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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
アストリアスの悪夢
154/159

太陽

「離れろ、銘苅再会!邪魔をするな!」


「いやだよーん。てか、本名呼ばないでよ!年下なんだから気ぃ遣ってよね!?満咲!」


 二人とも、自分が引く気は無いらしい。

 武器同士がぶつかり合う音が鳴り響いた。その音と同時に距離を取った二人は、武器の先端をお互いに向けた。


「《深淵灰弾(リグレットブラスト)》!」

「《胡蝶虚弾(ドリームジャーニー)》!」


 詩乃の杖から灰色の弾が、満咲の槍から白い弾が放たれた。それらが衝突し、煙が蔓延していく。


「今のうちに畳み掛けるわよ!」


「おうよ!《魔力魔撃(エナジー)=(オレンジ)》!」


 参華の合図に合わせて、零が先陣を切った。

 オレンジ色のオーラを纏った剣が、満咲の足元をかすめる。苛立った顔で避けた満咲が、煙の中から見えた。


「まだまだ……!《日天》!」


 次は陽斗。斧を振り上げて、満咲の体制を崩した。


「《勇者霊魂(エインヘリアル)》!」


 崩れたところに、亥李の剣が振り下ろされる。

 槍で防ごうとしているけれど、間に合わない。肩の部分の制服が破け、頭から血が流れていた。


「《青光回(ブルーヒー)》……」

「回復の隙なんてあげないよ!満咲!」


 詩乃の声だ。煙が晴れた先で、杖を構えている。


「《瑠璃光線(リユニオンレイ)》!」


 鋭いレーザーが、満咲を捉えた。

 回復魔法が途中で途切れた。避けていた満咲の顔に、余裕が無かったような気がする。


 なら今だ。私も、技を出さなければ!


「《有為転変》!」


 そう叫びつつ、満咲の肩に向かって拳を繰り出した。

 満咲が私をぎろりと睨んだ。だけれど、抵抗出来てない。

 受け身の体制になってはいるけれど、詩乃の魔法を避けながらだから、私の攻撃を槍で防げない。


 手応えありだ。


「にゃあああああ!」


 つい出てしまった叫び声と共に、六連発の拳の後、左足で遠くへ蹴り飛ばした。


 激突した教会の柱が、静かに崩れ去っていく。いつも綺麗で、昔から人形みたいな満咲の顔に、今は泥が着いていた。


「まだまだ回復させねーぞ!《空虚泡沫(ラグナロク)》!」


 そう言って、盾を構えて突撃したのは亥李だった。戦略や技術も何も無く、ただ満咲に向かって剣でハチャメチャに切りつける。


 満咲の顔に切り傷が出来てきた。


「ああ……ああ、もう!」


 突然、満咲が凄い勢いで槍で薙ぎ払った。亥李が慌てて盾でガードし、後ろに下がる。


「邪魔しないでよッ!《針蝶夢槍(グングニル)》!」


 さっきの技だ。槍が四方八方に増え、その輪が皆の元へ広がっていく。


 しかも、《盧生之(ドリームド・ドリー)(ムズ)》が全部にかかっているおまけ付き。


「うにゃああああああ!《朝有紅顔》!」


 《肉体烈火(マッスルハッスル)》と《盧生之(ドリームド・ドリー)(ムズ)》を両方とも拳にかけ、槍を消しに走った。


 やばい。魔力が、そろそろ切れそうだ……


「甘いわね、有」


 瀕死で、魔法もばんばん繰り出してて、皆に攻撃されて辛いはずなのに。

 なんでこの人は、いつもこの冷静さが消えないんだ。


「何……!?」


「貴方だけなのよ?私の魔法を防げるのは。なら、貴方から倒しにかかるのは当然でしょう?」


 そう言って、満咲は私に走り寄ってくると、針山のように連続で槍で突いてきた。


 ただでさえ魔力切れでフラフラするというのに。《盧生之(ドリームド・ドリー)(ムズ)》を展開しながら避けるのが、かなり厳しい……!


「ナリ!大丈夫か!?」


「待って零!槍に触れたら……!」


 だめだ。間に合わない!


