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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
千の真珠、湖の鍵、失われた女王
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アストリアスの夢

(満咲が……アストリアス……?)


 最初、亥李と満咲が何を話しているのか、ナリには全く分からなかった。


「なんで分かったの?志学亥李」


 満咲は、さも認めたかのようにニッコリと笑っている。


(亥李は、満咲とは初対面だ。でも、なんで……いつ、亥李はアストリアス様が満咲だって、分かったんだろう。どうやって……?)


 ナリは思わず、亥李の方を見た。


 だが亥李は口ごもり、目を伏せている。


「だんまり、ね。まあ、そうよね。私には話せても、仲間達には話せない。同情するわ」


 満咲はそう言って、優しく微笑んだ。


(何も言わない……でも、なんとなく分かる気がする。満咲がアストリアスだって)


 そう思いつつ、ナリは昨日、愛に言われたことを思い出した。


「ナリちゃん。アストリアス様は、神出鬼没だよ。彼女にしか分からない魔法を覚えてて、それを何度も使ってるから」


 愛は確かにそう言っていた。

 そして、満咲はいつも、突然現れてはナリに意味深な言葉を残し、消えていっていた。


(いつも、私の状況を全部見透かしたみたいなことを言っていた。そして、突然現れては突然消えて……だから、満咲がアストリアスだからっていうのは、すごくしっくりくる。でも、なんで今回は、皆の前に現れたんだろう?それに、同情……?)


 ナリはそう思いつつ、武器を構えた。

 周りにいる仲間達も、臨戦態勢をとる。次に満咲が何を言うのか、全員が注目していた。


「まさか、亥李が最初に真相に辿り着くだなんて思ってもいなかったけど……そうよ。私の名前は、アストリアス」


「じゃあ、お前が、この前の赤い人形騒動を引き起こして……ナリを試すみたいなことしてた、黒幕なのか!?」


 零が剣先を向けた。目が本気で怒っていた。


「そうよ。元同級生だから……山門有のことは、よく知っていてね」


「じゃあ、お前が果たすって言った目的も、全て終わらせるって言ったことも、全部止めるんだよな!?お前を見つければ俺達の勝利、だったよな!?」


 零が叫んだ。必死そうな声だ。


 だが、ナリ達の予想に反して、満咲は鼻で笑った。


「全部止める?そんなこと、誰が言ったかしら」


「にゃっ……そ、そう言ってたよ!確かに、そう言って……!」


「あら、有。私はあの時、こう言ったのよ?」


 満咲はそう言って身を乗り出し、一文字ずつ確認するように、言葉を発した。


「三日以内に、私を探して。もし出来なかったら、私は目的を達成して、全て終わらせる」


「それは、つまり……三日以内に探し出すことが出来たら、何もしないと言っているように聞こえるけど?」


 陽斗が少し苛立ったように尋ねた。


「そうだよ、陽斗の言う通りだよ。《異形》!」


 そう言って、ナリは《異形》で獣人族になった。

 そのまま、ナリは続けた。


「約束、果たさない気かにゃ!?そんなの、ズルに――」


「じゃあ、一つ一つ確かめていきましょうか?」


 満咲はナリの話を遮り、笑った。

 そのまま、彼女はわざとらしく、可愛こぶるように歩き始めた。


「まず、この「三日以内」という期間だけど……三日経ったなんて、どうやって分かるのかしら?私達転生者は、突然倒れて数時間の記憶を失う……あなた達のいう「夢遊病」にもれなくかかってる。この期間の間に「夢遊病」が発動していないなんて、誰が分かるの?」


「そんなの……僕達が「夢遊病」が発動していないって、観測して……」


「千里。倒れている間の記憶は、私達には無いのよ?そうなら、「夢遊病」が観測出来ない事態だって、存在するでしょう?なら、どうやって私達は三日という期間を観測するのかしら。

 ニュース番組?日めくりカレンダー?太陽の光?全て嘘だったら、もう三日以上経っていたら、どうするの?」


 満咲はそう言っておどけたように笑った。

 続けて、彼女は「次ね」と前置きした。


「三日以内にあなた達が私を見つけたら、私は何もしない。陽斗は、そう思ったのね?」


「そう……そう、だけど。俺だけじゃなくて、皆思ってたと思うよ」


「そう。それなら、ごめんなさい。私は、あくまで「もし出来なかったら」の話をした。「もし出来たら」どうするかなんて、何も言ってないわよ?」


「え?じゃ、じゃあ……!」


「うふふ。気付いた?有」


 満咲はそう言って、歩みを止めた。

 まるで、探偵が犯人を言い当てるかのような目だった。


「私は、どんなことがあっても諦めない。私は、何があろうと、誰に邪魔されようと……目的を達成して、全て終わらせる」


 満咲は、足をドンと鳴らした。

 それだけで、満咲から何かしらの迫力が感じられた。


「有。あなたとのゲームは、あなたの勝ち。あなたはこれで、私の行動を邪魔する権利を手に入れた。私は、あなたの行動に関係なく……全てを終わらせるように、策略する。これで、あなたは納得するでしょう?」


