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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
アストリアスの悪夢
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可哀想

「あなたのことは、ホープ=ドリームから聞いていたわ。ああ、なんて可哀想な子!真実を告げられて、絶望でしか物事を見ることが出来ないのね」


「更なる絶望を与えたのはあなたでしょう」だなんて、とてもじゃないが言えなかった。


「あの、私、ここに来たのは……」


「皆まで言わなくても良いわ。安心して、あなたのことはアタシが一番理解してる。愛する人に会いに行きたいんでしょう?」


 愛する人……零のことかな。


 こうも教えられてしまっては、もう認めるしかないのだけれど……

 私は、そんなに分かりやすいんだろうか?


「そうなんです。私、この世界を終わらせるって聞いて、それで……」


「ああ、なんて可哀想な有!愛する人とはもう二度と会えないままこの世界が終わるだなんて、認めたくないのね?意地悪よね。愛しているのだから、会いに行かせてやってもいいのに……」


「あの、そ、そうなんです!だから、どうかラヴ=ブレイヴ様からホープ=ドリーム様に、言ってくれませんか?この世界を終わらせるのを、やめて欲しいって……それと、人によって世界が違うのも……」


「ああ……アタシを許して、愛しい有。アタシには、そんな力は無いのよ。可哀想だけれど、アタシはあなたの力にはなれないの」

 

 なんとなく、そう言うんじゃないかという気はしていた。


 ホープ=ドリームが「決まったことだから」と断ったんだ。ラヴ=ブレイヴも、それを覆す力は無いんじゃないかと思っていた。


 それよりも、なんでだろう。「可哀想」と言われる度に、胸のあたりがチクチクするのは。


「アタシは、あくまで愛と勇気を司る者……感情を奮い立たせることは出来るけど、考えたり行動したりすることは出来ないの。そういうことは、ウィル=フレンドシップに言ってくれる?あの子があなたの言うことを聞くとは思えないけど……」


「で、でも!ホープ=ドリーム様は、あなたに会いに行けって……!」


「ああ、可哀想に。妹の言うことをまともに信じちゃ駄目よ。あの子は、あなたの感情なんてまともに理解出来ないわ。だから、感情を理解する相手として、アタシを選んだだけ。アタシは何も出来ないわよ」


 ラヴ=ブレイヴがそう言って、身体をくねらせた。


 ホープ=ドリームと違って、彼女の黒のフードは顔まで隠そうとはしなかった。

 だから、顔を見れば分かる。これは本心だ。


 オニキスのように黒くて美しい目が、私を覗き込んでいた。


「アタシ達は三姉妹という形をとっていて、アタシが長女とされているけれど……実際は、ただ生まれた順番がそういう順番だっただけで、力の優劣なんてないわ。むしろ、アタシは妹達には何も勝てないくらい……だから、ごめんなさい。可哀想だけれど、あなたの役には立てないのよ」


 まただ。可哀想だと言われる度に、胸のあたりがチクッと来る。


「あの……じゃあ、ラヴ=ブレイヴ様がウィル=フレンドシップ様に言っていただければ……!」


「それは駄目よ。だって、アタシはウィル=フレンドシップのこと嫌いだもの。あの子、意志だ意志だってうるさいじゃない?人を愛することも、憎むことも知るべきだわ。そうじゃないと、考えるって出来ないでしょう?きっとそうに違いないわ」


 なるほど。ラヴ=ブレイヴは感情的なのだ。


 逆に、感情を抜きにして論理的に考えたり、実際に行動したりすることは出来ない。


 そう思うと、なんだか腑に落ちた。


 話の流れからして、ホープ=ドリームは行動することが、ウィル=フレンドシップは考えることが出来るのだろう。


 むしろ多分、彼女達はそれしか出来ない。


 人間が出来ることを三つに分けて、バラバラにしたみたいな存在なんだ。

 もう少し仲良くしてくれていると嬉しかったのだけれど、どうにもこの姉妹は仲が悪い。


 ただ対の存在ってだけで、どうしてここまで仲が悪くなれるのだろうか。


「あの……じゃあ、ウィル=フレンドシップ様のところに行けば、私の話も聞いてもらえるんですよね?」


「ええ。あの子が一番聞く耳を持ってるわ。まあ聞いてくれたからと言って、理解してくれるかはまた別の話だけれど……」


 それでも、ここまで来たからには行くしかない。


 今諦めてしまったら、もうおしまいだ。


「それでも、行きます。ラヴ=ブレイヴ様、色々と教えてくれて、ありがとうございました」


「いいのよ、全然!大したこと教えてないし……」


 そのまま、下げていた頭を上げて、すぐに意志と友情の塔へ行こうとした。


 その時だ。


「ああ、なんていじらしいの、有!アタシ如きに教わるだなんて、とっても可哀想なのに……それでもめげないのね。アタシ、応援するわ!頑張って!」


 ああ。まただ。


 今までスルーしていたけれど、もう限界だ。


「あの、ラヴ=ブレイヴ様」


「どうかしたの?アタシ、何かあなたの気に障るようなこと言ったかしら?ごめんなさい」


 そうもヒステリー気味に落ち込まれると、正直ビックリしてしまうのだが……まあいいや。


「あの……なんで、さっきから()()()ってずっと言うんですか?私の、何が可哀想なんですか?こんなに頑張って、辛いことを聞かされても諦めないようにしているのに……私の、どこが可哀想なんですか?」


