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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
スノー・ベアーズ・クイーン
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深まる謎

(「Bullet of Ragnarok」……!?嘘……まさか……!)


 ナリがそう驚いている中、零は亥李と参華に向けてこう言った。


「お、ダンバーとクリスか。良かった、こっち来たんだな!」


「まあ、それがいいのかも分からないけどね。それで、皆は?例えばそこの、獣人族の姿のあなたは、一体……」


 参華の催促で、全員が自己紹介をした。


「へえ、お前ナリなのか!面白いな、どういう構造して……」


 亥李がナリの尻尾を触った。


「ちょっちょちょ、亥李!触んないでにゃ、この変態!」


 そう言ってナリが思わず亥李を蹴り飛ばした。バン、と亥李が床にぶつかった音が響いた。零が絶句しているとも知らずに。


「その蹴りのフォームは正しくナリ……!久しぶりだな!」


「ダンバーってこんなに気持ち悪かったかにゃ……?」


「獣人族の時と変わらないから喜んでんでしょ。ほら、ダンバーって他人の目から見ても気持ち悪いくらいダンジョンを攻略したがったし。敵を知るならまず味方から、って思ったんでしょ。仲間の情報は集めたいんじゃないの?」


「なんたよ参華!別にいいじゃねえか、なあナリ?」


「被害者に聞かないで欲しいにゃ……」


「……あのさ、とりあえず食べない?埃が立つんだけど」


 千里が亥李、ナリ、参華に聞いた。少し苛立っていた。


「ん?ああ悪い!じゃあ食べるか!零、貰うぞ!」


「どうぞ……ああ、また俺叔母さんに謝んなきゃいけねえのか……」


 零がため息をついた。そして、零の用意したクッキー、千里が買ってきたラスク、陽斗が買ってきた苺タルトを、皆で食べた。零が用意した紅茶も一緒だ。


「こうしてみんな集まったことだし、1つ聞きたいんだが……」


 亥李がタルトを食べながら言った。


「ちょっと亥李くん!食べながら喋らないでよ、昔からの悪い癖!」


「ん?美波、別にいいじゃねえか。なあ陽斗?」


「それ俺に聞く?前にも言ったけど、汚いって」


「そうだよ、志学亥李。汚いのは御免なんだ、飲み込んでから話して」


 違うチームの千里が言ったのを気にしたのか、亥李は「しょうがねえなあ……」と言って、タルトを飲み込んでから、話し始めた。


「俺たち、なんでこっち……現実に来たんだろうな?ブランキャシアで、何かが起きたのか?お前ら何か知ってるか?」


「ああ、それは俺も気になってた。これは、俺だけなのかもしれないけど……多分、皆1度、この世界で死んでるんじゃないかな」


 陽斗が、周りを伺った。亥李が「現実」と言った辺りで、察しはついているようだった。


「多分な。俺やナリは、1回こっちで人間として死んで、そしてもっかい、別の人物としてこっちに来た」


 零が言った。


「それも、この世界と私たちが元々いた世界が別、って訳ではなさそうにゃ。私の同級生だった友達が、零の妹として、こっちにいるし」


「え、零妹いるの!?名前は?何歳!?」


「詩乃うっさい。月島凛、歳は……17だったかな」


「えー、可愛いじゃん!いいねいいね、今度会わせて!」


「凛がいいって言ったらな……」


 零はそう答えつつ、こんな奴は絶対に会わせないと決意していた。詩乃はそれを聞いて、満足げにクッキーを頬張ると「話を戻しまして」と冷静に言った。話を脱線させたのはお前だろ、という零の突っ込みは、言葉として発せられないままだった。


「めるも千里も、1回死んでるよ。美波もかな?」


「うん。でも、なんでこっちに来たのかは、分からないかな……参華ちゃんは?」


「私もよ。もしかしたら、元々現実で死んでしまって、ソルンボルに……流行りで言うなら異世界転生?した人だけが、現実に帰ってきたのかもしれないわね。でも、なんで……」


「帰ってきたきっかけとして考えられるのは、精霊、魔法、3賢者、女王アストリアスの失踪、といった所かな。そういえば女王だけが習得することを許される魔法があるらしいね。なにかは知らないけど」