「納得なんて……いかないよ!そんなんじゃ、今まで頑張って探してきた意味が……!」


「美波。あなた、まだ意味なんて求めてるの?」


 満咲の呆れたような声に、全員がはっとした。


 それではまるで、満咲は意味を何も求めていないと言っているではないか。


「意味なんて、もはやどうでもいい。むしろ、最初から意味なんて無かったのよ。この世界に転生した時点で……この世界に生まれた時点で!何も!無かったのよ!!」


 満咲が叫んだ。

 校舎まで揺れるかと思われる程の迫力だった。


「だから、終わらせる。この世界の唯一の目的を達成して……この世界を、終わらせる!」


 その迫力に、誰もが圧倒されていた。


「この……世界を……!?」


 ナリだけは、なんとか声を絞り出していた。


「有。いつまで、おままごとを続ける気?おままごとに意味なんてない。私はもう、沢山なのよ。おままごとに(いざな)われて、茶番のような笑みを浮かべる。そんなの……もう、沢山なのよ!」


 ナリが思い描いていた黒幕は、いつも高笑いをして、主人公を見下していた。


 鼻で笑い、腕を組んで「よく来たな」と偉そうに言う。


 世界を征服することを目論んでいて、自分が支配者であることを望む。そんな、黒幕だった。


 だが満咲は、その「黒幕らしさ」が何も無かった。


 ただ、彼女は必死だった。必死に、世界を壊そうとしていた。


 本心はともかく、少なくともナリにはそう見えた。


「だから……あなた達が何と言おうと、何をしようと、どう邪魔をしようと、関係ない。私は何があっても、目的を達成して、全て終わらせる。

 こんなおままごとなんて、こんな無意味な世界なんて、どうでもいいのよ!!もう、私はおままごとなんてしたくないの!!」


 再び、校舎が揺れるかと思うほどの迫力。


 すると突然、満咲がその場から消えてしまった。


 全員で辺りを見回す。困惑で、誰もまともに話せていなかった。


「有!!」


 耳元からの呼び声。見ると、ナリの真横から、満咲が刃で切りつけようとしていた。


 白銀で細身だが、両手剣と変わらない程の大きさの剣だ。


 咄嗟に、大振りに躱した。だがすぐに、次の攻撃が迫ってくる。


「ねえ、あなたが言いたいこと、当てましょうか?この世界が無意味だなんて、自分は思ったことがない。世界を終わらせるなんて、大袈裟だ。そうでしょう?」


「うっ……!」


「答えてあげる。私は一分で、この世界を壊す力を持っている。それを使えば、あなたはもう誰にも会えない。零とも、美波とも、父親とも、凛とも……誰の記憶も残らずに、全て綺麗さっぱり無くなるのよ!」


「そんな、こと……!皆には、皆の人生があるんだにゃ!満咲の思い一つで、世界を終わらせようとするなら……記憶も残さず皆の世界を壊すって言うのなら!私は絶対に、それを阻止してみせるにゃ!」


「ああ、そう……あなたはいつも、周りの幸せを願うのね。だから嫌いなのよ。嘘吐き!」


「いつも嘘吐きだって言うけど……!私は今まで一回も、嘘なんて吐いたことないにゃ!」


 そう言って、ナリは拳に力を込めた。


「《有七種技(ナリセブン)》が一つ!《朝有紅顔!》」


 《筋肉烈火(マッスルハッスル)》を唱え、強く踏み込んだ。


 そしてそのまま、満咲の端正な顔に向かって、拳を向けた。


 その時だ。


「《天災雷撃(カラミティサンダー)》」


 誰の声でもない、酷く冷たい声が聞こえた。


「《水晶堅盾(クリスタルシールド)》ッ!」


 次に聞こえたのは、慌てた声でナリにバリアを貼る、千里の声。


 思わず誰もが、攻撃を止めた。


 最初の声の主が、ナリと満咲の後ろに、迫ってきていた。


「あ……愛!?なんで今来ちゃったの!?」


 詩乃が驚いて声を上げた。

 その声に反応するように、満咲が後ろを振り向いた。


 そこには、一人の魔法使いが、ナリへ向けてロザリオを構えていた。


「あんた……前は、攻撃魔法がすごく下手で……」


 参華が思わず、言葉を零した。


 だが参華の記憶とは異なり、彼女は真っ直ぐと前を向き、標的へと魔法を放っていた。


 ナリは、それが彼女の攻撃だとは、信じられなかった。


 愛だった。


「ごめんね、ナリちゃん。それだけは、許せない」


「な、なんで……?」


 愛はそれを聞いて、一つ深呼吸した。


 そして、ロザリオを、再びナリの方へと向けた。


「私は、その子の母親なの。だから、お願い。彼女を……()()を、傷つけないで」


 誰もが、言葉を失った。


 母親。ゆり。傷つけないで。


 愛の言葉が、重い違和感となって心の中に沈んでくる。


「……あはは。あはははは」


 最初に口火を切ったのは、満咲だった。


「あはははははは!!あーはっはっはっは!!」


 誰もが、満咲を見た。

 満咲の目が、どす黒い何かに溢れているような気がした。


「やっと見つけた……お前が、山川和葉だろう?今日はいい日だ。私の邪魔をする奴と……私の目的が、自分からやって来てくれた!」


 彼女の不気味な笑いは、留まるところを知らなかった。


「山川和葉!私は、お前に復讐することだけを生きがいにして生きてきた。今日、ここでお前を殺して……全て、終わらせてやる!」


 誰もが、その発言におののいていた。


 唯一、愛だけは、その言葉に怯まずに、満咲を見つめていた。

次回は8月26日、月曜日です。


幕間ラジオは月曜日までに投稿したいなーとか思いつつ、誠意製作中です。

間に合わなかったらごめんなさい。まあ、今のペースだと多分大丈夫だと思うんですが……

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