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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
アストリアスの悪夢
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ウィル=フレンドシップの試練Ⅰ

 愛と勇気の塔を出たその足で、今度は意志と友情の塔に辿り着いた。


「確か……意志と友情の塔の入り方は、誰も分からないって……」


 だから、誰も試練を受けたことがない。


 愛と勇気の塔では、皆が試練を受けることが出来るのに……そこもやっぱり、司っているものの違いなのだろうか。


 でも、見た感じだと、立派で重々しい扉が構えてあるだけで、入り方が分からないなんてことは、無さそうだけれど。


「とりあえず、中に入ってみよう……」


 物々しい音を立てながら、扉が開いた。


 中は真っ暗だった。外から日の光が差し込んでいるのに、全く中の様子が分からない。


「入り方が分からないって、一体どういう――」


 反響を聞きながら中に足を踏み入れた、その時。


「――うにゃっ!?」


 一歩踏み出したその先に、足場が何も無かった。


 しまった、床があるものだと思って、普通に足に体重をかけてしまった。

 このままだと、落ちてしまう!


「うにゃあああああああ!?」


 結局、私は重力の影響を受け、下へと真っ逆さまになってしまった。


 やばいやばいやばい!頭から落ちるのは死ぬ可能性がある!


 というか、暗すぎてどこまで落ちるのか全く分からない!もし、途中に尖ったものでもあったら……!


 魔法が分からないから、炎は使えない。

 成功するか分からないけど、一か八か……!


「《胡蝶之(ドリーム・フォアリ)(アル)》ッ!」


 出てよ、抱え込めるくらいの大きな豆電球!


「上出来だ。流石、姉上の試練を突破してきた程はある」


「……え?」


 頭から真っ逆さまに落ちていく私と、並行して落ちていく人が、もう一人。


 位置からして目が合う筈なのに、フードが深過ぎて全く顔が見えない。


 でも、私は純白のローブを身にまとったその人のことを……いや、その精霊のことを知っている。


「ウィル=フレンドシップ様……?」


 三賢者の最後の一精霊。

 他の精霊の話からして、三姉妹の中で一番下の妹。


 意志と友情を司る精霊、ウィル=フレンドシップだ。


「左様。アイはウィル=フレンドシップという者」


 アイ?


 ……あ、アルファベットのIだ。分かりづらい一人称だなあ。


「先程はただの小手調べだったが、良くぞ突破した。さあ、次だ。ユーはこの状況をどう打破する?山門有!」


 ウィル=フレンドシップはそう言って、私の両肩を掴んだ。


 そしてそのまま、まるで魔法か何かで突風を吹かせたように、私を地面へと突き放した。


「うにゃぁ!?」


 下を見ると、そこには鋭い針が見えた。


 豆電球の光を反射して輝くそれは、私を刺さんとばかりに待ち構えている。


 どうしよう。このままだと、針が突き刺さって死んでしまう!


「……そうだ。これは夢なんだ」


 だから、このまま突き刺さっても、痛いだけで済むはずだ。


 でも、痛みを感じるのはなるべくなら避けたい。

 そんな状態でホープ=ドリームのところに行きたくないし……

 何より、使い物にならないと言われて捨てられては、ここまで頑張ってきた意味が無い。


「夢なら壊れてくれ!《盧生之(ドリームド・ドリー)(ムズ)》ッ!」


 目の前の針に向けて、夢壊しの魔法をかけた。


 思った通り、魔法は針を粉々に砕き、その粉塵ごと消してしまった。

 そのまま下へ下へと、魔法は進んでいく。その先のものを全て壊しながら。


「……あれ?この先って、もしかして、虚無の空間……?」


 当然、床も壊してしまっていた。

 つまり、着地するところが無い。


 元々針があった場所を通り抜け、下へ下へと落ちていく。


 黒とも言えない何も無い空間が、私の目の前でぱっくり開いていた。


「うわっ!もしかして、永遠に落ちるんじゃ――」


 おかしい。

 そこから先の声が出ない。


 そうだ、声も夢なんだ。虚無の世界では、夢はすぐに壊されるのかもしれない。


 じゃあ、もう、何も――


「壊し過ぎだ、愚か者」


 その声が聞こえた瞬間、急に落下が止まった。


 右足が掴まれて、振り子みたいに身体が揺れる。

 ウィル=フレンドシップが助けてくれたみたいだ。よかった……


「全く、ホープ=ドリームに頼まなければならなくなったじゃないか。あの頑固精霊を説得するのは困難だというのに」


 足が引っ張られ、上へと戻っていく。


 相も変わらずと言うべきか、ウィル=フレンドシップはホープ=ドリームと仲が悪いらしい。


「まあ、及第点といったところだな。その魔法を使うのはいいが、もう少し加減を知った方がいい。また塔を壊されては非効率なのでな」


 ウィル=フレンドシップはそう言って、無事だった木の板を穴の上に倒し、その上に私を着地させた。


 立ち上がれない。少しでもバランスを崩したら、深淵に落ちてしまいそうだ。


「あの……ウィル=フレンドシップ様……」


「姉上達の所に行ったそうだな。それで、アイを説得して、この世界を終わらせるのを止めさせようと」


「あ、そ、そうなんです!それで――」


「残念だが、ユーはまだ試練を受けていない。試練に合格したら、ユーの説得に応じてもいいが……さあ、どうする?」


 え?

 今までのは試練じゃ無かったの?


