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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
スノー・ベアーズ・クイーン
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スノー・ベアーズ・クイーン

(溝口さんは、私のことを嫌って、閉じ込めたのかな)


 美波は、降る雪と、自分の中に溶け込んでいく雪の結晶の欠片を、ぼんやりと眺めていた。


(責めたりなんて出来ない。きっと溝口さんは私に声をかけてくれていただろうし、それを無視してしまったのは私だ。仕事を夢中になっていたからって、溝口さんが私に声をかけてくれなかったと責めることは出来ない。多分、溝口さんは、私がもう外に出たんだと思って、扉を閉めたんだ)


 暖かいはずの涙が、美波にとっては冷たく感じられた。


(でも……私には、溝口さんは冷たかったような気がする。閉じ込めたのは故意だったのかな。故意だとしたら……私は、溝口さんを恨めばいいの?私に、なにか悪いことがあったんじゃ……)


 そう考えていた時、美波の手はひどく冷たくなり、吐く息は先程よりも白くなった。体全体が、冷たくなったみたいだ。


(ああ、もう……寒い……)


 気が付くと、美波の意識は途切れていた。



 一方その頃。


(……ナリがいねえと……静かだな、この家……)


 零はそう考えながら、ナリがやり残した掃除機をかけていた。

 机の下や、ソファの下、台所など、家中の埃や砂、ナリの黒い毛を吸い取った。特に、ナリがいることが多いソファの上は念入りに吸った。


(ナリの部屋はさすがに任せるとして……だいぶ毛が取れたな。ソファに付いた毛を取るの、けっこうムズいんだよなあ……さて、掃除機かけ終わったし、次は洗濯物の隣に布団を干して……)


 ふう、とため息をつき、掃除機を片付けた。ふと窓に目をやると、外には雪がちらちらと降り注いでいた。雪は青の車の上にうっすらと積もり、向日葵はしおれていた。


「やっば……!洗濯物取り込まなきゃ!」


 慌てて2階にあるベランダに向かい、零の服を取り込んだ。ナリの服はそこにはなかった。


(いつも同じ服……やっぱり、服ぐらい買ってやるべきか……?あいつが猫だからって、いつも同じ服を着て生活していい理由にはならないよな……あいつも服欲しいって言ってたし……でも、俺がついていっても楽しくないだろ……?)


 そう思いつつ、零は1階の自分の部屋に向かい、洗濯物をたたみ始めた。


(美波や詩乃、参華に頼むべきか……?もしくは、凛?凛とナリは元々同級生だったらしいしな……でも、バレるよな、ナリなんて名前の人そうそういないし……)


 あぐらをかき、カーペットの床に座って、静かに洗濯物をたたんだ。全てたたみ終わると、自分のタンスにそれを仕舞い、回転式の椅子に座った。机にはパソコンがあり、もうほとんど書き終わってしまった大学の課題が、画面に映し出されていた。そしてその近くには、前の月島零がサークルで使っていたであろう、テレビ用のゲームソフトが陳列されていた。よくある2Dのアクションゲームや、RPG、カーレースの出来るパーティーゲーム、シミュレーションゲームなどだ。


(凛……きっと、俺の事を怪しんでるよな。前に「最近変わった」って言われたし、ナリの声が聞こえてたらしいし。ナリとは猫の時以外会わせないようにしなきゃな……)


 零がそう考えつつ、ゲームソフトを触っていた、その時。

 ピンポーン、とチャイムの音が鳴った。零が立ち上がり、インターホンに出た。


「はい」


「兄貴!お願い入れて!」


 凛の声だった。モニターに映る雪は、先程零が見た時よりも激しさを増し、ちらちらと降り注いでいた。

 凛は傘を持っていなかったらしく、髪や制服に雪が大量についたまま、玄関に入ってきた。それを玄関で払い落としたので、玄関は、常温の床に触れて溶けた雪溶け水で湿ってしまった。


「はー、もうほんと嫌いあの学校!なんでこんなに寒いのに夏服で学校来なきゃいけないのさ!半袖だよ!?半袖!案の定雪降ってくるしさ!頭がかったいんだから!兄貴もそう思わない!?」


「まあ、同情はするが……そこにタオルあるから拭いとけよ。叔母さんのだけど、何枚か服あるから、それ借りていいはずだ。暖かいお茶でも飲むか?」


「拭く!借りる!飲む!」


 凛がローファーを脱ぎ、右手にある洗面所へと小走りで向かっていった。零は呆れたようにため息をつき、凛が体をタオルで拭いている間、台所でお湯を沸かし、麦茶のパックをケトルの中に入れ、お湯を注ぎ入れた。

