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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
赤き人形達の舞踏会
127/159

何も無い

(どんな些細なことでもいい!見つけるんだ!本物の有は、私なんだ!)


 ナリはそう思い、周りを見回した。


(何か……何か……!)


 だが、辺りには何も無い。

 ただ広いだけの白い空間が、むやみやたらに広がっているだけだ。


(なん……なん、にも……)


 気が遠くなりそうだった。


 何も無いだけの、白い空間。

 まるで、世界がナリに「何も無い」と言っているようだった。


「そうだよ。お前には、何も無い!」


 偽有の足に気付いたのは、鼻の先に足がかかったところだった。


 ギリギリで背中を逸らし、その足を躱した。

 だがそこでさらに、偽有の拳が飛んできた。


「私とお前で違うところ?そんなもの、何も無い!」


 すぐさま、偽有の拳がまた飛んできた。

 右へ左へと避ける。しかし、次の拳がすぐにナリの顔に向かってきた。


「顔も、思想も、性格も、戦い方も……何もかも同じなんだよ。なら、私が代わっても問題ないよね?お前だけのものなんて、何にも無いんだよ!」


 山門有の模倣物とは思えないような口調で、偽有が笑顔で叫んだ。


「顔も、性格も、戦い方も……?」


 ナリが、驚いたような顔で聞き返した。

 何かが、ナリの中で繋がった気がした。


「そうだよ。怖気付いた?ほら、例えば!」


 偽有がニコッと笑ったかと思うと、ナリがちょうど避けたところに、偽有の足が飛んできた。


「にゃっ!?」


「逃げる場所だって、丸わかりなんだよ!」


 ナリの細い足に、偽有の足が勢いよく当たった。


 その勢いを受け、ナリが遠くへ吹っ飛んだ。

 それを横目で見ながら、偽有は膝を曲げ、手を床についた。


「ほら。《有備無患》でしょ?」


 ニヤリと偽有が笑った。

 実際、ナリは飛ばされた勢いを利用して、床を思い切り蹴り、偽有に突進しようとしていた。


「分かってるんだよ!《有象無象》!」


 そう叫ぶと、偽有は拳を思い切り叩き、その勢いで飛び上がった。


 そのまま、偽有は空中でくるりと回転した。


 そのすぐ後に、ナリの頭が偽有の足元に向かってきた。偽有の髪が、ナリの頭に触れた。


「上っ……!」


「その、とー、り!」


 そのまま、偽有が回転の勢いを利用し、ナリの頭目掛けて蹴ろうとした。


「にゃ、にゃ、にゃあああああ!」


 その足を見ながら、ナリは必死な形相で、前回りでその足を躱した。


「にゃっははははは!変な声。今の食らってたら、終わってたね」


 静かに着地し、偽有が笑った。


「ねえ、大丈夫?大ピンチじゃない?私にほとんどダメージが通ってないのに、何度も私の攻撃を食らってさ」


 余裕そうな笑みを浮かべ、偽有が言った。


 ナリの方はというと、手を膝につき、息を切らしていた。余裕はあまり無かった。


「はぁ、はぁ……心配、ありがとにゃ。でも……大丈夫だにゃ。最後に勝つのは、私だにゃ!」


 だが、それでもナリは、笑みを浮かべた。


 ナリはそう言って、すぐさま後ろに振り向き、何も無い方向へ走っていった。


「にゃあ?どこ行くの?()()さん。そっちには、何も無いでしょ?」


 呆れたように、偽有が肩を竦めた。


「何も無くなんか、ないにゃ!」


「いやいや、何も無いよ。私がこの世界を作ったんだから、私が一番分かってるって」


「そんなことないにゃ!気になるなら、ついてくればいいにゃ!」


「にゃっはは、煽ってる?ま、倒せるなら行くけどにゃ!」


 そう言って、偽有がナリについてきた。

 ナリが前を走り、偽有が後ろを走る。ナリの前には、ただ広い空間が広がっていた。


(ついてきてる……!思った通りだ。敵を見失わないように、確実に倒せるように……相手が何か有利なものを手に入れたと思って、ついてきてる!)


