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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
千の真珠、湖の鍵、失われた女王
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千の真珠

「懐かしいな、ここ」


 男は、その場所を見て呟いた。


 山門有の遺体が見つかったとニュースで報じられた、次の日。


 男は、白いその建物を見上げていた。


「懐かしいって言っても、二ヶ月くらい前だけど……入ろうか」


 スマートフォンなどで確認せずとも、男はその場所を知っていた。


 中は立ち入り禁止になっていた。犯罪がそこで行われていたからだろう。


 取り壊しの立て看板が、その前に立っていた。


「KEEP OUT」のテープをくぐり抜け、中に入る。


 ナリや零が壊した時から、変わっていなかった。


「ナリ……この中から、見つけるだなんて……無茶言うなあ、もう」


 男が困ったように髪をかきあげた。

 その顔を、ステンドグラスから差し込んだ光が照らす。


 日下部陽斗だった。


「まあ、助けてもらった訳だし、緊急みたいだし……言うことは聞くけどさ。中々難しいよ。今までの事件が、女王と関わりあるか、なんて……」


 そう言いつつ、陽斗は2階に向かった。



 話は、前日の昼に遡る。


「あのにゃ……皆の力を、借りたいんだにゃ」


 ナリは月島家のリビングで、そう言った。


 ナリは零を通して、仲間全員を集めた。

 全員が集まったのは、午後2時頃。ナリは全員が見守る中、中心になって話し始めた。


「知ってる人は知ってるかもしれないけど……この前の、偽物が現れた時の騒動。あれの黒幕が、分かったんだにゃ」


「黒幕!?ただのイタズラじゃなかったのか!?」


 亥李が、持っていたクッションを勢いよく投げ飛ばした。


 零がそれをキャッチし「投げんなよ」と元に戻す。


「うん。イタズラじゃなくて……何か、目的があったみたいだにゃ」


「その、黒幕の正体は?誰だったの?」


 参華が真剣な顔で尋ねた。


「……アストリアス。女王、アストリアスにゃ」


 全員が、その事実を受け取るのに時間がかかった。


「……アストリアス様ぁ!?」


 最初に声をあげたのは、美波だった。


「え、あ、アストリアスって、あのアストリアス様!?あの世界のNPCじゃなかったの!?」


 目をパチパチさせて、詩乃が聞いた。


「いや、そうだよな!?俺もNPCだって思ってたんだけど、違ったってことか!?」


 続いて亥李がナリに尋ねた。

 ナリも分からないという顔で「うん……そうみたい」と答えた。


「えぬ……ぴーしー……?」


「NPC、ノンプレイヤーキャラクター。ゲームの中で、プレイヤーが操作してないキャラのことだよ。

 今回の場合だと、アストリアスは転生していない、あの世界の元々の住人だと思われてたけど……実は違った、って話だな」


 少し遠くで、千里と零がNPCについて話をしていた。


 零は予めナリに知らされていたが、やはり何度聞いても、衝撃は強いままだった。


「それで……アストリアス様が、言ってたんだにゃ。ゲームをしようって。3日以内に、私を見つけろって」


「3日以内?もし、出来なかったらどうなるの?」


 陽斗が椅子の背もたれを抱くような形で座り、聞いた。


「もし、出来なかったら……アストリアス様の勝ち。目的を達成して、全てを終わらせるって言ってたにゃ」


「ふーん……達成するものや終わらせるものについて、アストリアス様は何か言ってた?」


 千里が、推理小説を読む時の顔で聞いた。


「いや、何も……ただ、何となくなんだけど、このゲームには勝った方がいい気がするんだにゃ。なんだか嫌な予感がするんだにゃ」


「ふーん……まあ、確かにね。お願いって、それに関することよね?」


 普段のテンションが高い姿とは違い、真剣な眼差しで参華が尋ねた。


「そうにゃ。昨日「3日以内」って言われたから、今日から見たら残り2日。アストリアス様を探すのを手伝って欲しいんだにゃ」


「うん、もちろん!ナリちゃんの頼みだもん、絶対に探し出すよ!」


 美波がガッツポーズをして、鼻息を鳴らした。


