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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
プロローグ
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現つの世界

「にゃんでこうにゃっちゃったかにゃあ……」


 ナリはブロック塀の上で天を仰ぎ、ため息をついた。


 太陽がナリの黒い体を刺すように照らす。夏のアスファルトは、猫の腹を火傷させるほど暑かった。


「あっつ!!にゃんでこんにゃ暑いのさ……そういえば黒って光を集めやすいとか理科でやったにゃあ……ああ、毛皮あっつい……」


  飛び上がって起きたナリは、先だけが白い前足と先端が白い尻尾を動かし、猫特有のポーズで伸びてみた。すると、白い毛と黒い毛が同時に落ちてきた。同じ分量だった。


「にゃ……にゃにゃにゃ!?え!?白!?尻尾以外黒い体じゃないの!?尻尾以外も白いのかにゃ!?はにゃー……鏡にゃいかにゃ……いや、それよりも水……水にゃいと私死んじゃう……」


  1つ欠伸をして、周りを見回す。道路に水らしいものは無いが、塀の中にある住居の庭に、水は大量にありそうだ。

  ナリはそれを発見し、堂々と中に入って池の水を飲んだ。池で泳ぐ金魚も、ナリが取ろうと思えば取れそうだ。彼女の目には、それは黄色に見えた。


  だが。


「こぉぉらぁぁぁ!!なんべん言ったら分かるのだこのクソ猫!出ていけ!この目に止まるうちはこの庭に1歩たりとも踏み入らせやしないぞ!」


  厳格そうなおじいちゃんが竹箒を持って追いかけてきた。かなり怒っているのが分かる。


「にゃにゃー!?」


「にゃにゃーじゃない!!出ていけ!」


  ナリも慌てて逃げ出す。塀を登って道路に出た。そして、向かい側の塀の上に飛び乗り、それに沿って走った。


「にゃあ……にゃあ……こ、ここまで来れば大丈夫でしょ……うう、にゃんで私のこと追いかけてくるのさ……」


  息を整え、ため息をつく。そこで、彼女は気付いた。


「おかあさん、猫さんしゃべったー」


「しっ、見るんじゃありません」


  小さな女の子が、自分を指さしていたことに。


(にゃ……も、もしかして……私の言葉、人間にも聞こえてるの!?化け猫とか言われちゃうじゃん!これからは気を付けないと……)


  ナリはそう思いつつ走った。保護団体とかにでも保護されたらたまったものでは無い。


(はあ……なんか、猫になって損した気分。というか、なんで急に猫になったんだろう、本当に。前の私が異世界転生したとしたら、今の私は帰ってきてるってこと?往復異世界転生?

  もう何が起きてるのか分かんない。猫の体ちょっと不便だし、人間の姿になりたい……というか、自由に声を発したい……もう、何が何だか……

  まあ、とりあえずこの体で生きてくしかない。どこ行こうかな……ああ、お腹すいた……なんか飲みたい……)


  そんなことを思いつつ、塀の上から降りて、アスファルトの上を歩き始めた。肉球から伝わる熱が、7月の熱さをナリに知らしめる。


  そしてそれは、しばらく歩いていたナリに突然現れた。


(まあ……せっかく猫になったんだし。もっと堂々と歩くか。ふふん、私のびぼーにひれ伏しなさい!なんてね)


  目をつぶって堂々と歩き、そして角を曲がろうと目を開けた。すると、真っ白な光がナリの視界を埋めつくした。


(な、なに!?真っ白で何も見えない!一体何が……!)