 息を整える間もなく、ナリは何も無い空間へと走り続けた。


(あれが、私の全てを模倣しているのなら……性格も、戦い方も、全部同じなら……私のことを信じる。いつも真っ直ぐで、純粋で、諦めが悪くて……だから、簡単に騙される。私が何かを見つけたんじゃないかって、すぐに焦る。そこを狙うんだ!)


 身体は緊張が抜けずとも、心は落ち着いていた。


 どこまでも同じような白い空間を、ひたすらに走り抜けた。

 最初にいた場所は、もうどこにあるか分からなくなっていた。


「ねぇ、何を見つけたの?こんな遠くにさ。私よりもお前の方が目がいいんだって、見せつけたいの?」


 偽有も息が切れてきた。

 余裕そうな笑みも、どこかに消えてしまったようだ。


 その息遣いを聞いて、ナリはニヤリと笑みを浮かべた。


「何か?何かって……ほら、分かったにゃ?」


 ナリが走るのを止めた。それに合わせ、偽有も歩みを止める。


「にゃあ?こんな、何も無い空間に?」


「そう、何も無い。そう見えるんだにゃ?」


 ナリがくるりと偽有の方を向いた。

 息が切れながらも、ナリはニヤリと笑っていた。


「最後に聞くけどにゃ。お前、人形なんだよにゃ?」


「え?うん、そうだけど……だから、何?体力が無いとか思ったの?それなら残念。私は、お前の体力も――」


「教えてくれて、どうもありがとうにゃ!」


 そう言ったかと思うと、ナリは俊敏に偽有に駆け寄り、肩を掴んだ。


 疲れが出て、咄嗟に避けられない。

 ナリはそのまま肩を支えにして飛び上がり、足をかけた。


「にゃっ……!?」


 偽有が足を払い除けようと、肩に手で触った。


 だが遅い。

 ナリは足の裏で肩を踏み、高く飛び上がった。


「ついてきてくれるって、信じてたにゃ。騙されてくれるって、信じてたにゃ!」


 偽有の肩の位置から、2メートルは超えただろう。

 高さに上限が無いのか、飛び上がった位置でも、ドームの遠近感が変わらなかった。


 そのまま飛び続け、やがて落下し始めた。だが、落下をものともせずに、ナリは拳を偽有に向け構えた。


「《狼牙人手(ウルフバイト)》ォ!」


 ナリが大きな声で唱えた。すると、その声に呼応するように、手の甲に鋭く大きな牙が生えてきた。


 ナリはそれを確認するように、ギュッと手を握りしめた。


「《有象無象》は……私のだにゃあああああ!」


 彗星が落ちるがごとく、ナリは偽有に向かって拳を叩きつけた。


 突然のことで、判断が出来ない。

 偽有は避けることも無く、その拳を食らった。


「うにゃっ!わ、わ、綿が……!」


 偽有が頭を抑え、震えた声で出てきたものを戻していた。


 手の甲の鋭い牙が、偽有の頭に突き刺さったらしい。

 偽有の頭には、大きな亀裂が出来ていた。


「はぁ……う、ぐぅ、にゃ……!」


 一方で、隣でなんとか着地したナリは、ふらりと体勢を崩した。


 拳が偽有に直撃し、なんとか勢いは抑えられた。

 だが、やはり高いところから着地したからか、偽有に当てた拳や、その後着地した足に、大きな負荷がかかっていた。


 ボキッ、と気味の悪い音が、拳から鳴った。


 上手く立てない。拳と足には大きな傷が生まれ、血がトクトクと流れている。


 だが。


「な、な、な……なんで、そんなになっても立てるの!?」


 偽有が、頭から出てきた綿を隠しながら叫んだ。


 ナリは、立ち上がっていた。


 全身に傷が出来ても。血が勢いよく流れていても。骨が折れた音が聞こえていても。


 ナリは、立ち上がっていた。


「……分からないかにゃ?私が、立っている理由」


「わ、分かる訳ないでしょ!?私を倒す為だけに、こんな回りくどいことをして、自分が大量に怪我して……何がしたいのか、意味が分からない!その上、立ってる理由なんて……どうせ、根性でしょ!?」