「ありがとにゃ、美波。多分、あの感じからして……今回の赤い人形の事件だけじゃなくて、他の事件にも関わってるはずだにゃ。

 だから、手分けして……その事件にアストリアス様が関わってるのか、調べて欲しいんだにゃ」


「おう!」

「分かった」

「任せて!」


 全員、思いは同じだった。


 そしてそのまま解散し、今までの事件との関わりを探すことになったのだった。



 そして、今に至る。


「うーん……あんまり役に立ちそうなもの、無いなあ……」


 陽斗は一人、ホワイト教の教会の2階で手がかりを探していた。


「毒を飲まされた会議室。割れたステンドグラス。操られた遺体達が押し込められてた地下室。見てみたけど、何も無かったんだよね。さすがに、そんな手がかりなんて残ってないか……」


 ナリが壊した瓦礫を持ち上げ、何かないかと目を動かす。


「よいっ……しょっと。ふぅ、流石に疲れて……ん?」


 動かした瓦礫の下に、何かが落ちていた。


 片手ですくうように拾い上げる。

 それは、ホワイト教のマークである毒りんごのマークのペンダントだった。


「ああ……安寿が持ってた杖の先端の装飾っぽいし、ホワイト教のマークなのかな。ロザリオ的な……誰か、信者の人が落としたのかな」


 警察にでも届けようか。

 陽斗はそう思い、肩掛けショルダーのポケットを開いた。


「……あれ?」


 その時だ。


「そういえば……アストリアス様って、どの宗教を信仰してたっけ?」


 かつて覚えた違和感が、今になって蘇ってきたのだ。


「……そうだ、太陽神ティラーだ。でも、確か王家は必ず、始祖神ライアンを信仰しなきゃいけない決まりなんだよね。いや、ご本人は「太陽神ティラーを信仰してる」とは言わなかったけど……」


 崩れた天井から、光が差し込んでくる。

 陽斗が持っていた金のりんごが、キラリと輝いた。


(なんで……アストリアス様は、太陽神ティラーの教会に通ってたんだ?王家の決まり上、行ってはならない場所なのに……決まりを無視してまでも、達成したい目的があったのか?)


 頭を捻っても、答えは出なかった。

 そのまま、陽斗は警察に届けることも無く、りんごのペンダントを手にして、月島家に帰った。



 一方その頃。


「あら、千里。あなたもこっちに?」


 参華が、山の中で千里に声をかけた。


「まあね。気になることがあって」


 山道を逸れた獣道。二人は、その細い道を登っていた。


 途中までナリが居たが、彼女はそのまま整備された山道を登っていった。

 獣道より先には、用事は無いという。


(千里の気になることって……あの、奏太の時のことかしら?でも、前聞いた時は、()()()()って言われたのよね……千里の事件なのに)


 そう思いつつ、参華は勢いよく獣道を登った。


 そして、十分後。


 適度に雑談をしつつ、参華は目的の場所に辿り着いた。


「ふう!やっと着いたわね。千里ー?早く来てくれるー?」


 背中側にいる千里の方を向いた。参華がかなり前に通過した場所で、息を切らし膝に手をついていた。


「はぁ……はぁ……ちょ、ちょっと待って……」


「体力無いわねー。そんなんじゃ、学校ですぐに友達に追い抜かれるわよ?」


「ふ、普段から動く必要ないし……!僕は、本さえ読めればそれでいいし!これでも、学校だと徒競走上の方だし!」


「ほんとかしら?それ」


「本当だし!100メートル12秒代!流石虎前くんだねって先生に褒められたし!」


 息を切らしながら言うセリフとは、到底思えなかった。


「流石ー?確かに元冒険者なんだから、そのくらい出来て欲しいけど……「転生したので僕出来ます」アピールは痛いわよ?あと、あんたそんなに運動得意じゃないわよね?」


「いや……なんか、身体が勝手にそうなっちゃったんだよ。実際、「虎前千里」っていう前の人格も、そのぐらい早かったみたいだし。その記憶が身体に残ってるのかも」


 そうこうしているうちに、やっと千里が追いついた。

 千里が息を整えるのを待って、目当てのものを見る。


「……やっぱ、何も無いわね」


「うん。まあ、そんな気はしたけど」


 二人の目当てのものは、獣道を進んだところにある、何も無い広場だった。


 夜になると、月の光が集まるようになっていた場所だ。


 だが、今は昼だ。

 太陽の光が、参華と千里の背中を照らしていた。


(前は……奏太の時と立花の時は、ここから別の世界に行けた。でも、今はやっぱり、何も無いわね)