 千里が言った。そこで、全員が考え込んでしまった。


「……死因?死因に原因がある?猫、死因は?」


 千里がためらいもなく聞いてきた。ナリの声が裏返った。


「え?にゃ、ちょ、ちょっと教えられないかにゃー……」


「今は重要なんだよ、言え」


「いやちょっと、教えたくないというかにゃ……」


「教えたっていいじゃないか、死因くらい」


 千里がそう言った。困っているナリを見て、参華がため息をついた。


「千里、そこまでにしておきなさい。人には誰だって、言いたくないことがあるでしょ。千里は、言いたくないことがないの?死因を聞かれたら言えるの?」


 参華がそう言ってしまったからか、千里は黙り込んでしまった。


「まあ……今はまだ、「皆無事に現実に帰ってきた」、これでいいんじゃないか?そうだ、今度全員で遊ぼうぜ!全員出会った記念?ってことで、旅行でも行かないか?朝日……だったか、トビーも誘ってさ!」


 淀んだ空気を消すためか、亥李がわざとらしく笑って言った。


「あ、いいかもそれ。これだけ人がいれば、車運転できる人もいるんじゃないかな?どう?私は運転出来ない……というか、ペーパードライバーだけど」


 美波が苦笑いをして言った。


「最初出会った時、零は運転してたにゃ」


「昔も今もちょっとしか運転出来ねえよ。旅行っつったら普通県外だろ?無理無理」


 零が肩を竦める。


「他は?ちなみにー、めるはもちろん運転出来ません!免許持ってないしー、忙しくてそれどころじゃないしー?」


「僕は、まだ15だから免許取れない」


「私は……あの……多分、月島家のペットとしては登録されてるんだろうけど、人間としての戸籍は無くてにゃ……」


 詩乃、千里、ナリが口々にそう言った。


「あとー……俺と参華と陽斗か?俺は運転出来ないぞ。元々俺、18だし。食っちゃ寝してる生活してた俺がそんなん取ってると思うか?」


「思わないわね。私は運転出来るけど、陽斗は?」


「俺も出来るけど……8人いて、2人しかちゃんと出来ないのか。亥李、ちゃんと企画立ててくれよ?俺と参華が運転するから」


「おうよ!任せとけ!」


 そんな風に話していると、ぽーん、ぽーんと5回時計の音が部屋に響いた。午後5時を差していた。外からオレンジ色の光が、窓から差し込んでいた。


「ああ、もうこんな時間か。僕、母さんに言われて5時に帰ってこいって言われたから、帰るね。今日は御馳走様、楽しかったよ」


 千里がそう言って、席を立った。


「えー、もうちょっといたっていいじゃーん!ねー零!」


「え?まあいいけど……」


「詩乃、今の母さんは絶対に怒るよ、従姉がゴネて帰らなかったって言ったら。それに、月島零だって困るでしょ」


「いやまあ……つか、なんだその言い方。フルネームって」


「ソルンボルにいた時はフルネームがそのまま名前だったからね、こういう呼び方はしなかったけど。僕は元々、こうやって呼ぶのが好きなんだよ」


 千里がそう説明しながら帰る準備をする中、詩乃が顔を青ざめて立ち上がった。


「あっ……叔母さん!かっ、帰ろう!帰る!ごめん、零!」


「お、おう……」


「なら、私達も帰ろうかな。ね、皆?」


 美波が詩乃を見て、楽しそうに笑って言った。他のメンバーも立ち上がり、玄関に向かう。


「あ……あのさ、亥李!」


 最後にと、玄関でナリが尻尾を振って聞いた。


「ん?なんだ?」


「ば、「Bullet of Ragnarok」……今、何ランクだにゃ!?」


 靴を履いていた亥李の動きが止まった。


「……まさか、お前……」


「昔、友達から借りてやったことあって……今も出来るのかにゃ!?」


 亥李が近付き、手を取った。そして、


「今も出来るさ!お前やってたのか!?ならやろうぜ!今度一式やるよ!その姿じゃ零に縋り付くしか出来ねえしな!バレラグはいいよな!銃撃戦の中に繰り広げられるドラマ!そしてその主人公として味方を助け相手を倒す4対4のFPS!ステルス系といっても過言じゃないな!時には影に潜み、時には外に出て敵を撃つ!ストーリーモードもいいよな!そして何よりもいいのが配信限定のボスバトル!協力プレイしないと倒せねえけど強い武器が手に入るしすげえ楽しいよな!お前もまたやらないか?前何ランク目だった!?」