「えっ?」


 私の声で止まった零の手に、一本の槍が突き刺さった。


 手、腕、肩。血が吹き出し、槍がその周囲を消していく。


 零だけじゃない。皆が、皆が、皆が……

 

 世界が白黒に変わっていく。全てがスローに見えてくる。

 鳴り響く胸の鼓動が、私を責め立てるゴングの音みたいで、とてもうるさいて聞いていられない。


 お前は、結局皆を守れないって、言われているような気がする。


 満咲の口元が見えた。ほんのり笑みを零した彼女の顔が、私の頭の中をグルグルしていく。

 雪みたいな何かが、視界をよぎった。


「うわああああああああ!」


 突き出された槍の隙間を突いて、拳を満咲に振るった。


 満咲の胸にヒットした拳を、すぐに引っ込める。目の先で、零が体制を崩して膝をついていた。


「零!」


「はっはは……大丈夫、じゃあねぇな……」


 零が苦笑いを浮かべ、消えてしまった右肩を見た。縮れた布のように、断面はギザギザで焼け焦げたようだった。


「痛いとかじゃなくて、まず最初に、無くなったことへの衝撃が来るんだな……お前って、すげぇんだな」


 声が震えている。満咲は遠くで魔法を唱え、回復を始めていた。


「させないッ!皆を……詩乃を、返してよ!」


 千里の声が教会の中に響いた。あんなに震えていて、あんなに怒っている千里の声は、聞いたことがなかった。


 美波と千里は遠くにいたから、詩乃が守ったらしい。詩乃のドレスは溶け、片足が無くなっていた。美波が駆け寄って、涙を浮かべつつ魔法を唱えている。


「《空谷跫音(アンノウン)》ッ!」


 白くて太いビームが、満咲へと向かっていった。

 槍の先端で魔法を弾き返している。しばらく時間が稼げそうだ。


「太陽神ティラーよ……皆をどうか、救ってください……!」


 涙声だった。満咲に対して怖がっているような、そんな目だった。


 陽の光に照らされて、美波のロザリオがきらりと輝いた。

 その光がロザリオから天井へと向かうと、金のオーロラが円形に展開され、そこからキラキラとした光が降り注いだ。


「《幸陽慈雨(ウィズアライヴ)》」


 噂には聞いていた。太陽神ティラーの神官が使う、最強の回復魔法。

 それがこれなのだろう。太陽の光のように、優しく皆を包み込む。


 だが、やっぱり所詮は回復魔法だ。止血や痛み止め、切り傷を塞ぐことはしてくれるけれど、無くなった腕や足は元に戻してくれない。


 ……そうだ。無いものを作ってくれる、夢みたいな魔法があった。そしてそれを、私は知っている。


 神様がくれる祝福の光のように、その魔法を天井へ弾き飛ばした。上から、美波の魔法を補強していく。


「《胡蝶之(ドリーム・フォアリ)(アル)》」


 ああ、もう魔力が……


「ナリ!」


 目眩がして倒れてしまった私を、零が片手で受け止めた。

 もう「心の中で詠唱」だなんて言っている余裕は無い。皆にも、隠せなくなってきた。


「ナリちゃん、その魔法……」


 美波が不安そうな、怖がっているような顔で私を見た。

 皆の腕や足も元に戻ってきている。ちぎれてしまった人形の手足を糸で繋いだみたいに。


 陽斗が手を動かしているのが見えた。良かった、神経が繋がったみたいだ。

 血管や神経がどんな風になっているのか想像出来なかったけれど、何とかなったらしい。


「《魔力回復(トランスヒール)》」


 美波は何も言わずに、美波の持っている魔力を私に分けてくれた。


 もう私は、美波の知っているナリには戻れなくなってしまった。

 魔法を使えなかったはずの拳闘士が、いつの間にか誰も知らない最強魔法を唱えて、皆を救っている。


 ねえ、そんな怯えた顔しないでよ。

 認めたくないの。私は、美波の太陽にはなれないって。


 あなたを照らせば照らすほど、あなたから遠い存在に、あなたを傷つける存在になるなんて、知りたくないの。


「はあぁー!もう、心臓まで槍が届くかと思ったわよ!」


 重い空気を和らげたのは、参華の声だった。

 肩を回しながら、満咲の方へ歩いていく。戦況は、千里の魔力が尽きかけたせいで劣勢になっていた。


「うちの仲間達を、よくもボロボロにしやがって!《槍の不滅花(カサブランカ咲き)》!」


 そう叫んだ参華は、槍をくるくると回転させつつ、満咲の足元へ近付いた。

 そして、風の勢いそのままに満咲に向かって槍を突き刺した。風がある分、間合いが少し伸びている。