 やがて凛がリビングにやって来ると、荷物をソファの隣に置き、すぐに2階に上がっていった。しばらくして、零の叔母の趣味が色濃く出ている、赤と青の鹿柄のセーターを着て、リビングに帰ってきた。


「叔母さんの服、やっぱけばけばしいわ。50になるとこんな服しかないのかな」


 凛はまだ濡れている髪をかき、ダイニングの椅子に座った。


「そんな事ねえだろ。もっとおしゃれな服だっていっぱいあると思うぜ、50になったからって。叔母さんがこういうの好きなだけだろ」


 そう言いつつ、零は内心、まだ見た事も話した事も無い叔母に思いを巡らせていた。


「そうかもね……そういえば、今日は彼女居ないんだね。ナリにゃんも?」


 凛がそう言って、ニヤニヤと笑った。


(やばっ、ナリ居ないんだった……!えー、あー……)


 零は慌てつつも、それを表情には出さないように努めていた。


「ちげえって、あんときはサークルの友達がたまたま来てたんだって。ナリは……どっかで寝てんだろ。お前、それ見るために来たのかよ?」


 そして零はそうやって、半ば強引に話を逸らした。


「え、あー……ナリにゃ……いや、違うんだけど、違うんだけどさ?気になるじゃん?万年ぼっちの月島零くんが、彼女らしき人にカレー作ってもらってたんでしょ?ナリにゃんはほら、ナリにゃんを撫でてる兄貴とか気になるしさ?まあ、いないならいいや。それで、ここに寄った本当の理由は、部長が「山風町に雪が舞い降りたのは、間違いなくこのせいだ!ついに見つけたぞ!」って言うから、それを教えに来たの」


「へえ、どんなのだ?」


 零は、毒りんご事件の時、凛が得たオカルトチックな説のお陰で、陽斗を助けることが出来たことを思い出した。


(もし……もし、これがまた、往復異世界転生者が関わってる事件だとしたら……解決しないと、また、仲間や、もしかしたら自分も巻き込まれるかもしれないな。それに、この大寒波、寒すぎて向日葵が枯れる寸前だし……早めに解決しておきたいな)


 それもあり、零はそう考えながら、凛の話に耳を傾けた。


「これは、今日の夕方……ついさっき突然バズった、SNSの投稿が根拠になってるの。捨て垢……つまり、IDも初期設定だし、名前もただの「EMSM」で、アカウントの写真もないから、ちょっと怪しいんだけどね」


 凛はそう呟きながら、スマートフォンの画面を触りだした。


「その投稿の内容は……冷凍庫にクマの人形がいて、そのクマが助けてほしそうにこちらを見つめてる写真があったの。それで、「こんな人形入れた記憶ない。そういえば妹のくまるんの人形を入れた男の子は呪われて、凍りついて砕かれたらしい。山風町に住んでるけど、もしかしてこれが原因で寒いのだろうか?次に呪われるのは私かもしれない」って文章付き。「くまるん」って知ってる?その人形」


 凛がそう言って、「ほら」とその投稿を見せた。1万以上の反応があった。

 くまるんは、零はかろうじて名前だけ知っていた。川峰創であった時の名残だ。


「ああ、知ってるが……次は私、ってどういう事だ?」


「察し悪いなあ兄貴。つまり、次に呪われるのは、そのEMSMさん。凍って砕かれて……冷凍庫に殺されるってこと。くまるんの人形が冷凍庫にいたら、誰だって死ぬんだよ。そういうことを、この投稿では言ってるの」


「そんな馬鹿な……」


「私もちょっと無理あるかなって思ったんだけど、山風町の事件は誰も謎が解けないし、それが事件後初めての説だったからさ。みんな信じちゃったのかもしんない。部長も信じちゃってさ」


 凛が呆れたように言った。


「へー……でも、違う証拠もないわけだろ?」


「うん、そうだっていう証拠もないし、違うっていう証拠もない。人形が冷凍庫の中に入っていたっていう写真はあるけど、冷凍庫に人形突っ込んで写真撮ればいいだけだからね。これ以外にいい説が無いのも影響してるんじゃない?」