 と、早口でまくし立てた。


「あ、ま、まだ5ランク目で……」


「初心者で5ランクは凄いじゃねえか!そっからのストーリー凄くいいからよ、やるからアカ復活させて……」


 そう言った辺りで、参華からバシっと肩を叩かれた。


「いってえ!」


「いい加減にしなさいな。ナリ、悪いね、こいつ面倒で。まあ、旅行行くにせよ行かないにせよ、連絡先交換しましょうか」


 そう言って参華が、スマホを取り出した。かなり古い機種だった。


「そのスマホ……機能してるの?」


「しょうがないじゃない、これしか買えなかったの。多分。仕送り止まっちゃってるっぽくてね、稼いでも稼いでも家賃と生活費で精一杯なのよ」


 陽斗とスマホの画面を覗いた参華は、ふと周りを見回した。


「皆、連絡先交換出来る?出来ればSNSでグループ作っておいた方がいいわね」


「私はケータイ持ってないけど……零がいるからセーフにゃ」


 ナリがそう言って尻尾を振った。零が「はいはい」と呆れたようにため息をつく。


「僕も、スマホは持ってるけどSNSは入れられなくて……まあ、詩乃が何とかしてくれるか。詩乃?」


 千里がそう言って、詩乃に聞いた。詩乃は心ここに在らずといった風だったが、しばらくして我に返ったようで、「え?あ、いいよ!めるが連絡先交換すればいいんでしょ?」と言った。


「……よし、これでオーケー。私、亥李、詩乃、零、陽斗、美波とこれで一気に連絡できるわ。ありがとう。それと、私と亥李、「花坂酒場」っていう、ここの最寄り駅にあるチェーンの居酒屋によくいるから、探していなかったらそこに行って。それ以外だと、亥李は多分家だろうから連絡にも気付くだろうけど、私はその駅の反対側にある焼き鳥屋でバイトしてるから、なんかあったらそこに来て。それじゃ!」


 参華がそう言って、スマホを手にしたまま、零に向けて手を振った。零とナリが振り返す。他のメンバーも、零とナリに別れの挨拶をして、玄関から出ていった。



 零とナリは、2人きりになってから、ダイニングに戻り、皿を片付け始めた。


「零ー、これどこにゃー?」


「そこの食器棚の中だ。そろそろ買い物行かねえとな……夕飯何がいい?」


「煮干し!あー……鰹節でもツナ缶でもいいにゃ!あ、マグロ!マグロマグロ!」


「……完全に食の好み猫だよな……マグロは高いから駄目、鮭にしような」


「鮭!?それはそれで美味しそうにゃ!」


 そう言いながら食器を片付けるナリを見て、


(なんというか……今日、詩乃に「ナリのことどう思ってるのか」って聞かれたけど……こいつ、最初に会った時も今も、猫が喋ってるようにしか見えないから恋愛対象とかになんねえんだよな……本物の猫可愛がってるみたいな……)


 と、零は考え込んだ。



(ふんふふんふふーん。今日はいい日だにゃ!なんて。皆に会えた。みんなこっちに来てた!それだけでも、なんだか救われた気分。最初は私1人で、誰にも理解されないだろうって思ってたけど……私と同じ境遇の人がいっぱいいた。しかも全員仲間だった!なんだか凄い嬉しい……零と出会えてから、ずっと……夢でも見てるみたい……!)


 一方、そうやって鼻唄を歌っていたナリは、食器をみるみる片付けていった。ただ、水に触るのだけは嫌なので、水を貯めた桶の中に食器を突っ込み、食器用の乾燥ラックから皿を取り出して食器棚に入れているだけだった。


 その時。


 突然、ブツンという音が聞こえた。その瞬間、ナリの視界は真っ暗になり、ナリの意識はそこで途切れた。

 次に目が覚めた時は、もう日が落ちかけていた。自分がいた場所の床に倒れ付しており、幸い皿は無事だった。起き上がり時間を見ると、夜の7時になっていた。


(これ……前にもなった奴だ。前は熱中症だと思ってたけど、今日はちゃんと水飲んだし、違うのかも……というか、私がここで倒れたら零が気付く……よね?ちょっと、零!?)


 ナリは慌てて、周りを見回した。すると、同じように起き上がった零が頭を抑えていた。


「……っー、()()これだ……この前の講義中にもなったし、今日は勢いよく頭ぶつけたし……一体何が……」


 2人の目が合う。


「……もしかして、零もかにゃ?」


「……お前もか?この原因不明の意識不明……」


 ナリはそう聞いて、うんと縦に頷いた。

これとば別枠で番外編を投稿していますので、ぜひ読んでください。

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