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にゃんと奇妙な人生か!  作者: 朝那月貴
赤き人形達の舞踏会
119/159

あなたの為の戦い

 ナリは偽有の手を掴んだまま、しばらく動かなかった。


「ねえ、離してにゃ。じゃないと!」


 偽有はその状態のまま、片足で飛び上がり、ナリの顔に向かって、もう片方の足で蹴りかかった。


「こんな風に、すぐに抵抗されちゃうにゃ!」


 ナリは咄嗟に手でガードしようとしたが、間に合わない。

 ナリの頬に偽有の足が当たり、ナリは軽く吹っ飛んだ。


「ナリ!!」


 零が叫んだ。目でナリの姿を追う。

 ナリは少し遠いところまで飛ばされたものの、すぐに立ち上がろうとしていた。


「まずは()()、お前からだにゃ!《有無創生》!」


 すぐさま偽有が、ナリに向かって突進してきた。


 ナリがそれを見て、手で顔の周りをガードした。だがそれにも構わず、偽有は攻撃の手を緩めなかった。


「にゃははは!《有為転変》!」


 拳が6回飛んできた。それをガードして受け止めていたナリだったが、最後の偽有の左足の攻撃に、よろけて体制を崩した。


「どんっどん行くにゃ!《有象無象》!」


 そのまま偽有が、左足の力を利用して一回転し、その回転の力で重力をかけて、ナリに向かって右手を振るった。その拳はナリの頭に直撃していた。


「うにゃっ……!」


 頭を抑えていた。クラクラしてマトモに立てないのだろう。目をつぶったまま、膝を立ててじっとしていた。


「ナリ!早くそいつを壊せ!じゃないとお前がやられちまうだろ!?」


 零が叫んだ。その言葉に促されるまま、ナリは目を開き、偽有に向かって拳を振るった。


「《朝有紅……》」


 ナリが技名を唱えかけた、その時。


 急に、ナリの動きが止まった。顔は引きつり、技名のその先は出てこなかった。

 そのまま、ナリは拳を収めた。


「ナリ!迷ってないでいい加減決めろって!俺と一緒にあいつを壊すのか!それとも、あいつを壊さないのか!偽物は放っておいても復活するんだ!なら、この場は壊しても問題ないだろ!?」


 零がまた叫んだ。だが、その言葉がナリに届いたのかどうか、零には分からなかった。


「あぁ、もう!《魔力魔撃(エナジー)》!」


 痺れを切らして、零は偽有に向かって剣を振るった。

 白いオーラが偽有に届きそうなところで、偽有はするりとそれを躱した。


「にゃっはっはー!当たると思ったら大間違い!この有の体は軽くてしなやか!だから、簡単に避けられるんだにゃ!当てられるものなら当ててみるにゃー!」


「当ててやるよ!だから少し待ってろ!」


 零は煽ってくる偽有に向かってそう怒鳴った。するといつの間にか、零の頭上に赤く燃えたぎる火球が現れた。


 その火球は、零の手の動きに合わせ、偽有の方へ向かっていった。

 偽有が避けてもそれは追尾していった。逃がさない、 とでも言わんばかりに。


「《火球火炎(ファイアボール)》か……にゃら!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねるかのように避けていた偽有が、急に飛び跳ねるのをやめ、身構えた。


「《朝有紅顔》!」


 偽有がそう叫ぶと、偽有の右手に白いオーラが宿っていった。そしてそのまま、偽有は火球に向かってその拳を突き出した。


 拳と火球の衝突。偽有の拳の大きさよりも何倍も大きい火球が、拳の纏うオーラと勢いに気圧されていた。


 そして、ついに偽有は火球にアッパーを喰らわせ、火球はどこか結界の天井へ飛んでいった。


「にゃっつつ!ちょっと指が壊れちゃったにゃーん。流石に、火球を止めるのには無理があったか……」


 偽有が右手をブラブラと動かしつつ言った。


 確かに、偽有の右手の中指、薬指、小指がすっかり無くなっていた。

 切断された指からは血は流れず、代わりに焦げた後のような黒い何かが、切断面の周りに付着していた。


「これじゃお前は壊せねえのか。俺の偽物は、俺が一太刀当てただけで壊れたのに……」


 零はそう言いつつ、右手に白い結晶体を作り出した。


 正八面体の形をしており、手に収まるくらいの小さな結晶体だった。くるくると自転しつつ、結晶体は周りから冷気を集めていた。


「そりゃそうだにゃーん。私以外の「赤」は、攻撃を受けたら一瞬で消えるほど脆いもん。でも、私は「赤」の中でも特別。私は、ちょっと程度なら壊れないにゃ!」


 そう言いつつ、偽有は魔法を唱えている零に向かって右の拳を振り上げた。


「右手の威力はほぼ無くなったけど!まだまだ、いけるにゃ!」


 偽有の突撃に合わせ、零が結晶体を偽有の方向へかざした。


 それと同時に、偽有が右手で零に殴り掛かった。だがその勢いを利用して、偽有は右足を軸に一回転し、左足を高く上げた。


「《子虚烏有》!……って、あにゃ?」


 偽有が素っ頓狂な声を上げた。


 それもそのはずだ。《子虚烏有》は不意を突く攻撃だったはずだが、その攻撃を当てようとした場所には、零の左肩ではなく、先程の結晶体があったからだ。


「読めてんだよ、ナリとの付き合いの長さ舐めんじゃねえ!《氷風白煙(ブリザード)》!」


 零が偽有に向かって、勝ち誇ったように叫んだ。偽有はガードする間もなく、その結晶体に左足を叩きつけた。


 パリィン、 という結晶体の割れる音と同時に、偽有の左足がブチッともげた。膝から下はそのまま灰と化して消え、断面はやはり焦げたように黒いすすのようなものが付いていた。


