吹雪の決戦
「さて。そこの奴らは、どうかのう?」
氷結の女王は、中ヶ丘流通の入口に立つナリを見て、そう呟いた。
「……氷結の女王……と、美波!?ここにいたの!?」
ナリは、氷結の女王、そして近くにいた美波を見て驚いていた。後ろにいた零、陽斗、亥李の3人も、氷結の女王と美波を見て、驚いたようにそちらを見ていた。
ナリは慌てて美波の元ヘ行くと、美波の肩を掴み、ぐらぐらと揺らした。
「美波!なんで氷結の女王の所にいるの!?こいつが、今山風町を寒くしてる犯人だよ!今からこいつ倒すから、美波も私たちと一緒に!」
ナリはそう叫んだが、美波は一切そちらを見ず、ただぼんやりとしていた。ナリは泣きそうな顔をして美波を見つめた。氷結の女王は、それを見て、「ふふふ」と笑った。
「いやはや、面白いのお。その小娘の心と目には雪が突き刺さっておる。《思考支配》の魔法に包まれた、特別性の雪じゃ。それを抜くのは容易くないぞ?」
「……美波!」
ナリは慌てて話しかけたが、美波は一切返事をしてくれなかった。
「……氷結の女王……喋れたんだな……」
亥李が、そう呟いた。氷結の女王が元々「ふふふ」しか笑わなかったのを、話せないと考えたようだった。
「喋れる?ふふふ。若造が、何をほざく。妾には目がある。鼻がある。口がある。脳もある。妾はれっきとした人間じゃ。魔女でもあるがな。そして、特別な魔法を使う力もある!《寂雪悲雨》!」
氷結の女王が笑い、剣を掲げた。水色の光は中ヶ丘流通の廃コンテナの天井へと向かい、雪の結晶の文様を作り上げた。そこから、白い雪が降り注いだ。
「雪……やっぱり!」
美波の肩を掴みながら、ナリは天井を見上げた。天井には小さな雲が出来上がっていた。その雲から流れ落ちる雪が、ナリや美波の肌に触れた。ナリの体が震える。美波の肩に雪が触れると、やっと美波は反応した。
「美波!?」
ナリが美波の肩をさする。だが、美波はナリを一切見なかった。氷結の女王は、それを楽しそうに見ていた。
「寒い……寒い……寒いのは、嫌だ……」
ただ、美波はそう呟いた。肩は異様に震え、目には涙が溜まっていた。
「美波……こんなに、辛い思いしてたんだ……でも、私気付かなくて……ごめん、美波……」
ナリはそう呟いて、気付いた。美波のために、自分がしてやることができる、1番の方法だった。
ナリは美波の背中に腕を回し、少し背伸びをして、抱きしめた。そして、耳元で言った。とびきりの笑顔を作って。
「美波!大丈夫だよ。寒くなんてないよ!だって、可愛いナリがここにいるんだもん!そうでしょ?美波の大好きなくまるんくらい可愛い私がいるんだから、寒くなんてない!ね?」
美波の前にその笑顔を見せた、その時。
美波の体から、パリン、という音が、冷凍コンテナの中に響いた。
心臓から、目から、弾け飛ぶように、氷が出てきた。そして、氷が飛び出てくると同時に、美波の目から涙が溢れ出た。美波はしっかりとナリの方を向き、言った。
「……ナリちゃん……」
「美波!良かった、無事で……」
「……私、寒くないの……?ここで働いて、ここで死んで……ずっと寒かったけど……もう、寒くないの……?」
ナリは少し驚いたように美波を見た。そして、「うん!」と、とびきりの笑顔で頷いた。いつの間にかコンテナの中に入っていた3人も、安心したように微笑んだ。