 かつてくぐり抜けた場所に近付き、空気に触れようとした。


 だが、何も掴めない。鳥の鳴き声が、辺りに響いた。


「……トラベラー」


「えっ?何それ。初めて聞いた」


「昔、こう唱えたら、ここにあった扉を開いた人がいたのよ。オリジナル魔法みたいでね。もう居なくなっちゃったけど」


「ふーん……じゃあ、ラプソディ・オブ・ゲート」


「それは?」


「同じだよ。昔聞いた、扉を開ける魔法」


 二人で呪文を唱えても、何も起きない。


「やっぱり、何か貴重な道具とかが必要なのかしら……」


「そうかも。僕がこの魔法を聞いた時、その人は器用に笛を吹いてた」


「あら、そう?確か、さっきの魔法を唱えた人は、手鏡を使ってたわね」


「手鏡?そんなので出来るの?」


「まあ……出来てたわね」


 実際には、手鏡ではなく、手鏡の中に封印されていた鬼宿しのベルのお陰なのだが。


 その場にいなかった千里はともかく、他の人も誰も、その手鏡の存在を知らなかった。


(そういえば……立花は、言ってたわね。幸野満咲って人に、手を貸してもらったって。その幸野満咲って人は、ナリの元同級生だった。そして、立花に力を貸す代わりに、誰かを探してた)


 薄ぼんやりとしたあの日の記憶を、必死に手繰り寄せる。

 正しいと分かっていても、自分の記憶が当てになるのか、未だに分からない。


(その、力を貸すって……多分、ベルのことでしょうね。あの時は、時の回廊が消えてしまったせいで気にしていられなかったけど……どうやって、幸野満咲はベルを……あの手鏡を、手に入れたのかしら)


 ちらりと、千里の方を見た。

 千里も千里で、何かを考えているらしい。こちらを見向きもせず、光の集まっていた場所を見ている。


(千里も、なにか思うことがあるのかしら。アストリアス様の情報なんて……そんなに、あるの?私達、まだ、転生して三ヶ月も経っていないのに……)


 そこまで考えて、ふっと気付いた。


「私達、本当に三ヶ月も過ごしていたのかしら……?」


「えっ?」


 千里が、珍しく集中を自ら解いた。


「ああ、いえ。なんだか、時間の流れが早いなと思って。まるで、転生してから、まだ一ヶ月ぐらいしか経ってないみたいな……」


「いや、確実に三ヶ月弱経ってるよ。「夢遊病」のせいで、時間感覚無くなってるんじゃない?」


 優しい物言いで、千里が言った。


「うーん……そうなのかしら……」


「そうだって。僕も、感覚的にはまだ一ヶ月ぐらいだけど……実際は三ヶ月は経ってるっていうのが当たり前なんだよ。あとは、集中しすぎて時間があっという間に過ぎたんじゃないの?僕が本読んでる時みたいに」


 少し自慢げに千里が答えた。

 参華に知識で上回れたのが嬉しいらしい。


(……本当に、それだけなのかしら……立花が消えたのも、本当に二週間前の話なのかしら……?)


 だが、参華の悩みは消えなかった。


 結局、二人はたいした収穫も無く、獣道を下っていった。

次回は8月12日22時、月曜日です。

今の所、月金22時に投稿しようと思ってます。


最近クトゥルフ神話TRPG熱が高まっていて、今HO有り3PLのシナリオの構成を考えています。

HO有りって面白いですね。RPしがいがあります。

上手くいけばリプレイを残したいと考えていますが、予定は未定。上手くいくといいなーと思ってます。

ちなみにクローズドです。

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