 凛はそう言って、スマートフォンを閉じた。そして、零の方を真っ直ぐ見て、言った。


「そうそう、この説を部長は、「スノー・ベアーズ・クイーン」って呼んでたかな」


「スノー・ベアーズ・クイーン?なんだよそれ」


「雪の女王、って知ってるでしょ?悪魔が割った鏡が、少年の心と目に突き刺さって、少年の性格は一変する。少年は家を出ていってしまい、少年と仲の良かった少女は探しに出かける。そして少女は、色んな人に助けられて、少年がいるという雪の女王の所へ行った。少女が少年を見つけた時、少女は涙を流した。その涙が、少年の心と目に突き刺さった鏡の欠片を溶かして、無事に少年と少女は家に帰った。そういう話」


「あー……そんな話あったような……でも、それのどこが関係あるんだよ?今回の事件と……事件?まあいいか」


「事件でいいんじゃない?部長曰く、雪の女王の城に、幼い子を連れ去ったから、ってさ。部長、ネーミングセンスはいいんだけど、こう、かすってるのか微妙なラインなんだよね……」


「まあ、確かにな」


 零と凛は、そう話しながら暖かい麦茶を飲んだ。白い湯気が漂い、触れるとじんわりと暖かい麦茶を飲みながら、ふと外を見る。日は落ちかけ、外は夕闇に包まれていたが、雪はもうすでに晴れていた。


「お、雪やんだな」


 零がそう言いつつ立ち上がり、カーテンを閉めていると、凛もカーテンで隠れていく窓の外を見た。


「あ、ほんとじゃん。私帰るね、お母さんが心配するし。兄貴、兄貴がどうなっても知らないけどさ、たまにはうちに帰ってきなよ」


 そう言って立ち上がり、荷物を手に取って、玄関へと向かった。それを見送る零に、凛がカバンに入れる制服が目に映った。


「あ、そうだ。なあ凛、山門有って知ってるか?」


 零は、山門有と凛が同級生であったことを思い出していた。それを聞いて、凛が訝しげに零を見た。

 

「山門さん?知ってるけど、それがどうしたの?」


「あー……なんか、そんな名前を聞いた気がしたなー、と思って」


 口からでまかせに理由を言ったが、凛はそれで納得したようだった。


「山門さんは、私たちオカ研が1番解きたい謎だよ。彼女のお父さんがずっと探してるけど、半年経っても未だに見つからないし。生きてるのか死んでるのか……お料理部の子は、部員の山門さんがいなくなって、可哀想だったけどさ。私、彼女とそこまで仲良くしてないからあんまり知らない。同じクラスだけどね」


 肩をすくめ、凛はそう言った。


(あいつ……行方不明だったのか。お父さんがずっと探してる、か……ん?あいつ、母親いないのか?)


 零はそう疑問に思いつつも、凛の「やば、こんなこと話してたら部長に叱られる……!」と呟いていたのを聞いていた。


「じゃあ、もういい加減帰るから」


「送っていこうか?」


「いい。兄貴と一緒とか、まじ嫌なんですけど」


 凛は一瞬零を睨みつけると、「叔母さんのセーター、あとで返すから」と言って、ドアを閉めた。


「……ツンデレだけど、俺のこと頼りに来てくれてんだよな……きっと」


 零はそう呟き、前の日に作ったカレーの在庫を確かめていた。ナリと2人で食べるぐらいの量はあるが、それも少ない量だった。


(2人で食べる、って難しいな……前1人暮ししてたのが響いてるな)


 零がそう考えつつ、鍋に火をかけていると、ナリが思い切りドアを開け、「零ー!雪!雪降ってきたー!」と大声を上げた。


「雪?さっき降ってなかったが……」


「今降ってるんだよ!って、それどころじゃないんだった。零!大変なんだよ!山風町に雪が降ってる理由がわかったんだ!」


 ナリは手も洗わずに、台所へと向かってきた。人間状態のままナリが着ている服は、美波に選んでもらった冬の服だった。


(美波が選んだのか?へえ……結構、可愛い、か?)


 内心そう思っていたが、そう思っていることは一切顔に出さず、「手洗ってこいよ」と、ぶっきらぼうに言った。


「手洗ってる場合じゃないんだって!零!」


「じゃあなんなんだよ。さっき凛が来たけど、やっぱり冷凍庫の中にくまの人形が……」


「ソルンボルにいた、氷結の女王!あれが、今山風町で雪を降らせてるんだよ!だから山風町は寒いの!」


 それを聞いた途端、零の思考は止まった。


「はあ!?氷結の女王!?」


 そして数秒後、カレーをかき混ぜることを忘れるほど、驚いた。

次回は6月7日です。

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