「今までのは試練では無い。最初にユーは言っていただろう?入り方が分からないなんて、どういうことだと。アイの塔は、試練を簡単にしている代わりに、入り方を特殊にしている。言わば、試練が二つあるようなものだ。ユーはその、最初の方に合格したに過ぎない」


「じゃあ、王家の魔法を覚えているかどうかが……」


「自惚れるな。王家の魔法をユーが使ったのは、単にユーの技術の一つだったからだろう?あの時、もし他の方法を思いついたのなら、それで良かったのだ。王家の魔法は関係ない。関係あるのは、ユーが真実を知っているかどうかだ」


「真実を……?なんで真実が重要なんですか?」


 そう聞くと、ウィル=フレンドシップは、まるで親が子供を叱りつけるみたいな口調で、大声をあげた。


「当たり前のことを聞くな。アイは意志と友情を司る者。それ則ち、考えることを司る者だ。何の為に考える?何の為に意志を持つ?何の為に友情を尊ぶ?全て、真実の為だろう?ならば、真実が伴っていなくては、この塔に入れないのは道理ではないか?」


 ウィル=フレンドシップが無事な床の先を歩き、奥へと進んでいった。

 慌ててついていこうとするけれど、板がやっぱり不安定だ。慌てず、そして急いでついていく。


「考えるという行為は、言葉を操る者のみに許された行為だ。動物は考えないが、人間は考えるだろう?その違いは、言語なのだ。姉上達には許されない行為が、人間を人間たらしめる行為が、アイの司るそのものなのだ」


 奥には、夢と希望の塔のような宇宙空間が広がっていた。

 ウィル=フレンドシップの白いローブが、よく映えていた。周りで白い花が宙に浮かんでいるのは、この精霊の象徴だからなのだろうか。


「さて、それでどうする?試練を受けなければ、話を聞く義理はないぞ。ユーの考える力を見せてみよ」


 そう言われてしまっては、もう試練を受けるしかない。


 なにせ、その為にここまで頑張ってきたのだ。今更試練がなんだ。真実を知った時の絶望感と虚無感を覆せるのなら、なんでもいい。


「やります!なんだって、受けてやります!」


 私はそう言って立ち上がった。もう床が不安定だなんてことはない。


「そうか……ならば」


 ウィル=フレンドシップはそう言って、花のオブジェが先端についている白い杖を取り出した。

 そして意気揚々と、私に向けてそれを振った。


「意志は決定された!山門有、アイはこの意志を尊重する!」


 その瞬間、周りに水晶がどこからか現れた。

 あの水晶だ。夢と希望の塔で見た、皆の夢。


「ユーの友情を、試させてもらおう……久方振りに、アイ直々に試練してやるのだ。張り切っていこうぞ」


 ウィル=フレンドシップはそう言って、一つの夢の世界を取り出し、私の目の前に持ってきた。


「ユーは友人と随分仲が良いみたいだが……その中でも、小早川那月と……ユーの知る名では土屋美波と、最も仲が良いみたいだな。当然、ユーの持っている恋愛感情とやらを抜きにして、だ」


 感情が多分分からないこの精霊に、ここまで言われると、もはや恥ずかしくなくなってくるけど……まあいいや。

 真剣な話なのだ。ちゃんと聞かなければ。


 それにしても、なんで急に美波の話を?なんだか、嫌な予感がする。


「ここに、土屋美波の夢を用意した。それを、この結晶の群の中に放り込む」


 杖の動いた軌跡通りに、美波の夢と呼ばれた結晶が動いていく。


 他の結晶とシャッフルされて、もうどれだか分からなくなってきた。

 でも、中を覗き込めばどれだかすぐ分かるはずだ。だって、さっきそうやって、現実世界を見たのだから。


「ユーの友以外の夢は、全てもう既に目覚めた者の夢だ。空っぽで、鑑賞者の居ない箱庭だ。中を覗いてみよ」


 そう言われたので、近くにあった結晶の中を覗いてみる。


 白色のシーツが掛けられたベッド、ピンク色の布団、焦げ茶色の遮光カーテン。至って普通の世界だ。


 部屋の奥には倉庫のようなものがあるらしく、一つの寝室に扉が二つある珍しい部屋構造だ。

 ベッドには誰かが寝ているみたいで、視点の主はその人物を気にかけているようだった。


 なんだか見たことのある部屋だ。まるで、隅々まで何がどこにあるか分かるくらい、私はこの部屋を…………


「……いや、これって……!」


 ベッドで寝ているのは、私だ。これは、私の部屋だ。


 じゃあ、もしかしてこの夢の主は、美波?


「他の夢も覗いてみるとよい。さすれば、試練が何を試すのか分かるゆえ」


 言われるがままに、手当り次第覗いてみる。


 全て、同じ視界だ。同じ視点で、同じものを見て、同じ私を心配している。


「もしかして……この大量の美波の夢の中から、本物を見つけ出すって、ことですか……?」


「左様。本物以外は全て先の魔法で壊せ。簡単だろう?友なのだから」


 ウィル=フレンドシップは、決めゼリフを言うみたいに格好つけて、私に杖を向けた。


「山門有。ユーの意志と友情、試させてもらうぞ」

次回は12月6日です。


Q.なんで一人称がアイで二人称がユーなの?

A.個人的な考えとして、英語は日本語と比べて自分の考えを表現しやすい言語だと思います。日本語だと「〜だと私は思います」となりますが、英語だと「I think that〜」となり、後ろが考えなんだなーと身構えられるからです。考えることを司るウィル=フレンドシップなので、それがいいかなと。


Q.言語を使えるから人間は考えるのか?

A.近代の哲学者は結構その考えを持っていたみたいです(デカルト、カントなど)。なのでウィル=フレンドシップはそういう考えを持っていますが、どう思うかは読者の皆様次第です。ちなみに私は動物は考えると思っているので全くそうは思いません。

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