 少なくとも私は、可哀想なほど劣ってない。


 可哀想って、目上の人が目下の人に言う言葉だ。

 確かに、ラヴ=ブレイヴは目上で、私は目下だけれど……だからって、言われる筋合いはない。


「……ああ、なるほど」


 ラヴ=ブレイヴは、私の言葉をゆっくり咀嚼した後に、にっこりと笑った。


「なんでそんなに怒ってるのかしらと思ってたけれど……アタシの言葉が気に入らないのね?んもう、言葉ばっかり巧みだと、感じるのに一苦労しちゃうわ」


 そう言って、ラヴ=ブレイヴは普通の精霊のように宙に浮き、ダンスホールの天井付近で舞った。


 それと同時に、窓から白い鳩が中に入ってきて、彼女の周りを囲った。


 そういえば昔、建国記念日にラヴ=ブレイヴを見た時、白い鳩が彼女の周りを飛んでいた。

 どうやら、ホープ=ドリームが蝶を使役するように、ラヴ=ブレイヴは鳩を使役するらしい。


 生き物に好かれるのは、感情的な証だからだろうか。


「山門有。一つ、教えてあげる。アタシは、ただの感情を司る精霊じゃない。愛なのよ。アタシは、愛と勇気を司っているの」


「そ、それが一体……」


「あっははははは、まだ気付かないの!?有、考えないで。ただ、感じるのよ。そうすれば、世界は上手く回るの」


 先程まで、ラヴ=ブレイヴの笑顔は純粋で優しいと思っていた。


 だが今は、彼女の笑い声が、正直不気味でしかない。


「アタシは、愛なの。皆を愛しているの。それは慈愛。それは慈悲。それは憐れみ。憐憫とは他者をいたわる感情でもあり、同時に相手に足りないものが自分に足りていることの証拠でもある。アタシはそれを司る者なのよ?」


「じゃあ、可哀想って言ったのは……」


「アタシは、あなたと比べて足りている。真実に打ちひしがれることもなく、絶望することも諦めることもない。なら、あなたに向ける感情は、憐れみ以外の何物でもないでしょう?」


 つまりラヴ=ブレイヴは、真実を知って喜ぶことも、希望に満ち溢れることも、諦めない気持ちも、何も知らないのだ。


 愛だけに溢れているなんて、なんて感情に乏しい。


「いい?有。これは愛なのよ。あなたのことを愛している。でも、あなたはアタシと比べて足りていない。だから憐れむの。だから可哀想なの。だって、私は愛なのだから」


 そう言って、ラヴ=ブレイヴは私の元に近付いてきた。


「過去を恐れず勇気を出したあなたを、アタシはどこまでも愛し続けるわ。愛とは、過去と出会うこと。勇気とは、過去を振り払うこと。あなたが過去に囚われたい時は、いつでもいらっしゃい。あなたのこと、愛してあげるから」


 なるほど。決めた。

 この精霊とはもう二度と会わない。


 この精霊は、過去と出会い続け、過去を振り払った者を祝福し続ける。


 対してこの精霊自身は、「愛している」という感情に囚われすぎて、自分が過去しか見れていないことに気付いていない。


 愛も勇気も重要だ。

 でも、それだけでは賞賛される人にはなれない。


 そのことが、今回でよく分かった。


「私は、可哀想な人じゃないですよ」


 私はこの可哀想な精霊にそう告げて、背を向けた。


「ええ、行ってらっしゃい。勇気あるあなた!応援してるわ!」


 背に言葉を浴びつつ、塔を出る。


 愛だなんだと言われ続けて、なんだか疲れる塔だった。


「でも、もう二度と会えない大切な人がいるのなら、ここに来たいと思っちゃうものなのかな……」


 だとしても、あんな精霊の下僕になんて、絶対になりたくない。

次回は11月29日です。


昔から、可哀想と言われるのはとても苦手です。自分は頑張っているのに、その頑張りを無視されて環境が劣っていることを指摘されているような気がするからです。なので今回、有ちゃんに言ってもらいました。

それでも同情を集めようとする承認欲求モンスターな自分を、なんとかしたいですが……

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