「良かった……私、最近ずっと寒かった……ここに閉じ込められた時よりも、ずっと……でも、もう寒くない。ナリちゃん、ありがとう。皆も」
美波が涙を拭い、ナリ、そして後ろの3人を見た。零達の方へと向かうと、陽斗を見て、申し訳なさそうに見てから、にっこりと笑った。陽斗も笑い返した。
閉じ込められた、という言葉を聞いて、恵麻はぴくっと反応した。が、すぐに普段の冷酷な顔に戻り、氷結の女王が座っている、古いフォークリフトのパレットの上を見た。彼女は元に戻った美波を見て、唇を噛んだ。
「……なぜじゃ。なぜじゃなぜじゃなぜじゃなぜじゃ!!」
氷結の女王がそう叫んだ。雪はさらに勢いを増していく。ナリは寒さに耐えきれず、「《異形》」と唱えて、獣人の姿になった。
「なぜこうなるのじゃ!妾はしっかりと《思考支配》の雪を降らせたはずであろう!?その娘は見事術にかかり、妾に忠義を誓う者へと変わったはずであろう!?なぜじゃ!なぜじゃ!妾は術式を間違えなどおらぬ!なぜ氷は解けた!?なぜ妾の雪がこうも容易く溶けてしまう!?答えろ小童ァ!なぜ妾はいつもいつもいつもいつも裏切られる!?どうして雪は溶けてゆく!?なぜ妾はこうも孤独を味合わなければならぬ!?」
氷結の女王がそう叫んだ。その目は必死で、泣いているようにも美波には見えた。氷結の女王は続けた。
「妾はどうして!いつもいつもいつもいつも!自分で望んでなどおらぬのに!誰かと一緒に生き続けたいだけなのに!どうして封じ込められるのじゃ!
バレアレスだってそうじゃ!妾はもっと色んな人と一緒にいたいだけじゃ!だからブランキャシアに雪を降らせた!それの何が悪い!!
今回だってそうじゃ!妾は勝手にこっちの世界に飛ばされて!ずっと、生きているのか死んでいるのかも分からぬまま放置されて!この世界でどう生きればいいのかなど誰も教えてくれはせぬまま!
だから雪を降らせたのじゃ!妾が生きやすい環境にすることの何が悪い!妾は正しい選択をしたはずじゃ!妾は決して、お主らのように討伐されるようなことはしておらぬ!どうしてじゃ!!
どうして妾は、いつもいつもいつもいつも、こんな仕打ちを受けねばならぬ!!」
氷結の女王はそう叫んだ後、「《寂雪悲雨》!!」と唱えた。雪は更に強くなり、コンテナの中に深々と積もっていった。ナリは拳を構え、美波は金のロザリオを取り出した。零、陽斗、亥李はそれぞれ持っている《魔源収納》の結晶を握り、自分の武器を取りだした。零はクレイモアと呼ばれる剣を、陽斗はミスリルアックスと呼ばれる、鋼で出来た全長1メートルくらいの大きな斧を、亥李はスラッシャーと呼ばれる鋭い剣と、大きな金属製の盾を取り出した。
「答えてあげるにゃ、氷結の女王!私たちの熱い友情が、美波の雪を溶かしたんだにゃ!……って、恥ずかしいにゃあ……」
ナリが頭をかいて言った。美波も恥ずかしそうだった。
「そんくらい言っとけ言っとけ。氷結の女王!こっちは寒くて迷惑してるんだよ!ここで倒して、夏を取り戻してやる!」
零がそう叫び、剣を構えた。
「零も千里から貰ってたとはなあ。まあいいか、氷結の女王!今度こそ逃げさせねえぜ。お前を倒して、氷結の冠をゲットしてやらあ!」
左手で剣を構え、右手で盾を構えた亥李が、楽しそうに笑った。
「氷結の冠は無いと思うけど……まあなんにせよ、こうしてケルベロスアイ……とアッシュがまた揃ったんだ。今度こそ、お前を倒してやるよ!」