  そう思った矢先。それは……青の車は、ナリを吹き飛ばした。

  空腹なのもあって、ナリの体力は落ちていた。空に舞う中、意識を失っていく。


(ああ……なんか、早かったなあ……)


  車を開け、男の声が「ちょ、大丈夫か!?」と言っているのを聞いて、彼女は意識を失った。



  次にナリが目を覚ましたのは、眩しい光で照らされた、緑色の台の上だった。

  白い服を着ている男、薄い水色の服を着ている人が数人、そしてそれとは別に男が1人。ナリは、自分が山門有だった頃、猫を飼っていた時に、数回だけ訪れたことのある場所と似ていると思った。動物病院だ。

  となれば、白い服の男は獣医で、水色の服の人達は看護師だろう。だが、この申し訳なさそうな顔をしている黒のパーカーの男は、一体誰だろうか。そう思い、獣医と男の会話に耳を傾けた。


「……ええ、それはさほど難しくありません。一時的保護という形も……」


「はい……あ」


  男がナリの方を見る。ナリの目が覚めたことに気付いたようだ。


「良かったなあお前、獣医さんのおかげだぞ」


「いやいや、月島さんが直ぐに連れてきてくれたおかげですよ。おかげで、致命傷にならずに済みました」


  どうもこの黒の男は、月島というらしい。少し恥ずかしそうに頭をかいている。


「しかしこの子は珍しいですねえ、本当に野生猫なのでしょうか……こんなに人間が近くにいても、動じないなんて」


(あ、やば……そうした方が良かったかな。でももう時すでに遅し、か)


  ナリがそう思っていると、月島はナリと目線を合わせ、言った。


「……なあ。俺、月島零(つきしまれい)って言うんだけど……俺の家、来ないか?

  今、俺伯父さん家に居候してんだけど、実質俺1人のためのでかい家、なんだ。伯父さんと叔母さん、世界一周旅行中でさ。

  だから、一時的保護?でもいいからさ。俺ん家、来ないか?」


 呆然とした顔は、零には分からなかったらしい。


「月島さん。お預かりしていただく場合、念の為、3日間、こちらでお預かりします。ワクチン接種など、この子はされていない可能性がありますので。3日後、ここに来てください」


「はい、分かりました。……それでさ、お前、どうだ?俺ん家でちゃんと準備するからさ、来ないか?」


  零がもう一度言った。飼い猫になったら食事に困らないことに気付いたナリは、喜んで尻尾を振った。


「もしかして……来てくれるのか?よっしゃあ!」


  零の嬉しそうな声が、診察室に響いた。



  そして、3日後。


「ほら、ここが俺の家だ!広いだろー?よっと」


  零が、ナリの入ったペット用のキャリーを玄関に置き、開けた。零の言う通り、中は広く、2階建ての家だった。リビング兼ダイニングにナリのゲージが用意されており、ゲージは2階立てだった。


(広い!猫の目線から見ても広いよここ!人間だった時の家よりもずっと……!ここが私の新しい住居……ワクワクする!これから私の新生活が始まる……!)


  尻尾を振りながら中を物色し、恥ずかしがりながらも用を足した。そしてそれが終わると、くつろいでいるように見せかけて内心とてもハラハラしていた零の前に座るため、ダイニングテーブルの上に飛び乗った。


「……良かった……ちゃんと気に入ってくれて。ちょっと待ってな、片付けてくるから」


  安心したような声を出し、零がナリのトイレに向かう。そして片付け終わると、零はダイニングに帰ってきた。


「さて……お前の名前を決めなきゃな。誰もお前のこと知らなかったし、俺が決めるべきだろ……うーん……メスだろ?んー……よし」


(名前……これが私の新しい名前……零だっけ?はどんな名前を……)


  ナリが期待して零を見つめる。それを見ずに、零はナリに向かって宣言した。


「今日からお前の名前は……「ネコ」だ!」


  期待した分、思いもよらぬ名前だったので、有は思わず、


「はあ!?そんにゃ前気に入るわけにゃいにゃ!私のにゃ前は!ニャ!リ!にゃー!」


  と、叫んでしまった。零の目の前で、人間の言葉で。


「しゃ……しゃべった……?」


  零がナリを見て固まる。

  ナリはその沈黙を知ってやっと、自分の重大なミスに気付いてしまった。


(……終わった……私のワクワク新生活……)


  ナリは、猫の顔を顔面蒼白にさせながら、そう思った。

プロローグを大幅に変更したので、割り込みです。

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