 偽有は必死に立ち上がろうとしていたが、左足と右手の指が無くなってしまったのは、やはり影響が大きかったようで、中々立ち上がることが出来なかった。


「にゃっ……た、立てない……!」


 残った右手の指と、左手、右足を使って立ち上がろうとして、バランスを崩してすぐに座り込む、 というのを繰り返していた。


「よし……もうこれで抵抗出来ないだろ」


「にゃはは、そうかもね……それで?どうするの?」


「決まってんだろ。お前を壊す」


 零が冷たい声で言った。まるで、人形を捨てるかのような目で。


 零は剣を上に掲げると、ガッと目を見開いた。剣を白いオーラが包んでいた。


「一つ聞く。お前、魔力源があるから何度でも復活するって言ってただろ。どのぐらいの時間で復活するんだ?」


「さあ?今まで復活したことないから分かんないにゃ。1日かかるかもしれないし、1時間で終わるかもしれない。ま、少なくとも一つ言えることは……正直時間なんてどうでもいい、って思ってることかにゃ」


 にゃはは、 と偽有が乾いた笑顔を浮かべた。


「よし分かった。もう、ナリの前に姿を現すんじゃねえぞ!《魔力魔撃(エナジー)》!」


 零が偽有に剣を振りかざした、その時。


「駄目っ!零!」


 剣が止められた。

 本物のナリが、剣を両手で掴んでいた。彼女の手から、血が一滴垂れた。


「ナリ!?何してんだよ!早くその手を放せ!」


「ごめん、零……私の為に戦ってくれてたんでしょ?本当に……ごめん……」


「な、なんでナリが謝んだよ……悪いのは偽物のあいつだろ!?あれさえ壊せば、お前の存在が脅かされることは――」


「ごめん!それが、出来ないの!」


 ナリが涙声で叫んだ。


 驚いて、零は剣を振りかざすのをやめた。

 ナリの手から剣が離れる。彼女の手のひらは、血が滲んでいた。


 偽有は、面白いものを見物するかのように、ニヤニヤとその光景を見つめていた。


「考えたんだ……偽物を壊せば、どうなるのかって。確かに、私の存在が奪われることは無くなる。私は今まで通り、零と一緒に、自由で楽しい転生生活を送ることが出来る。でも!」


 ナリが膝から崩れた。目にはいっぱいの涙が溜まっていた。


「そうしたら……お父さんに、本当は去年に娘は死んでたんだって、伝えることになる……!今、偽物を本物だと思い込んで、やっと一緒に暮らせるって、喜んでるお父さんにだよ!?そんなの、嫌だ……!」


「ナリ……言ってること分かってんのか?お前にとって、自分の存在よりも、父親の喜びの方が重要なのか?」


「重要だよ!!」


 ナリの叫び声に、零は思わずのけぞった。


「私は、お父さんに、幸せになってもらいたい……!なのに、今私が偽物を壊したら、お父さんの幸せを私が奪うことになる!もう、二度と……お父さんを責めるようなことはしないって、決めたんだ!

 だって!私が死んだあの台風の日!私はお父さんを、酷い言葉で責め立てたんだもん!」


 ナリの息遣いが荒くなった。過呼吸気味に、ナリは涙を流していた。


「あの日だって、お父さんを責めてた!お父さんが、私のこと気遣ってたことも知らずに……責めて、喧嘩して、大雨の中出て行って!そのまま行方不明になって、家にお父さんだけ残して……10か月経っても、お父さんは私のこと探し続けてたんだ。つまり、その間ずっと、私はお父さんを責め続けて、自分に縛り付けて、前を歩けないようにしてたんだよ……「生きてるかもしれない」っていう、かりそめの希望だけ見せ続けてさ!

 今、やっとお父さんは()を見つけたんだ。今までずっと探してきて、苦しんで、誰からも共感されなくて、諦めろって言われて……そんな生活が、今までの人生が報われた、今この瞬間に!誰が、水を差すの?今まで私が苦しめてた分、今度は、私が……!」


 息が詰まったのか、ナリはその後の言葉を継がず、涙を流していた。えずいていた。


(ナリ……)


 零は静かに、ナリの背中をさすっていた。そうしておかないと、ナリが孤独を深めてしまうような気がした。


 空気が重かった。零は何も言えなかった。


 その空気感を破るかのように、偽有が言葉を発した。


「今日のところはこれで失礼するにゃ。ふう、危ないところだった……今度はそっちが会いに来てよにゃ。酷い目に遭った……」


 よく見ると、偽有はやっとの思いで立ち上がることに成功していた。


 偽有がパチンと指を鳴らすと、零とナリは、月島家の前に戻ってきていた。

次回は5月24日ですが、忙しかったり体調不良だったりした場合25日になります。X(twitter)で確認してください。



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