非常に重そうな斧を振り回してから肩に担いだ陽斗が叫んだ。零は苦笑いをして、陽斗を一瞬だけ見た。
「やれるものならやってみろ……妾は決して負けたりなどせぬわ!《氷風白煙》!!」
白い剣を振り、氷結の女王が叫んだ。剣先から白い光が現れ、それが吹雪へと変化して、ナリ達の方へと向かった。ナリ達はそれを躱すため横にそれたが、天井から降り注ぐ雪のせいで、視界が悪くなっていた。そして、《氷風白煙》はかなり範囲が広く、全員どこかしらに当たってしまった。
「つっ……冷たっ!」
零が叫ぶ。彼の足に当たった雪は、じっくりと彼の足を凍らせていった。
「それが足を腐らせるまで、せいぜい30分じゃ。妾は決して、負けたりなどせぬ……!もう一度、《氷風白煙》じゃ!」
もう一度、全体に向けて魔法を放つため、剣を薙ぎ払った。
「お前ら!覚えてるだろうな、倒し方!零は知らないだろうから説明するが、氷属性の攻撃でタゲ取り、その間他の奴が炎属性の攻撃でダメージを与える!そして、属性武器がない今、この場において炎と氷の魔法を使えるのは零!お前しかいない!」
その間亥李が、そう叫んだ。最後の言葉で、一気に零の顔が青ざめた。
「……まさか……」
「零!お前は《魔力魔撃》の炎で攻撃だ!陽斗!お前は零から氷の魔法を武器にかけてもらって、それでタゲ取りしろ!ナリ!お前は俺と一緒に零から炎をもらって戦え!美波!お前は回復と零の魔力管理をよろしく!」
零はそれを聞いて、苛立ったように叫んだ。
「ふざけんな!俺ばっかり損するじゃねえか!」
「大丈夫、零くん!零くんが魔力切れする前に、私が何とかするから!」
「そういう問題じゃねえ!」
「美波、無理しないでにゃ?零は、うん、頑張れにゃ!」
「他人事かよ!ったく、この白黒猫!」
吹雪が迫ってきた。ナリと零、亥李は横に走って避けたが、美波は視界の悪さのせいで出遅れてしまった。
「馬鹿やってないで、さっさとやるよ!まずはこの雪をっ、と!」
そう言いながら、美波の前に颯爽と陽斗が現れた。斧を床に突き立て、刀身で自分と美波を守った。
「大丈夫、美波?」
「う、うん、ありがとう……」
美波が少し恥ずかしそうに言った。そして、吹雪が終わると、零は溜息をつき、苛立つように叫んだ。
「ああもう、今度は千里を呼んでこいよ、亥李!《鬼神化》ぁ!」
彼の体は青白くなり、頭からは鋭い角が生えた。それはとても神秘的で、ため息が出るほどの美しさを放っていた。
(ったく、美波が魔力切れしたらどうすんだよ、この馬鹿リーダー!《火球火炎》を亥李とナリの武器に、《氷風白煙》を陽斗の武器に!)
零が心の中で唱えた。すると、真っ直ぐに伸ばした零の手のから、赤い光が2つ、青白い光が1つ現れ、赤い光は亥李の剣とナリの拳に、青白い光は陽斗の斧に近付いた。そしてその光は、それぞれ同じように武器に纏い付き、溶け込んだ。
ナリの拳と亥李の剣は炎を纏い、陽斗の斧は冷気を纏った。だが、不思議と温度は感じなかった。3人は零に感心しながら、氷結の女王の方を向いた。
「よし……いくよ!どりゃあ!」
陽斗がそう叫び、氷結の女王に向けて思いっきり斧を振った。氷結の女王が自身の剣で受け止める。火花ではなく、氷の欠片が飛んだ。
「お前が妾の相手をするのか?いいじゃろう、お前から始末してやる!」
氷結の女王が、涙ながらにそう叫んだ。
次回は6月18日です。