「次から次へと……!ゾンビみたいに現れやがって!」


「ゾンビで結構!私達は、皆一回死んでいるのよ!」


 槍を何度も高速で突き、満咲に鋭い傷を与えていく。

 まるで、槍のブーケだ。


「全くだな!そろそろ、()()を使う時が来たか……!」


「何ィ!?零、あれとは一体なんなんだ!?」


「亥李!リアクションしてる暇あるなら美波達フォローに行ってよ!」


 もしかしたら真面目なのかもしれない亥李と、それを宥める陽斗を無視しつつ、零は剣を片手に持つと、誰もいない場所を次々と目で追った。


 いや、「誰もいない」のではない。あれは戦場の跡だ。

 特に、零が《魔力魔撃(エナジー)》を打った場所。


「甦れ……満咲、勝負だ!《白兎赤烏(メモラブルエナジー)》!」


 その言葉を合図に、戦いの痕跡とも呼べるものが、思念となって現れた。


 零の《魔力魔撃(エナジー)》だけじゃなくて、私達皆の攻撃だ。それらが思念体となって、満咲の方へ飛んでいく。


 戦いの記憶がそのまま形になって、技を受けた本人に戻っていくみたいだ。


 思念体の攻撃に、満咲が膝をついた。今がチャンスだ。


「うっ……!か、回復を……!」


「させない!」


 Uの字を書いて満咲の元へ走った。零の思念体に夢中になっていて、私の姿が見えていないんだ。


「《有七種技(ナリセブン)》が七つ目!《有終之美》!」


 そう叫びながら繰り出したのは、《肉体烈火(マッスルハッスル)》と《盧生之(ドリームド・ドリー)(ムズ)》の両方をかけた拳。


 満咲の頬にヒットしたその拳は、柔らかい満咲の肌に赤いアザを作り、遠くの方へと吹き飛ばした。


 そのまま走って満咲に近寄る。ダッシュで右手を構え、そのまま前に突き出した。

 満咲が槍で受け止めようとするけれど、私の狙いはそこじゃない。勢いに任せて右足を軸に一回転し、左足で槍を蹴り落とした。


 満咲の腕が、痛みで震えていた。


 そのまま着地し、六連発の拳をヒットさせた。槍でガード出来ない分、拳が傷口に当たる。

 脇腹を左足で蹴り、最後にとっておきの拳をお見舞いした。


「有、お前は……!」


「この勝負、私の勝ちだ!満咲!」


 渾身の拳が満咲のみぞおちに入った。


 勢いを殺せず、満咲が太陽神ティラーの像に激突する。パラパラと大理石が崩れ、満咲の上にかぶさった。


 満咲が、血を吐いていた。

ハッピーバレンタイン!

今年は何も用意してませんが、2年前に投稿したバレンタインの番外編(https://ncode.syosetu.com/n1889ha/12)もぜひご覧ください。


次回は2月21日です。


【皆の最終奥義を少しだけ解説するコーナー】

零《白兎赤烏(メモラブルエナジー)》…白兎赤烏とは時間を表す四字熟語で、白居易の漢詩に登場するらしいです(goo辞書より)。実はこの四字熟語は「只、狼は優しくありたかった」編の没タイトルです。立場的に赤は零のことなのに、本人は白兎(月を表す為)なのでやめました。


美波《幸陽慈雨(ウィズアライヴ)》…言わずもがな《寂雪悲雨(ベトレイアル・スノー)》のオマージュです。太陽神を信仰する美波の最終奥義なので、攻撃魔法にするか悩みましたが、まあ回復役の最強魔法は回復魔法の方がいいよなーと現在に至りました。

ちなみに、前になんとなくテレビを見ていたら「推しをどう形容する? 」みたいな特集があったので考えていたのですが、私の場合は「推しは太陽」です。嬉しくない時もあるけれど、どんな時でも私を照らしてくれる上に、私にとって太陽は必要なものだからです。あと太陽の笑顔って言うし。美波にとって、ナリは太陽そのものだったでしょう。


亥李《空虚泡沫(ラグナロク)》…本来最終奥義になる予定だった技。ラグナロクは神々の戦争のことです。彼の好きなバレラグの名前にもあります。ちなみに、原案によると「全てが空虚だと悟った亥李が、やけになって盾を構えながら敵に突っ込む。なんやかんやこれが一番強い。」らしいです。我ながら皮肉が効きすぎて怖いよ。


参華《槍の不滅花(カサブランカ咲き)》…カサブランカが、話全体としてモチーフの一部だったので。あんまり裏話は無いです。「花ならカサブランカしかないっしょ!」ってノリで決めました。

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