瞥し、睨みつけた。氷結の女王の目付きが変わったと、美波は感じた。
次回は6月21日です。