 その答えを聞いて、ナリは天を仰いだ。

 天井のドームは、やはり変わらない位置にある。


「にゃっはっは。にゃっはっはっは!」


 ナリは、今までにない程の大きな声で、笑った。


「な、何がおかしいの……!?」


「おかしいにゃ。だって……お前は、私の偽物だにゃ」


 ナリはそう言って、偽有の方を向き、微笑んだ。


「にゃあ!?偽物は――」


「だって、分からないんだにゃ?私が、ここまでして……諸刃の剣だって分かった上で、今の作戦をした理由」


「そんなの、お前が諦めがついて……!」


「違うにゃ。私は、諦めが悪い。だから……見つけたんだにゃ!《有為転変》!」


 残っている体力を振り絞り、偽有に向かって右手の拳を振るった。


「何も無いなら、見つければいい。全て同じだと言うのならば、自分の中に糸口を見つければいい!」


 偽有は驚いているのか、まともに攻撃を食らっている。

 ナリはそのまま、左手の拳を突き出した。



「私とお前の違う、唯一のところ……それは、過去を振り返るところにゃ。お前は、私の過去をただの「設定」として受け取ったようだけど……私は、過去を振り返ってる。過去から気付いてる。後悔してる!」


 その後すぐにまた右手を突き出し、計6回拳を振るった。


「お前は、私と性格や戦い方も同じだって言っていたにゃ。それなら、お前を何かで騙すことが出来れば、お前は簡単にそれを信じて、騙される!私が走り出したら、すぐについてくる!だって、それが私なんだにゃ!」


 右足で蹴り、その勢いでくるりと空中で1回転した。そして、そのまま左足で、偽有を蹴り飛ばした。


「そしてお前は言ったにゃ。人形だと。それなら、切り裂くことが出来れば、致命傷が与えられる。そして……高いところから落ちた時、ダメージは高くなる!私はそれを、身をもって知ったんだにゃ!」


 《肉体烈火(マッスルハッスル)》で拳の筋肉を肥大化させ、倒れて起き上がろうとしている偽有を、思い切り殴った。


「なんで立てるのかって?当たり前だにゃ!もう一度会いたいと、強く願う人がいるから。幸せを、いつまでも願ってる人がいるから。お前にだけは、その人達を渡したくないから!」


 その拳の勢いを利用して、右足を軸にして1回転した。

 そしてそのまま、回転の勢いで左足で蹴った。


「今まで出会った人達を、皆幸せにしたいから!私は、何度だって、立ち上がるんだにゃ!」


「そうは言ったって!無理をしてるのは確かでしょ!?」


 偽有がナリの蹴りを、後ろに飛んで躱した。

 そして、そのまま足をつき、左手の拳を突き出した。


「《有無創生》!」


 だが、ナリはその手をするりと躱し、偽有の腹の側面に向けて、拳を突き出した。

 まるで、ナリが偽有の行動を読んでいるかのようだった。


「お前は、私の全てを奪おうとする、悪い偽物だったけどにゃ。それでも」


 拳を何度も突き出し、偽有の身体にヒットさせた。

 偽有の身体は既にボロボロで、所々がほつれたように、傷が出来ていた。


「優しくて、純粋で、騙されやすくて、諦めが悪くて。そして、誰かの幸せを願ってて。それは、私と変わらなかったんだにゃ。だから……無理じゃないって、分かるはずなんだにゃ」


「誰かの、幸せなんて……!」


「いいや、違うにゃ。だって、お前は……短い期間だったけど、お父さんを幸せにしてくれた。私が作れなかった笑顔を、作ってくれた。だから」


 ナリは最後に、筋肉が肥大化した拳を、偽有にぶつけた。

 《有終之美》の工程が終わったのだと、偽有にはすぐに分かった。


「私の代わりでいてくれて、ありがとう」


 ナリは、静かに呟いた。

 それと同時に、偽有は地面に倒れ伏していた。

8月になったら、夏休みなので投稿回数を増やそうと思っています。具体的には週2くらい。

とりあえず、来週の金曜日は予定があるので、土曜日に投稿します。その後どうするかは考えます。


という訳で、次回は8月3日です。

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